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3章 公爵令嬢の救い方 編
ハーレムキングは毒が効かない
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ルシアの本音が垣間見えた次の日の朝。
窓から差し込む朝の光が、石造りの部屋の壁を金色に染めていた。
オレは遅寝早起きだったが、サラはベッドの上でまだ眠っている。
昨夜からずっと熟睡していたようだ。おそらくオレとルシアの会話は知らない。
「さて……」
オレはすでに着替えを済ませ、室内のソファに腰掛けて静かな時を過ごしていた。次に来る嵐に備えてじっとその時を待つ。
すると、機を見計らったかのように戸が叩かれた。
来たな。何を仕掛けてくるつもりだ?
「お客様、朝食のご用意が整いました」
淡々とした声音で数名の使用人が部屋に入ってきた。
もちろん目は合わない。
銀のトレイの上に丁寧に並べられた朝食が運ばれてくる。
焼きたてのパン、香草入りのスクランブルエッグ、そして淡い色合いのスープ。どれも見た目は美味そうだ。
しかし、その香りは、見事に誤魔化されていた。
「……サラはまだ眠ってるが、オレは先にいただかせてもらおうか」
オレは気づかないふりをして、銀のスプーンでそのスープをすくう。
そして、ためらいもなく一口。同時に使用人たちの顔がわずかに綻んだのが見えた。
あからさまだ。もう少しポーカーフェイスを身につけた方が良いな。
——それから、数秒の静寂が部屋を支配する。
「ふむ、やはりだな」
オレはスプーンを置くと、ふっと笑った。
「この香り……やけに花のような甘さが際立っていた。独特の甘みで苦味成分をマスキングするためによく使われる。毒物混入の常套手段といったところか」
オレは使用人には聞こえないほどの小声で口にした。
常套手段? 花の香りでマスキング? とは言うものの、毒を食べた経験は一度もない。
ただ、オレにはわかる。
なぜなら、オレは王! ハーレムキングだからな!
「くだらん。毒物のオンパレードだ」
オレが吐き捨てるように呟いた。そして、次にスクランブルエッグを口にした。
ふむ……こちらの味もおかしいな。
すると、ちょうどよくサラが目を覚まし、あくび混じりにこちらを見る。
「……え? 毒って言いましたか……?」
オレは頷きながら、さらに続ける。
「朝食に毒が混入していた。香りもそうだが、味そのものにも違和感があったからすぐにわかった。スクランブルエッグには蜂蜜を多めに使い、毒物特有の苦味を中和させている。やけに粉っぽい舌触りだから間違えはせん。よくわからんが、微量でも吐き気と目眩を誘う劇薬だろうな。王の舌は騙せんぞ」
使用人がはっと息を呑んだ。サラもまた、目を覚ましたばかりなのに一気に目を見開く。
「まさか、それだけで気づいたんですか!? もしも私が食べていたら……?」
「即死は免れない! ただし、ハーレムキングに毒は効かぬ!」
「……王様、本当にすごいですね。僅かな味覚と嗅覚だけでそこまでわかるなんて」
「ふははははっ! 王であれば当然の気付き! まあ、殺人未遂の犯人はどこぞの誰なのかはわからんが……なぁぁっ!!!!」
オレはその場にいた使用人たちを睨みつけた。
彼らはここまでオレの言葉を黙って聞いていた。いや、違うか。おそらく動けなかった。何も言えなくなっていた。王たる威厳に圧倒されて息を呑むことしかできていなかった。
「この落とし前はどうつけてくれる?」
オレが笑いかけると、使用人たちは肩を跳ねさせて目を見開く。
心当たりあり、か。おおかた義兄と結託して毒を盛ったのだろう。
だが、ルシアだけでなくこちらにも危害を及ぼしてくるなど、全ては王の想定の範囲内!
オレは堂々と立ち上がり、テーブルを指さした。
「これはもう下げて構わん。王の食卓に毒を持ち込むなど、十年早いわ! 稚拙な計略で王を騙せると思うな! 次はもっと巧妙な手口でアプローチすることをおすすめする! 王からの貴重なアドバイスだ! 覚えておけ!」
「……かしこまりました」
食器を下げる使用人の声は震えていた。
が、それでも逃げるようにその皿を回収していく。
空腹は満たせなかったが仕方がない。
用を足しに行こう。
窓から差し込む朝の光が、石造りの部屋の壁を金色に染めていた。
オレは遅寝早起きだったが、サラはベッドの上でまだ眠っている。
昨夜からずっと熟睡していたようだ。おそらくオレとルシアの会話は知らない。
「さて……」
オレはすでに着替えを済ませ、室内のソファに腰掛けて静かな時を過ごしていた。次に来る嵐に備えてじっとその時を待つ。
すると、機を見計らったかのように戸が叩かれた。
来たな。何を仕掛けてくるつもりだ?
「お客様、朝食のご用意が整いました」
淡々とした声音で数名の使用人が部屋に入ってきた。
もちろん目は合わない。
銀のトレイの上に丁寧に並べられた朝食が運ばれてくる。
焼きたてのパン、香草入りのスクランブルエッグ、そして淡い色合いのスープ。どれも見た目は美味そうだ。
しかし、その香りは、見事に誤魔化されていた。
「……サラはまだ眠ってるが、オレは先にいただかせてもらおうか」
オレは気づかないふりをして、銀のスプーンでそのスープをすくう。
そして、ためらいもなく一口。同時に使用人たちの顔がわずかに綻んだのが見えた。
あからさまだ。もう少しポーカーフェイスを身につけた方が良いな。
——それから、数秒の静寂が部屋を支配する。
「ふむ、やはりだな」
オレはスプーンを置くと、ふっと笑った。
「この香り……やけに花のような甘さが際立っていた。独特の甘みで苦味成分をマスキングするためによく使われる。毒物混入の常套手段といったところか」
オレは使用人には聞こえないほどの小声で口にした。
常套手段? 花の香りでマスキング? とは言うものの、毒を食べた経験は一度もない。
ただ、オレにはわかる。
なぜなら、オレは王! ハーレムキングだからな!
「くだらん。毒物のオンパレードだ」
オレが吐き捨てるように呟いた。そして、次にスクランブルエッグを口にした。
ふむ……こちらの味もおかしいな。
すると、ちょうどよくサラが目を覚まし、あくび混じりにこちらを見る。
「……え? 毒って言いましたか……?」
オレは頷きながら、さらに続ける。
「朝食に毒が混入していた。香りもそうだが、味そのものにも違和感があったからすぐにわかった。スクランブルエッグには蜂蜜を多めに使い、毒物特有の苦味を中和させている。やけに粉っぽい舌触りだから間違えはせん。よくわからんが、微量でも吐き気と目眩を誘う劇薬だろうな。王の舌は騙せんぞ」
使用人がはっと息を呑んだ。サラもまた、目を覚ましたばかりなのに一気に目を見開く。
「まさか、それだけで気づいたんですか!? もしも私が食べていたら……?」
「即死は免れない! ただし、ハーレムキングに毒は効かぬ!」
「……王様、本当にすごいですね。僅かな味覚と嗅覚だけでそこまでわかるなんて」
「ふははははっ! 王であれば当然の気付き! まあ、殺人未遂の犯人はどこぞの誰なのかはわからんが……なぁぁっ!!!!」
オレはその場にいた使用人たちを睨みつけた。
彼らはここまでオレの言葉を黙って聞いていた。いや、違うか。おそらく動けなかった。何も言えなくなっていた。王たる威厳に圧倒されて息を呑むことしかできていなかった。
「この落とし前はどうつけてくれる?」
オレが笑いかけると、使用人たちは肩を跳ねさせて目を見開く。
心当たりあり、か。おおかた義兄と結託して毒を盛ったのだろう。
だが、ルシアだけでなくこちらにも危害を及ぼしてくるなど、全ては王の想定の範囲内!
オレは堂々と立ち上がり、テーブルを指さした。
「これはもう下げて構わん。王の食卓に毒を持ち込むなど、十年早いわ! 稚拙な計略で王を騙せると思うな! 次はもっと巧妙な手口でアプローチすることをおすすめする! 王からの貴重なアドバイスだ! 覚えておけ!」
「……かしこまりました」
食器を下げる使用人の声は震えていた。
が、それでも逃げるようにその皿を回収していく。
空腹は満たせなかったが仕方がない。
用を足しに行こう。
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