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4章 論理と感情を合わせる方法 編
ハーレムキングは訳を見抜く
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イデアの昼は心地よい。
広場のベンチで、オレはいつものように新聞を広げ、貴族社会欄で面白いスキャンダルを探していた。王たる者、世俗の動向にも通じていなければならんからな!
そこへ、足音。
顔を上げれば、見慣れた優しい笑顔。見慣れた綺麗な銀髪。
「ただいま帰りました、王様!」
その声に、思わず目元が緩む。
もう終わったのか。顔つきを見るに己の選択を信じることができたようだ。
「随分と早かったな。王は嬉しいぞ!」
「今日はちょっと……お出かけしたい気分なんです。買い食いしませんか?」
「ふはははははっ! いいだろう! 王に買い食いを勧めるなど、なかなかの度胸だ!」
そう言いながら、オレは新聞を折り畳んで立ち上がる。
だが、その直後、ふと問いかけてみた。
「そういえば、セレナは元気だったか? オレはあの日以来会えていないのでな」
サラが一瞬、はっとしたように目を見開いた。
そして、苦笑する。
「気づいていたんですね」
「王は全てを知っている! サラが禁呪に心を寄せていたことも、セレナと研究をしていたこともな!」
「……それでも、何も言わずに見守ってくれていたんですね」
「信じていたからな。君が選ぶ道を。そして、君がその信頼を裏切らないと、最初から確信していた」
そう、サラは自分で答えを出した。
過去に飲まれず、愛する者を想う心を守り抜いた。
それでこそ、オレが選んだヒロインだ。
近いうちにオレもセレナの元へ顔を出すことにしよう。
そんな穏やかなひとときは、不意に破られた。
「王様ァァァァァァ!!」
通路の向こうから聞き覚えのある声。
慌てた気配と、銀の甲冑の音。
アレッタだった。
「なにごとだ? 君がそんなに取り乱すとは、これはただ事ではないな!」
オレが身を起こすと、アレッタは荒い息をつきながら言った。
「セレナが……セレナが攫われたの!」
「なに……?」
「セレナさんが? 私、ついさっきまで一緒だったよ?」
サラが、隣で目を見開く。
「多分、サラが研究所を離れた後に攫われたんだと思う。場所はイデアの南区画、研究所の一つが襲撃された。たまたま彼女は一人でそこにいたらしくて、目撃情報によると、黒ずくめの集団に連れ去られたらしいの!」
「黒ずくめ……?」
「あいつら、死者蘇生に関わる何かを探っていたみたい! あたしたちでも追ってたんだけど、セレナが“例の触媒”を用いた研究を単独で進めてたみたいで……それが、彼らの標的になった!」
なるほど。
セレナはサラが立ち去った後、すぐに禁呪の実験を続行したのか。界隈では名の知れた知の怪物が、この国ではタブーとされる禁呪にそこまでのめり込むとはな。
あの冷たい目の奥に理屈では片づけられない何かが宿っていたのを、オレは見逃していない。
「ちなみに、黒ずくめの連中の名前は?」
「“ヴェス=アーク”っていう、禁呪を崇拝するおかしな奴らよ。この国の中枢を担う研究者たちだったみたいなんだけど、禁呪の実験をしていることが露呈して弾かれた連中の残党で構成されてるって話。公式には存在しない組織……だけど、本気で危ない。あいつら死者蘇生でやばいことやろうとしてるみたい」
アレッタの報告からすぐに、オレは腰を上げていた。
「さすがはアレッタ! セイクリールからわざわざここまで追いかけてきただけあるな! 朝から晩まで任務に取り組んでいたのは知っていたが、これほどまでに多くの情報を手に入れていたとは驚きだ!」
「あ、ありがと……じゃなくて! セレナが狙われたってことは、さっきまでそこにいたサラも危ないって話よ! だって、触媒をセレナに渡したのはサラだし、実際に実験の様子も見たんでしょ! 早く逃げないと危険よ!」
アレッタは呆然と立ち尽くすサラの手を引いた。
しかし、その判断は間違っているな。
「サラ、アレッタ。留守を頼む。王は、姫を救いに行ってくる」
背を向けたままそう言うと、背後でサラが声を上げた。
「ま、待って王様! そんな危険な場所に一人で行くなんてダメだよ!」
ぴたりと足が止まる。サラがオレの腕を強く引いていた。
「セレナさんは確かに……王様の言う“ヒロイン”かもしれないけど、でも、あの人は王様のこと、ただの変人としか思ってないんだからね!? ほんとに、ただの、変な人だよ!?」
半ば叫ぶようなサラの声に、アレッタもちらりとこちらを見た。その目は、心配と、わずかな信頼を含んでいる。
「あたしはセレナよりもあんたのほうが大事。感情に流されすぎないで、まずは安全の確保をしてから作戦を立てましょ?」
一理ある。しかし、それもまた間違えている。
いくらヒロインといえど、王を正すのは容易じゃないぞ?
オレは静かに振り返り、微笑んだ。
「ふはははははっ! オレが変人? それでいい! 何一つとして問題はない!」
そして、ゆっくりとマントを翻す。
「変人、結構! 変わり者、上等! 己の価値を誰かに定義してもらうなど、王の名折れだ!」
ぐっと空を見上げる。
「だがな、サラ。セレナはまだオレという存在の“意味”を知らないだけだ。知ろうともしない者にこそ、王は手を差し伸べる」
ひと呼吸、置く。
「そして、アレッタ。感情に流されないセレナを救うために、オレは理論ではなく感情で勝負すると決めたのだ。王の物語に名を刻まれた者を、オレは見捨てない。どれだけ冷たくされようと、どれだけ遠ざけられようと、それが王の愛だ! 彼女をヒロインだと決めた以上、オレの意志が揺らぐことはない!」
その目は真っ直ぐに二人を見据えていた。
二人は呆れたように笑っている。どうやらオレのことを理解し始めているようだ!
そんな二人の反応を見ながらも、オレは続けた。
「それに……変人でなければ、世界を変えるなど不可能だろう?」
夜風が吹いた。
黄金のマントが大きくはためいた。
オレは静かに歩き出す。
誰かの命のために。
王は、行く!
「待っていろ! 難攻不落のヒロインよ! 君を理性の檻から連れ出してやろう! 感情の波に溺れさせてやろう! ふはははははっ!!!」
広場のベンチで、オレはいつものように新聞を広げ、貴族社会欄で面白いスキャンダルを探していた。王たる者、世俗の動向にも通じていなければならんからな!
そこへ、足音。
顔を上げれば、見慣れた優しい笑顔。見慣れた綺麗な銀髪。
「ただいま帰りました、王様!」
その声に、思わず目元が緩む。
もう終わったのか。顔つきを見るに己の選択を信じることができたようだ。
「随分と早かったな。王は嬉しいぞ!」
「今日はちょっと……お出かけしたい気分なんです。買い食いしませんか?」
「ふはははははっ! いいだろう! 王に買い食いを勧めるなど、なかなかの度胸だ!」
そう言いながら、オレは新聞を折り畳んで立ち上がる。
だが、その直後、ふと問いかけてみた。
「そういえば、セレナは元気だったか? オレはあの日以来会えていないのでな」
サラが一瞬、はっとしたように目を見開いた。
そして、苦笑する。
「気づいていたんですね」
「王は全てを知っている! サラが禁呪に心を寄せていたことも、セレナと研究をしていたこともな!」
「……それでも、何も言わずに見守ってくれていたんですね」
「信じていたからな。君が選ぶ道を。そして、君がその信頼を裏切らないと、最初から確信していた」
そう、サラは自分で答えを出した。
過去に飲まれず、愛する者を想う心を守り抜いた。
それでこそ、オレが選んだヒロインだ。
近いうちにオレもセレナの元へ顔を出すことにしよう。
そんな穏やかなひとときは、不意に破られた。
「王様ァァァァァァ!!」
通路の向こうから聞き覚えのある声。
慌てた気配と、銀の甲冑の音。
アレッタだった。
「なにごとだ? 君がそんなに取り乱すとは、これはただ事ではないな!」
オレが身を起こすと、アレッタは荒い息をつきながら言った。
「セレナが……セレナが攫われたの!」
「なに……?」
「セレナさんが? 私、ついさっきまで一緒だったよ?」
サラが、隣で目を見開く。
「多分、サラが研究所を離れた後に攫われたんだと思う。場所はイデアの南区画、研究所の一つが襲撃された。たまたま彼女は一人でそこにいたらしくて、目撃情報によると、黒ずくめの集団に連れ去られたらしいの!」
「黒ずくめ……?」
「あいつら、死者蘇生に関わる何かを探っていたみたい! あたしたちでも追ってたんだけど、セレナが“例の触媒”を用いた研究を単独で進めてたみたいで……それが、彼らの標的になった!」
なるほど。
セレナはサラが立ち去った後、すぐに禁呪の実験を続行したのか。界隈では名の知れた知の怪物が、この国ではタブーとされる禁呪にそこまでのめり込むとはな。
あの冷たい目の奥に理屈では片づけられない何かが宿っていたのを、オレは見逃していない。
「ちなみに、黒ずくめの連中の名前は?」
「“ヴェス=アーク”っていう、禁呪を崇拝するおかしな奴らよ。この国の中枢を担う研究者たちだったみたいなんだけど、禁呪の実験をしていることが露呈して弾かれた連中の残党で構成されてるって話。公式には存在しない組織……だけど、本気で危ない。あいつら死者蘇生でやばいことやろうとしてるみたい」
アレッタの報告からすぐに、オレは腰を上げていた。
「さすがはアレッタ! セイクリールからわざわざここまで追いかけてきただけあるな! 朝から晩まで任務に取り組んでいたのは知っていたが、これほどまでに多くの情報を手に入れていたとは驚きだ!」
「あ、ありがと……じゃなくて! セレナが狙われたってことは、さっきまでそこにいたサラも危ないって話よ! だって、触媒をセレナに渡したのはサラだし、実際に実験の様子も見たんでしょ! 早く逃げないと危険よ!」
アレッタは呆然と立ち尽くすサラの手を引いた。
しかし、その判断は間違っているな。
「サラ、アレッタ。留守を頼む。王は、姫を救いに行ってくる」
背を向けたままそう言うと、背後でサラが声を上げた。
「ま、待って王様! そんな危険な場所に一人で行くなんてダメだよ!」
ぴたりと足が止まる。サラがオレの腕を強く引いていた。
「セレナさんは確かに……王様の言う“ヒロイン”かもしれないけど、でも、あの人は王様のこと、ただの変人としか思ってないんだからね!? ほんとに、ただの、変な人だよ!?」
半ば叫ぶようなサラの声に、アレッタもちらりとこちらを見た。その目は、心配と、わずかな信頼を含んでいる。
「あたしはセレナよりもあんたのほうが大事。感情に流されすぎないで、まずは安全の確保をしてから作戦を立てましょ?」
一理ある。しかし、それもまた間違えている。
いくらヒロインといえど、王を正すのは容易じゃないぞ?
オレは静かに振り返り、微笑んだ。
「ふはははははっ! オレが変人? それでいい! 何一つとして問題はない!」
そして、ゆっくりとマントを翻す。
「変人、結構! 変わり者、上等! 己の価値を誰かに定義してもらうなど、王の名折れだ!」
ぐっと空を見上げる。
「だがな、サラ。セレナはまだオレという存在の“意味”を知らないだけだ。知ろうともしない者にこそ、王は手を差し伸べる」
ひと呼吸、置く。
「そして、アレッタ。感情に流されないセレナを救うために、オレは理論ではなく感情で勝負すると決めたのだ。王の物語に名を刻まれた者を、オレは見捨てない。どれだけ冷たくされようと、どれだけ遠ざけられようと、それが王の愛だ! 彼女をヒロインだと決めた以上、オレの意志が揺らぐことはない!」
その目は真っ直ぐに二人を見据えていた。
二人は呆れたように笑っている。どうやらオレのことを理解し始めているようだ!
そんな二人の反応を見ながらも、オレは続けた。
「それに……変人でなければ、世界を変えるなど不可能だろう?」
夜風が吹いた。
黄金のマントが大きくはためいた。
オレは静かに歩き出す。
誰かの命のために。
王は、行く!
「待っていろ! 難攻不落のヒロインよ! 君を理性の檻から連れ出してやろう! 感情の波に溺れさせてやろう! ふはははははっ!!!」
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