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46.一番近くの悪夢……
しおりを挟むこのゲーム、「純白のアルカ ~白き魔法~」には、禁呪というものがある。
魔法はレベルなりパラメータなりで自然と覚えていくのが、それ以外の方法で入手する魔法が禁呪と呼ばれるものだ。
ゲーム中のイベントやフラグで使用可能となる、強力な魔法だ。強力ゆえに「禁止された魔法」や「封印された魔法」、または「隠匿されたまま時代が過ぎて失われた魔法」という感じに分けられている。
レンのイベントで必要になる『天龍の息吹』は、彼女の弟の病気を治すために必要な禁呪である。ゲームでは戦闘不能以外の状態異常を全回復だったかな。非常に使える魔法だった。これぞ光魔法って感じだよな。
で、逆に言うなら、『天龍の息吹』を獲得していることが、レンのイベントのフラグになっているんだと思う。持ってなかったらイベントが起きなかった……と、記憶している。毎回助けてたからちょっとあやしいけど、たぶんな。
もし主人公が『天龍の息吹』を使えなかったら、イベントが起こらないのではないだろうか――という心配は、ひとまず置く。
それより問題なのは、今、現実に、リアルに、レンの弟が病気で苦しんでいるという一点だ。
イベントだとかフラグだとか、そんなものはどうでもいい。
大切なのは、長年に及ぶレンの心労を取り除く術があって、それを俺は知っていて、そのために行動を起こすことができるということだ。心境的にも、ようやく自分以外のことを考える余裕が出てきたってことでもあるんだろう。
だが、少し考えなければならない。
ゲームなら何の問題もない、ただのフラグだったりイベントだったり、完全な予定調和の上に成り立つ出来事ではあるが。
しかし、考えれば考えるほど、その道を行くのは難しい気がするのだ。
「――そろそろ寝ましょうか」
テーブルにある本は明日さっさと返すとして、今日のところは休むことにする。
俺がベッドに入り、レンが明かりを消して部屋を出て行く。
暗く、そして静まり返ったこの部屋で、天蓋を見詰めて考える。正直今日もたくさん運動したから睡魔も襲い来ているのだが、まだ倒れるわけにはいかない。
――どうにも、どう考えても、難しい。
ゲームなら考えることもないのだが、この『天龍の息吹』の存在は、難しい。
何がどう難しいかと言えば、その魔法そのものだ。
病気が治るんだ。
正体不明の難病に侵されているレンの弟を、救えるんだ。
そんな危険な魔法なんだ。
貴族だとか王族だとかよくわからない、現代人として見ても未熟な高校生である俺にも、すぐにわかる。
「大病を治せる魔法」なんて習得したら、良くて一生監禁幽閉、悪くて速攻で殺される……気が、する。
特にアルカがまずいだろう。
俺は辺境伯令嬢という、国や家に強く守られる存在だ。表立ってどうこうということは、まずない。更に言うなら「光魔法の有能性」を盾に、王家に取り入ることもできる。楽に。非常に楽に。
家格も申し分ない、生まれも遜色ない、その上「光の聖女 (笑はマジで付かない)」として重宝されるはずだ。他国の王族や貴族相手に「病を治す魔法」で強気な外交もできちゃったりするんだろう。
……たぶんその場合は、俺はキルフェコルトの嫁さんとかになっちゃうんだろうなぁ……だって逆に王家が放置できる人材じゃなくなっちまうだろ? 他国にでも取られたら最悪だろ? アクロディリアの場合はラインラックっていう片思いの相手もいるわけだし。他国の利益になるくらいなら殺すだろ? ……殺すとか簡単に言うな! 怖いだろ!
……うわ、軽く考えちゃったけど、結構ガチな可能性を感じるぞ。アニキのことは慕ってるけど、結婚はやだよ……死ぬのもいやだよ……
しかしアルカは違う。
今はまだ平民だ。確か海の向こうのそこそこでかい商人の子ってことで来てるはずだ。
アルカの場合は、何が起こるかわからない。それこそどこぞの貴族に誘拐されて、一生幽閉されたりする可能性も、本当にあるのだ。もちろん『天龍の息吹』を利用されてな。他国の王族にでも売られる可能性だって否定できない。
あるいは、この国の王族がさっさと押さえるかな。キルフェコルトがいるなら、国の保護の方がまだマシだろうな。
…………
考えれば考えるほど、頭が痛くなってきた。
「厄介すぎるだろ……」
病を治す魔法。
こうして考えてみると、確かに「禁呪」として相応しい魔法なんだな。
明け方近くまで考えて、うとうとしたと思えば、もう朝だった。
「ハッ!? ……ゆ、夢か……夢かよ……」
「…? 何か悪い夢でも?」
いつも通りレンに起こされたのだが、その、なんというか、考え事をしながら寝てしまったせいか、とてつもなくヤバイ夢を見てしまった。
「ウエディングドレスを着てた……」
「え?」
「ウエディングドレスを着てたのよ」
「……ヨウさんが? いえ、アクロディリア様が?」
なんでちょっと嬉しそうなんだよ、レンさん……ちょっと笑ってるぞ。なんだよ楽しいのかよ。俺の悪夢が。
「わたしじゃなくて、ラインラック殿下とキルフェコルト殿下がね」
「…………」
あ、凍りついた。だろ? そうなっちゃうだろ? 悪夢だろ?
「そんな二人に追いかけられる夢を見たのよ。ラインラック殿下はまだ見れたけど、キルフェコルト殿下はひどかった……」
あんなデカくてゴツいのがKEGAREなき純白のドレスをまとって、ダイナミック内股走りで追っかけてくるんだぞ……夢でもダメージがすさまじいのに、現実で見たら俺は絶対泣くぞ。いろんな意味で泣いてやるからな。
「ヨウさんはなんなんですか。あなたは。まったく」
怒られたっ。悪夢を見てうなされて最悪の朝を迎えた挙句、怒られたよっ。
……ふう……レンさんに怒られるのはなかなかいいんだよな。最悪の朝だけど少し気持ちは晴れたな。
とまあこんな悪夢を見たりもしたが、今日も一日が始まる。
まだまだ眠りを要求する身体に無理を強いて闘技場へ行き、剣術訓練をし、
「今日はこれで終わりましょう」
昼頃には切り上げた。
「何かご予定でも?」
「ええ。図書館へ行くわ。調べ物があるの」
あんな見たくないものを見た甲斐があった……と言えるのかどうかはわからないが、明け方まで考えた結果、とりあえず今後の筋道だけは立ててみた。
まずゲーム通り、「病を治す魔法がある」ということを、図書館で調べようと思う。本当はささっと取りに行けるんだが、きちんと手順を踏まえるのが大事なんだ。
「なぜ知っているのか?」の理由を作り、そこから芋蔓式にアルカに「こんな魔法があるらしいけど知ってる?」と質問して、答えによってまた方針を決めればいい。
大事なのは、できるだけ周囲に知られないことだ。俺の身バレと一緒だな。
ただ今回は、手に入れる魔法そのものがかなりヤバイので、絶対に王子連中に知られるわけにはいかない。知られたら誘拐で幽閉か、あの悪夢コースに直行する可能性がある。キル兄やんと結婚とかやだよぉ……
レンの弟を助けない、という選択肢もあるにはあるが、……いや、まあないな。
これは俺の意志がどうこうというより、アクロディリアが長年意地悪だのなんだの迷惑を掛けた分のお詫びとして、やらざるを得ないことだ。……と思う。……思うんだけどなぁ。この感覚だけは俺がこの馬鹿女の記憶を見ているからこそ生まれる気持ちなのかもしれない。
早めに訓練を終え、風呂に入り、購買部で昼食を取る。それから寮に戻って本を持ち出し、図書館へ返却した。もちろん本は俺とレンさんの共同作業で運んだとも! ……一人じゃ持ちきれない量だったからな。ハードカバーだから重いしデカいしかさばるから。まったくハードな奴らだぜ。
「時間が掛かるから、好きに過ごしていいわよ」
実際その通りなので、図書館でレンと別れた。レンさん、というかメイドさんは忙しいからな。付き合わせて無駄に過ごさせるのは可愛そうだ。
「さてと」
振り返ると、広大な建物にびっしりと本棚、そして数え切れないほどの本が整然と納まっている。
かすかに匂うのはインクか埃か。本の環境に相応しい薄暗い室内は焼けるのを防ぎ、まるで時が止まっているかのように静かだ。
俺がここに来たのは二度目だ。アクロディリアではなく、俺がな。
本当に、すさまじい光景である。
圧巻である。
先人の「伝えたいこと」が、気持ちとともにこの本一冊一冊に込められていると思うと、震えが来るほどだ。
もしかしたら一生掛けても全部の本は読みきれないかもしれない、それくらいの本があるのだ。ゲームではモニター越しに見ているものの、やはり絵と実物では比べるまでもない。比べられるものでもない。
この本たちのどこかに、必ず『天龍の息吹』に関して書かれているものがある。
待ち構えている数が数なので、すでに気が重くなっているものの、頑張って探すぞ!
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