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89.懐かしき家はただそこにあり……
しおりを挟む「お嬢様、少しお痩せになりましたね」
専用の御者 (これもフロントフロン家の者)がいるので、今度はジュラルクもメイトも馬車内である。
向かいに座るジュラルクが、俺が退屈しないよう適当に話を振ってくる。気遣いレベルたけーなぁ。イケメンで気遣いできて仕事もできるとか、……いや、あんまり考えないようにしよう。敵意を抱きそうだ。
「痩せたのではなく絞ったのよ」
「左様ですか。色々と心変わりされたことは、こちらにも伝わっておりますが」
ん? ……ああ、まあ確かにアクロディリアらしからぬことをガンガンしたからな。昨日会った覗き仲間もその噂を聞いて来たっつってたし。
あれ? もしかしてまずいのか?
「何か問題でもあるの?」
率直に問えば、「いいえ」と返ってきた。
「ただ、いよいよラインラック王子と進展があっての心変わりかと思いまして」
「わざとらしい。もう聞いているのでしょう?」
「噂はしょせん噂。お嬢様の口から聞くまで、このジュラルクは信じません」
……さすがだなぁ。ニコニコ穏やかな顔はしているが、明らかに「フロントフロン家に仕える者」ってバックボーンが見えやがる。
レンと違って、こいつはアクロディリアのことを優先するのではなく、フロントフロン家……はっきり言えばアクロディリアのパパの味方ってことだ。どこまでも。状況によってはアクロディリアを裏切ってでもフロントフロン家に尽くすんだろうな。
やっぱ身バレはヤバそうだわ。自分から告白とかってパターンはやめた方がいいだろうな。
「じゃあはっきり言うわ。あの人のことは諦めた」
「……左様ですか」
と、ジュラルクの笑みが消えた。
「残念でしたね。心中お察しします」
「そう?」
「私はお嬢様のお気持ちを知っていましたから。いくら貴族の娘とはいえ、好きでもない男に嫁がせたいとは思いません」
どこまで本音なのかね? 本当っぽいけど、本当っぽいところが嘘臭い。これくらいの嘘はつけないと執事なんてこなせないだろうしな。
まあ、それよりだ。
「お父様はなんと?」
今問題なのは、ジュラルクの本心ではなく、フロントフロン家の動向だ。アクロディリアの未練が無くなった以上、次は休む間もなく婚約問題だからな。
「いつも通りでしょうね」
いつも通り、か……
「わたしに任せる、ね」
この歳までアクロディリアに正式な婚約者がいなかったのは、アクロディリアの「ラインラック大好き」って意思をアクロパパが聞き入れていたからだ。娘の我侭を叶えていたって形だな。
アクロディリアの貴族感や貴族としての知識から考えるに、普通では考えられないことだったみたいだ。
……まあ、理屈もへったくれもないことを言うなら、ゲームの設定だから常道と比べると歪んでいる、と考えるのがむしろ自然なのかもしれないが……
でも、心配というか、こういうことを話すこと自体無駄なんだけどな。
貴族の結婚に当人同士の意思は含まれない。
結婚も、結婚相手も、アクロパパが決めることなんだ。考えたって仕方ないことだ。
第一、もしもの時は、土壇場で逃げるしかないんだからな。さすがに無理よ。俺男と結婚するのさすがに無理だから。
「……ところでお嬢様、その子の罰は何がいいですか?」
その子、というのは、メイトである。落ち着きがなさそうなメイトが静かったのは、俺の隣で俺に寄りかかってうたた寝しているからだ。緊張感の欠片もない自由な奴だなぁ。
「まだ着任前でしょ? 大目に見てあげなさい」
――だいたい、たぶん寝てないしな。俺の監視だぞ。きっとあのジングルと同じ隠れた実力者だぞ。
そんなこんなで、ジュラルクと世間話をしていたら、あっという間に目的地に到着した。
「……」
記憶にはあるが、見るのは初めてで……うん、なんというか、あくまでも俺の想像とはちょっと違うんだよな。
なんとなく真っ白な大豪邸を想像してしまうが、実は大きな木造の屋敷なんだよな。かなり年季が入った感じの。まあ実際歴史が長いから、昨今の建築技術で作られたものじゃないんだよな。
今は丈夫な石積みとかレンガ造りの建物が主流になりつつあるが、この屋敷を建てた当時は、「どれだけ手が掛かっているか」がステータスだった。石造りなんかは魔法使いがいればすぐ作れたらしいからな。木造で大きな家ってのは大変な価値があったらしい。
街から少し離れた丘の上で、見渡す限りの平原と彼方の森、そして眼下に見る街並み。
ここが、フロントフロン家である。
「只今戻りました」
重厚な玄関ドアを開ければ、そこには、なんと、ずらっとメイドたちが並んでいた!
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
ウホッ、悪役令嬢のご帰還っぽーい!
だがここで喜んだり物珍しげにジロジロ見たり見回したりすると台無しなので、これまた無視するが如くど真ん中を歩く。……お、おいおい……二十人くらいメイドさんいるけど、美人率が異常じゃねえか…………いや、まあ、おばちゃん的なご年齢の方も数人いるけども。
同年代もいれば、年下も年上もいるようだ。バラエティに富んでいる。うん、決してアクロパパが若くて美人だけ集めたってアレではないのだろう――おっと。
「お父様とお母様は?」
手近なメイドに問えば、「主人は外出中、奥様は裏庭です」と答えが返ってきた。そう、まず俺がやるべきことは、帰郷の挨拶なのだ。
「クレイオル様もお帰りになっています」
クレイオル?
……あ、アクロディリアの弟な。そうそう、アクロディリアには弟がいるんだよな。三つ違いの。なら十四歳か。
まあ基本的にアクロ家族と積極的には関われない、身バレが怖い現状だ。会わなくていいのであればそれで通したいものだ。
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