俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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101.それは強制的に自らの手で選ばれた……

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 ――自警団ってことは、夜の見回り関係だな。

 兵士が領主が認めた警察なら、自警団は街が認めた民間の警察である。あくまでも近いってだけだがな。世界観が違うから、民間の団体でも逮捕権的なものが……うーん……曖昧? 国やパパは保証してないけど、黙認はされているって感じらしい。勝手に拘束して兵士に突き出すってことをやっている、とアクロディリアの記憶にあった。
 ここに限らず、各地で自警団が台頭してきたのは、街や国を守るはずの兵士が評判悪かったり手が回らなかったりしたから、という理由が背景にある。だからあんまり強く解散勧告を出せないみたいだな。

 ちなみにここフロントフロン領地は、国境の田舎ゆえに結構平和らしい。
 場所柄、外来客に対する警備体制が厳しいんだよ。隣国とは頻繁にやりとりがあるほど友好関係にあるが、それでも、いや、だからこそ警備が厳重なんだろう。他国の侵略も問題だが、逆に自国の盗賊や犯罪者が隣国に行かないためにもな。

 さて、どうするか。

 前と後ろを塞がれたが、すぐに取り押さえに来ないのは、手数が足りないからと見た。向こうは二人、こっちは三人だからな。

「――お嬢様」

 俺をかばうようにして前に立つダリアベリーが、小声で囁く。

「ここは三手に分かれましょう。幸い相手は二人。前の男は私が、後ろの女はキーナが連れて行きます」

 あ、マジで? やっぱ相手の数が足りない感じ?

「素直に言えばいいんじゃない?」

 「賊」とは言われたが、盗んだ物・・・・を持っているわけではない。どれだけ調べられても証拠が出ることなんてないんだからな。
 それに俺はフロントフロン辺境伯令嬢だ。普通に名前を出してジュラルク辺りに迎えに来てもらった方が穏便だ。
 ここで下手に逃げて大騒ぎになるより、素直に従った方がいいと思うんだが。

「どんな状況であろうと、他者に家名を漏らせば、噂は一瞬で街中に広まりますよ。お嬢様はそれを避けたいと言っていました」

 うん……まあ、そうなんだけどさ……パパはともかく弟は超睨んでくるだろうしな。

「あなたたちは大丈夫なの?」

 この質問には、キーナが答えた。

「この街のことなら、裏道も筋道も近道も知っています。庭みたいなものですから」

 そっか。

 ……うん、よし、じゃあそうするかな。

「では屋敷で会いましょう」

 こうして俺たちは、三方向に走り出した。




 予定通り、自警団の二人はダリアベリーとキーナを追って行ってしまったようだ。

 ――そろそろ来そうな気がするんだが。
 ――来なければ来ないでもいいんだけどなぁ。

 そんなことを考えながら、俺は一人で路地を駆けていた。

 ――あ、やっぱ来ちゃった。

 さてあとは坂を登る一本道だ、というところで、さっきと同じように前後を塞がれた。
 前に三人、後ろに二人。
 なんつーか……俺でもいることがわかったくらいだから、さっきの自警団の奴らの方が腕は立ちそうだ。今の俺ならたぶん戦っても勝てる。
 
 あ、いや、いるな。一人だけすげー強そうなのが。
 あいつは勝てないかもしれない。

 奴らは無言のまま、ジリジリと間を詰め、俺を方位していく。――正面の奴がすげー強そうな奴だ。体格もいいし、隙がない。

 …………

 どうするよ?
 さっきの選択肢・・・・・・・は強制一択だったが、今回の選択肢・・・・・・は選べるみたいだぜ。

 1、逃げ切る。
 2、ぶちのめす。
 3、あえて捕まってみる。

 と、ゲームならこんなとこだろうな。

 「逃げ切る」が正解と見せかけて、実は全て穏便に済ませるなら「捕まる」が正解だ。「ぶちのめす」はむしろ自分から事件に足を突っ込む行為に他ならない。俺の目的を考えるなら悪い手だな。
 
 残り2メートルほど……一足で俺に触れられるという距離まで詰めて、始めて正面の男が口を開いた。

「一緒に来てもらおうか」

 低い声だ。暗いので顔はよく見えないが、四十から五十歳くらいだな。剣を吊っているが、今のところ抜く気はなさそうだ。

「断ったら?」

 まだ俺の中で三択を選べていない。できればもう少し判断材料がほしい。

「縛って手荒に連れて行く。自分の足で来るか少々痛い目に遭って担がれるか、選べ」

 これで確定だな。
 間違いなく、相手は俺の正体をすでに知っている。

 相手は大事にしたくない……つまり俺と一緒だ。そして俺を連れて行く目的と言えば、やはり『天龍の息吹エンジェルブレス』だろう。俺に誰かを治療させたいのだ。この手のやり方からして、裏の住人か、それともどこかのお偉いさんか……
 現時点で推測できるのは、ここまでか。

 ……「捕まる」が正解っぽいな。

 お互いまだ何も話していない以上、なんとでも言い訳ができるからな。

「忠告するわよ?」

 俺はその場で半歩身を引き、思いっきり身体を回転させた。遠心力全開の右フックが背後から飛びかかってきた男のテンプル (こめかみ)をぶち抜いた。

「ごあっ」

 男は悲鳴を上げて倒れた。
 うわーまともに入ったなー今。一応アッパーも繰り出す準備はあったんだが。完全に反撃がないものと油断してたな。手袋越しなのにこっちの骨までいてえ。

「――指一本でも触れたら、全身全霊で抵抗するわ。約束できないならここで大声を出す。お互い偲びの身だもの、困るわよね?」

 まあ、こんなことする連中の約束なんて如何程か、って感じだが。
 でもいいのだ。
 これは別に、こいつらに期待して言った言葉ではないから。

「わかった」

 正面の男は、周囲の連中に目配せした。男たちはすっと身を引き……倒れた男を連れてそのままどこかに行ってしまった。

「ついてこい」

 さて、何があるのかね。





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