87 / 184
103.その答えは星空に……
しおりを挟む「来たか」
階段を登った二階、開けっ放しだった部屋に案内された。
一目見て、いや、実はこの家に入った時から薄々気づいていた。光属性のせいで死の気配には敏感なのだ。
見ればはっきりした。
こいつは重症だ。
――室内には、三人いた。
一人は屈強な大男、もう一人は俺より少し年下かなってくらいの女子。
そして、ベッドで寝ている病人。じいさんだな。……素人目にもわかるくらい顔色が悪く、今の俺には死相さえ見える。
「俺は――」
「待って」
大男が、たぶん名乗りをあげようとしたのを、俺は止めた。
「言わなくていいわ。わたしも名乗りたくない。その方が都合がいいでしょ」
そう言いながら、俺は寝ているじいさんに近づき――女子の方に、首元に刃を突きつけらて止まる。
「何? この用で呼んだんでしょ? 不服なら帰るわよ」
軽々しく近づくなと言わんばかりに険しい顔をしている女子を、俺も睨み返す。こっちゃ時間制限があるんだよ。夜明け前に帰らないとまずいんだよ。それに今日はもう何人か治療していて疲れてるんだ、睡眠が削れるのも困るんだよ。
「よせ、ジェス。そいつの言う通りだ」
俺を案内してきた男が言うと、……正直知りたくなかったジェスと呼ばれた女子は、納得いかないという顔のまま刃を下げた。
うーん……なんつーか、この世界の女性って強いねー。
寝ているじいさんに触れてみる。
うーん……これはなんかもう、アレだな。
「悪いけれど、無理みたい」
体調を探りなら、はっきり言っておく。
「こうして触ると体の悪い部分がなんとなくわかるのだけれど、彼はもう全身に病が回っているわ」
真っ黒い霧が身体中に充満しているような、そんなイメージだ。これまでは身体の部分部分に黒霧が溜まっているイメージを感じていたが、この人はもう全身だ。頭の先から指先、つま先まで。病気であることは間違いないと思うが……色々併発しているのかもしれない。
「あまり重いのは治せないのよ」
だからこそ経験を積んでいた段階だからな。
「ふざけるな!」
おっと。ジェスが掴みかかってきたぞ。……大男が寸前で羽交い絞めにしたけど。
「治せ! 金が目当てならいくらでもくれてやる! だから治せよ!」
……そうしたいのは山々なんだけどさぁ。
「無理なものは無理なのよ。……あなたもわかっているはずよ。医者もさじを投げて、あとは死を待つだけ……もうそんな状態じゃない」
むしろ、ここまで全身に病が回るまで生き延びた、本人の精神力だか気力だかがすごい。きっとこの一年くらいは地獄のような苦しみに耐えてきたのではなかろうか。闘病ってつらいから。
「どうしても無理か?」
連れてきた男の問いに、俺は肩をすくめた。
「今すぐは絶対に無理」
「あぁ……」
あ、ジェス泣き崩れちゃった。暴れたり泣いたり忙しい激しい人だな。
「……」
大男は腕を組んだ。
「……今すぐは、とは? どういう意味だ?」
『天龍の息吹』という魔法については話せないので、遠回しに、そしてわかりやすく説明する。
「少しずつ治すのよ。一晩で回復なんてわたしには無理」
「本当か!?」
ジェス! 涙と鼻水! ……あっぶね! 掴みかかってくるかと思ったが、それはなかったか。
「本当に治せるのか!?」
「何事もなく治療できればね」
元々『天龍の息吹』の起源は、死病に掛かった光の大賢者エレオン=キリークを救ったことから始まる。理屈ではない、ただ病気が治る魔法なのだ。たぶんどんなに瀕死でも、片足棺桶に突っ込んでいるような状態でも、それが病による体調不良なら治せるんだと思う。そういう魔法だから。
ただし、その治療レベルは術者依存だ。はっきり言ってアクロディリアのMP最大量や魔力は、まだまだ低い方だからな。瀕死の者は一発では治せない。
アクロママにも多少効果があったみたいだし、これも感覚でわかるようになった。何度も使えば少しずつよくなると思う。
力が足りないなら手数で勝負ってわけだ。
「せっかく来たんだし、一応今日の分だけやっておくわね」
ちょっと長い付き合いになるかもな――そんなことを思いながら、俺はじいさんに治癒魔法を施した。
見事に魔力が枯渇しかけたところで、発動を止める。ここ数日の病気泥棒でこういうテクニックも身についてきたのだ。ママに使用した時のように、一度に全開でかけるのではなく、細く長く使用することで魔力使用量を調整すれば、さすがに倒れることはない。
まあ、しんどいはしんどいんだけどな。肉体疲労とはまた違う倦怠感と、身体の節々に痛みがくる。……「魔力水」飲んどこう。
男二人と女一人は、心なしか顔色がよくなったじいさんを囲んで喜んでいる。あの人が何者かわからないが、まあ愛されてて結構ですな。
だが今はこっちを向け。
「むしろ今問題なのは病人じゃなくて、あなた方よね。毎晩こうしてわたしを連れてくるつもり? さすがに付き合う気になれないわね」
あと10回は治療しないといけないと思う。多くはなっても少なくはならない回数だ。
そしてそれは同時に、最低あと10回はこうしてこいつらに付き合うことになる、ってことだ。
俺個人の感情はともかく、難しいと思う。
だってさすがに毎晩抜け出して……ってのは、ちょっと現実的じゃないだろ。だってバレちゃうぞ。バレたら本格的に屋敷から出られなくなっちゃうぞ。朝の外出だっていずれ咎められそうなのによ……
それに、来週末にはタットファウス魔法学校に帰る身だしな。まあこの辺は多少融通は利くとは思うが……
「……フロントフロ――」
「名前は出さないで」
あの大男はうかつだな! 出すなっつってんだよ! ……まさか誠意を示してる気じゃねえだろうな? 誠意を見せたいなら俺の意を汲んでくれよ。
「あー……あんたの父親に正式に申し込むのは? 無理か?」
「良い手とは思えないわね。はっきり断られたらどうするの? 諦めるしか道がなくなるわ」
パパの決定は、俺もアクロディリアも逆らえないからな。……逆らいたいとさえ思えないしな。超こえーんだぞ。
「まあなんか考えて。ここで一緒に知恵を絞るほど、わたしはお人好しじゃないわ。今回はうちの者の顔を立てるつもりで来たけれど、そうじゃなかったらここにはいない」
いくら俺が生粋の日本人だからって、誘拐まがいの強引な手段を講じる連中に好感は持てないからな。……ジェスはちょっと好きになっちゃったけどな。あそこまで「じじい助けろ!」って騒げるなら微笑ましい。
「帰るわ。見送りは結構よ」
「見送りは結構」とは言ったが、まさか本当に見送りがないとは思わなかった。
俺は入ったドアから外に出て、とりあえず大通りまで出てみた。
「――メイト。いるんでしょ?」
「――うん」
おっと! 思ったより近くに潜んでやがった。
俺の呼びかけに答え、夜の闇から出てきたのは、俺と一緒に帰郷してきたメイド見習いメイト……まあ、俺の監視役だ。
さすがアニキの送り込んできた者、いつからどのくらい尾行され監視されていたかもわからなかった。
――自警団の二人に挟まれたあの時、一瞬だけメイトは自分の闇の魔力を解放し、自身の存在を俺に教えてくれたのだ。必要なら手を貸すぞ、という意味で。
まあ誘拐に応じたのは、こいつがいたからってわけでもないが。しかしこいつがいることがわかっていたから、必要以上に警戒することもなかった。本当にいざという時は乱入してくるだろうと思っていたからな。
「魔力って抑えられるの?」
「うん。訓練次第でいけるよ」
そうなんだ! 光と闇の魔力の反応って、便利なのか厄介なのかって感じていたけど、そういうのもコントロールできるんだ!
「あと他の魔力も感じられるようになるよ」
マジかよすげえ! それに気配察知能力まで揃えば怖いもんなしじゃね!?
「やり方教えてよ」
「いやだよ。見つからなくなったら困るもん」
……そりゃそうだな。
「さすがに中までは行けなかった。なんの話してたの?」
「話はほとんどしてないわ。要件は……まあ、お察しの通りって感じ」
「ふーん」
どちらともなく歩き出す。方角に気をつけて大通りを行けば、その内知ってる場所に行けるだろう。
「――で? どうするの?」
どうする、か。
「どうしようかしら」
星空を見上げた。
そこに答えが書いてあるわけではないが。
……俺がどうしたらいいかなんて、俺にもわかんねーわ。
13
あなたにおすすめの小説
断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました
八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。
乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。
でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。
ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。
王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる