俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

文字の大きさ
88 / 184

104.一夜の物語の終焉……

しおりを挟む





「え? ジングルと同郷なの?」

 ジングルっつったら、『ドラゴンの谷』で合流した不良っぽいやつだろ? ……あ、そうか。言われてみればそういうことになるのか。色々あってあえて確かめなかったけど、あいつもキルフェコルトの密偵みたいなものなんだよな。
 つまりこのメイトと同郷……というか、所属が一緒ってことになるのかね。あいつもメイトもたぶん密偵だろ。護衛を兼ねた。

 ま、日本で言うところNIN-JA的なもんだな。

 しかしジングルなぁ……
 なんか「隠れんぼ中に勝手に帰っちゃった」的な唐突な別れ以来会ってないんだよな。ちょっと気まずいよな……気にしてなければいいけど。

「そうだよ。あたしたちの周りではお嬢様は注目の的なんだよー」

 ……うーん……俺が気づいてないだけで、結構いろんな奴に見張られてたりするのかもな。パパも俺の動向は知ってたわけだし、王家やキルフェコルトに限らず、様々な組織が潜伏してたりするのかもしれない。

 ――なんて話をのんびりしながら、堂々と帰途に着いていた。思えば帰郷してからメイトと話す間がまるでなかったし、そもそも姿を見かけることも……あ、それはあったな。

「あまりヘザー婦人を怒らせないでね。もう歳なんだから。倒れるわよ」

 ヘザー婦人というのは、フロントフロン家のメイド長だ。パパが生まれるより前からフロントフロン家にいたっつー超古株だ。一度結婚して現役を退き、息子だか娘だかが独り立ちして旦那に先立たれて、身寄りがなくなってからまた再就職してきたらしい。うちでパパに意見できる数少ない人物だ。
 メイドとしてもメイド長としても優秀な人で、そして厳しい人だ。

 古くて、厳しくて、メイド衆をきっちりまとめ上げる人。

 ……だからだろうなぁ。この普通の子供にしか見えないメイトはガンガンに叱られているようだ。たまーに怒鳴り声とか聞こえるからな。

「大丈夫だよ。あのおばあちゃん、会った時より毎日楽しそうだから」

 どういう理屈だよ。……まあ人怒るのでストレス解消できる人もいるのかもしれんが。

「あの人、王都に教育係として出したら? フロントフロン家ってもう優秀なメイドしかいないから、あんまりやることないみたいだし。今のとこあたしの教育が楽しいみたいだし」

 ……え? そういう視点? 叱られてる奴がまさかのスカウト目線?

「そうね……一応お父様に言っておくわ」

 ヘッドハンディングなのはわかっているが、フロントフロン家のメイドが優秀なのは確かだからな。ま、ヘザー婦人の意志で決めればいいだろう。

 あとは坂を登るだけ――その直前で、メイトは立ち止まった。

「それじゃ、あたしは別ルートで帰るから」
「そう。ご苦労さま」
「ほんとだよ。夜くらい大人しく寝ててよね」

 はっはっはっ。監視役も大変だ。

「――ところでさ、さっきははぐらかされたけど、どうするの?」

 ん? うーん……

「わからない」

 はぐらかしたつもりはないんだがな。
 自分でもどうしたらいいかわからないし、今も答えは出ていない。

 だからさっきも答えられなかったし、今も答えられないだけで。

「そっか。なんつーかさー、色々なものに板挟みになってさー、どっちにも……いや、いいや。お嬢様ならいい答え出せそうだから」

 プレッシャーかけんなよ。俺はどこまでもただの普通の高校生なんだからな。




 出る時も使用した抜け道から門と塀を超え、素早く自室の下に向かう。――と、はらりとロープが降りてきた。ロープに飛びつき、飛びつく勢いで壁を上り、ベランダに手をかけてよじ登る。

「お嬢様、ご無事で」

 明かりのない室内には、すでにキーナとダリアベリーが帰還していた。まあたぶん、坂を登る俺を確認してから一足先に部屋で待っていたんだと思うが。下手に門付近にいるとうちの門番に見つかっちまうからな。

「遅かったですね。何かあったのですか?」

 と、俺のマントを剥ぎ取るキーナ。

 色々悩んで、やっぱりまだ答えは出ないが……しかし、タイミング的には今言うのが正しいのだろうと思う。
 というか、今言わないと、余計に厄介なことになるかもしれないからな。

「ダリア。説明してくれる?」

 彼女が。

「はい? 何をですか?」

 そうか。しらばっくれるのか。

「まあそれでもいいわ。でもこれだけは答えなさい。――脅迫されているの? それとも自分の意志? 答えないなら今夜の一件、お父様に言わざるを得ないわよ」
「………」

 動揺は……ない、か。
 俺が見抜くことを予想していたのか、それとも動揺を表に出していないだけか。

「お嬢様? どういう……?」
「わからないなら黙ってなさい」

 キーナも共犯という線も考えたが……いや、やはりセントン家の者がフロントフロン家を裏切ることはないか。フロントフロン家とセントン家には、俺やアクロディリアには計り知れない歴史と絆があるんだろう。

 まあそれはいい。

 今夜のことは、色々とひっかかることが多かった。
 特におかしいのは、やはり病院から帰る途中、自警団の待ち伏せに遭ったことだ。ダリアベリーが自警団の気配を読み損ねたことはまだいいが、対処法がな。

 護衛が護衛対象を一人にするような案を提示するか?
 それも「戦闘訓練さえ受けていない貴族のお嬢様」を、夜中に置き去りにするか? 俺が色々がんばって身につけていることを知らないのによ。
 どんな不足の事態が起こるかわからないんだぞ。それこそ酔っ払いに絡まれるとか、マジで予想できない事件が起こったりするかもしれないんだぞ。
 それだったら俺が出した「素直に身分を明かす」がもっとも安全な策だったはずだ。

 ――で、実際事件に巻き込まれたしよ。まあそれがダリアベリーの目的だったんだろうけどよ。

「……どこで気づいたのですか?」
「あなたが私を孤立させる案を出した時よ。どう考えてもわたしが言った方法が安全だったから」
「では、なぜ反対をしなかったのですか?」
「キーナがどちらの立場にいるかわからなかったから」

 この様子だと、やっぱり何も知らなかったみたいだが。

わたしの安全・・・・・・は保障されていたでしょ? だってわたしの身柄が目的なんだから。でもキーナは? それを考えると選択肢なんてなかったわ」

 あの時、もしキーナ以外が全員グルだとしたらどうなっていた? 自警団と名乗った男女二人、そしてダリアベリー。三人が一度に襲い掛かってきたらキーナだけじゃどうしようもなかっただろう。

 そう考えると、ダリアベリーの提案を素直に飲み、何も知らないキーナの安全を確保するしかなかった。
 最悪殺されるんじゃないかと思ったからな。
 俺だけが目的ならキーナに用はない。むしろ下手に放置したら必ずフロントフロン家に知られてしまう。だから口封じに……ってな。

「で? わたしの質問には答えないの?」

 脅迫だったら次がある。
 またダリアベリーは俺をハメるために何かしら仕掛けるだろう。

 自発的な行動なら……まあ、頭下げてお願いするしかないんじゃないですかね! むしろ最初からそうしてほしかったわ! 無駄にはらはらさせやがって!

「……まあいいわ。仲間と相談して決めなさい。一日だけ待ってあげるから」

 ――ここで「じじい完治してないけどねー」と教えないのが、俺なりのリベンジだ!







しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

【完結】貴女にヒロインが務まるかしら?

芹澤紗凪
ファンタジー
※一幕完結済。またご要望などあれば再開するかもしれません 乙女ゲームの悪役令嬢に転生した元・大女優の主人公。 同じく転生者である腹黒ヒロインの策略を知り、破滅を回避するため、そして女優のプライドを懸け、その完璧な演技力で『真のヒロイン』に成り変わる物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...