俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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104.一夜の物語の終焉……

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「え? ジングルと同郷なの?」

 ジングルっつったら、『ドラゴンの谷』で合流した不良っぽいやつだろ? ……あ、そうか。言われてみればそういうことになるのか。色々あってあえて確かめなかったけど、あいつもキルフェコルトの密偵みたいなものなんだよな。
 つまりこのメイトと同郷……というか、所属が一緒ってことになるのかね。あいつもメイトもたぶん密偵だろ。護衛を兼ねた。

 ま、日本で言うところNIN-JA的なもんだな。

 しかしジングルなぁ……
 なんか「隠れんぼ中に勝手に帰っちゃった」的な唐突な別れ以来会ってないんだよな。ちょっと気まずいよな……気にしてなければいいけど。

「そうだよ。あたしたちの周りではお嬢様は注目の的なんだよー」

 ……うーん……俺が気づいてないだけで、結構いろんな奴に見張られてたりするのかもな。パパも俺の動向は知ってたわけだし、王家やキルフェコルトに限らず、様々な組織が潜伏してたりするのかもしれない。

 ――なんて話をのんびりしながら、堂々と帰途に着いていた。思えば帰郷してからメイトと話す間がまるでなかったし、そもそも姿を見かけることも……あ、それはあったな。

「あまりヘザー婦人を怒らせないでね。もう歳なんだから。倒れるわよ」

 ヘザー婦人というのは、フロントフロン家のメイド長だ。パパが生まれるより前からフロントフロン家にいたっつー超古株だ。一度結婚して現役を退き、息子だか娘だかが独り立ちして旦那に先立たれて、身寄りがなくなってからまた再就職してきたらしい。うちでパパに意見できる数少ない人物だ。
 メイドとしてもメイド長としても優秀な人で、そして厳しい人だ。

 古くて、厳しくて、メイド衆をきっちりまとめ上げる人。

 ……だからだろうなぁ。この普通の子供にしか見えないメイトはガンガンに叱られているようだ。たまーに怒鳴り声とか聞こえるからな。

「大丈夫だよ。あのおばあちゃん、会った時より毎日楽しそうだから」

 どういう理屈だよ。……まあ人怒るのでストレス解消できる人もいるのかもしれんが。

「あの人、王都に教育係として出したら? フロントフロン家ってもう優秀なメイドしかいないから、あんまりやることないみたいだし。今のとこあたしの教育が楽しいみたいだし」

 ……え? そういう視点? 叱られてる奴がまさかのスカウト目線?

「そうね……一応お父様に言っておくわ」

 ヘッドハンディングなのはわかっているが、フロントフロン家のメイドが優秀なのは確かだからな。ま、ヘザー婦人の意志で決めればいいだろう。

 あとは坂を登るだけ――その直前で、メイトは立ち止まった。

「それじゃ、あたしは別ルートで帰るから」
「そう。ご苦労さま」
「ほんとだよ。夜くらい大人しく寝ててよね」

 はっはっはっ。監視役も大変だ。

「――ところでさ、さっきははぐらかされたけど、どうするの?」

 ん? うーん……

「わからない」

 はぐらかしたつもりはないんだがな。
 自分でもどうしたらいいかわからないし、今も答えは出ていない。

 だからさっきも答えられなかったし、今も答えられないだけで。

「そっか。なんつーかさー、色々なものに板挟みになってさー、どっちにも……いや、いいや。お嬢様ならいい答え出せそうだから」

 プレッシャーかけんなよ。俺はどこまでもただの普通の高校生なんだからな。




 出る時も使用した抜け道から門と塀を超え、素早く自室の下に向かう。――と、はらりとロープが降りてきた。ロープに飛びつき、飛びつく勢いで壁を上り、ベランダに手をかけてよじ登る。

「お嬢様、ご無事で」

 明かりのない室内には、すでにキーナとダリアベリーが帰還していた。まあたぶん、坂を登る俺を確認してから一足先に部屋で待っていたんだと思うが。下手に門付近にいるとうちの門番に見つかっちまうからな。

「遅かったですね。何かあったのですか?」

 と、俺のマントを剥ぎ取るキーナ。

 色々悩んで、やっぱりまだ答えは出ないが……しかし、タイミング的には今言うのが正しいのだろうと思う。
 というか、今言わないと、余計に厄介なことになるかもしれないからな。

「ダリア。説明してくれる?」

 彼女が。

「はい? 何をですか?」

 そうか。しらばっくれるのか。

「まあそれでもいいわ。でもこれだけは答えなさい。――脅迫されているの? それとも自分の意志? 答えないなら今夜の一件、お父様に言わざるを得ないわよ」
「………」

 動揺は……ない、か。
 俺が見抜くことを予想していたのか、それとも動揺を表に出していないだけか。

「お嬢様? どういう……?」
「わからないなら黙ってなさい」

 キーナも共犯という線も考えたが……いや、やはりセントン家の者がフロントフロン家を裏切ることはないか。フロントフロン家とセントン家には、俺やアクロディリアには計り知れない歴史と絆があるんだろう。

 まあそれはいい。

 今夜のことは、色々とひっかかることが多かった。
 特におかしいのは、やはり病院から帰る途中、自警団の待ち伏せに遭ったことだ。ダリアベリーが自警団の気配を読み損ねたことはまだいいが、対処法がな。

 護衛が護衛対象を一人にするような案を提示するか?
 それも「戦闘訓練さえ受けていない貴族のお嬢様」を、夜中に置き去りにするか? 俺が色々がんばって身につけていることを知らないのによ。
 どんな不足の事態が起こるかわからないんだぞ。それこそ酔っ払いに絡まれるとか、マジで予想できない事件が起こったりするかもしれないんだぞ。
 それだったら俺が出した「素直に身分を明かす」がもっとも安全な策だったはずだ。

 ――で、実際事件に巻き込まれたしよ。まあそれがダリアベリーの目的だったんだろうけどよ。

「……どこで気づいたのですか?」
「あなたが私を孤立させる案を出した時よ。どう考えてもわたしが言った方法が安全だったから」
「では、なぜ反対をしなかったのですか?」
「キーナがどちらの立場にいるかわからなかったから」

 この様子だと、やっぱり何も知らなかったみたいだが。

わたしの安全・・・・・・は保障されていたでしょ? だってわたしの身柄が目的なんだから。でもキーナは? それを考えると選択肢なんてなかったわ」

 あの時、もしキーナ以外が全員グルだとしたらどうなっていた? 自警団と名乗った男女二人、そしてダリアベリー。三人が一度に襲い掛かってきたらキーナだけじゃどうしようもなかっただろう。

 そう考えると、ダリアベリーの提案を素直に飲み、何も知らないキーナの安全を確保するしかなかった。
 最悪殺されるんじゃないかと思ったからな。
 俺だけが目的ならキーナに用はない。むしろ下手に放置したら必ずフロントフロン家に知られてしまう。だから口封じに……ってな。

「で? わたしの質問には答えないの?」

 脅迫だったら次がある。
 またダリアベリーは俺をハメるために何かしら仕掛けるだろう。

 自発的な行動なら……まあ、頭下げてお願いするしかないんじゃないですかね! むしろ最初からそうしてほしかったわ! 無駄にはらはらさせやがって!

「……まあいいわ。仲間と相談して決めなさい。一日だけ待ってあげるから」

 ――ここで「じじい完治してないけどねー」と教えないのが、俺なりのリベンジだ!







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