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106.二度目の邂逅は唐突に……
しおりを挟むベッドに服を並べて、下着姿で腕を組む。
「うーん……やっぱまずいよなぁ」
身内だけならまだしも、客が来てるとなるとなぁ……ここはドレス一択か……?
いや、でも、そこまで畏まる必要はあるのか? 自宅でダンスパーティー行けるくらいめかしこむとかおかしくないか? 自宅だぞ? そしてただの昼食だぞ?
……いや、わかってる。わかってるんだ。
悩むくらいなら、ここはドレスだ。視察ってことは公務で来るんだろ? だったらこちらも正装で迎えるべきだろうからな。パパが言っていた「準備しろ」ってのは「正装しろ」って意味だしな。
ドレス、かぁ……
……コルセットかぁ……
あの苦しみを再び味わうことになるのか……
憂鬱にはなるが、悩む余地さえない。だって他の道がないから。それしかないのだから。
もう視察員は到着しているらしいし、俺も早く行かないと――
「お嬢様、そろそろ……」
控えめなノックと、控えめなキーナの声。ちょうどいいところに来た。
「入って」
やるしかない。パパに怒られる前に行かないとまずい。
覚悟を決めて、コルセットを絞めてもらおう。
が、実際は拍子抜けした。
「お嬢様、痩せましたね」
うん……みんなが言う通り、本当に痩せて見えてたらしい。物証が出て初めて実感が湧いてきた。
コルセットを絞める必要がなかったのだ。
グイグイに締め付けなくてもドレスが入るから。少し余裕さえあるほどに。
「ドレスの直しが必要みたいですね」
「やめて」
「え?」
「そのままでいいから。やめて」
恐ろしいことを平気で言いやがって……サイズを変えるなっつーの。なんでコルセット縛りに併せて服直すんだよ。これ絶対内臓に悪いぞ。長生きできない文化だぞ。油断してたら絞める段階でアバラ折れるぞ。
いくらオシャレは我慢だって説があるからって、過度の無理はダメだろ。世の女性が大変だってことはわかったから勘弁してくれ。
「ところで、誰が来ているの?」
一家が揃っている時に来たい、っていう要望で急遽決まったらしいからな。だとしたら一家全員が知っている人が来てる可能性が高いと思うんだが。
「六人ほど来ていますよ。――まあメインはリナティス様のようですが」
リナ、ティス?
……あっ! リナティスか!
「クレイオルの婚約者よね」
そうそう、フロントフロン家の後継が弟だと決まった直後に、早々に弟の婚約者も決まったのだ。貴族界隈では別に珍しい話じゃないからな。むしろこの歳まで婚約者がいないアクロディリアの方が珍しいんだよな。
で、リナティスは、フルネームで言うとリナティス・タットファウス。この国の第三王女になる。確か弟と同い年だな。まあお姫様と言える存在だよな。王女だし。……え!? お姫様来てんの!? ガチの姫!? オタサー系の姫じゃないリアル姫!? リアルガチ姫!?
やべえテンション上がるな! え、弟の婚約者? じゃあ俺の妹的なことになるの? おいおいマジかよ……
「何をしているの」
「は?」
「早く行くわよ!」
服選んでる場合じゃなかった! 片付けとかいいから早く行くんだよ!
「あ、お姉様。お久しぶりです」
いたー! リアルガチのマジ姫がいたー! うおおおおたぎってきたーーーー!
この鈴を転がすような声、ふわっふわの綿菓子のような亜麻色の髪に、純度の高い大粒のエメラルドのような緑の瞳。汚れなき白いドレス……背格好は小さいが、女の子らしくて非常にいいと思う。どこからどう見てもお姫様お姫様した美少女である。
しかも俺のことお姉様って呼んだし! ……まあ俺はお兄様と呼ばれたいんだけどね。本当は。
「ごきげんよう、リナティス様」
内心のテンションなど微塵も見せず、辺境伯令嬢として恥じない優雅さで挨拶を返す。
視察団はすでに屋敷に上がり、食堂に案内されていた。ここで少しお茶を飲んで、それから昼食になる流れのようだ。ちなみに天気がいいので食事は庭で食べるらしい。
来たのは六人で、内三人は護衛らしい。視察員や姫の後ろに立っている。……品のいい私服でまとめてあるのは、格好で身分を悟らせないためだろう。兵士や騎士丸出しの格好だと誰もが身構えちゃうからな。
「ご無沙汰しておりました、お姉様。もしやお痩せになりました?」
「少しだけ」
さすがに実感してしまったので、もう認めることにする。はいはい痩せましたよ。
えーっと……前に会ったのは、去年末の冬休みの時だな。王都でパーティがあってそこで会ってる。
ちなみに、あくまでもリナティスは弟の客人ということで、アクロディリアはあまり関わろうとしなかったらしい。この辺は弟の顔を立てる意味も含めていたようだ。この女身内には気を遣うんだよなぁ。……一応家族は大切にしてたみたいだぞ。ほかはまったくだがな!
「リナ、庭を歩こう。見せたいものがあるんだ」
「はい、クレイオル様」
おい弟……おまえ今おねえちゃん話してるだろ。このタイミングで誘うとか何なの? ……行けよ早く! お姫様連れてデートとか行けよ!
一瞬いやがらせかと思ったが、弟もお姫様も完全に恋する二人の顔してたからな……発する言葉が見つからなかったよ。二人共見向きもせずに行っちゃったし。
…………
貴族で恋愛結婚は珍しいが、弟とお姫様は、数少ない事例に入るようだ。まあ仲良くやってくれればいいんじゃないですかね! 弟の性格に難があるのを除けば美男美女で問題ないと思うよ!
やれやれと自分の席に着こうとして――ふと顔を上げた。
お姫様が行ってしまって、席に着いている客は二人だけだ。
片方はおっさんである。視察に来るたびに会う、よく見る顔だ。爵位とかは持っていないのでアクロディリア的にはまるでどうでもいい調査員である。
そして、もう一人。こいつに引っかかった。
白いシャツにベスト、ズボンと、品の良い貴族らしい格好をして、そして俺が学校で愛用していたような黒縁メガネを掛けていた。
しかし、それでも、よく見れば誰もが無視できないような線の細いイケメン男子だ。少し長めでところどころ跳ねている金髪と、アクロディリアに負けないほど白い肌。そして感情が見えない藍色の瞳。
彼は無表情で俺の視線を受け止め、また俺を見ていた。
……こいつ、会ったことある……よな? 俺の記憶違いじゃないよな?
「もしかして、あの夜の?」
学校で行われたダンスパーティの夜、月明かりの下で会った、覗き仲間のJ系アイドルじゃね?
「憶えていてくれたか。光栄だ」
と、J系はメガネを外した。あーそうそう、この顔だ。前は暗がりで会ったから、今と若干印象が違うものの、間違いなくあの夜会ったアイドル系男子だ。
……そっか。国営の学校に部外者として潜り込めるくらいだから、恐らく王国の関係者か我侭が通せる貴族だとは思っていたが……
ここにいるってことは、王国の関係者ってわけだ。
「そうか。アクロはすでに会っていたのか」
俺とJ系が知り合いらしいと見て、パパが口を開いた。
「その前に会ったのは、おまえが七つになる前だ。さすがに記憶にあるまい」
え? あの夜の前に会ってたの?
「――彼はウルフィテリア・タットファウス。ダットファウス王国の第二王子だ」
…………え?
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