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112.白い衣と麦わら帽子……
しおりを挟む「外出の準備をします。後ほど」
昼食を済ませ談笑も程々に、俺は第二王子を残してテーブルを立った。
「ダリアを呼んで」
手近なメイドにダリアベリーを部屋に呼ぶよう言っておいて、俺は先に部屋に戻る。
「……あ」
そういや聞かなかったな。どんな格好で同行すればいいか。公務……本当に各施設を視察するならばこのままドレスがいいんだろうけど、忍びで見て回りたいなら俺も街に紛れるアクティブな格好がいいだろうし。
……うん、さすがにこの格好で行くことを希望はしないだろ。目立ちすぎるというか、場違い感がすげえからな。あいつのアンティークなベスト姿は普通にそのままで行けると思うが、どうしてドレスってのはこう、面倒で動きづらくて目立つんだろうな……
まあ、どうしてかって言えば、貴族の女性らしさに活発なアクティブさはいらないからだろうな。動きやすい格好で何すんだって話だからな。
格好か……ズボン系は避けた方が無難だろうか……一応ウルフィテリアの隣にいて恥ずかしくない格好はしないといけないだろうし……
…………
「初デートの女子か!」
ビビッたわ! なんで男のために着る服悩んでるの俺!? あれは相応しいこれは相応しくないとか! 初戦闘前から戦闘は始まってる女子か!
くだらねえ! もうこれでいいや!
「――お嬢様」
ドレスを投げ捨てて適当に服を引っ掴んだところで、ダリアベリーがやってきた。
「お出かけですか?」
投げ捨てたドレスを拾いながら歩み寄ってくる。
「ええ。お客様を連れて街に出る……ん? 何?」
ダリアベリーの目が、じっと、俺の……じゃないけど、とにかく身体を見ていた。おいおいなんだよ。下着姿だぞ。エッチ。
「お嬢様、何かされてますよね?」
「え? されてる?」
「筋肉の付き方。それは自然に身につくものではありません」
……ああ、このうっすら割れた腹筋などか。
「ダイエットの成果よ」
「はあ。随分激しい運動をしているようですね」
俺の返事に納得はしてないようだが、これ以上聞く気はないようだ。
「話を戻すわよ。街に出るから案内して」
服を着ながら言うと、ダリアベリーは目を丸くして止まっていた。おい……まさかピンと来てないわけじゃないよな?
「……あんまり多く語る気はないけど、意味はわかるわよね?」
「あ、やはり、そういう意味でいいんですね?」
そう、「あなたが助けたいあの老人の元に案内しろ」と言っているのだ。
そりゃそうだろ、と言いたいところだが、俺の外出の目的は第二王子の視察の付き合いだからな。まあどうやってでも時間を捻出するつもりだし、きっと第二王子も反対はしないだろ。少なくとも表向きは。
あと必要以上にゴタゴタに巻き込みそうな気がするので、今回キーナは連れて行かない。例の冒険者サイドと話し合って、諸々決まってからまた協力してもらおうと思う。
「うちの者に頼まれたもの。利害も一致しているし、協力しない理由がないわ」
「本当に、本当に助けてくれるんですか?」
「もう泣かないでよ。泣いたら置いていくから」
困るんだよ。泣かれたら。どうすることもできないし。
ダリアベリーにも私服に着替えるように伝え、俺は一足先に玄関で二人を待つことにした。
「……お嬢、様?」
お? おう、ジュラルクか。
ちょうど通りすがった第二執事ジュラルクは、いつも笑みを浮かべているように見える細い目を少し見開いていた。ちょっと驚いている、のか?
「…? どうしたの?」
俺があの微妙な表情の原因だろう。なんだ? なんかおかしなところでもあるのか?
「いえ……その格好でお出かけを?」
あ、やっぱりおかしいか!
「まずいかしら? どこかおかしい?」
俺からすれば全然おかしなところなどないと思うし、
「そういうことではないのですが……」
「どうした?」
おう、ジュラルクパパか。ハウルまで来やがった。そのハウルは、俺を見て……なんか頷いた。
「ほう……」
え、何その反応……おまえらなんなの? 俺の不安を煽りたいの?
「何をしている」
うわ、今度はアクロパパが。野郎どもが集まってきやがった。
「む……」
パパも俺を見て、なんか難しい顔をした。
「アクロ。…………」
え、何?
「なんですか?」
何か言いかけて、すげー悩んでるってのはわかる。言うべきか言わざるべきか、みたいな、そんな感じなのはわかる。
なんなんだよこの男たちは。言えよ。言いたことがあるなら。何並んで見てんだよ。見世物じゃねえぞ。
「はっきりおっしゃって。この格好か、わたしのどこかがおかしいの? 市井で恥を掻くのは嫌だわ、今言ってちょうだい」
「――逆だ。おかしなところがなさすぎると言いたいのだ」
あ、第四の男であるウルフィテリアまで来やがった。
「白いワンピースか。貴女にはとてもよく似合う」
適当に選んだだけですけどね! 手近にあった楽な服をさ!
「あなたのために選んだわけじゃないですから。勘違いしないでくださいね?」
「そうか。それは残念」
言葉とは裏腹に決して残念そうな顔をすることもなく、無表情かつ無感情でウルフィテリアは肩をすくめた。
「……で? あなたたちは何が言いたいの?」
言葉を失ったパパと執事親子を見れば、パパはそそくさと去り、ハウルは「ますます磨きが掛かりましたな」とこぼしパパを追い、ジュラルクは「少々お待ちを」と言い残してこの場を去り――すぐ戻ってきた。
「昔の奥様を見ているようです。きっとヘイヴン様も同じことを考えたのでしょう」
と、持ってきた麦わら帽子を差し出す。
「奥様からお借りしてきました。今日は日差しも強いので、これを」
気が利くな。さすがフロントフロン家の執事だ。
「ありがとう」
麦わら帽子なんてこの世界にもあるんだなー。
――それからすぐにやってきたダリアベリーを連れて、俺たちは街へ向かう。
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