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111.大事なことは昼食の後で……
しおりを挟むとりあえず、話が済んだのでダリアベリーは一旦帰した。メイドとしての通常業務に。
「貴女は甘い」
彼女を見送り、背中が見えなくなったところで、王子ははっきりと俺を非難した。うっさい。言われなくても知っとるわい。
「これはこれでわたしには都合がいいのよ」
俺の対処が甘いのは認めるが、都合がいいのも本当のことだ。ここでダリアベリーに罰を与えるのは簡単だが、そうするとどうしても「今後はダリアベリーを外す」という罰しか考えられないからな。これまでにやってきた病気泥棒の経験が無駄になるし、また協力者を探すところから始めないといけなくなる。
な? だから都合がいいんだよ。
これまでのメンバーでこれまでのやり方を続行できて、かつダリアベリーを外す必要がない。まあ保留にしてあるので、追々何か罰的なものを与えないといけないけどな。
更に、ダリアベリーの仲間だった連中も、話の進め方次第では味方として機能させられる。たとえば夜回りの兵士や自警団の警戒とかさせられるだろうしな。
ってなことを説明……するまでもなくわかってるんだろうなぁ、こいつは。
「そもそも今の話で理解できた?」
「大まかには」
ウルフィテリアはつらつらと、昨夜何があったのか推測したことを述べた。無論というか当たり前というか、ほぼドンピシャである。
唯一違う点は、今ダリアベリーと話した中に、キーナの名前が出なかったことだ。「自警団と女」というキーワードから三人体制で行動していたことまでは読んで見せたが、あと一人が誰なのかまではわからなかったようだ。
「恐らく、先程のようなフロントフロン家の誰かだと思うが。もしやあの執事か?」
執事ではないが……でもここまで読めれば大したもんだわ。
「さすが次期国王というか、恐ろしいまでの切れ者っぷりね」
「まだ正式に決まってない。滅多なことは言わない方がいい」
あれ?
「決まってないの?」
確かアニキは、「俺かウルフィ、どっちが次期国王になるかの判断は弟に任せてるー」みたいなことを言っていたはずだ。
なんつーか、そんな話が出る時点で、もうウルフィテリアで決定しているものだとばかり思っていたが。
「決まってない。民意を考えれば長兄が継ぐのが自然だし、受け入れやすいだろう。それを思うと容易に判断はできない」
民意か。そうね、確かに一番上のお兄ちゃんが家を継ぐーってのは、わかりやすい話だからな。
「あなたもやっぱり、キルフェコルト殿下に継いでほしいと思っているの?」
「わからない」
お、はっきりしない答え来た。
「何より重要なのは、民のために尽くせる存在になること。タットファウス一族が最初に学び、常に問われる家訓だ。
民のためになるなら、誰が王でも構わない。私も兄も気持ちは同じだ」
へえ……タットファウス一族って、いわゆるこの国の王族だろ? うーん……そりゃあんな第一王子も育ちそうだわな。あの人俺様俺様してるけど、面倒見はすげーよかったからな。偉そうではあるけど王族や貴族の気取ったそれとは大違いだったし。「王子だからじゃねえ、俺だから偉い!」みたいな奴だったし。
「だからこそ困っていることもあるが……それはアクロディリア嬢にはまだ関係ないな」
そりゃそうだろ。王族と俺になんの関係が……え? まだ?
「まだ関係ないってどういう意味? これから関係するって意味?」
「私にはわからない。貴女が決めることだからな」
え、何その意味深な言い回し。
「はっきり言ってくれる?」
「私は大事なことは決まるまで言わない主義だ。不確定な段階で口にするべきではない」
じゃあ最初から言うなよ! 何出し惜しんでんだよ! 苦手だわーこいつ!
そんなこんなで、話をしていたらあっという間に昼食時間である。
「白を」
日差しを遮るテントのようなものの下、俺たちはテーブルを囲んだ。ママは早速ワインを開けるつもりで、給仕で慌ただしいメイドを呼び止めていた。
「そちらもどうぞ」
客にも進めるが、いつもの視察員だけもらうようだ。お姫様は完全アウトだが、第二王子はギリギリで飲めるはずだが断った。
なお、昼食にワインは貴族にとっては一般的なものらしい。あくまでも度を過ぎなければ。飲みすぎはさすがに論外だ。
急遽決まった客人のために振舞われたメニューは、ビーフシチュー的なものだ。肉は入っているが牛肉じゃない。……一角鹿っぽいけど、違う気がする。ちょっとわからんが、とにかくうまい。
「これこれ。これがいつも楽しみなのです」
いつもの調査員の好物らしい。うまいよね。これはいいわ。
「ヘイヴン卿、午後は街を見せていただこうかと思っているのだが」
と、第二王子がパパに声を掛けた。え? 王子どっか行くの?
「ご随意に。――アクロ、案内してさしあげなさい」
まあそうなると思ったよ。すげー普通にこっちに話が回ってきたな。
――まあこれも好都合なんだが。
午後はなんとか抜け出して、昨晩のじいさんの様子を見に行くつもりだったからな。もう事情を知っているウルフィテリアなら同行はしても止めはしないだろう。
「まあ。これは確かにおいしいわ。なんのお肉かしら? とても柔らかい」
お姫様もビーフシチュー的なものを気に入ったようである。優雅な食べっぷりだなぁ。
「三ツ目ウサギのあばら肉だよ。骨から切り落として薄くして、さっと湯通ししてから煮込むんだ」
お、おい弟。おまえグルメか? おねえちゃんそういうの全然知らないぞ。
……俺も少し、こっちの世界の食いもんとか知っといた方がいいかもなぁ。
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