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120.キャッツ改め天使プロジェクト始動……
しおりを挟むアクロディリアが使用できる魔法は、かなり限られている。
ゲームではレベルが上がったりステータスが規定値に達したら増えたのだが、現実ではそういうわけにもいかない。どこかで詠唱なりなんなりで魔法を覚える必要がある。
だが、光属性持ちの人が少ないせいで、気軽に覚えられる魔法というのが極端に少ないのだ。あのじいさんじゃないが、あまりに人数が少なく、また『天龍の息吹』関係で更に人数を減らしたせいで、後世に伝える前に歴史に埋もれてきたのだろう。
そもそも使用できる人が少なく、それゆえに需要も少ない。
そんな背景があるせいだろう、本当に、必死で探さなければ新魔法を習得できないっつーくらいには、習得が難しくなっている。
一応、光魔法関係は、光の女神を信奉する「教会」って組織が色々押さえているようなので、どうしても覚えたいならそこに行くしかない。
ただし、魔法を習得する代わりに、信者になり多額の寄付金が必要とされる、らしい。
こっちの世界ではそんなに悪い組織ではないって認識である。街の人の半数くらいが正式な信者ではないが普通に信奉している、くらいには。フロントフロン家もそんな感じだと思う。……街の教会にはいくらか寄付してるみたいだが。
俺は、宗教って聞くと、どうしても胡散臭さが先に立っちゃうからな……あんまり近寄りたくはないな。
……話が逸れたな。戻そう。
アクロディリアが使用できる魔法は、五つだ。
『照明』
『光の癒し』
『浄化の光』
『消毒の光』
そして、『天龍の息吹』。
『浄化の光』はアンデッド系にダメージを与えるという局所的な使い方しかできない魔法だ。『光の癒し』で補えるけど。
『消毒の光』はその名の通りの毒消し……今となっては『天龍の息吹』で事足りるけど。
こうして考えてみると、本当に光属性ってのは極端だよな。使い手が少ない上に、使えたところでつぶしが利かないっつーか、他属性の魔法で充分っつーか。使えたところで冒険なんかにはまるで向いてないしな。攻撃魔法の一つでもあれば全然違うはずなんだがな……
いや、まあいい。無いものねだりをしたって始まらない。
それに――俺は早々に、あの魔法とあの魔法が秘めた可能性に気づくことができた。
それがあってこその「天使なりすまし作戦」だ。
これは切り札になる。
そう確信してから、レンにも秘密で磨き続けてきた。いざという時の俺の切り札だ、正直誰にも見せたくないし知らせたくもない。
だから、詳しい話はできない。
「――任せろとしか言いようがないわね」
根本的な問題――「どうやって天使になりすますのか?」と問われれば、俺が話せることはない。
昨日別れた時は、もしかしたらもう会わないかも……」とも思ったのだが、結局再びあのじいさんと同じテーブルに着いている。
ちなみに完全回復しているので、今日は喫茶店で会っていた。オープンテラス的なところで、日傘の下で。更に言うと隣のテーブルにはダリアベリーと、じいさんの付き人らしきあの大男が座っている。
なお、今日は視察帰りではないので、午前中である。……このあと別の場所で待っている第二王子と合流し、王子の親族への土産探しにいくんだけどな。完全にデートみたいでちょっと気が滅入った。
「ふむ……まああんたの頼みなら、俺ぁ断る気もねえけどよ。話自体も面白そうだしよ」
肝心の俺の行動は話せない。だがそれでもじいさんはすんなり話を飲んだ。
「ただ、仕込みは要るぜ?」
仕込みか。
「大まかには決まっているけれど、細かくは決めていないの。よかったらわたしと一緒に考えてくれる?」
「是非もねえな。街中騙すような悪戯ってのも面白え」
ああそうかい。そりゃよかった。……こう軽く頷かれると違和感すげーんだけどな。ちょっとはシンキングタイム的な間を入れてくれよー。
「こういうのは段階を踏まえないと、狙った結論に行けねぇのよ。現に、最近病気を治す不審者が出てるって噂は広まってるけどな。ははっ、あんた不審者だぜ? やってることは立派でも怪しんでる奴の方がはるかに多いみたいだぜ」
おい! 誰が不審者だ! ……ま、あんな仮面付けて黒ずくめで行動してりゃ、そりゃ不審者にしか見えないだろうけどな。好意的な方が逆に怖いわ。
「いきなり『天使が現れました』じゃ、周りは受け入れづらい。少しずつ『天使がいるんじゃないか』って噂を拡散させていくんだ。不審者から天使に少しずつ事実をずらす。そして期待を集めるだけ集めておいてから見せつける。
あんたが見せつけたい終焉ってのを演出するなら、これがもっともインパクトがある方法だと思うぜ」
へえ……そういう風にやるのか。
いや、そうか。いきなり真実を突きつけるよりは、「この中に犯人がいる!」とか煽っておいてから突きつけた方が、受け入れ準備ができてる分だけストレートに届く気がする。
そうか、期待をさせるのか。
「天使が存在するかも」と。
「そのためには、多少露出してもらった方がやりやすいぜ。仕込む時間があるならまだしも、あと数日でこの街から去るんだろ?」
そう、俺の帰郷は二週間。あと少ししかない。多少の融通も利くが……でも予定通りの行動ってのも貴族に課せられるものらしいからな。今のところ予定日を動かす予定はない。
「多少の露出……」
というと、つまり、「俺天使」をいろんな奴らにチラ見させとけと。そういうことか。
「協力者は、あんたを連れてきたあいつらくらいしか頼む気はねえからよ。人数が限られる分だけどうしても時間は掛かる。
そこで物証……つまり『本物らしき天使』を不特定の連中に見せつけて、そこからも噂を発信させる。この方法なら数日ありゃ充分だぜ」
……なるほどな。うん。
「それでいいわ。今夜から始めましょう。今夜、また病院に侵入しようと思っているの。その帰り際に『見せて』いくから」
「わかった。今日の病院はどこだ?」
――こうして細かい打ち合わせをして別れた。
ちなみに、じいさんの名前はクリフ・クラウ。かつて大陸一と言われた冒険者ギルドの一員だったそうだ。
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