俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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119.これより先のフラグは未定で……

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「――よし、と」

 視察から帰り、早速土産を揃えて手紙を書いた。あとはシェフのおっさんの焼き菓子ができたら送るだけである。

「できたか?」

 自室にはあと数日で帰るという第二王子と、キーナとダリアベリーがいる。俺が呼んで同じテーブルに着いてもらっている。
 もちろん、今更これがただのお嬢様の気まぐれではない、というのがわかっているのだろう三人は、特に異を唱えることもなく紅茶を飲んで適当に話をしていた。
 当然ながら、気まぐれでも思いつきでもない。

「ええ」

 これでとりあえず、俺の用事は一つ終わったと。
 内容はほぼ同じながら、三通の手紙に封をし、脇に置く。……思えばこの手紙が、漠然としていた俺の思考に決断を下したのだ。三馬鹿のくせに偶然ながら役に立ちやがって。超感謝!

 ――さて。それじゃ本題に入ろうか。

「ウルフィテリア様、確認していい?」
「何をだ?」

 身構えているのか、それとも相手が改まっていても普段と同じなのか。平然としている驚異のポーカーフェイス王子に、俺は言い放った。

「――わたしの身代わりになってくれる?」




 俺は、どうしても、どうあっても、学校に戻らなければならない。ずっとこの街で病気を癒し続けるってわけにはいかない。先のことはわからないが、少なくとも今年いっぱいは無理だ。
 だから、どこかできちんと幕引きをしておかねばならないと考えた。

 病気泥棒の終わり。終焉。
 それはどうしても回収しなければいけないフラグだと俺は思う。

「いつか自分の元にも来るかもしれない」という、誰かが抱いている可能性がある期待を打ち切るためであり、宛てにできない存在に頼らず病気に立ち向かってもらうために。
 ……そういう期待だのなんだのを背負いたくないから、礼も何もいらない自分勝手に……なんてスタンスを保っていたつもりだが、何もしないまま打ち切るのはやはり無責任だと思うからな。

 だが、この病気泥棒の終焉には、実は利点が二つある。

 一つは、人智を超えた存在であることをほのめかすため。
 もう一つは、人智を超えた存在であるからこそ、今後も病気泥棒を続けられること。

 簡単に言うと、こういうことだ。

「わたしは天使になる」

 正確には、「天使に見せかけた姿で目撃者を騙し、一連の病気泥棒の犯人に仕立て上げる」わけだ。
 そして、そんな存在がいることを植え付けられれば、今後世界中に天使が出現しても、決して不自然な存在ではなくなる。

 『天龍の息吹エンジェルブレス』は使用するシーンやタイミングが非常に難しい魔法だ。だが人智を超えた存在に見せかけられれば、今後も行使することができる。
 それも、遠慮することも憚ることもなく、な。

 心底思ったからな。
 アクロママといい弟といいじいさんといい、苦しむ人を助けられる魔法なんだ。これを出し惜しみする理由が俺には思いつかない。

「シナリオは簡単よ。――『天使に見せかけたわたし』を街中に晒して、夜空にこつぜんと消える。これで『この街から天使が去った』と印象づけるの」

 やることと言えば、本当にそれだけだ。あとは裏工作が少々必要になるだろう。
 天使を見つける役、騒ぐ役、目撃者は街中……ん?

「…………」
「…………」

 お、おう……ふと我に返れば、メイド二人が「こいつマジで何言ってんの?」と言いたげに、もはや心配げに見てやがるぜ……んな顔すんな! 俺は正気だ!

「面白い」

 だが、唯一の男子であるウルフィテリアは、俺の言いたいことがちゃんと伝わったようだ。

「それで、貴女は今後『天使』として、世界中を駆けるのだな?」
「できればね」

 転送魔法陣を使えば、一瞬にしてタットファウス大陸どころか、友好関係や同盟関係にある国に行ける。
 昼は学校、夜は天使。
 ……正直なんか一昔前の漫画かアニメみたいだな。昼はただの高校生だが夜は……みたいな。

 だが、これがもっとも『天龍の息吹エンジェルブレス』を問題なく使用する、唯一の方法のように思えるのだ。

 時々が天使が現れて、病に苦しむ人を自分勝手に助ける。
 せっかくのファンタジー世界なんだ、こんな奴がいたって大して不思議でもないだろ。超巨大なドラゴンだって存在するんだからな。

「そうか。面白いな。できれば誰も利を得ない、政治的要素を含まない、ただただ善意のみの崇高な行動であってほしいものだ」

 それは……難しいかなぁ。

「無理よ。わたしの勝手にやるだけだから。むしろただの気まぐれでしかないわね」
「そういう意味ではないのだが……貴女には関係ないか」

 王子は小さく息を吐き、夕陽が差し込む窓を見た。

「……そうだな。貴女は何も気にせず、頓着もせず、ただただ我侭に周囲を振り回す。それでいいのだろう」

 ちょっと何言ってるかわかんないけど、まあ、納得してくれたならそれでいいや。




 俺が言いたいことを一から親切丁寧に説明する王子に、メイドたちは色めきだった。

「そんなこと……」
「世界中の病を……」

 キーナたただただ驚いているようだ。
 ダリアベリーは……おう、その不意に酸っぱいものでも食ったかのような微妙な顔は「このお嬢様が? マジでそんなことを考えてるの?」と若干疑惑を抱いてるな。ダリアベリーはまだアクロディリアおれのこと信用してないみたいだな。……じいさん治しただろ! …………別に信用されてなくてもいいけど!

「ダリア、裏工作についてはあの人に相談したいの。会う約束を取り付けてくれる?」
「あの人……ああ、あの人ですか」

 そう、じいさんだ。……そろそろ名前を聞いた方が良さそうだな。

「わかりました。お嬢様が望むならあの人も応えてくれるでしょう」

 うん。俺が思ってた以上に恩を感じてるみたいだからな。義理堅いっつーか……ま、義理堅く人情に厚くなければあそこまで慕われないか。

「ただ、そこまで大きなことをするなら、お嬢様の口から旦那様に伝えるべきだと思います」

 ああ……そうか。そうね。さすがにアクロパパに黙ってやるには、やることが大きすぎる。

 ただ、それは先の話だ。

「まず幕引きからよ。世界でどうのこうのは、これからやる『天使出現』をクリアしてからになるわ。お父様が許さなければ、『天使』は二度と現れない。それだけの話よ」

 これをやらないと、俺は学校に戻れないからな。けじめだけは付けて行きたい。





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