俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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153.黒馬の王子を待ちわびて……

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「百枚か……」

 十枚ずつまとめた小さな金貨の山。
 誰の目にも明らかにわかるようにして、ジングルは深い溜息を吐いた。

 積もっていたテーブルの埃を払い、俗物三人掛かりで金貨の枚数を確認してみたのだ。聖人の前で。

「旧金貨なんて一度に見つかっても一、二枚、多くて十数枚前後です。この枚数は……」

 レンもやや緊張気味な声だ。見た目はまったく動じていないが。

「まずいの?」

 金額がヤバイってことはわかっているが、逆に言えばそれ以外のことが俺にはよくわからないのだが。特にジングルの気が重いって感じはなんだろう。

「お嬢様は政には興味ねえんだな」

 ん? まつりごと?

「これがただの宝だったら別に良かったんだ。宝石とか金塊とかな。ただこれはちょっと扱いが変わってくるんだよ」

 さっぱりわからん。

「簡単に言えば、これは『歴史的発見』なんですよ」

 あ、わかった。

「名声も手に入る、ということね?」

 そう、これは見方を変えれば「宝探し」という名の、埋もれた歴史の発掘作業だ。
 五百年前の通貨、五百年前の聖ガタン教の聖人の遺体、そして五百年前から形を留めて現存しているこの部屋。

 歴史家や探検家、調査団にとっては間違いなく、歴史に名を刻むような大発見だろう。

 特に聖ガタン教にとっては……まあ、悪い言い方をすれば、埋もれていた都合の好い伝承が発掘されたことになる。
 聖人シャイアがやったことは自己犠牲の偉業だし、もう誰も真実を知らないからこそ好きに捏造もできる。いや、多少の誇張や脚色ができる。蛇足感覚で。

「俺が一番いらねーもんなんだよな。名声って」

 まあ密偵のジングルはそうだわな。名前やら顔が売れたらやりづらくなるだけだ。

「私もお金は欲しいですが、名声はいりませんね」

 冒険者として上に行きたいなら、名声はあってもいいと思う。というか実績と名声がないと一定以上の上には行けない気がするが。
 だがレンもいらないらしい。他に優先すべきことがあるからだろう。おねえちゃんかっこいい!

「わたしは単純にまずいわね」

 こんなもん完全にパパに怒られるルートだわ。名声なんて得たら、フロントフロン家の後継問題を揺るがしかねない。正式な後継である弟も微妙に危機感持ってるみたいだし、あんまりガチの刺激は与えたくない。

 ぶっちゃければ、俺の場合は、そこそこ評判悪いことはしてもいいけど良いことは大っぴらにやっちゃダメなわけだ。名声なんてとんでもないわけだ。

 ……冷静に考えると複雑な立場だな。俺。

「一応聞くけど、放置はダメよね?」

 この部屋などの存在を誰にも知らせないとか、そういうアレだ。次に来た奴に第一発見者を譲るとか。旧金貨は少しずつ換金すればどうだろう。一度に処分しようとするからまずいわけだろ?

「ダメだろ。歴史は国の足跡だ。次に来た奴が下手に扱って壊しちまったらどうする。明日にでも絶対に調査チームを入れるからな」

 な、何っ!? ジングルさんがダルい態度を翻して、優等生な顔を……!?

「真面目よね」
「ええ、三人の中で一番真面目ですね」
「うるせーな」

 じゃあまあ、仕方ないだろう。

「そこまで言うならあなたに全部任せるわ。都合のいい人をそっちで選べばいいじゃない」

 たまたまここにいるメンツがいらないだけで、名声を欲しがる奴は沢山いるだろう。パッとしない下っ端貴族とか、そこそこ有名な冒険者でもいいかもしれない。名声を得る身代わりを用意すればいい。

「それしかねえよな……そうだな、知り合いに頼んでみるよ。この旧金貨も、ちょっと時間はかかるかもしれないが、ちゃんと金に変えるからよ。待っててくれ」

 異論はない。
 正式には話してないが、レンもきっとジングルの正体には気づいているだろう。こいつは信用していいのだ。……国に逆らってやろうって意思がないならな。俺はまったくないでーす。国とパパの庇護下でぬくぬく過ごしたいでーす。

「あ、ついでにこのまま話しておきたいことがあるの」

 今後のことが軽く決まったところだが、俺は違う方向の「今後のこと」を言わねばならない。

「宝探し、どうする? 続ける?」
「「え?」」

 なぜか驚いた顔をされてしまった。え、なんで驚くんだ?




「アクロディリア様が言っていた宝とは、ここ・・ではないのですか?」

 え? なんで?
 ちゃんと最初から「宝探しに行くけど何か?」って言ったじゃん。そのつもりでおまえらに声かけたんだけど。。なのにレンまで若干驚いているようだし。

 …………

 ……あ、そうか! 歴史の発見と言えば、その歴史こそが宝と言ってもいいのかもな。王様から報奨金とか出そうだし。あ、そっちの収入もあるかもしれないのか。収入か……旧金貨百枚ですでにビビッてんだけどな……めんどくせーな、歴史。

「ちょっと待てよ。これ以上何をする気だ?」

 ジングルの反応には驚きも焦りも見える。

「だから宝探しでしょ。最初から言ってるじゃない。なんなの? 人の話し聞いてないの?」

 俺の目当てはこの部屋じゃない。ここは通過点だ。旧金貨もモンスターから拾っただけの物だし、それは収入とさえ考えてなかった。ゲームでは千ジェニーだったし。……あんなに0が増えるなんて思いもよからなかったよ。
 ここに来た理由は、宝を探す前に探すべきものがあったからだ。それを取りに来ただけだ。

「ちょっと迷いはあるわよ。たったこれだけの旧金貨でここまで騒ぎになるなら、ここから先は単純に稼ぎ過ぎ・・・・になりそうだし……」

 旧金貨百枚なんて、きっと目じゃないからな。桁が一つ二つ上がるかもしれない。……うわ怖っ! いいのかよ、こんな簡単に億万長者になれて! 何この世界!? ゲームの世界め! 俺は現代日本で金が欲しいよ!

「……もう無理だわ。普通の奴じゃ、これ以上の発見は絶対まずい」

 あ、ジングルが明らかに匙を投げた。

「ここから先は、もう王族クラスが出張るしかねえ。下手な奴が名声を得たって身を滅ぼすか混乱を招くだけだぜ。慎重に人選しないと」

 王族か……そうだな。名声は全部あいつに押し付けるか。

「なあお嬢様、これから何する気だ? 宝探しの具体的な内容は?」

 今ここで変に隠すと、後々面倒そうだ。どうやらお膳立てしてくれるらしいから、ジングルとレンに話しておこう。

「大海賊ギャットの財宝を探しに」

 ――大海賊ギャットは、二百年くらい前に西海一帯を支配していた海賊のボスだ。アクロディリアも知っているくらいだから、それこそ歴史に名を刻んだ大悪党である。
 まあすごい溜め込んで死んだらしく、案の定どこかに財宝を隠して未だ見つかっていないってのが現状だ。

 で、実はこのギャット、宝をいろんな場所に分けて隠している。過去に六回ほど誰かが見つけて、そいつらは大金持ちになった。
 そんな経緯があったおかげで、西海付近には宝探しを特産・観光にしている街があるのだ。今でも一攫千金を目指している冒険者や探検家が、夢を見るために集まっているらしい。

 ちなみに、「分けて隠している宝」は、本命を隠すダミーである。砂漠に落ちているダイヤの砂漠部分である。俺はダイヤを見つけにいくつもりだ。
 そしてそのダイヤを探すために必要だったものは、すでに手に入れている。「真眼のルーペ」だ。これがあれば一発で財宝の場所がわかる。

 ――なお、名前からするとムチが得意な考古学者が大冒険するような話を予想するかもしれないが、実際はすげー簡単な冒険になる予定だ。ゲームでもそうだったからな。




「……マジなんだろうなぁ」

 しばらく続いた沈黙の後、ジングルがポツリと漏らした。

「普通、こんなに簡単に色々発見できるわけがないんだが……お嬢様はきっと見つけるんだろうな。なあ、何をどんな調べ方したらその結論に辿りついたんだよ」
「本読んだだけよ」

 あとゲームを少々だ。「純白のアルカ」っていうテレビゲームな。

「で、あなたどうするの?」
「とりあえず知り合いに相談からだな。どう考えても俺の一存で動いていい案件じゃねえし。……お嬢様の小遣い稼ぎ程度だと高を括って軽い気持ちで参加したのに、蓋を開けたらこのザマだぜ。オフ台無し」

 嘘つくな。小遣い稼ぎより本来の目的がわかってた方が熱心に付いてきただろ。これの事後処理で確かにオフはなくなるかもしれないが、どうせわかっていても嬉々としてついてきただろ。更に言うなら事後処理しつつあわよくば調査にも加わるつもりだろ。

 まあそれはいい。俺が聞きたいのはそっちじゃないからな。

「そっちは任せるって言ったでしょ。わたしが言っているのは、今後の宝探しにあなたは来るのかってことなんだけど」

 「あ」と、ジングルはようやく今、自分の置かれているもう一つの状況に気づいたようだ。

 そう、もう一つの状況とは、「密偵ジングル」ではなく「学生ジングル」としての立場だ。俺としてはどっちも兼ねている存在だと思っている。片方だけ切り離すとかできないだろうしな。

 で、ジングルが話した「今後」は、密偵としての答えだよな。事後処理の予定だろ。
 でも学生としての答えは、まだ聞いてない。

「あなた調査とか発見とか絶対好きでしょ?」

 ここまででよくわかったよ。教会入ってからすげー楽しそうだったし。それも金目の物より歴史の方が好きみたいだ。
 そんな奴が、これから、誰もが知っている大海賊の財産を探しに行くのを、指くわえてスルーできるのかって話だ。だってこいつさっき匙投げちゃったからよ。それに王族にバトンタッチしそうだし。

 要するに、おまえは来ないのか、って聞いているのだ。

「お嬢様、頼みがある」

 来た。即答だったわ。

「財宝の分け前はいらねー。だから俺も一緒につれてってくれるよう口添えしてくれ」

 ははあ、口添えを。まあそう言うと思ったよ。

「言ってはみるけど、どうなるかは保障しないわよ?」

 あいつがどう判断するかなんて、俺にもわかんないからな。そしてジングルは俺の密偵じゃないから、俺が力でねじ込むってわけもいかないしな。

 まあ、その辺は俺より理解しているだろうジングルは、「それでもいい」と頷いたが。




 そんな会話を交わした夜から、一夜が過ぎた。

 購買部の掲示板には、『聖ガタン教会跡周辺の封鎖のお知らせ』という張り紙が突然貼り出された。国が「地盤調査のために」一時的に出入りを制限するそうだ。地盤調査ねぇ。確かに揺れたけどねぇ。

 アンデッドばっかの冒険フィールドはまるで人気がないようで、多くの生徒が張り紙を一瞥するだけで気にもしていないようだ。大して噂にもならなかった。

「――早ければ一週間ほどで、聖ガタン教会が公表するでしょうね」

 と、レンは予想した。俺はよくわからんな。国も教会も、上の連中の利権争いとか激しそうだしな。あんまり関わりたくない。

 それより、俺はもう少し詳しく大海賊ギャットのことを調べていた。
 やるべきことははっきりしているし、今すぐ出発してもいいのだが、まあ、一応「調べてまーす」というポーズは残しておきたいからな。「なんで知ってる」って言われたら困るし。




 そんなこんなで二日が過ぎ。

 ようやく待ち人である、この国の第一王子キルフェコルト・タットファウスが学校に戻ってきた。





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