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154.王子が部屋までやってきた件について……
しおりを挟む「ついさっきクローナさんに会いましたよ」
おお!? ついにか!
「ようやく殿下が帰ってきたのね?」
「それはまだのようです。今日の昼から夕方頃になる予定だとか」
聞けば、キルフェコルトのメイドであるクローナは、この夏は普通に里帰りをしていたらしい。休み中はアニキの傍にはいなかったんだとか。
「夏休みに入る前から、今日、寮で落ち合う約束だったそうですよ。ヨウさんと違って約束を守る方っていいですよね」
どうやらレンは、俺がフロントフロン家で待たずに先に寮に戻っていたことをまだ根に持っているようだ。
「わたし、レンさんのそういうところも好きだけど?」
「早く食べてもらえます?」
はい、いただきます。
――早朝、テーブルに着き、レンが持ってきた簡単な朝食を食べる。また一日が始まるのだ。
夏休みも残りわずかだ。
日に日に生徒が集い、学校に活気が戻りつつある。普段なら授業を受けているような七年生以下も、今はその辺をうろうろしているので、購買部なんかいつも大変なことになっていたりする。
さすがにもうメシ食いにはいけなくなったので、食料調達はレンに任せている。……うん、懐かしのパンと薄いスープのみの質素なメシ生活が始まったのだ。少しだけフロントフロンのメシが恋しい。
今日も午前中は訓練で、午後からは調べ物……つーか借りてきた本を読もうかな。
昼から夕方にはアニキが戻るらしいから、部屋で待っていた方がいいだろう。あいつのことだから速攻で飛んできそうだしな。
ま、とりあえず安心したな。
「間に合ったわね」
「そうですね」
超特急になるが、宝探しの猶予は一日あれば充分だからな。
「――さて。行きましょうか」
食事を済ませ、体操服に着替え、部屋を出――ようとして、ドアを閉めた。
…………
あれ? おかしいな? 目の錯覚かな? ここ女子寮だよな? 貴族用の女子寮だよな?
……目の錯覚だな。やれやれ。最近めちゃくちゃ強いレンにしこたま殴られてるから、いよいよ後遺症で幻覚でも見えるようになってきただけだろ。きっと。はは。だいじょうぶだいじょうぶ。俺はまだだいじょうぶ。アハハ。
さて、闘技場に行こうか!
きぃ ばたん
…………
やべえ。いるわ。超いるわ。目の錯覚にしたかったのにやっぱいるわ。完全に目が合ったわ。殴られた後遺症で幻覚見てるってことにしたかったのに。そのっちの方がまだ、なんか、救いがある気がしたのに。
……俺は少しだけドアを開けて、三度目の確認をする。
「おい」
ひいっ! 慌ててドアを閉めようとしたのに、奴は押しの強いセールスマンがごとく足を突っ込んできやがった!
「二度も俺を無視するとはいい度胸だな」
レンさん! レンさーん! 約束を守らない奴がここにもいますよー!
――こんな朝一から部屋の前に仁王立ちしていたのは、朝から話題の王子様でした。
こいつなんなの!? なんでこんな心臓に悪い登場のしかたするの!? つかここ女子寮だぞ!? 女子寮の特定の女子の部屋の前で堂々の仁王立ちってどういうことなの!? ここ女の園やぞ!? キルやん大胆ですやん!? ……俺が女子寮を主張するのもなんだけど!
なんか見られたら色々誤解を招きそうなので、とにかくいったん部屋に入ってもらった。ほんとこいつ帰って早々何やってんだ。気配まで消して待ち伏せとかなんなの。
「王子?」
朝食の後片付けなどをしていたレンも驚いていた。だよな!? 驚くよな!?
キルフェコルト・タットファウス。
間違いなくこの国の第一王子である。久しぶりに会ってもでかいし筋肉ムキムキだ。数週間ぶりだが変わりないらしい。
「どういうことですか?」
「おまえが悪い」
あ? なんだと? 俺が責めるのが先だろこの野郎! なんだよ「おまえが悪い」って! 俺がなんかしたかよ! ……したけど! すげー色々したけど! どの件ですかね!?
「俺に黙ってどんだけ楽しいことしてやがった。全部聞いてんだぞ。あ?」
…………
やべえ。俺様目線で理不尽に責められてるかと思ったら、思いっきりギラギラした「俺も混ぜろよ」って笑顔だったわ。超怖いんだけど。いろんな意味で超怖いんだけど!
「紅茶でいいですか?」
「ああ」
キルフェコルトは、とりあえず一発俺に威嚇じみた文句を言うと、偉そうにレンに返事を返し勝手にテーブルに着いた。おい。勧めた覚えありませんけど。
「座れ」
いきなり現れてこの態度。みなさんどう思います? …………まあ従いますけどね!
「到着は昼以降と聞いていたのですが」
「待ちきれなくてな。どうしてもおまえと話がしたくてな」
厚がすごい! 厚がすごい!!
「どうしてもおまえの口から事実を聞き出したくてな。俺の密偵を我が物顔で使って大活躍だったんだよな? だったらまさか拒否するわけねえよな?」
わかったから少しずつ顔近づけて威圧するのやめろ! 定位置! 定位置にいろ!
……仕方ねえな。わかったよ。確かに密偵を宛てにしすぎた感はあるし、そのツケが回ってきたと思えばまだ納得できる。だから威圧するな。
「わかりました。だから少し落ち着いてください」
まず、この状況がまずいから。まずここからだわ。
「クローナさんは?」
王子様がまさかの単独行動だしな。こんなの誰かに嗅ぎつけられたら社交界スキャンダルだぞ。おまえはいいのかもしれんが、俺は権力争いとかに巻き込まれたくない。
「もうすぐ来るんじゃねえの? ……あ、来たみたいだな」
本当だ。気配が走ってくる。あの優雅で穏やかなクローナがめちゃくちゃ焦ってんな。
「――すみません、クローナです! こちらに来てませんか!?」
と、クローナはやや乱暴にこの部屋のドアを叩いた。かなり動揺しているようだが、それでも固有名詞は出さないところがすばらしい。
レンに目配せして入れるように指示する。
「殿下!」
「おう」
クローナ久しぶり! 元気だった!? 今日も美人だね! ……少しでいいからこっち見ろよ。中身は違うが一応部屋の主だぞ。こっちに挨拶とかあってもよくね?
……なんて思っている俺の目の前で、
「なぜ一人で行くのですか! 仮にもあなたは第一王子なんですよ!」
「おまえが作業中だったからだろ。俺は不本意だがこいつに会うために早く戻ったんだ。これ以上待つ気はねえよ」
「自覚を持ってください! こんなことをしてはフロントフロン様にも迷惑でしょう!?」
「俺はこいつには率先して迷惑掛けたい! 俺のメイドならそれくらいわかれ!」
「わかりませんし、わかる気もありません! もう子供じゃないのですから、感情で走らないでください!」
……なんつーか、その……なにこれ? 痴話喧嘩なら外でやってくれませんかね?
「レン」
「はい」
「今日の訓練、無理ね」
「そのようですね」
とりあえず俺は、俺そっちのけでケンカし始めた迷惑な二人を無視して、隣の使用人部屋で制服に着替えることにしよう。
……朝一イベントとしては、なかなかヘビーだわー。もっとあっさりしたイベントにしてほしいわ。
着替えて戻ると、不機嫌そうなキルフェコルトとむくれるクローナという、すごくわかりやすい「俺らケンカしてまーす」的な態度になっていた。
ねえ、朝一で人の部屋に乗り込んできてケンカして不機嫌になるってどんな気持ちでやってんの? 俺の生活を露骨に乱した感想は? あんまふざけてるとアクロパパに言いつけるからな。パパ超こえーんだからな。
「――とにかく、クローナも座りなさい。レンも座って。きっと長い話になるわ」
密偵からの報告があったのだろうキルフェコルトはだいたいの話を聞いているようだが、レンとクローナは、俺が夏休み中に何をしていたか全く知らないようだからな。
この二人になら、別に知られてもいい。
むしろ変に聞きかじって誤解とかされるくらいなら、自分の口から話したい。
そして、今後の話もしなきゃいけないしな。
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