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161.見栄と支えと悩み事と……
しおりを挟むまだ空の彼方がぼんやり明るいだけの早朝。
俺たちは校門前で落ち合い、街の旅行会社へ向かう。そこで待っていた弟を拾い、転送魔法陣にて目的の場所へとやってきた。
小悪党の街サラ・ドジェス。
元は名も無き小さな漁村だったが、船が難破して流されてきた海賊たちによって制圧……なんてことにはならず、助けてくれた村民に恩返しも兼ねて労働し、そのまま住み着いてしまったのが起源と言われている。
三百年以上前の当時、まだ国々が戦争だのなんだので荒れていた時代で、大陸の端っこにあるような小さな集落はほぼ捨て置かれていた。
というか単純に、ここらを治めていた当時の領主がここまで兵を派遣する余裕も予算もなかったらしい。
住み着いた海賊たちは、小さな漁村でいろんなことを始めた。まず生きるために、まずしい村民たちと手を組み、漁をしたり酒を作ったりと生活の基盤を固め始めた。
そしてそれが少しずつ形になり財産になり貯蓄になってきた頃、略奪目当てで襲撃を掛けてきた海賊たちを返り討ちにし、吸収したり排除したりを繰り返して大きく成長し、最終的に街にまでなってしまったという逸話のある港街だ。
街の名前であるサラ・ドジェスは、街の始まる時代にいた「サラ」という村長の娘と「ドジェス」という自称小悪党の海賊が結婚したことから付けられたそうだ。この辺のストーリーは有名な劇の一つにもなっている。
潮の匂いがする。懐かしい。海の匂いは日本と同じだ。
高台にある旅行会社から見下ろす夜の色を残す街並と、まだ昇りきっていない太陽を帯びて輝く水平線は、写真に残したいくらい美しい。
突き出す桟橋に停められている大小の船が並んでいる様は、普通の港街って感じだが、名前のごとく荒くれ者が多く集まる街でもあるそうだ。
法で禁止されているが、ケンカなんかは日常茶飯事。
酔って暴れる奴も少なくなく、夜の商売も有名だ。
もちろん土地柄として郷土料理は海産物メインで、新鮮な海の幸が存分に楽しめるそうだ。つーかとにかく俺はエビ食いたい! エビの味はきっと日本と同じだからな、エビは俺を裏切らないはずだ!
「――殿下」
港は朝が早いらしいが、この辺はまだ人気がない。だが外に出てすぐ接触してくる奴がいた。
制服姿のジングルである。どうやら同行の許可を貰えたらしい。
「おう。――領主に挨拶してくる。あと宝探しの手続きもしてくるから、どっかで朝飯でも食って港で待っててくれ」
今回の宝探しツアーのリーダーを任せたキルフェコルトが、同行しようとしたクローナを「おまえもメシ食ってろ」と止めて、接触してきたジングルとともに薄暗い港街に消えていった。
で、俺に集まる視線。
……リーダーが行ってしまったから、誰かが指揮を継がなければならないのはわかる。
だが俺じゃないだろ、序列的にラインラックが相応しいだろ。王子だぞ。
ちなみに、今日のメンツはだいたい予定通りである。
キルフェコルトとクローナ、ラインラックとヴァーサス、アニキが声を掛けたいと言っていたシャロもいる。
あとは俺と弟と、それぞれに付いているメイドのレンとハイネだ。ああ、あとジングルも同行するだろうな。
更にちなみにハイネ以外全員が制服である。ハイネはメイド服だ。改めて見てもメイドさんっていいよね。
「王子」
任せるよ、という視線を向けると、穏やかに微笑まれてしまった。
「私はこの国の人間ではないから。率先して前に立つことはできないよ」
ラインラックは「あくまでも自分は留学生」というスタンスだ。ヴァーサスも同じだろう。ところで久しぶりに会ったラインラックやヴァーサスも変わりなく元気そうだ。今は関係ないが。
「クローナ?」
「私は使用人ですから」
キルフェコルトに近しい人物であるところのクローナもパスした。まあそうだよな。彼女こそ前に出るタイプじゃないもんな。
「シャロさんは?」
「私は下級貴族の末席ですから。ラインラック様や辺境伯のご姉弟を率いる身分にありません」
「それと私は呼び捨てでお願いします」と、女性らしさを削ぎ落としたかのような飾り気のない美人が答えた。キルフェコルトの冒険仲間で、本日二度目に会ったシャロ・ジャングートだ。
そう言われるとなぁ……仕方ねえな。
「クレイオル」
「……はい」
俺が先導してもいいが、ここはやっぱこいつの顔を立てなければならないのだろう。不本意だけどな!
消去法で選ばれたとは言え、異国の王子と従者のホスト役だ。プレッシャーもすごかろう。だがさすがフロントフロン家次期当主、指名した瞬間こそビビッたようだが堂々と受け止めてみせた。
ただの飯屋までのエスコート程度のものだが、しかし家名を背負っている以上、失敗は許されないのだ。
ほんと不本意だけど、俺がフォローするしかないんだよな。姉として。嫌だなぁ。
でも、パパの顔は潰せないからな。やることはやっとかないとな。
「――クレイオル。どこへ行くの?」
街を見下ろしている弟の隣に立ち、小声で聞いてみた。
「わかりません……この街は始めてなので。お姉様こそどこか知りませんか?」
そうか。そうだな、おまえは完全に準備する時間が少なすぎたもんな。下調べもできなかったんだろうな。
「この街で一番有名な店は『黄金の酒樽亭』よ。庶民向けだけど、お偲びで来ているわたしたちに相応しいわ」
時間に余裕があった俺は、ちゃんと調べてきたぞ。
この街で一番古い大衆食堂で、夜は酒場だ。この時間にはもう働き始めている漁師の朝飯にも対応しているので、すでに店を開けているはずだ。
「ウィートラントの王族がいるんですよ? 庶民向けなんて」
「彼はそんな狭量じゃないわ。そもそもこの時間にレストランはやってないから、行っても無駄足になるだけよ」
「……わかりました。お姉様を信じます」
いいのかな~?
そんな簡単に信じていいのかな~?
騙されちゃうぞぉ~?
……なんて煽ってやりたくなるのをぐっと堪えた。パパの凄みが脳裏をよぎったから。
「――『黄金の酒樽亭』に行きます。付いてきてください」
振り返って弟が宣言すると、ラインラックが頷いた。
「あそこか。いい店だよね」
「ええ」
どうやらラインラックは知っているようだ。知らないはずの弟は自信満々で同意した。恥掻かなくてよかったな弟。俺を敬えよ。あとメイドには優しくな。
「サス、場所はどこだったかな?」
「海の近くだったかと」
ああ……でも、ラインラックには、弟が何も知らないことがバレてるみたいだな。さりげなく場所のヒントを提供してきたぞ。気遣いレベル高いなぁ。
「行きましょう」
それがわかっているのかいないのか、弟は俺たちを連れて歩き出した。
弟とハイネを先頭に、まだ半分寝ている海の匂いがする港街を、ぞろぞろ移動する。
そんな中、ラインラックが話しかけてきた。
「また楽しそうな企画を立てたね、アクロ」
「たまたま気づいたことがあっただけです。王子は……ん?」
異国の王子の笑顔に、なんとなく違和感を感じた。
「……何かありました?」
「何か?」
「少々お疲れのような気がしたもので。何もないならいいんですが」
「ああ……――家の問題がちょっとね」
ありゃ。
軽い気持ちっつーか、何も考えずに聞いてしまったが、家って……例の殺されかけたから逃げるために留学してきたってお家騒動のことか?
おいおい……油断バリバリで地雷かすっちまったぞ。こえーわー。
ラインラックは、さも何でもないことのようにさらっと言ったが……俺に感づかれるようじゃ、結構参っているのではなかろうか。だって俺はそういうのあんまり鋭くないから。
気づいた理由を問われれば……たぶんアクロディリアの記憶だろうな。こいつは本当にラインラックが好きで、ずっと見つめていたからな。
見覚えのない顔していたらすぐわかるくらいには。
……なんつーか、俺が考える以上に、深い悩みや困難な問題を抱えているのかもしれないが、なんにしろ残念ながら俺にできることはないからな。
俺は普通のスペックしかないただの高校生だから、王族の相談になんて乗ることはできないだろう。聞くだけでも荷が重い気がするし。
だから、友達として言ってやろう。
「見つけた宝、使い道どうします?」
「ん? うーん……アクロには悪いけど、見つかると思ってないよ。そんなに簡単には見つからないよ」
ほほう。
「じゃあ賭けます? わたしは見つかる方に賭けますが」
「ふふ、いいよ。では私は見つからない方に。負けたら何をすればいいのかな?」
そうだなぁ……あ、そうだ。
「六人の晩餐のお料理を作ってもらえます? ヴァーサス様も手伝っていいわ」
ラインラックの隣にぴったり張り付いて俺たちの会話を聞いている、ホモ疑惑が増すばかりの状態にある奴にも言っておく。……俺の提示した条件が大したことじゃなかったからか、何も言わないが。
「そんなことでいいのかい?」
「ええ、もちろん。王子様の手料理よ? どんなに望んでも叶わないことじゃないですか」
俺の知る限り、サブカルの世界でも「料理する王子」なんて知らないからな。……まあ絶対にいるだろうけどな。少女漫画にいそうだ。いろんなことができて料理もプロ級とかいうよくわからん完璧王子が。
「ちなみにわたしはいいけれど、キルフェコルト殿下はきっと味に文句を言いますわよ?」
「そうだろうね。せいぜい美味しい物でも作る準備をしておくよ」
お、ようやく影のない表情になったな。
「貴女が負けたら貴女が料理を作るのか?」
ヴァーサスの口出しに、俺は答えたね。
「手が荒れるから嫌です」
「力仕事でも平気なくせに」
そんな無粋なツッコミは無視である。
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