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160.角度と面積が問題であり……
しおりを挟む弟は、明日早朝に出発することは聞いていたらしく、今夜は王都の宿に泊まるそうだ。というかもう高級宿を手配してあるらしい。おまえなんか安宿だってもったいないだろ。野宿すればいいのに。大地に抱かれて眠ればいいのに。
目的の場所は主要都市の一つなので、冒険者ギルドではなく、街の転送魔法陣から出発することになる。
弟とはそこで合流することにした。
そんなこんなで一時間ほど打ち合わせをして、学校に帰ってきた。
「――おかえりなさいませ」
…………
朝はキルフェコルト、今回はクローナ、か。
待ち伏せが好きな連中だな。つーかキルフェコルトが好きなのか。
貴族用女子寮の一階ロビーで、キルフェコルト付きのメイド・クローナが俺たちの帰りを待っていたのだ。まあ間違いなくアニキの使いだろう。
「もう帰ってきたのね」
キルフェコルトと一緒に、ラインラックとヴァーサスを呼びに隣国まで行っていたはずだが、用事だけ済ませてとんぼ返りしてきたようだ。まあ俺もフロントフロン領に行って速攻で帰ってきたけど。
ロビーにはあまり人がいない。注目もされていないので、このまま普通に話す分には問題ないだろう。
「ええ、先程。お二人を連れて戻りました」
そうなんだ。ということはあの異国の二人も同行するわけだな。
「あ、もしかして、夕食のお誘い?」
六人で晩飯は久しぶりだからな。そのお誘いのには乗らざるを得ない! ラインラックとヴァーサスの元気なツラも見ときたいしな!
「いえ、今晩は無理そうです。今、殿下もラインラック様方も、明日の準備に追われていますので。恐らく夜も早いかと」
そっか。まあ俺らの場合、もっと前から準備だけはしといたからな。キルフェコルトやラインラックたちからすれば、「明日急に宝探し」なんて妙なスケジュールになるわけだからな。そら準備にも追われるわな。
「私は、一つだけフロントフロン様に確認するために待っていました」
確認?
「殿下からの伝言です。人数はこれで足りるのか、と」
え、人数? …………あ、そうか。
単純に、人手は足りるのかって意味だろう。
宝の量によっては持ち運びができないかもしれないと。そういう話だと思う。ゲームではまるで心配のないことだけに、完全に俺も失念していた。
どこにあるかもわからない、宝の量もわからない、ついでに言えばどう換金するかもまだ決めていない……まあ換金は見つけてから決めればいいわけだが。
「それで、キルフェコルト殿下はなんと?」
「親しい冒険仲間に声を掛けたいと言っていました。……そういえばフロントフロン様も会ったことがあるのでは?」
シャロ様というのですが、と。クローナは聞き覚えのある名前を出した。
「ああ……この前のパーティーで、キルフェコルト殿下が誘って参加していた女性よね」
シャロ・ジャングートだったかな。
武家であるジャングート家の末娘で、冒険者仲間の幼馴染って話だったか。激モテアニキに誘われても全く嬉しそうじゃなかった態度が強く印象に残っている。
「そうです。その方です」
うん、まあ、あれだな。
「好きにしていいと伝えて。わたしの弟も参加したがっているから、もう呼びたい人は呼べばいいんじゃない。わたしも弟を呼ぶし」
「え? そ、そんなに軽く決めていいんですか?」
え? ダメなの? クローナは明らかに戸惑っているようだが……
「――分け前の分配で揉めるからですよ」
レンが耳元で囁いて、なるほどと納得した。
そうだな、参加者が増えれば必然的に分け前が減るから、悪戯に人を増やすのは得策じゃないのか。
でもまあ、それは冒険者の鉄則だろ?
同人関係でもサークル解散の理由は金銭問題が多いと言われるが、今回は別段金に困ってない、どころか大して欲しくもないだろう金持ち連中しか参加してないからな。多少貰いが減っても文句が出るとは思えない。
「殿下が信じられる人を呼ぶのでしょう? なら大丈夫よ」
あのアニキが、役立たずとかネコババするケチな奴を参加させるとは思えないしな。信頼できる奴しか声をかけないだろう。
ゲームの知識はあるが、その通りになるとは限らない。現実になると色々と変わっていることが多いからな。旧金貨の価値なんて想定外もいいとこだったしな。
実際のところ、「宝は見つかるけど、現実ではどれくらいの規模の宝かわからない」ってのが本音だ。何があっても対応できるように、それなりの人数は確保しておくべきなのかもしれない。
足りなかったら現地で仲間を探さなきゃいけないが、それこそ信用できない奴が混ざる可能性が高いからな。
だったら最初から何人か信用できる奴に声をかけておくのも悪くない気がする。
「わかりました。ではそのように」
また明日会いましょう、とクローナと別れ……ようとしたところを、「ちょっと待って」と呼び止めた。
「クローナは水魔法をほぼ極めているわよね?」
半精霊族である彼女の魔力は、常人よりかなり優れている。それは王族お付きのメイドなんて認定されるくらいだから、相当な腕があるのだと推測できる。
ゲームでも優秀だったしな。
「極みには遠いと思いますが……まあ、それなりには使えると思います」
そうか。まあ最初から心配はしてないが、この宝探しの主軸には、勝手にクローナを据えていたからな。一応レンも大丈夫そうだが、本人曰く「クローナさんはレベルが違う」そうだから、こっちを本命として宛てにさせてもらっている。
「明日、水着持ってきて」
「はい?」
「わたしが角度のきわどい水着を買ってあげてもいいけど」
「……よくわかりませんが持参します」
「わたしが面積のきわどい水着を買ってあげてもいいけど」
「では失礼します」
…………
「見た? ついにクローナにまで無視されるようになったわ……あれ?」
振り返れば、レンはすでに他人のフリをして離れた場所にいた。
……最近、全体的にメイドが俺に冷たい気がする。俺はこんなに好きなのに……がっかりだよっ。
――そして翌朝、俺たちは財宝を探しに出発した。
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