俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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159.弟の想いはくじきたいのです……

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 時刻にすれば四時くらいだと思う。
 まだまだ日の長い季節、八月……紅獅子の月の終わり間際だ。日差しは強いし気温も高い。

「遅かったですね」

 そんな中、校門の前でしばらく待たされていたアクロディリアの弟・クレイオルは不機嫌そうに、やってきた俺に開口一番イヤミを言った――というわけではなく、本当にマジで遅かったのだ。俺が。

 闘技場で訓練中に、弟が来たと告げられたので、大急ぎで風呂に入って汗を流してきたのだ。
 レンの『洗浄クリア』でもいいかと思ったが、まあ弟だし別に少し待たせるくらいいいかと思って。

 まだ髪も湿っているので、弟的にこんな姉を見てどう思うのだろうか。
 だが、そんなことは問題ではないようだ。

「涼しい馬車内で待ってたならいいじゃない」

 本当に腹立たしい弟だ。正直一発マジでぶん殴りたいくらいだ。

 こいつは馬車の中で待っていた。たぶん「氷の魔法石」を使って馬車内に簡易クーラーを効かせていたのだろう。

 そのくせ、お付きのメイドと、たぶん直接手紙を届けたのだろう第二執事ジュラルクの二人は、炎天下に……つまり馬車の外で待たせていたらしい。ジュラルクは涼しげな顔をしているが、メイドはすげー汗を掻いている。

「ごめんなさい。待たせたわね」

 こいつの性格が悪いことは知っていたが、こんなことになるとは思わなかったのだ。マジで。なんで一緒に馬車内で待たせないんだよ。

「謝る相手が違うのでは?」
「合ってるわよ」

 ジュラルクとメイドには悪いと思ってるからな。おまえには微塵も思ってねえわ。

 ったく……折を見てSEKKYO食らわしておかないとな。
 個人的に気に入らないし男としてもムカつくってのもあるけど、それよりお付きのメイドがかわいそうだ。この分だとレンと同じくらい苦労してるだろう。
 許せん。どんな感じでシメるか考えとこう。

 気を取り直して、俺は弟に話しかけながら、弟お付きのメイド――ハイネ=トトールに近づく。名前と顔を知ってるくらいで、弟と同年代の女の子だ。

「あなたも制服なのね」

 ここタットファウス魔法学校の制服は、灰色のブレザーと濃緑地でチェック柄のズボンと、俺含む女子の場合はやたら短いスカートである。ちなみに今はブレザーを脱いで薄手の長袖ブラウスだ。身内と会うのでメガネなし。

 対する弟も、弟の学校の制服である。
 こいつのことだから貴族丸出しの格好で来ると思ったんだが。

 細かなデザインの違いはあるが、率直に言えば白い学ランっぽい詰襟だ。これに鞘や柄の装飾も見事な高級感溢れる細剣を帯びている。弱いくせにすげー立派な剣持ちやがって……え、儀礼用? 実戦用? どっちにしろおねえちゃんは未だに「鉄のレイピア」だけど差がありすぎじゃね?

 性格は非常にアレだがルックスは異常にいいだけに、立ち姿も決まっている。

 男子版アクロディリア――そんなフレーズが脳裏をよぎった。やってることといい、選民意識の塊かっつー思考といい……うん、とにかく普通に嫌な奴だよ!

「ジュラルクの意見です。お姉様や殿下たちも制服で動くかもしれないから、統一した方がいいと」

 ナイス、ジュラルク。貴族丸出しの格好で行動すると目立つからな。

 俺は、さりげなく隣に立ってハイネを支えているジュラルクに、小さく頷いてみせた。「それ正解!」という意味を込めて。

「『光の癒しライトヒール』――で、手紙にはどこまで書いてあったの? 詳しい事情はわかってないわよね?」

 少しふらふらしていたハイネの手を取りさりげなく『光の癒しライトヒール』を流し込み、弟からかばうように前に立つ。

「今のはなんですか?」
「メイドの体調管理もできない人が気にすることではないわ」

 こんなもんおまえ、「後継問題に関わる気はないよー」とか「宝を見つけて名声を得ようぜ!」だの「おまえがナンバー1だ」だとか言って弟の懸念を払拭してやろうと思っていたのが揺らぐわ。

 改めて弟を見て――ちょっと舌打ちしたくなった。こいつもかよ。ムカつくな。

「クレイオル、手を出しなさい」
「なぜです?」
「早く」

 俺がピリピリしていることは伝わっているのだろう弟は、俺の言葉に戸惑いつつ……睨みつけると不承不承という感じで手を出した。うおっ、生意気にも宝石付きの指輪だと……!? おねえちゃん装飾品ないんだけど!?

 どこまでもムカつくし、俺のイライラとストレスがマッハで増していくばかりだが、……それはそれ、これはこれだ。

「『光の癒しライトヒール』」

 弟の手を取り、こいつにも回復魔法を掛けた。

「……?」

 弟はまったく意味がわからないようだが……まあ、一応言っておこう。これでも身内には優しいアクロディリアだからな。

「日焼けよ」
「はい?」
「日焼けは火傷なのよ」

 弟は、フロントフロン家で見た時より若干焼けていたのだ。今はまた、ママの美貌譲りの超美白の超美肌になったけどな。
 一応フロントフロン家の跡取りだからな。
 将来シミだのそばかすだのになったら大変だろ。謎のイケメン力でそういうのは遠ざけるスキルでも持ってそうだが、念には念を入れておかないとな。

 更に、だ。

 よくよく見てみれば、身体が少し大きくなっているように思う。縦にも横にも。
 十四歳だ、今が思いっきり成長期なのだろう。そして横は――恐らく筋肉が増えたのだ。

 日焼け。筋肉の増加。

 即ち、体調が良くなったことに気づいて、ようやく本気で剣術などの運動に取り組み始めた……ってところか。

「調子よさそうね」
「……おかげさまで。どうやら私の下にも天使が来たようなので」

 …………

「お姉様。その反応を見るに、私の身体のことを知っていたのですね。ついでに言えば天使という言葉にも無反応だ。――もしやお姉様が天使だったりするのですか?」

 油断なく、冷静に、そして嘘など通じないとばかりに瞳に込められた力。
 弟が俺を見詰めるその姿には、少しだけパパに似た圧力を感じる。

 ――けどまあそれだけですけど!

「まあそんなことはどうでもいいから、とりあえず喫茶店にでも行きましょうか。詳しい話をするから」

 でもパパ並じゃないからおまえには媚びないね! 俺は媚びたい奴だけに媚びるのだ!

「どうでもいいとは? それが次期当主である私への言葉ですか?」
「はいはいすごいすごい。その剣ちょうだい」
「な、なんで!? 嫌ですよ! これは名工ダイナスの……ちょっ、触らないでください! ……なんで脱がそうと!? しかも下を!? ベ、ベルトに触らないでくださいっ……!」




 ちょっと弟に嫌な汗を掻かせてやって、貴族町にある喫茶店にやってきた。環境的に個室もあるのだ。

「込み入った話になるから、その辺で座って待ってなさい」

 俺と弟は個室に、レンとジュラルクとハイネは一般用のテーブルで待つように指示する。――要するに好きなもの頼んで食べたり飲んだりして待ってろ、ってことだ。

「さて」

 六畳くらいの個室である。過度な装飾はなく、目にうるさいものは弟以外一切ない。落ち着いて話ができるだけを追求したのだろう。
 防音も効いているらしいので密談に最適な環境だ。まあもっとも、本当にヤバイ話ならこんなところは使わないだろうけどな。入ってからはともかく、入るまでが丸見えだからな。

 とりあえずテーブルに着き、先に注文していたものが来るのを待つ前に、話を始める。

「お父様の手紙にはなんと?」
「お姉様とキルフェコルト王子がどこかに行くから同行しろ、と。だから今すぐ王都に向かい、お姉様と会うようにと」

 そうか。さすがパパ、下手に内容を書くとただ混乱させるだけだから、大まかな予定だけ伝えるようにしたようだ。

 何せ目的は「宝探し」だからな。
 いきなりそんなこと言われても、すんなり受け入れられないもんな。すんなり受け入れられても心配だし。

「実はね――」

 目的が冒険で、大海賊ギャットの財宝を探しに行くことを話した。
 途中で注文した紅茶などが来て中断するも、それ以外の問題はなかった。

「……いい歳をして宝探しですか」

 うわあ……弟の目の冷め切ってること。ママの美貌もそこそこ継いでるから結構威力があるな。

「あなたも第一王子も困ったものですね。辺境伯の娘と王族が、いつまでそんなくだらないことをやっているんですか。呆れて物も言えません」

 言ってるけどな! しっかり! 「いい歳して」とか「困ったもの」とか!

「クレイオル」
「なんですか? 現実の見えないお姉様」

 冷ややかな冷笑を浮かべる弟に、俺も微笑みを向けた。

「リナティス様といろんな話・・・・・をしたいのだけど、なんの話をすればいいかしら?」

 弟の超かわいい婚約者の名前を出せば、弟の余裕が一瞬で吹っ飛んだ。

「……ずるいですよお姉様」
「知らないの? 姉はずるい生き物なのよ」

 クソ生意気な弟に対してはな!

 …………

 でもまあ、ヘコませといてアレなんだけどな。

「でも行くでしょ?」
「もちろん。お父様の命令ですからね」

 そうなんだよな。
 文句とイヤミは言ったけど、元々「行かない」なんて選択肢は最初からないんだよな。

 ――じゃあ最初から大人しくついてくればいいだろ、波風立てずに、とは思うが。





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