143 / 184
159.弟の想いはくじきたいのです……
しおりを挟む時刻にすれば四時くらいだと思う。
まだまだ日の長い季節、八月……紅獅子の月の終わり間際だ。日差しは強いし気温も高い。
「遅かったですね」
そんな中、校門の前でしばらく待たされていたアクロディリアの弟・クレイオルは不機嫌そうに、やってきた俺に開口一番イヤミを言った――というわけではなく、本当にマジで遅かったのだ。俺が。
闘技場で訓練中に、弟が来たと告げられたので、大急ぎで風呂に入って汗を流してきたのだ。
レンの『洗浄』でもいいかと思ったが、まあ弟だし別に少し待たせるくらいいいかと思って。
まだ髪も湿っているので、弟的にこんな姉を見てどう思うのだろうか。
だが、そんなことは問題ではないようだ。
「涼しい馬車内で待ってたならいいじゃない」
本当に腹立たしい弟だ。正直一発マジでぶん殴りたいくらいだ。
こいつは馬車の中で待っていた。たぶん「氷の魔法石」を使って馬車内に簡易クーラーを効かせていたのだろう。
そのくせ、お付きのメイドと、たぶん直接手紙を届けたのだろう第二執事ジュラルクの二人は、炎天下に……つまり馬車の外で待たせていたらしい。ジュラルクは涼しげな顔をしているが、メイドはすげー汗を掻いている。
「ごめんなさい。待たせたわね」
こいつの性格が悪いことは知っていたが、こんなことになるとは思わなかったのだ。マジで。なんで一緒に馬車内で待たせないんだよ。
「謝る相手が違うのでは?」
「合ってるわよ」
ジュラルクとメイドには悪いと思ってるからな。おまえには微塵も思ってねえわ。
ったく……折を見てSEKKYO食らわしておかないとな。
個人的に気に入らないし男としてもムカつくってのもあるけど、それよりお付きのメイドがかわいそうだ。この分だとレンと同じくらい苦労してるだろう。
許せん。どんな感じでシメるか考えとこう。
気を取り直して、俺は弟に話しかけながら、弟お付きのメイド――ハイネ=トトールに近づく。名前と顔を知ってるくらいで、弟と同年代の女の子だ。
「あなたも制服なのね」
ここタットファウス魔法学校の制服は、灰色のブレザーと濃緑地でチェック柄のズボンと、俺含む女子の場合はやたら短いスカートである。ちなみに今はブレザーを脱いで薄手の長袖ブラウスだ。身内と会うのでメガネなし。
対する弟も、弟の学校の制服である。
こいつのことだから貴族丸出しの格好で来ると思ったんだが。
細かなデザインの違いはあるが、率直に言えば白い学ランっぽい詰襟だ。これに鞘や柄の装飾も見事な高級感溢れる細剣を帯びている。弱いくせにすげー立派な剣持ちやがって……え、儀礼用? 実戦用? どっちにしろおねえちゃんは未だに「鉄のレイピア」だけど差がありすぎじゃね?
性格は非常にアレだがルックスは異常にいいだけに、立ち姿も決まっている。
男子版アクロディリア――そんなフレーズが脳裏をよぎった。やってることといい、選民意識の塊かっつー思考といい……うん、とにかく普通に嫌な奴だよ!
「ジュラルクの意見です。お姉様や殿下たちも制服で動くかもしれないから、統一した方がいいと」
ナイス、ジュラルク。貴族丸出しの格好で行動すると目立つからな。
俺は、さりげなく隣に立ってハイネを支えているジュラルクに、小さく頷いてみせた。「それ正解!」という意味を込めて。
「『光の癒し』――で、手紙にはどこまで書いてあったの? 詳しい事情はわかってないわよね?」
少しふらふらしていたハイネの手を取りさりげなく『光の癒し』を流し込み、弟からかばうように前に立つ。
「今のはなんですか?」
「メイドの体調管理もできない人が気にすることではないわ」
こんなもんおまえ、「後継問題に関わる気はないよー」とか「宝を見つけて名声を得ようぜ!」だの「おまえがナンバー1だ」だとか言って弟の懸念を払拭してやろうと思っていたのが揺らぐわ。
改めて弟を見て――ちょっと舌打ちしたくなった。こいつもかよ。ムカつくな。
「クレイオル、手を出しなさい」
「なぜです?」
「早く」
俺がピリピリしていることは伝わっているのだろう弟は、俺の言葉に戸惑いつつ……睨みつけると不承不承という感じで手を出した。うおっ、生意気にも宝石付きの指輪だと……!? おねえちゃん装飾品ないんだけど!?
どこまでもムカつくし、俺のイライラとストレスがマッハで増していくばかりだが、……それはそれ、これはこれだ。
「『光の癒し』」
弟の手を取り、こいつにも回復魔法を掛けた。
「……?」
弟はまったく意味がわからないようだが……まあ、一応言っておこう。これでも身内には優しいアクロディリアだからな。
「日焼けよ」
「はい?」
「日焼けは火傷なのよ」
弟は、フロントフロン家で見た時より若干焼けていたのだ。今はまた、ママの美貌譲りの超美白の超美肌になったけどな。
一応フロントフロン家の跡取りだからな。
将来シミだのそばかすだのになったら大変だろ。謎のイケメン力でそういうのは遠ざけるスキルでも持ってそうだが、念には念を入れておかないとな。
更に、だ。
よくよく見てみれば、身体が少し大きくなっているように思う。縦にも横にも。
十四歳だ、今が思いっきり成長期なのだろう。そして横は――恐らく筋肉が増えたのだ。
日焼け。筋肉の増加。
即ち、体調が良くなったことに気づいて、ようやく本気で剣術などの運動に取り組み始めた……ってところか。
「調子よさそうね」
「……おかげさまで。どうやら私の下にも天使が来たようなので」
…………
「お姉様。その反応を見るに、私の身体のことを知っていたのですね。ついでに言えば天使という言葉にも無反応だ。――もしやお姉様が天使だったりするのですか?」
油断なく、冷静に、そして嘘など通じないとばかりに瞳に込められた力。
弟が俺を見詰めるその姿には、少しだけパパに似た圧力を感じる。
――けどまあそれだけですけど!
「まあそんなことはどうでもいいから、とりあえず喫茶店にでも行きましょうか。詳しい話をするから」
でもパパ並じゃないからおまえには媚びないね! 俺は媚びたい奴だけに媚びるのだ!
「どうでもいいとは? それが次期当主である私への言葉ですか?」
「はいはいすごいすごい。その剣ちょうだい」
「な、なんで!? 嫌ですよ! これは名工ダイナスの……ちょっ、触らないでください! ……なんで脱がそうと!? しかも下を!? ベ、ベルトに触らないでくださいっ……!」
ちょっと弟に嫌な汗を掻かせてやって、貴族町にある喫茶店にやってきた。環境的に個室もあるのだ。
「込み入った話になるから、その辺で座って待ってなさい」
俺と弟は個室に、レンとジュラルクとハイネは一般用のテーブルで待つように指示する。――要するに好きなもの頼んで食べたり飲んだりして待ってろ、ってことだ。
「さて」
六畳くらいの個室である。過度な装飾はなく、目にうるさいものは弟以外一切ない。落ち着いて話ができるだけを追求したのだろう。
防音も効いているらしいので密談に最適な環境だ。まあもっとも、本当にヤバイ話ならこんなところは使わないだろうけどな。入ってからはともかく、入るまでが丸見えだからな。
とりあえずテーブルに着き、先に注文していたものが来るのを待つ前に、話を始める。
「お父様の手紙にはなんと?」
「お姉様とキルフェコルト王子がどこかに行くから同行しろ、と。だから今すぐ王都に向かい、お姉様と会うようにと」
そうか。さすがパパ、下手に内容を書くとただ混乱させるだけだから、大まかな予定だけ伝えるようにしたようだ。
何せ目的は「宝探し」だからな。
いきなりそんなこと言われても、すんなり受け入れられないもんな。すんなり受け入れられても心配だし。
「実はね――」
目的が冒険で、大海賊ギャットの財宝を探しに行くことを話した。
途中で注文した紅茶などが来て中断するも、それ以外の問題はなかった。
「……いい歳をして宝探しですか」
うわあ……弟の目の冷め切ってること。ママの美貌もそこそこ継いでるから結構威力があるな。
「あなたも第一王子も困ったものですね。辺境伯の娘と王族が、いつまでそんなくだらないことをやっているんですか。呆れて物も言えません」
言ってるけどな! しっかり! 「いい歳して」とか「困ったもの」とか!
「クレイオル」
「なんですか? 現実の見えないお姉様」
冷ややかな冷笑を浮かべる弟に、俺も微笑みを向けた。
「リナティス様といろんな話をしたいのだけど、なんの話をすればいいかしら?」
弟の超かわいい婚約者の名前を出せば、弟の余裕が一瞬で吹っ飛んだ。
「……ずるいですよお姉様」
「知らないの? 姉はずるい生き物なのよ」
クソ生意気な弟に対してはな!
…………
でもまあ、ヘコませといてアレなんだけどな。
「でも行くでしょ?」
「もちろん。お父様の命令ですからね」
そうなんだよな。
文句とイヤミは言ったけど、元々「行かない」なんて選択肢は最初からないんだよな。
――じゃあ最初から大人しくついてくればいいだろ、波風立てずに、とは思うが。
21
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】貴女にヒロインが務まるかしら?
芹澤紗凪
ファンタジー
※一幕完結済。またご要望などあれば再開するかもしれません
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した元・大女優の主人公。
同じく転生者である腹黒ヒロインの策略を知り、破滅を回避するため、そして女優のプライドを懸け、その完璧な演技力で『真のヒロイン』に成り変わる物語。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く
秋鷺 照
ファンタジー
断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。
ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。
シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。
目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。
※なろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる