無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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望まぬ才能 前編

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「おいおい……中々に血の気が多いやつだな」

 そんなことを言いながらも、ザーラの口元には笑みが浮かんでいた。
 その眼前には身の丈を超えるほどの大剣が構えられており、エミーリアの手にもまたいつの間にか槍が握られ、突き出されている。

 先ほどの音は、エミーリアの繰り出した槍の穂先をザーラが剣の腹で受け止めた音であった。

「あら、先ほど始めると口にされたと思いますけれど……? それとも、あれは合図ではなかった、と? それは失礼しましたわ」

「はっ……いやいや、確かにそれで合ってるぜ? 攻めてこなかったら、こっちから仕掛けるつもりだったしな。ああ、中々いい判断だったぜ? だがだからこそ、理解してるんだろ? ――オレに勝つつもりなら、今ので決めなくちゃなんなかったって、な!」

 鋭い叫びと共に、大剣とは思えぬ速度でザーラの剣が振るわれ、間一髪のところでエミーリアが後方へと退く。

 だがそれを読んでいたかのように、直後にザーラも前に出た。
 逃げるエミーリアを追うように剣が薙ぎ払われ、しかしエミーリアはそれも寸でのところでかわす。

 そこをザーラがさらに追い、エミーリアは逃げ……そこからはその繰り返しの、一方的な展開が繰り広げられた。

 傍目にはザーラがエミーリアの動きを捉えられていないようにも見えるが、あれはきっとそうではあるまい。
 その表情にまったく余裕のないエミーリアとは異なり、ザーラは明らかに余裕があるからだ。

 だがそれよりもレオンが気になったのは、エミーリアの動きそのものであった。
 先ほど目にした時からそうではないかと思ってはいたが――

「んー……やっぱりあの時の彼女だったみたいだなぁ」

「うん? 何よ、面識ないって言ってたけど、どっかで会ったことがあるってこと?」

「いや、面識がなかったのは事実だよ。僕が一方的に見たことがあるだけ。先日の入学試験の時、彼女が試験を受けてる様子を見る機会があってね」

 その時も彼女はああして魔獣の攻撃を避け続けていて、その姿が印象的だったために覚えていたのだ。
 まあ最初から最後まで避け続け、そのまま合格したから、というのもあっただろうが。

「へえ……そうだったの。あたしは最初の頃に終わらせたから、見ていないのよね」

「まあ僕は多分真ん中ぐらいだったしね。ちょっと受付で揉めたし」

「そりゃまああんたは揉めるでしょうよ。普通は男が騎士科の試験なんて受けに来ないもの」

「それだけじゃなくって、言動からするとどうにも男嫌いの人だったせいもあるっぽいんだけどね。……まあ何となく個人的にも嫌われてたように感じたけど、面識はないはずだしなぁ」

 そんなことを話している間も、一方的な展開は続いていた。

 ザーラが振るう剣をエミーリアは紙一重のところでかわすだけで、その手の槍でさばこうとする様子すらない。
 エミーリアの動きだけを見るならば先日の試験で目にしたものと似通ったものではあったが、先日よりもその顔に余裕はなさそうである。
 だが、槍を使う余裕もない、というよりかは、まるで触れたら終わりとでも言いたげだ。

 そして抱いたその感想が正しいということを、レオンは知っていた。
 もはやエミーリアに勝ち目がないということも、である。

 しかし誰よりもエミーリアが一番そのことを理解しているだろうに、エミーリアの目は死んではいなかった。
 これはあくまでも実力を測るための試験のようなものではあるが……あるいはだからこそだとでも言うかの如く。

 暴虐の中をひたすらに耐え続け……果たしてその時はやってきた。
 中々攻撃が当たらないことに業を煮やしたかのように、一際ザーラが腕を大きく振り被ったのだ。
 直後に叩きつけられた攻撃は当然のように当たらなかったものの、激しい衝撃波が周囲を襲った。

 今までのように紙一重でかわしていたのでは間違いなく巻き込まれる規模のもので、だがエミーリアはそれを読んでいた。
 大きく飛び退き、大きな隙を晒したザーラへと一直線に飛び込む。
 引き絞られ、突き出された槍の穂先が、ザーラの無防備な脇腹へと突き刺さり――甲高い音が響いた。

 剣で防いだのではない。
 槍の穂先は確かにザーラのむき出しの肌を捉え、しかしその肌に拒絶されたかの如く弾かれたのだ。

 分かりきっていたことであった。

「……ま、そうなるでしょうね。っていうか、今のわざとよね?」

「だろうね。完全に誘ってたし、やろうと思えば余裕で防げたりかわせたりしたんじゃないかな?」

「まったく……随分と意地が悪いわね。まあ、おかげでさっき言ってたことは確かに事実なんだって理解出来たけど」

「別に庇うわけじゃないけど、それも含めて必要だって判断したってことなんじゃないかな? っていうか、知らなかったんだ? 何となくただの知り合い以上の関係なように見えたけど」

「……確かにエミーリアとあたしは友人関係ではあるけど、あくまでも貴族として、だもの。そこまで踏み込んだ話はしないし、されないわ。……まあ、噂程度にならば聞いていたけれど」

「……そっか。まあ、そもそもわざわざ嘘を吐く理由がないしね。……魔力なし、か」

 ――魔力なし。
 それは、文字通りの意味だ。

 この世界の人々は、基本的に生まれた時から魔力と呼ばれるものを持っている。
 主に魔法を使う際の燃料的なものではあるが、純粋なエネルギーとして使うことも可能だ。
 身体能力の底上げをしたり、武器の一時的な強化や防御に使えたりもする。
 だが、理由は不明ながらこの魔力を持って生まれない者も稀にではあるが存在し、そういった者達のことを魔力なしと呼ぶのだ。

 これは本当に珍しいものであり、おそらく魔力なし以上に珍しい才能限界0のレオンですら魔力を持っている。
 むしろレベル0であることを考えれば、かなり多い方だ。
 魔力の内包量というのは生まれ持った素質に加えてレベルが上がることでも増えるのだが、レオンの内包魔力の量は大体平均的なレベル10の者のそれと同じ程度にはあった。

 というか、レオンが早々に次期当主扱いされていたはこれのせいでもある。
 生まれ持った魔力量が多いと才能限界も高い傾向にあるためだ。
 そのため調べるまでもなく才能限界は高いのだろうと判断されというわけであり……閑話休題。

 で、そんな魔力ではあるが、実は魔力にはそれ自体がある特性を備えている。
 魔力は、魔力でしか貫くことは出来ないのだ。
 魔力で薄く身体の周りを覆っていれば、たとえ隕石が落ちてきたところで、その隕石に魔力が含まれていなければ無傷で生き残ることが出来る。

 ただ、魔力には相性もあり、その相性次第では貫くどころか激しく反発してしまう。
 そして男には魔獣を倒すことが出来ないというのも、この相性が理由なのだ。
 魔獣が纏う魔力は、男の魔力の全てを反発させてしまうのである。
 逆に女の魔力の場合は、まったく反発することはない。

 尚、男と女の魔力がぶつかった場合でも反発するが、魔力の質次第では反発を押さえ込んで貫くことも出来る。
 魔獣相手に男がそうすることが出来ないのは、魔獣の魔力の質が異様なまでに高いからだ。

 これは経験によって得られたもので、過去何人もの男達が必死になって挑戦し、その結果誰一人として魔獣に傷一つ負わせることが出来なかったという事実により判明したものだ。
 そうしてその結果として、魔獣の相手をするのは完全に女性の役目ということになってしまったのである。

 ともあれ、つまり先ほどエミーリアが放った槍が弾かれてしまったのも、ザーラの魔力に弾かれてしまったというのが原因なのだ。
 そして魔力を持たないエミーリアは、ザーラの身体の周りを薄っすらと覆っている魔力の守りを突破する手段がない。
 完全に詰んでいた。

「さて、お前の今の実力と状況はこれではっきりしたかと思うんだが……どうだ? 少なくともオレは理解出来たと思ってるんだがな」

「……そうですわね。確かに、これ以上の抵抗はみっともないだけでしょう。次の挑戦のためにも、今は降参いたしますわ」

「ほー……? 次、ねえ……まだやるつもりなのかよ?」

「当然でしょう? わたくしに魔力があろうがなかろうが、わたくしが貴族であることに違いはありませんもの。ならばその義務を果たすため、わたくしに諦めるという道はありませんわ」

「はっ……言うじゃねえか。だが良い目で、良い言葉だ。騎士を目指すってんなら、そうじゃねえとな」

 そう言って楽しげに笑ったザーラは、そのままリーゼロッテへと視線を向けた。
 その目は、次はお前の番だと単に順番を告げているだけのようにも……あるいは、お前はどうなんだと尋ねているかのようにも見えた。

 リーゼロッテは果たしてどちらの意味で捉えたのかは分からないが、確かなのは真っ直ぐに視線を向け返したということである。
 その様子に、ザーラの笑みがさらに深まった。

「どうやら、そっちもそっちで中々楽しませてくれそうだな」
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