無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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元最強の騎士の想い

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 確かに実技は文句のつけようがなく、満点以外に評価のしようはなかった。
 だが、レオンは男である。
 そのことが学院の講師の一部から問題視されたのだ。

 厳密には、明言されたわけではないが……誰かがこっそり手助けをしたのでは、とか、何らかのイカサマを行ったのでは、などと言っていたことを考えれば、その意図は明白だろう。
 無論言いがかり以外の何物でもないが、そんな発言をする者が力を持ってしまっているのが、今の学院の現状でもあった。

 騎士科の講師は、基本的には現役の騎士がなるものではあるが、第一線からは退いた、または退けられた者達ばかりだ。
 前者ならばいいのだが、後者の者達は無駄なプライドが高い者が多く、そのせいもあってか変な思想を持っていることがある。

 彼女達によれば騎士とは由緒正しきものであり、ならば相応の選ばれた者しかなれないのだとかいう話だ。
 くだらない話であり、くだらない連中ではあるが、むしろだからこそかそれなりに頭は回る。
 ひっそりと同じような思想を持つ者を集め、今ではそれなりの力を手にしてしまったのだ。

 まあ正直なところ、言っていること自体にはザーラも一理あると思う。
 しかし、それを見極めるためとかいう名目で、唐突に試験の難易度を跳ね上げるのは問題しかあるまい。

 なにが、実技の試験でキマイラが出たのならば筆記の試験も相応のものに合わせなければならないだろう、だ。
 筆記の結果を理由にレオンを不合格にするつもりなのは目に見えていた。

 だが学院では新人講師にあたるザーラにろくな発言権はなく、そもそもそのことを知ったのは、既に決まった後のことだったのだ。
 学院も随分つまらない場所に成り果てたもんだと思いながらもどうすることも出来ず、改めて出来上がった問題とやらを眺め反吐が出る思いであった。

 元々の試験と比べ難しくなったどころではない。
 出されている問題の大半は、学院に入ってから習うものばかりだったからだ。
 中には騎士になってから知ることまであり、こんなもん解けるかと破り捨てても許されるような、そんなクソみたいな試験であった。

 しかも、騎士になろうとするならばこの程度は理解出来て当然などと件の者達はのたまい……まあ、その分その澄ました顔が愕然となる様は見物だったし、胸がすくような思いではあったが。
 これで確実に落とせると内心ほくそ笑んでいただろうその試験で、レオンは再び満点を叩き出したのだ。

 実技で満点で筆記でも満点。
 さすがにそんな人物を落とせるわけがなく、レオンは見事有り得ざる合格を勝ち取ったというわけであった。

 で……実際のところ、ここまでの時点であれば、ザーラにはレオンに対して私怨などというものを持ってはいなかった。
 どちらかと言えばよくやったと、好感すら抱いていたと言っていいだろう。

 それが変わった……いや、そこに他のものが追加されたのは、レオンのことを調べ、その詳細が明らかになった時のことであった。

 元公爵家の嫡男。
 才能限界0。

 ――否、そんなことはどうでもいい。
 重要なのは、八年前の出来事・・・・・・・の方であった。

 ザーラも、一応は貴族である。
 厳密には既に実家とは縁を切ってるのだが、それでも当時はまだ貴族の一員だったため、あの日のことは偶然耳にしていたのだ。

 聖剣の乙女のお披露目会。
 そこで、聖剣の乙女に告白をした少年がいたということを、である。

 その直後に実家と縁を切っていたため、それからどうなったのかは分からなかったが、だからこそ、驚いた。

 実家から追放され、公的にその存在を抹消されながらも、騎士になろうとしているということは。
 キマイラを単独で倒せるだけの力を身に付けたということは。
 八年前の告白は本気で、今もその気持ちは変わっていないということの何よりの証左だったからだ。

 聖剣の乙女の手を、本気で取ろうとしているということであった。
 ザーラが諦めてしまったそれを、だ。

 無論のこと、ザーラのそれは恋愛的な意味ではない。
 騎士としての誇りであり、意地であり、自負だった。

 自分達は騎士だ。
 人々の命を背負い、その剣となると誓った身である。
 そのことは、聖剣の乙女がいようがいまいが変わらない。

 だというのに、聖剣の乙女が現れたという時、他の騎士達が浮かべた感情は安堵であり感謝であった。
 これで自分達ではどうしようもなかった魔獣も何とかなると、そんなことを言っていたのである。

 それは違うのではないだろうかと、ザーラは思った。
 聖剣の乙女が現れたからといって、その人物に全てを押し付け、背負わせるのは、違うだろう、と。

 どれだけ強くとも、十以上も下の子供なのだ。
 精一杯必死に足掻き、その果てでどうしようも出来ず、他に手がないというのならば頼るという方法を選んでもいいだろうが……最初から頼りきりにするのは、絶対に間違っていた。

 そう思って、主張して……だが、受け入れられることはなかった。
 だから、仕方がないと、諦めたのだ。
 諦めて、自分一人で足掻くことにした。

 剣を手にして、最前線で魔獣と戦うことにして……最強と呼ばれるようになったのは、そうして足掻いた果てのことでしかなかったのだ。

 そもそも、ザーラは本来騎士としてそれほど才能に恵まれた方ではない。
 攻撃魔法の才が最も必要とされる騎士の中で、ザーラが最も得意とするのは、実は補助魔法だからである。
 自分にかけている魔法もその一種で、だからこそ最前線で戦うことが出来たのではあるが、騎士としての適性を考えれば下から数えた方が早いのだ。

 そしてだからこそ、諦めなければならなかった。
 最強と呼ばれても……否、最強と呼ばれるまでに至ったからこそ。
 聖剣の乙女には遥かに及ばないと、分かってしまったのだ。

 その前に立つのはもちろんのこと、横に並ぶことも、後ろに続くことすら許されない。
 それほどの、隔絶した力の差があった。

 手の差し出し、その手を取ることを、諦めたのだ。

 だが、あくまでも諦めたのはそれだけでもあった。
 共に戦うことが無理ならば、少しでもその負担を肩代わり出来ればと思って……その頃には、少しずつ他の騎士達の間にも同じようなことを考える者達が出てくるようにもなって。
 学院で講師をやれという命令を下されたのは、そんな時のことだ。

 どうやらザーラの存在というものは、上の連中にとって目障りでしかなかったらしい。
 その思想も、主張も、最強という肩書きも。

 だから、学院に押し込められた。
 上からの命令だったから逆らうことは出来ず、こうして講師なんぞをやっているというわけだ。

 まあ、それ自体は別に構わないと言えば構わない。
 他の講師や生徒から嫌われたり、変な噂が流れていることもどうでもよかった。
 あの娘に色々と教えられるのならば、それはそれでありだったし……そう思い込もうとしていたところに現れたのが、この少年であった。

 ゆえに私怨なのである。
 理想を抱いて、叶えることは出来ず、こんなところにまで落ちてくることしか、自分には出来なかったから。
 今も真っ直ぐに前を見つめている少年に、自分勝手に問うているのだ。

 お前はどうなのだと。
 お前はあの手を取り、握り締めることが出来るのか、と。

 だが、そんな八つ当たりにほどがある想いを込めた攻撃を、レオンは完璧に防いでいた。
 こっちの言いたいことが分かっているわけでもないだろうに、苛烈さを増していく斬撃を、この程度ならば何の問題もないとでも言わんばかりに難なく受け止め、捌いていく。

 その光景を前に、自分のやっていることの無意味さを突きつけられているようで、思わず自嘲の笑みが漏れ……その場から大きく飛び退いた。
 レオンが何かをやろうとしたからではなく、むしろ自分がやろうとしていることのためだ。

「はっ、ったく……ここまで完璧に防がれちまうとは、講師としての面目丸つぶれだな」

「いえ、そんなことないと思いますが。正直割とギリギリでしたし」

「普通はギリギリでも防げねえもんなんだが……ま、いいさ。お前なら出来ちまうんだろうなと思ったからこそ、オレもここまでやったわけだからな。で、だ……どうせなら、折角だ。最後まで、付き合ってくれ」

 そう告げながら、剣を振るい、切っ先を真上へと向けた。
 瞬間己の中の魔力を解放し、剣へと纏わせる。

 それは、ただの魔力ではなく、魔法でもなかった。
 膨大な魔力を注がれ続けている剣が悲鳴を上げ、周囲の空間が軋んでいく。

 明らかに普通ではない光景に、リーゼロッテ達はこれ・・が何であるのかに気付いたらしく、息を呑んだ。

「っ……アレってまさか……」

「ええ……わたくしでも分かるほどの、圧倒的な魔力量。間違いないでしょうね……」

 これは要するに、騎士にとっての切り札だ。
 騎士であるならば誰もが持っているモノであり、騎士が騎士と呼ばれている所以。

 最強の一。
 聖剣の欠片・・・・・

「――絶剣」

 言葉と同時、剣を振り下ろした。
 溜まりに溜まっていた魔力が逃げ場を求めて溢れ、眼前へと放たれる。

 それは、極大の閃光だ。
 どんな魔獣であっても絶対に滅ぼすという誓いの元に放たれる、騎士としての全てが込められた剣撃。

 その前では防御も回避も無意味だ。
 そんな一撃がレオンへと迫り――

「――一刀両断」

 光の向こう側から聞こえたのは、呟くような声であった。

 何をしたのかは分からない。
 だが、結果は一つだ。
 閃光が消し飛ぶと共に、手の中の剣が砕け散ったのである。

 その感覚をしっかりと手に覚え、視線の先のレオンの姿を眺めながら。
 まったく本当に面目は丸つぶれだと……どことなく清々しく思いつつ。
 ザーラは自嘲の笑みと共に息を吐き出すのであった。
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