43 / 253
第二章:異世界人は流される編
第三十七話 ソシアさんが思いのほか頑固だった
しおりを挟む「い、今のは一体何だ!? 物凄い早さで出て行ったが……」
門の前まで戻ってきた俺に驚きながら声をかけてきたのは学院の門番だった。
「部外者、だと思う。ソシアさんを狙っていたようだ」
「何だって……!? しかしいつ侵入したのだ……? 入口はここしかないし、この壁を越えられるとは思えんが」
と、ぼやく門番。
言い訳のようにも聞こえるが、彼等は朝から夕方まで立っており、十七時を過ぎると門を閉める。残った生徒は門の近くにある非常口を使って外に出るのが基本なのだ。無論、そこにも門番が常駐しているので居眠りでもしていない限りは通り抜けるのは難しい。
外壁も6、7メートルはあるので飛び越えるのはまず不可能。空を飛ぶ魔法を持っていればという所だが、今の所該当する魔法を見たことが無いので何ともいえない。
となると考えられる理由は……
1.学院の生徒か先生が手引きして入れた。
2.そもそも生徒か先生が犯人。
3.夜中の内に外壁を登りきって中でひっそりとソシアさんが見つかるまで待っていた。
この辺りだろう。
気になるのは俺が居ない時に襲撃があったという事を加味すると『実地訓練で俺の実力を知った上』で、見計らっていた可能性だ。そうなるとクラスメイトの誰かになるが……。
とりあえず門番をスルーして、俺はみんなの所へ戻る。まだ白い煙が立ち込めていた。
「≪妖精のため息≫」
トレーネの声が聞こえたと思った瞬間、煙が霧散しみんなの姿を確認する事ができた。幸いケガは無さそうだ。
「大丈夫ですか?」
「カケルさん……は、はい、攫われそうになりましたけど、グランツさんとエリンさんが咄嗟に私を庇ってくれたので……」
「うう、目が痛い……カケルさんの声が聞こえた途端逃げ出したわ。顔は分からなかった……ごめんなさい」
ソシアさんとエリンが続けて喋り、グランツがその後口を開いた。
「セバスさんは!?」
「あいつ来てたのか?」
俺がグランツに話しかけながら起こしていると、馬車の中からか細い声が聞こえてきた。
「わ、私はここだ……」
馬車からずるりと這い出るように窓から顔を出したセバスの顔は青かった。煙をもろに吸ったらしく、口を手で押さえている。
「ちょっと座ってろ、トレーネが煙を吹き飛ばしたから落ち着くまで休め」
「むう……不甲斐ないことよ……しかし貴様等のおかげで攫われずに済んだのは礼を言う」
気が弱くなっているのか珍しく殊勝なことをいいながら地面に腰を落ちつけると、ざわざわと生徒達が集まってきた。
「とどまるのはマズイな。グランツとトレーネは動けそうだな。馬車は扱えるか?」
「俺はいけます」
「よし、ソシアさんとエリンは馬車へ乗ってくれ。グランツは馬車を頼む。俺とトレーネは徒歩で警戒しながら屋敷まで戻るよ。いいなトレーネ」
「うん」
「オッケーだ。ソシアさん、肩を貸すので乗ってください」
「すみません……」
「エリン、大丈夫か?」
「頭がボーっとするよ……」
人によって効果に差があるみたいだけど何の煙だったんだろうな……? 体に悪くなければいいけど。
この件はネーレ先生に話をしておきたかったが屋敷へ戻って休ませるのが先決だ……というかネーレ先生が俺を引き離したと考えるなら二手に分かれるのは得策でも無いし。
「すいません、道を空けてください!」
グランツが馬を操りながら御者台の上から声を出すと、やじ馬はぞろぞろと離れていく。さて、二度目は無いと思うが……。
◆ ◇ ◆
「――ということがありました」
「燃える瞳のみなさんとカケルさんが居なかったら危なかったです」
あの後、特に襲撃を受けることなく屋敷へと戻り、すぐにボーデンさんへ報告すると、苦い顔をしてポツリと呟いた。
「……ふう……落ち着かんな。ソシアよ、パーティまで学院を休むのはどうかね?」
「そうですわ。無理していくこともありませんでしょう」
両親がこぞってソシアさんへ提案するが、ソシアさんは首を横に振って答えた。
「いいえ、それでは犯人を捕まえることはできませんし、婚約者候補として、王子と顔を合わせないのも不利になるでしょう。私を城へ嫁がせるのはお父様の願いだったはず……」
「し、しかし、命を失っては元も子もあるまい……」
「そのためにカケルさん達を雇ったのです。残り二週間ほどですし、特に明日の対抗戦では私の魔力の強さを王子に知っていただく絶好の機会」
「仕方ありませんわね……言いだしたら聞かない子ですし……くれぐれも一人にはならないでね?」
「分かりました。カケルさん、みなさん。今日はありがとうございました! 夕食まで少し休みます、また後ほど……クレア、いきましょう」
「は、はい、お嬢様!」
クレアはソシアさん専属のメイドの女の子で、屋敷の中でちょこちょこと動いているのを良く目にする。外はセバス、内はクレアといった所だろう。
「君達も一旦休んでくれたまえ。ありがとう」
「いえ……それでは失礼します」
俺達も一礼をして部屋を後にし、自室へと戻ることにする。その途中、気になっていることを尋ねてみる。
「ソシアさん、えらく婚約に執着していたけどそこまでのものなのかな?」
すると目を赤くしたエリン(まだ後遺症があるみたい)が、目を大きく開いて俺の肩をガクガクと揺さぶってきた!?
「何言ってるのよ!? 当たり前でしょ! 王女様よ王女様! 冒険者で日銭を稼ぐ必要もないし、国を動かすこともできる……あたしだって生まれが貴族なら狙いにいってるわよ?」
「私はカケルがいればいい」
「そうなのか?」
トレーネの意見は役に立たないのでグランツにも聞いてみる。
「そうですね。民を導かないといけませんから、生半可な学や魔力では難しいでしょうが、それに見合う暮らしができますから……俺ですと、王家に娘しかいないのであれば婿候補に出向くくらいはするかもしれません。生まれで弾かれるでしょうが!」
なるほどな。
念のため、もし王子が変な顔だったらどうする? という問いも『最悪愛が無くても……』と言い出したエリンの答えに、メリットの方が大きいと悟った。でも、レムルならともかくソシアさんは領主の娘だし、不自由はしていなさそうだけどな……とりあえず背中に乗ってきたトレーネを背負いなおしながら部屋へと向かった。
権力とか面倒くさいと思うのはやっぱりこの世界の人間じゃないからなんだろうか……。
それにしてもようやく相手も動き出してきた。あの時見た王子に似た人影も気になる。
今日の襲撃で分かったことは『ソシアさんと殺すつもりはない』ということだろう。前回も助かっていたし、今回も煙で見えなくした割には誘拐しようとしただけだった。正直なところ、あの状況で殺しにかかられたら、グランツ達がいたとはいえ危なかったと思う。
で、襲撃者がソシアさんを殺すつもりが無いのに、寿命が残りわずかという謎が残る。
後手に回っているのはおいしくないが、成り行きを見守るしか手が無い。学院の誰かが敵なら明日の対抗戦でなにか動きがあるかもしれない……もう、レムルが犯人だったら楽なのにと思いながら俺は意識を手放した……。
◆ ◇ ◆
そして迎えた翌朝。
何か面倒なことにならないか心配していたものの、あの時は人がまばらだった事もあり、昨日のことは広まっていないようで一安心。
おはようーと、クラスメイトたちに挨拶をしているとネーレ先生がやってきた。
「は~い、みなさん~! ゆっくり休めましたか~? 今日はクラスの対抗戦です。皆さん誰を推薦するか決めてきましたか~?」
ああ、そういえばそんなことを言っていたっけ。
自分以外の五人となると、昨日の戦闘を見る限りグランツとエリンが頭一つ上で、ソシアさんも魔力には自信がありそうだ。護衛を考えるとトレーネとあと一人残しておきたいから、グランツかエリンにして……残りは昨日戦ったグネンかな? 前の席の子、とツッコミが上手かったオライトの五人で出しておこう。
外から見ていた方が警護に集中できるし、仕事優先でいかないとな!
――などと楽観視していた朝のホームルームが懐かしい……。
23
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る
がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。
その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。
爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。
爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。
『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』
人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。
『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』
諸事情により不定期更新になります。
完結まで頑張る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる