俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
44 / 253
第二章:異世界人は流される編

第三十八話 響け! 悪役令嬢の高笑い!

しおりを挟む
 「そこまで! Bクラスの勝利!」

 ワー! ワー!

 
 「やったな! 流石はグランツだぜ!」

 「トレーネちゃんも頑張ったわ!」

 「ソシア様も華麗でした!」

 壇上を降りるグランツ達にクラスメイトから労いの言葉がかけられる。俺の方を見て、グランツが拳を突き上げて喜び、トレーネがドヤ顔でVサインをしていた。

 「まずは一回戦勝ちましたね!」

 「あれくらいは余裕」

 グランツとトレーネ兄妹にソシアさんがクラスのみんなに称えられているのを後についていき、俺も壇上を降りる。

 ……お気づきだろうか? そう、俺も対抗戦のメンバーとして大将で参加していたのだ……。

 簡単に経緯を説明するとだね? 朝のホームルームでネーレ先生が『ソシアさんはレリクス王子とのことがあるから活躍してもらうためにメンバーです!』と、五人決めるんじゃなかったか? という昨日の発言をひっくり返すことを急に言い出し、それならとグランツ・エリン・グネンに、とりあえず名前を知っているオライト君の名前を書いて投票箱へ入れたのだが、いざ開封すると、俺・グランツ・エリン・トレーネの名が連なっていた。何故か? みんな戦いたいんじゃないのかと思っていたが、ソシアさんのためにここは優勝を狙う必要があるのだそうだ。なので、昨日の訓練結果を鑑みて(と負けた時に責任を取らされたくない)いつも一緒にいる俺達に白羽の矢が立った。次点でグネンとオライトの名前があがっていて二人は焦っていた。

 「なんで僕が!? しかも一票だけとか無い方がいいよもう!?」

 「……俺もだ……誰だ一体!?」

 匿名なのでバレることはあるまい……。


 ――とまあ、感情が高ぶって早口になってしまったが、そういうことなのだ。ちなみにウチのクラスはB。Hクラスまであり、抽選でEクラスとぶつかった結果、グランツ、トレーネ、ソシアさんが勝った時点でEクラスは敗退。次の戦いへと駒を進める。

 Eクラスはよくも悪くも平均的で、あまり面白みがないメンバーだった。グランツは『昨日戦った、二列目の二番目の席の彼の方が強かったですよ』と言っていた。

 ……お前が昨日戦ったのは一番右の三番目の席だけどな。そんなどうでもいいことを心の中でつっこんでいると、副将だったエリンが俺に話しかけてきた。

 「楽ができてよかったねカケルさん♪」

 「それはそうだけど、昨日の襲撃を考えると参加したくなかったんだよなあ」

 「でも私達の方が間違いなく勝てる。頑張る」

 珍しくやる気の眼鏡っ子が杖を掲げて鼻息を荒くする。なんだかんだで学院生活を楽しんでいるようでなによりだ。
 
 「ふふ、トレーネも魔法で頑張っていましたしね。火の魔法が得意なのね?」

 「そう。でもカケルはもっと凄いから追いつけるように頑張らないと」

 「まあ。愛されてますね」

 「……」

 聞かなかったことにして、次の試合までどうするかと思案した時、グランツが壇上に上がるレムルの姿を見て声を上げた。

 「カケルさん。俺の勘ですけど、あの方とは戦いそうな気がします。他のメンバーも含めて見ておいた方がいいのではないでしょうか」

 「確かにそうだな。使っている武器と魔法の傾向は知っておいて損は無いか……みんなもそれでいいか?」

 「もちろん! あたしは元気が余ってるし!」

 「私も構いませんわ。レムルさん、去年からどれくらい強くなっているか楽しみです」

 ああ、一応向こうだけじゃなくてソシアさんもライバル認定をしてるんだな。昨日のボーデンさんとの会話もそうだけどソシアさんは見た目より我が強い。そして魔力も。

 それなのにどうして襲撃は防げないのか……?

 しかし俺の思考を寸断するようにレムルのAクラスと、モブがいっぱいのCクラスが激突する!

 「げ、いきなり悪役令嬢からか……!?」

 「そこ! おだまりなさい!? ふふん、ソシアさんに……あなたでしたか。わたくしの実力をとくとご覧あれ! オーホッホッホッホ!」

 「始め~!」

 「んな!? まだ笑っている途中ですわよ!?」

 聞こえていたとは地獄耳め……そして自信たっぷりに高笑いをするレムルを無視して審判のネーレ先生が合図をして戦闘が開始された。

 「レムル様が相手とは……いきます!」

 「どこからでもどうぞ。まあ近づけないでしょうけど」

 Cクラスの男子生徒の武器は剣。だが、少し短めで、それを右手と左手に持って構えていた。対するレムルは宝石のついたロッドを両手で持ち相手を睨みつける。

 「……たああ!!」

 ダッシュでフェイントもなく近づいていくモブ男! それをレムルが魔法を唱えて迎撃を行う。

 「≪冷厳の楔≫」

 ロッドの先から冷気が漏れだし、意思をもったかのようにモブ男へとまとわりつく。

 「ぐ、さ、寒いっ!? でもこれくらいで止まれない!」

 ブオ!

 二刀流で繰り出された攻撃は届かず、軽やかに回避するレムル。ぴょんと、後ろへ下がりモブ男に告げる。

 「あら、根性はありますわね? ではこちらでは? ≪氷傷≫!」

 レムルが唱えると、氷の矢がレムルの周りに数本現れ、距離が離れたモブ男をロックオンしてキリキリと向きを変えた。
 
 「いきなさい!」

 「うわ!? 痛い!? くそ、まだまだ!」

 飛ばされた氷の矢は直撃を避けたものの、肩や足を斬り裂き、あっという間にズタボロになる。それでも前へと進む根性は見上げたものだが、すでにレムルのてのひらであることは外から見ている俺には容易に分かった。

 「やりますわね」

 「ここまで近づけば……! もらったよ!」

 ガチャン!

 モブ男が思い切り剣を振りおろし、レムルの頭にヒット……とはならなかった。

 「え!?」

 「遅いですわよ、今あなたが攻撃したのは氷で作った鏡……そう! わたくしはすでにあなたの後ろに回っていましたのよ! それ!」

 ゴツン!

 「うう……無念……」

 後頭部をロッドで一撃。それでモブ男はダウンしてしまった。『速』はあったけど、もうちょっと『力』『体』が無いとダメだなありゃ。

 「勝者~レムルさん~」

 「当然ですわ! オーッホッホッホ!」

 高笑いをしながら拍手の中で手を振るレムル。

 「あいつは氷魔法が得意なんだな」

 「ええ。私は光魔法が得意なんですけど、相性が悪いんですよ……」

 ソシアさんが真剣な顔でレムルを見ながらぐっと拳を作る。

 正直、悪役令嬢なんてしょぼくれた強さしかないだろうとタカをくくっていたので、氷の鑑を作ったりするトリッキーさは侮れないと感じた。

 「……次はあの男ですね」

 グランツが目を細めてレムルと入れ違いに上がってくるのはツォレだ。

 「あの時はカケルさんだったので良かったですけど、俺だと勝てるかどうか……」

 「そうなのか? 俺はお前の方が強いと思うけどな」

 「その言葉は嬉しいですが、恐らくよくて五分でしょうね。でも……戦ってみたいです」

 剣術士として是非、と熱く語るグランツ。

 そう言えばステータスって鍛えたら上がらないのかね? レベルだけでしか上がらないのならそいつはいつまでたっても『力』が4のまま、とかになりそうなんだけど……。

 <回答します。訓練による引き上げは可能>

 そう思っていると、ナレ子が頭の中で教えてくれた。なるほど、なら無駄にはならないのか……。

 <ナレ子の呼び名は不満であると進言します>

 贅沢な!? ……仕方ないその内考えてやるよ。

 「カケル、始まる」

 トレーネの声に反応して意識を壇上へ戻すと、ちょうどネーレ先生が合図をするところだった。
 

しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

処理中です...