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第六章:ヴァント王国の戦い編
第百三十六話 誘拐事件
しおりを挟む「――なるほど。話は分かった。ここから逃げるように出ていったあいつがそんなことに巻き込まれているとはな……よくぞ俺に話してくれたと思うぜ」
「正直、カケルが居なかったらここにいることは出来なかった。それくらいの化け物だった。これがカケルとあった全てだ。信じてもらえるだろうか?」
トーベンにマスターの部屋へ招かれたブルーゲイル。そしてニドは自分たちが体験したアウロラの封印と破壊神の力の一部の力をトーベンに告げた。
「あいつのことをそうやって話すなら信用はできるかな。ユニオンマスターの俺に嘘をついたら後が怖いだろうし。で、国どころか世界の一大事か。カケルの名が無ければまるで信じられない話だ」
「えっと……カケルってそんなに信用があるんですか?」
アルが恐る恐る尋ねると、トーベンはフッと不敵に笑って答える。
「初めて会った時は……そう、件の燃える瞳の連中を助けたことだったか。瀕死のあいつらをさらっと治してな、何事も無かったように飯食ってた。で、あいつのことを知ろうと近づいたら、ボア丼なんていう……お、きたか」
コンコン、とノックがし、入れとトーベンが言うと、どんぶりを持った職員が入ってくる。そのどんぶりがブルーゲイルの面々の前に置かれた。
「さ、食べてくれ。その後は領主の娘さんを救出したり、学院で王子と出会って色々やってたみたいだな。だから王子の信頼も厚い。この国では貴族クラスの重鎮だな。城でやらかして逃げたから戻りにくいとは思うが……」
「美味い……! 何があったのかは怖いので聞かないとして……とりあえずユニオンマスターに伝えられたのは良かった。では王子へ?」
「ああ、とりあえず俺から知らせておく。王子が封印を知っているかは分からないが、まだ先代も健在だ、何か知っているかもしれん」
「そうですか。手出しはしない方がいいと思いますが、知っておいて損はありませんからね」
それを聞いて安堵するコトハ。そこへトーベンがどんぶりをテーブルに置いてからブルーゲイルへと話しかける。
「それについては任せてくれ。で、ここからは俺のお願いだ」
「……依頼ですか?」
「話が早くて助かる。燃える瞳がカルモの町へ行っていると言ったな? あいつらを手伝って欲しいんだ。実は今、町で子供が居なくなるという事件が起きていてな、その解決のためにユニオンと王家で動いている最中なんだ。調査で向かってもらったが、人では多い方がいい。そこでカケルと知り合いのお前達なら信用できるということだな」
「少し話あってもいいですか?」
「もちろんだ」
ニドはメンバーを部屋の端へ集めて話しあいを始める。
「どうする? 一応目的は達成したが……」
「……わたしは手伝ってもいいと思う。子供が消えるのはかわいそう」
サンが口をへの字に曲げて主張すると、アルもそれに同意する。
「燃える瞳のメンバーにも直接言っておいた方がいいと思うし、俺も賛成だ。金になるなら尚いいし」
「そうですね。打算的なことを言うなら、ここで恩を売っておくのも悪くないと思います」
「オレはどっちでもいいぜ。リーダーに任せる」
コトハとドアールも賛成のようだ。ニドは少し考えた後、トーベンへと顔を向けて口を開く。
「OKだ、その依頼受けよう。報酬は?」
「助かる。報酬は――」
トーベンが正式な書類を用意し、ニド達の契約が完了。その足でブルーゲイルはカルモの町へと向かうのだった
。
◆ ◇ ◆
<カルモの町>
「何か分かったか?」
「子供が居なくなるのは夕方から夜にかけて。これは他の町と同様ね。状況は畑仕事の後、学校帰り、買い物中
と様々だから無差別に攫っているみたい」
「親が一緒にいる場合はその限りじゃないから、一人か子供だけの時を狙っている」
と、カルモの町支店のユニオンで話をしているのは燃える瞳のメンバーであるグランツ、エリン、トレーネの三人だった。
「はい、飲み物よ」
「あ、すみません! ありがとうございます!」
「いいのよ。昨日攫われた子はこの町だけで4人……無事だといいけれど」
そう言ってグランツ達にお茶を出したのはエルフの受付嬢のミルコットだ。いずれもカケルと関わったことがある顔ぶれである。お茶を飲みながらエリンが言葉を発する。
「親御さんに話を聞きに行ったけど、沈んだ表情だったわ。早く見つけたいわ」
「うん。可哀相」
トレーネがコクリと頷くと、二階からバタバタと足音をさせながら誰かが降りてきた。
「おい、あまり急ぐな。ちゃんと俺に着いて来い」
「おう! あんちゃんしっかり護衛してくれよな!」
「そうですそうです。私達がさらわれないようお願いしますね」
「あ、オイラ達が囮になって犯人を捕まえるってのはどうだ?」
ゼルトナに勉学を教えてもらっている三人の子供達、それと冒険者登録が終わったビーンだ。学校に来ないという選択肢もあったが、いつ解決するか分からないからと、冒険者を護衛に立てて送り迎えを行っていた。親子連れや大人がいると攫われないということも要因である。
「はは、元気がいいな。でも本当に気を付けるんだよ? 囮なんて絶対ダメだからな」
降りてきた子供達にグランツが声をかける。
「でもでも、友達が帰って来ないのは怖いです」
小柄な女の子スィーがグランツの前に来てそんなことを言う。子供達は子供達で友達を心配しているようだった。
「見つけたらギタギタにしてやるんだけどな!」
ゴルが拳を握りながら呟くと、エリンが頭をポンと叩いて諫めていた。
「そういうのはお姉さんたちに任せなさい! さ、お家の手伝いがあるんでしょ? 気をつけてね」
「「「はーい!」」」
エリンが微笑むと、素直に返事をして外へでて行く三人。それを追って、会釈だけしたビーンが追いかけていった。
「あのくらいの子は生意気」
「お前もそうだったしな……痛!?」
トレーネが子供達を見送り、グランツが脛を蹴られていた。しかし子供達の言うとおり、心配なのは攫われた子だ。せめて無事であってほしいと思っていた。そこでトレーネが再び口を開く。
「でも囮はいいかもしれない。私がやってみてもいい」
「……うーん、確かにトレーネはちっちゃいからいいかもしれないけど、万が一があったら困るわよね……」
「大丈夫。レベルも上がったし」
「囮はともかく緊急性が高いし、何か考えないといけないか……」
グランツが腕を組んで考えていると、子供達と入れ替わりに元気のいい声をした女の子が入ってきた。
「こんにちはー! リンゴお届けにあがりました!」
リンゴの籠を抱えた女の子にミルコッタが応対を始めた。
「あら、アンリエッタちゃん! いつもありがとう、これお代ね」
「ありがとうございます! ビーンはいますか?」
「ちょうど子供達を送りに出たわ」
「そうですか、もし戻ってきたら晩御飯は用意しているって言ってもらっていいですか?」
「いいわよ。ふふ、うまく行ってるみたいね?」
「何のことですか?」
「あら、そういう関係じゃないの?」
ミルコッタが不思議そうに言うと、アンリエッタが慌てて手を振って答えた。
「え!? 違いますよ! ビーンはただの幼馴染ですよ」
「あ、そうなの……他に好きな人でも?」
「あ、うん……でももう帰って来ないと思いますけど……」
「ああ……カケルさんね。確かにユニオンマスターの言葉はきつかったけど、挨拶も無しで出ていくなんてね」
「え!? カケルさんを知っているんですか!?」
「詳しく」
二人の話を横で聞いていたグランツ達が目を見開いて驚く。トレーネは女の勘的な何かでアンリエッタに詰め寄っていた。
「あら、あなた達も知っているの? 彼はアンリエッタちゃんが殺されそうになったところを助けたのよ」
「そ、そうよ! あんた達は?」
「私達もカケルさんに瀕死のところを助けられたんですよ。とある依頼で一緒に行動していました」
「そ、そうなのね……無事ならいいけど……じゃあどこかの町にいるの?」
「いない。私を置いてどこかへ消えた」
少し悲しそうな顔をしたトレーネを見て、アンリエッタも女の勘が働く。
「まさかあんたもカケルを……?」
「まさか、ということはあなたも。兄貴、いい考えがある。このちんちくりんを囮にしよう」
「誰がちんちくりんよ!? あんただった似たようなもんでしょうが! いえ、どちらかといえばあんたの方がちんちくりんね」
「私はまだ可能性がある」
「私だってあるわよ!」
「あー……すまない、妹が失礼を……」
グランツがなだめようとアンリエッタに声をかけるが……
「うるさいわね! あんたの妹? ちょっと借りるわ。どっちがちんちくりんかはっきりさせないと気が済まない!」
「え、ええ……!?」
「えー……どっちもおな……」
「やめろエリン。迂闊なことを言うと巻き込まれるぞ……」
こんなことをしている暇は無いのに、と疲れた顔をしたグランツが冷めたお茶を飲みほした。
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