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第六章:ヴァント王国の戦い編
第百三十五話 カウントダウン
しおりを挟むイザベラに言われユニオンにあるセフィロト通信装置でニドからの伝達を確認する。今まで話では出ていたが使うのは初めてである。まあ早い話が大げさなメールだが、電話の無いこの世界で海を越えた通信ができるのは結構すごいことだと思う。
「何と書いているんですか?」
ティリアが横から覗きこみながら聞いてくる。とりあえずヴァント王国へ入った、というところまでは読んだ。
「ええっと……『お前達が村を出てからすぐ、俺達も出発し、すぐにヴァント王国行きの船に乗り到着した。そこまでなら良かったんだが、結構困ったことが起きていてな――』」
◆ ◇ ◆
――カケル達が航海三日目を満喫中くらいの時期(曖昧)
「ヴァント王国は初めてだな」
「ええ、何か封印について手がかりがあるといいんですけど」
ブルーゲイルの面々が辿り着いたのは、港町フルス。カケルがティリアと初遭遇し、フェルゼンと別れた地でもある。昼にさしかかるかどうかという時間に到着した一行は少し減ったお腹を刺激するいい匂いと遭遇していた。
「さーいらっしゃい! 港町名物『たこやき』だよ! あ、おっちゃん毎度ー!」
「いいにおいの元はあれだな! 名物らしい、オレちょっと買ってくる!」
親子らしき二人が屋台を開いており、『たこやき』という謎の食べ物を扱っていた。ドアールが2パック持って戻ってくると、5人はもぐもぐと食し始めた。
「……うめぇ……!」
「……美味しい。これはオクトパス……? ぬめぬめしていない……」
ニドとサンが絶賛の声を上げ、他の三人も無言で一つ、また一つと食べてあっというまにたこやきは無くなってしまった。
「もう一つくらいいけそうだ」
ニドが屋台へ向かうと、褐色の肌をした子が愛想よく笑って接客をしてくれる。
「いらっしゃい! 美味かったか!」
「ああ。見たことも無い料理だが、オクトパスを使って大胆なものを作ったな。お前が考えたのか?」
すると、少し寂しそうな顔をして子供が答える。
「いや、俺の恩人が作ってくれた料理なんだ。もう旅に出ちゃったけどさ。そうだ、冒険者だったら会うかもしれないな! カケルってヤツなんだけど、会ったらユーキは元気でやっているって伝えてくれる?」
「カケルだと!? ……うーむ、あいつの料理なら……納得も行くか……」
「あの人、ホントどこでも話が上がりますね……」
ニドとコトハが呆れたような尊敬するかのような口ぶりでカケルの名前を出すと、ユーキが歓喜の声を上げた。
「知ってるのか! あ、あいつは今どこに居るんだ!」
「つい最近まではエリアランドに居たぞ。また旅立ったが、今頃はアウグゼストじゃないかな」
ユーキがカケルの足跡を、うんうんと興奮気味に話を聞いていると、母親らしき人に窘められていた。
「……ダメよ、お客さんを引き止めたら。後がつかえるからお仕事をするわよ。すいません、この子、あの人のことが大好きなもので……」
「か、母さん!? わ、分かったよ……焼くからそういうのはやめてくれよな……でも、カケルのことが分かって良かったよ! ありがとうな!」
ニカッと笑いながら手を振ってユーキが見送ってくれ、また帰りにでも買うかとブルーゲイルのメンバーはその場を立ち去った。
◆ ◇ ◆
「さて、ウェハーの町とやらに行ってみよう。そこが一番でかいユニオンがあるところらしい」
アルが情報収集を終え、次の目的地が決まったので馬車を使ってウェハーの町まで行くことになる。徒歩だとそれなりにかかるが、馬車なら数時間で到着するので、ゆっくりと景色を見ながら緩やかな山を登って行った。
そして――
「活気がある町ですね」
「だね。リンゴが美味しいらしいよ? で、どうするニド。先にユニオンに顔を出しておく? 『燃える瞳』ってパーティに、声だけはかけておいた方がいい気もするし」
アルの提案で頷くニド。
「そうしよう。燃える瞳経由で王子や領主に話を伝えてもらうのがいいと思う。カケルの知り合いの王子なら騒ぎにするかどうかの判断はできるだろう」
「……ユニオンはあそこみたい。行きましょう」
サンが指さした先に『アドベンチャラーズ・ユニオン ウェハーの町支店』と書かれた看板があり、5人はぞろぞろと入っていく。
「いらっしゃいませ! 依頼ですか? 達成報告ですか?」
「人を探している。『燃える瞳』というパーティなんだが……」
「……燃える瞳の皆さんですか? えっと……今日は来ていませんね……どういったご用件で……?」
ニドの質問に受付のお姉さんが歯切れが悪そうにそう言うと、奥から男が出てきて声をかけてきた。
「よう、見ない顔だな? あいつらはちょっと特殊な依頼を受けてるからカルモの町へ行っているぞ。……用件なら俺が聞いてやる」
「あなたは?」
「俺はユニオンマスターのトーベンという。燃える瞳はとある事件で有名になっちまってな、利用とするやつもちらほらいるんだ」
なるほど、と、カケルと行動を共にしたことがあるニド達は思った。恐らく何らかの事件を一緒に解決したとかそういうことなのだろうと。それを心配するこのユニオンマスターは信頼できるかも、とニドは考え情報を出してみることにした。
「俺達は『ブルーゲイル』という名でパーティを組んでいる。カケル、という男を知っているか?」
「……! 知っているのか……?」
平静を保っているが、燃える瞳の話よりも確実に驚いた表情を一瞬みせたのをコトハは見逃さなかった。この人は知っている、と。
「カケルさんとはエリアランドで会いました。ゴブリン討伐でご一緒させていただき、デブリンが出現した時は彼に助けられました」
すると、はあ……とため息を吐いて、一言呟く。
「デブリン……あいつは落ち着かねぇなあ……。でもまあ生きているのが分かったのは僥倖か。知らせないといかんな。そのためにも……」
くいくいっと指を動かし、奥の部屋へ誘導しようとしながらニド達へ言葉を発する。
「もう少し詳しい話を聞かせてくれ」
ニヤリと笑うトーベンに、ブルーゲイルの面々は深く頷いていた。
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