俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

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第六章:ヴァント王国の戦い編

第百四十四話 ゴルヘックスの意地

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 「――まだだ」

 そう呟いたゴルヘックスは渾身の力でニドへと斧を振りかぶった。

 「諦めなさいよ!」

 動く、そう思ったエリンが矢を放ち、足止めを行う。

 ドスドス!

 矢が刺さりながらも、斧を止めないゴルヘックス。対するニドは回避を困難と見て、剣を盾に防御をする。

 「早い! うぐお!?」

 斧を受けた剣がベキベキっと嫌な音を立て曲がる。その反動でニドの手が痺れ、剣を取り落とした。

 「ニド!? こいつ!」

 「ドアール、私もいきます!」

 追撃がある、そう思っていた二人がゴルヘックスへと飛びかかるが、ゴルヘックスは予想に反した動きを見せた!

 「……」

 「何!? うわ!」

 「え!?」

 なんとゴルヘックスは持っていた斧をドアールへと投げ、ガルドの懐を探ったあと……一目散に逃げ出したのだ。しかも向かう先は林の中でなく海底洞窟だった。

 だが、逃げる先には、覚醒していたトレーネが立ちふさがった。ボルドを縛り上げたグランツもゴルヘックスを追う。

 「トレーネ! アンリエッタちゃん!」


 「うえ、ぺっぺ……ペリッティさん私達のこと忘れてない!?」

 「アンリエッタは離れて。ここは通さない、私が止める≪業火≫!」
 
 カケルの地獄の劫火を模して自身が編み出した炎の魔法を打ち出す。ぐわっと燃え盛る炎がゴルへックスへ襲いかかる。
 
 「やったか!」

 燃え盛るゴルヘックスを見て拳を握りながらゴルへックスへ向かうグランツ。死んでしまうかもしれないが逃がすよりはいいと渋い顔をしていた。

 だが――

 「! 効いていない?」

 ローブがボロボロに燃え、その下から現れたのは、全身がつぎはぎだらけになった体だった。

 「な、なんだありゃ……!?」

 「……アンデッド、ですか……!?」

 茂みに隠れていたサンがニドの治療のため飛び出すが、その姿を見て目を見開いて驚いていた。

 「……アンデッドでは、ない。が、似たようなものかもしれん」

 それだけ言うと、トレーネに向かって走り出す。

 「く、来るわよトレーネ!」

 「もう一度! ≪業火≫」

 ダガーを構えたアンリエッタが叫び、トレーネが再度魔法を打つ。炎に包まれるが、やはり意に介さずゴルヘックスは

 「無駄だ。全身火傷を負ったこの体に痛覚はない。目さえ守れれば……」

 「くっ……! ≪疾風≫ 矢よ、風に乗って走れ!」

 エリンがゴルヘックスの背中にドスドスと矢を射るが、言葉通りダメージを受けている素振りは微塵も無かった。

 「……邪魔をしてくれた礼だ、お前達に手伝ってもらおう」

 魔法を放つトレーネに突撃し、ひょいっと肩に担ぎ上げた。そして開いた手でアンリエッタを捕まえようとした。

 「させるかぁぁぁぁ!」

 「なんと!?」

 ゴーレムの影から出てきた人影がアンリエッタを掴もうとしていた手をバッサリと切り落としたのだ! ゴルヘックスは初めて驚愕の声をあげた。

 「……おのれ、まあ一人でもいい」

 「離す!」

 「待て! くそ、何て速さだ……!?」

 片手を失くしながらもトレーネを落とさず走り去るゴルヘックスをグランツ、エリン、ニド、ドアールが追い、コトハとサンがアンリエッタへと駆け寄る。

 そしてその傍にいたのは――

 「大丈夫かアンリエッタ!」

 「あ! ビーン!? どうしてここに!?」

 「どうしたもこうしたもあるか! ユニオンに入ろうと思ったらお前がさらわれたって聞いたんだ。で、グランツさんが馬車に荷を積んでいる隙に馬車の樽に身を隠してついてきたんだ。連れて行って欲しいと言っても断られると思って……」

 ビーンがそう言うと、コトハが口を開いた。

 「まさか馬車に隠れているとは……結果的にアンリエッタさんが助かったからいいものの、認めていないものがついてくるのは本来なら罰金ものですからね?」

 「す、すいません……」

 「でも、私のために来てくれたんでしょ? ……ありがと」

 「お、おう……おまえに何かあったらニルアナさんに申し訳ないし、カケルにも、な」

 「ビーン……って、こうしちゃいられないわ! 子供達を!」

 いい雰囲気だと思っていたが、当のアンリエッタに破られた。

 「サンはアンリエッタちゃん達と一緒に子供を馬車に運んで、私はみんなを追うわ」

 「……だ、大丈夫ですか?」

 「回復は欲しいけどこっちにも人手がいるし背に腹は代えられないわ、終わったら追ってきて」

 「……はい、すぐ追いつきます」

 コクリと頷くサンを見てコトハが走り出した。


 「じゃ、じゃあ、子供達を馬車へ!」

 「……そうですね! でも数が多い……」

 サンがうーん、と子供を抱っこし、近くまで連れてきた馬車へ連れて行こうとすると、はあはあと息を切らせた大きな人影が現れた。

 「……! だ、誰です!?」

 まだ仲間がいた、と、心臓がドクンとはねさせ、子供を片手に杖を構えて後ずさるサン。すると、大きな人影は頭を掻きながら口を開いた。

 「はあ……ふう……おう、驚かせちまったか……俺は敵じゃねぇ。子供を助けてんのか? 手伝ってやる」

 大きな人影は全力で走ってきたフェルゼンだった。




 ◆ ◇ ◆



 「さあ、観念するんだ」

 「ぐぎぎ……あ!」

 アル達の後ろを指差して声をあげ、後ろを振り返り逃げようとするパンドス。だが、アルとペリッティがそんな手に引っかかるはずはなかった。

 「逃がすわけないでしょ。五体満足で捕えられたし、先代も無事。これで何とか騒動は片付きそうね」

 「ですね。まさか伝説の暗殺者と仕事をすることになるとは思いませんでしたが……」

 「昔の話よ。今はしがないただのメイド……さ、戻りましょう」

 「いたた!? くそ、ゴーレムに魔力を使ってなければお前等など……! うがが!?」

 もがくパンドスに、ペリッティが腕を捻り上げると大人しくなった。

 「ニド達はうまくやったかな?」

 海底洞窟の入り口へ向かおうと振り向こうとした瞬間、後頭部に衝撃を受けアルが地面に倒れ込む。もちろん倒したのはゴルヘックスだ。

 「君! ぐ……!?」

 アルが倒れる音を聞いて振り返ると、ペリッティの腹に蹴りが飛んでくる。壁に叩きつけられ、パンドスが解放されると、襲撃者のゴルヘックスが走る速度を緩めず言い切った。

 「私はこのまま進む。捕まりたくなければ着いてくるんだ」

 「……礼は言わんぞ!」

 走り去る二人の後、すぐにグランツが追いついてくる。

 「アル、ペリッティさん!」

 「私は大丈夫。自分で飛んで蹴りの威力は殺したから。私のことはいいからそのまま追いかけなさい」

 「すいません!」

 ダダダと、速度を殺さず走るが、ギリギリ追いつけないくらいゴルヘックスは速かった。

 海底洞窟はシンプルな作りで、天井は高いが分岐なども無い。しばらく走っていると、様相が変わり、人口建造物……神殿のような場所へ出くわす。

 「エリアランドと同じか。となると、次に出てくるのは……」

 ニドが近くの彫像に目をやると、いくつか抜けているものがあった。その内、残っている彫像の目が光り動き出す。

 「やっぱりか、こいつらは侵入者を襲ってくる。恐らく何体か向こうに行ったんだ! ここは俺が引き受ける、グランツとエリンは先へ行け」

 「しかし……!」

 「剣の代わりにあいつが置いていった斧を使う! 封印を解かれたら俺達じゃ手に負えないのが出てくるかもしれん、あの時はカケルがいたから死にかけたヤツは助かったが、万が一トレーネちゃんが同じ状況になったら助かるとは限らん! 行け!」

 「くっ……死ぬなよニド、ドアール!」

 「ごめんなさい! 行きます!」

 キキキキ……!

 「へいへい、頑張りますよっと!」

 彫像の通路を走り抜けようとした二人の背後から彫像……ガーゴイルが襲いかかるが、ドアールがそれを剣で叩き落とす。

 「チッ、相変わらず固いな。ようニド、不慣れな武器で大丈夫か?」

 「大丈夫、問題ない。俺は斧にも適性があるんだよ!」

 ズバっ!

 グゲ!?

 まずは一匹。ニドの斧で首を刎ねられたガーゴイルが砂になって崩れた。その瞬間、その場の彫像全ての目が光った。

 「うへ、エリアランドよりもタチが悪くない?」

 「言うな。臨機応変に立ち回らないと冒険者などやってられん」

 「違いねぇ。いくぜ!」

 ニド&ドアールVSガーゴイルが激突する!
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