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第七章:常闇と魔王の真実編
第百七十一話 芙蓉の目的
しおりを挟む――月島 芙蓉――
俺が覚えているその女の子を初めて見たのは教祖である兄を殺した時だ。自宅にほぼ監禁に近い状態で発見し、当時はやせ細り、どんよりとした目をしていた。感情も何も無い、どす黒い目だった。
何故、そんなことを知っているのか?
……答えは簡単だ。
俺は教祖……月島 影人を兄妹の自宅で殺害したからに他ならない。標的は影人のみ。あの時の俺は人生などどうでも良いと思っていたな……
確か――15歳のころか――
「まさか、お前がレヴナントだったなんて……」
「驚くのも無理はないわよね。私もここであなたにまた会うとは思わなかったし」
フフ、と笑う芙蓉。そこにリファが疑問を口にした。
「カケルがレヴナント、いや、芙蓉でいいか?」
「ええ、それで大丈夫よ」
「分かった――芙蓉の兄をカケルが殺したのなら、カケルは罪を裁かれるのではないか? それに妹なら憎いと思ったりしなかったのか?」
リファは風呂でクロウと俺の会話を聞いているので疑問が浮かんだようだ。あの時は芙蓉に助けられたんだよな……。
「……あの男は私が大事だった。両親が早くに死んで、守ろうとしてくれていたの。でもいつしか、どこかで歪んで、私は家から出ることを止められ、監禁状態で過ごしていたわ。学校もほとんど行けていなかったわね。そんな生活が続き、私が17歳、あの男が29歳の時――」
「俺が教祖を殺した。その現場だった自宅をそこで出会った芙蓉と俺の手で、教祖の遺体と共に燃やしたんだ。色々とキナ臭い男だったし、関わった人間が俺の家族以外も亡くなっていることもあり、事故として片づけられたよ。損傷が激しかったせいで刺し傷とかも分からない状態だったしな」
まあ、その後いろいろと危ないことにはなったが……
「そして私は施設へ入り、カケルさんは元の生活へと戻ったの。あの男が死んで、私は自由になれた! そう思ったんだけど……それから一年くらいかな? この世界へと招かれたの。私は良い意味だと溺愛されていたけど……あ、そうそう、リファさんのお兄さんみたいな感じね。そうならないとも限らないから気を付けてね?」
「う、い、嫌な汗が出る……」
思い当たるふしがあるのか、リファはガクリと肩を落とす。その横で師匠がため息を吐いた。
「うーむ、それで300年前から生きておるのか? 中々過酷じゃのう……こっちへ来るまで、二人は交流はあったのかの?」
「最初の数か月はお互い様子を見に行ったりしていたんだけどな。でもさっきまでまったく思い出せなかった」
師匠が唸り、俺がそう言うと、芙蓉が口を開いた。
「多分あの世界で私は『居なかった』ことにされたんだと思う。だから記憶からどんどん私に関して薄れていく。そんな感じじゃないかしら。ま、そういうことでカケルさんは公に犯罪者では無かったの」
と、芙蓉がうまいことまとめてくれた。そしてクロウがさきほどの話へと戻していく。
「300年前からヘルーガ教があったんだね。デヴァイン教は活動していなかったのか?」
「デヴァイン教は、エアモルベーゼを封印してから作られたから残念だけど、活躍はしていないわ。まあ作ったのは私だし?」
「うえ!?」
「教祖様」
クロウが驚き、アニスが拍手をするが、芙蓉はアニスの頬を引っ張りながら口を尖らせた。
「教祖って響きはあの男を思い出すからやめてねーアニスちゃん? あら柔らかいほっぺ」
「むーごめんなさい」
むにむにと頬をひとしきり触った後、芙蓉が続ける。
「で、肝心の本題だけど、私はエアモルベーゼがアウロラに成り代わっていると言ったわよね」
「そうですね」
ティリアがコクンと頷くと、芙蓉も頷く。
「となると、今封印されているエアモルベーゼは何なのか? ってことにならない?」
「確かにそうだね。ボクもさっきの話、気になっていたんだ。しっかり封印はされているよね? 破壊神の力が封印されているし、あいつらも解こうとしているよね。神託があるってヘルーガ教が言っていたし、意味がわからないよね。それに本物のアウロラ様はどこにいるんだろう」
ルルカが腰に手を当てて首を傾げる。
「うん。だから、趣向を変えて攻めてみようかなって。無理矢理この国に来たのもそれが目的で、ここの封印を解いて、破壊神の力に話を聞いてみたいの」
「え!? 封印を解くんですか! あの……エリアランドで、魔王が三人居て死にかけましたけど……」
ティリアがえへへ、と冷や汗を流しながら芙蓉の肩に手を置いた。だが、芙蓉はあっさりと言い放つ。
「そこは血を一滴とかにすればかなり弱くなるから。後、ここに封印されている破壊神の力を持つ人はちょっと変わってるから一番話しやすいの」
「そ、そうなんですか……? だ、大丈夫でしょうか……」
話が通じる、そんなやつがいるのか……エアモルベーゼ万歳! 人類抹殺! みたいなやつらばかりじゃないのか? いや、別に人類を抹殺するとかまでは言っていなかったか?
「元々行くつもりだったんだ、それは問題ない。ただ、クロウをどうするか、だな」
「僕? どうしてだい?」
「いや、お前、魔王……いや、芙蓉、闇の通り名は何だったんだ?」
「ん? えーっと……当時は『闇の守り手』だったかな? 私とその子だけ女の子だったんだけどね」
「魔王の方が分かりやすいから通り名はいいよ……それで、問題は?」
あまりお気に召さなかったクロウが再度聞いてくる。
「封印を解くまではいいんだが、その後だよ。魔王の力を返すにしても、この国に残らないと探せないだろ?」
「……あ!?」
クロウはすぐに元の魔王へ返還するつもりだったようだが、行方不明でさらに生きているかどうかも分からない。戻ってこないと仮定したとしても、変なヤツに力を譲渡するわけにもいかないだろう。
「ぬぐぐ……ドルバッグさんに急いでもらわないと……!!」
「それじゃ、ミリティアさんが派遣してくれた冒険者達がきたら封印へ向かおう」
「うむ。今まで後手じゃったが、ようやく攻めれるかのう」
師匠が呟き、ニヤリと笑う。自然と居るけど、別についてこなくてもいい――
ゴツン!
「あいた!?」
「今、いらんこと考えておったろ?」
「……!? そんなことはないぞ」
「あーカケルさんは嘘つくと眉がぴくって動くから」
「嘘!?」
「嘘♪」
べ、っと舌をだし笑う芙蓉。俺は何となく笑みがこぼれる。
恐らく同郷の人間がいて安心していたにであろう。それが気に食わないのか、師匠はブスッとして俺の腕をつかんで引っ張る。
「よし、こっちで話しあおうな?」
「そっちはベッドだろ!? こら、やめろ!? アニスもいるんだぞ!?」
「ドキドキ」
「結局騒がしいのか……さっきまでの緊張はなんだったのか……」
リファが呆れてながらも笑い、ティリアが言う。
「ヘタに気負うより、楽にしていた方がいいかもしれません。世界のマナが枯渇している原因、それももしかしたらその謎にも辿り着けるかもしれません」
――そして、その夜はドルバッグさんのはからいで豪勢な食事とお風呂、ベッドが用意され、俺は今、チャー
さんとベッドに寝転がっている。
すると――
「……ようやく静かになったな……」
今までまったく喋っていなかったチャーさんが、ものすごく疲れた声で呟いた。流石にイグニスタとの戦いで疲れていたのか、俺もチャーさんもすぐ眠りにつく。
明日は……何を……
むにゃむにゃとまどろんでいる時、今更のようにあることを思い出した!
「ファライディ! あいつどうしてるんだっけ!?」
「吾輩眠いから静かにしてくれ……」
「あ、すまん」
明日でいいか。
俺は思い直して、即、眠りについた。
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