俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

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第七章:常闇と魔王の真実編

第百八十五話 暴走

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 「今は……10時過ぎか、もう城を出てから一時間経ったのか。他に行きたいところはあるか?」

 公園に辿り着いた俺達は、大きな木が立っている木陰に座り、休憩していた。雑多な買い物はグランツやトレーネ達と生誕祭前に行ったのを思い出す。
 結婚じゃなんやはちょっと申し訳ないが、いつも頑張ってくれているお礼はしておきたいかな? そう思って先程のセリフを言ってみたのだ。


 「私はみんなに着いて行きますよ! あ、でも、お昼ご飯はデザートがあるお店がいいです」

 「わしは服が見たいかのう。船旅で少し痛んでおるし、荷物になるからあまり持っておらんのだ。カケルのカバンならたくさん入るじゃろうし、今後、戦闘すると考えて身動きがしやすいのをいくつか買っておきたい」

 食い気のティリアに身だしなみの師匠。そこへルルカが割って入る。

 「んー、ボクは本屋さんと、武器屋さんかな? 新しいロッドがそろそろ欲しいかも」

 「武器屋か……それもいいな。俺も槍を貰ってからずっと使っているけど、他の武器もみたいし、防具も欲しいな」

 俺がそう言うと、リファが俺の剣を指差しながら話しかけてくる。

 「その剣、鍛冶屋に持って行ってたらどうだ? 錆びていても結構強いし、磨けば光るんじゃないか?」

 「お、それもそうだな! 芙蓉は?」

 「私は特に行きたい所もないし、ティリアさんと一緒でお任せでいいわ」

 「そっか。何か悪いな」

 「こうやってゆっくり過ごせるだけでも楽しいから大丈夫よ♪ この後、こういう時間がとれるかは分からないしね」

 全ての戦いは終わっていないと、暗に言う芙蓉。今のところは順調だし、何とかなると思いたい。

 「それじゃ、まずは武器屋からだな。で、鍛冶屋で武器を預けて昼飯の流れでどうだ?」

 俺の提案で異論はないと、武器屋へ向かうため公園を後にする。

 そして武器屋――

 
 「結構、お高めだったけどいいの? 」

 「珍しいロッドだったみたいだし、8万セラならいいんじゃないか? というか、ベアグラートから貰っているお金もあるし大丈夫だろ。それに見ろ」

 俺が指さす先にはリファと師匠がはしゃぐ姿があった。

 「むむむ……この剣、獣人の国でのみ採れるグノシス鉱石で出来た剣か……12万セラ……手持ちは15万……そろそろ国へ帰るからここで散財しても……」

 「魔法効果のある指輪がいいのう。カケル、わしはこれがいい。魔力増幅の宝石が入っておる!」
 
 「リファはともかく、師匠は俺に買わせる気満々だぞ? まあ高くは無いけど……おい、リファ、半分なら出してやるぞ」

 「ほ、本当か!? 店主、これを頼む!」

 「毎度! お嬢さんの剣は下取りしますか?」

 「いや、これはウチへ持って帰るんだ。カケル、いいかな?」

 即決だった。狸親父……もとい狸獣人の店主へ二人の代金を支払い、ホクホク顔のリファが俺の前の剣をカバンに入れてくれと頼んで来ていた。他の二人は何か要るかな? と思っていると、何やら二人で苦笑いしながら会話をしていた。

 「ティリアさんのローブは私のおさがりだからねえ……新しいの買うか作る? 流石に今ならもっといい魔法装備あると思うの」

 「これ、丈夫ですしデザインも好きですよ? あまり体力が無いから軽い方がいいですし」

 「そう?」

 「二人は何か要らないのか?」

 俺が聞くと、芙蓉は船に帰ればレヴナントとして活動していた装備なんかがあるからとお断りされ、ティリアも魔王として先代から受け継いだロッドとローブは店売りのより強力だからとこちらも拒否。

 「あの三人は買ってるから二人に無しってのもあれか。この髪飾りなんてどうだ? 鳥類の羽っぽくてティリアに似合うんじゃないか?」

 「鳥類って……あ、かわいいですね! いいんですか?」

 「もちろんだ。芙蓉は?」

 「そういうことしてるからモテるんじゃないの? 私はまたにするわ」

 「分かった。遠慮はしなくていいからな?」

 で、俺はいつも着ているマウンテンパーカーの下に、軽くて丈夫だという胸当てを買った。頭からかぶるタイプのもので、肩とかには金具が無いので腕を振りやすいのが気にいった。

 「……クロウとアニスにも買っておくか。チャーさんは……いいか」

 猫だし。


 と、二人にプレゼントするものを買った後は武器屋を出て鍛冶屋へ――


 「錆び落としだな? 預かっておくよ。夕方には取りに来てくれ……しかし錆びているのにすげえ圧を感じるな……」

 熊っぽい獣人がフェルゼン師匠から預かった剣を持って喉を鳴らす。伊達に魔王が持っていた剣ではないということか。結構な業物のようだ。

 さて、二件回っていざスマホを見ると、何気に2時間半経っていることに気付く。

 「腹が減る訳だ……それじゃ飯屋に行こうぜ」

 「そうじゃな。少し住民からおすすめがないか聞いたところ、この先の路地を抜けたところに良い店があるそうじゃ」

 「へえ、いつの間に聞いたんだ? ならそっちへ行ってみるか」

 「是非……」

 師匠が得意気に言うので、俺達は路地へと足を運ぶ。どうやら居住区のようで、家が密集しているようだ。すれ違うのがギリギリな道幅で、結構入り組んでいる。

 「大丈夫だと思うけど、はぐれるなよ?」

 と、後ろを振り返ると――

 「あれ? 師匠だけ!?」

 俺の後ろには師匠しかおらず、声をあげると、なぜか悪い顔をした師匠がチラリと振り返り、口を開く。

 「おや、本当じゃのう(棒) 仕方ない、わしらは先に行くか。すぐそこじゃからわかるじゃろ」

 「……大丈夫かな? まあ、探しに行って迷うよりはいいか」

 「ふほほ」

 「ん?」

 「なんでもないわい。さ、ゆくぞ」

 横に師匠がつき、てくてくと歩く。5分ほど歩くと、師匠がある建物の前で立ち止まり俺の腕を掴んだ。

 「ここじゃ! さあ先に入って待つのじゃ!」

 「ちょ、ちょっと待て!? 中に入ったら分からないだろう?」

 「それでいいのじゃ! はよう!」

 「ええー……ハッ!?」

 引きずり込まれる俺が、店の看板に気付く。そこにはなんと――


 『逢引きの宿:ハッピーヘヴン』

 と、書かれていた。

 これは――!?

 「ホテルじゃねぇか!? それも割とエッチな! え、こんなのあるの!? 異世界に!?」

 「ええい、大人しく行くのじゃ! そしてわしを大人にするのじゃ!」

 「別にうまくねぇからな!?」

 くっ、力強っ!? ずるずると引きずり込まれそうになったところで、声がかかる!

 「はあ! はあ……! い、居たー!! メリーヌさんずるいよ! わざとはぐれるように誘導したね!」

 「チィ……! 見つかったか、後少しのところで……!!」

 叫んだのは息を切らせて走ってきたルルカだった。ふう、今回ばかりは助かった。

 「たまに大胆なことをする……油断ならないお人だ……」

 リファが呆れながら師匠を拘束する。

 「ったく、師匠はかわいいと思うけど、師匠だからな?」

 「くう、いつか必ず……! このために情報収集を怠らんかったと言うのに……!!」

 血の涙を流しながら謎の努力を暴露する師匠が、リファとルルカに両脇を抑えられた。

 「それじゃ、今度こそ行く――」

 「『隠匿』」

 「あれ? カケルさんは?」

 「え、今そこの角を曲がったよね? 追いかけないと!(棒)」

 「あれ? 気づかなかった! ちょっとカケルさん! 待ってよー」

 「キリキリ歩いてください」

 「ぬう、口惜しい……」

 「あ、待ってくださいよー」

 「行ってらっしゃいー♪ …………『露見』!」

 「うわ!? 芙蓉、お前スキルを使ったな!? 声かけていたのに全然聞こえていなかったぞ!」

 「んっふっふ。このスキルの効果は……とりあえず脇に置いといて……さ、入りましょう!」

 「なにぃ!?」

 今度は芙蓉が俺をいかがわしい宿へ連れ込もうとしていた!

 「何故なんだ!?」

 「二人きりで話したいことがあるのよ。ここなら(多分)防音だし、二人きりでも怪しくない……」

 「違う意味で怪しいけどな! ええい、あいつらが気付くまで耐えてみせる……!」

 「は・や・く……!」

 宿の前でぐぐぐ……と、力を入れあっていると、やはりというかルルカが帰ってきてくれた!

 「あー! やっぱり! ちょっと同じ世界出身だからって見過ごせないよ! ほら、お嬢様、リファ手伝って!」

 「ああー……」

 4対1になり、あっさり引きはがされる芙蓉。そこへ間髪入れずにルルカのお怒りが炸裂した。

 「そういう騙すような真似はダメ! 絶対! ボクだって我慢してるんだから!」

 我慢してるのか。嫌なこと聞いちゃったな……

 女性陣がわいわい騒いでいると、突然怒鳴り声が聞こえてきた。

 「あんたら! 入るのか入らないのかどっちかにしろ! 営業妨害だぞ!」
 
 顔の赤いくまどり……きっと猿の獣人だなという感じの男がマジギレだった。よく見れば周りに人も集まっていた。

 (昼間からお盛んね)

 (一人であの人数を? すごい男ね……)

 (そういえば城から出てきたのを見たぞ、城を救ってくれた人達じゃないか?)

 (マジ? 力も凄いけど性欲もすごいんだな……羨ましいぜ……)

 女性陣には聞こえていたらしく、顔を真っ赤にして黙り込んだ。流石に見知らぬ人達にひそひそされるのは勘弁といったところか。

 仕方ない――

 「んーコホン! 店の主人ですかね? ウチのメンバーが申し訳ない。ちょっと頭を冷やすからここは去ることにするよ」

 「ああ、それならそれでいい。さっさと頼むぜ……」

 「すまない。また来るよ」

 それを聞いて、ため息を吐きながら猿獣人が中へ入るのを見届け俺はみんなに移動するよう促す。これでいい。

 しかし――

 (また来るってよ。やっぱきれいどころをはべらせている奴は違うな……)

 最後の一言は余計だったー!?

 結局、全員、肩を落としながら飯屋へ向かった……
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