俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
195 / 253
第八章:エスペランサ動乱編

第百八十七話 手段の確認

しおりを挟む

 【ガウ(旦那、そろそろ船着き場へ到着しますぜ。あれですよね?)】

 ファライディがそういうので、眼下を見てみると確かに芙蓉の船があった。近くにはシュピーゲルの町も見える。経過をミリティアさんへ報告しておくべきかな?

 「ユニオンに報告しておいた方がいいと思うか?」

 みんなにも意見を聞いてみようと、振り返って尋ねてみた。

 「このまま出発でもいいと思うわ。ベアグラートさんから通達をしてくれるって言ってたし、悪気はないとはいえ、このドラゴンは町を襲っている犯人だし、余計な不安は煽らない方がいいわね」

 「そうじゃな。国王も戻ったんじゃ、後はこの国の者に任せていいと思うわい」

 「国とユニオンはそういうものだから、カケルは気にしなくていいと思う」

 芙蓉と師匠はあっさりとそう言い放ち、リファも同意見のようだった。まあ確かに報告したところであまり変わらないか。

 「よし、ファライディ、あの中で一番大きい船の甲板へ降りてくれ!」

 【ガウガウー(OKですー!)】

 「この後はどうするんですか? ファライディさんに乗ってエスペランサまで?」

 「そこはこの後、相談だな。距離が分からないからファライディにずっと飛んでもらう訳にもいかないだろ?」

 「確かにそうだね。ボクは船旅でもいいから大丈夫だよ」

 俺達はひとまず芙蓉の船へと降り立った。




 ◆ ◇ ◆



 <アドベンチャラーズユニオン・シュピーゲルの町支店>


 「さあ、魔王様達を歓迎する準備はできてる? いつ来てもいいようにね!」

 「はりきってますねマスター」

 「もちろんよ! 私が魔王様に依頼してからこの短期間で事態を収束させてくれたのよ? 手厚く歓迎しないとバチが当たるわ。フフフ……それにあの新しい魔王様、私好みだったしお酒の勢いで……フフフ……」

 「(マスター、発情期だっけ?)」

 「(受付が言ってたけどそうらしいわ……兄上のベアグラート様が無事で安心したせいか、一気にきちまったみてぇだな)」

 「(いい女なんだけどな、マスター。発情期中はマジでダメ獣人になるからなあ……)」

 「(ま、新しい魔王様に任せようや)」


 「さあ! カモン! カケル様!!」


 しかし、この後、カケル達一行が現れることは無かった――



 ◆ ◇ ◆


 「戻ったわよー」

 「お頭、おかえりなさい! ……って、変装はもうやめたんですか」

 ドラゴンを警戒して甲板に武器を持った乗組員がずらりと集まり、俺達を迎えてくれた。攻撃されなかったのは、途中で芙蓉が身を乗り出して大声で呼びかけてくれたからに他ならない。

 「一応、予定通り正体を明かしたから必要無くなったの。次の目的地はこちら、リファル姫の故郷”エスペランサ”よ!」

 ずいっと芙蓉がリファを前に出し笑顔で叫ぶと、乗組員が『うおおお!』と、歓声を上げた。そこでリファが俺の後ろに隠れて、抗議の声を出す。

 「は、恥ずかしいじゃないか!? いきなりどうしたんだ!」

 「いいじゃない、本当のことだし。さ、みんな持ち場へ戻って! 私達はこれから作戦会議に入るわ」

 『アイアイサー!』

 芙蓉がパンパンと手を叩くと、船員が散っていく。

 「それじゃ、娯楽室へ行きましょう♪」

 
 芙蓉に言われ、俺達は娯楽室へ向かい、芙蓉は後から行くね、と途中で分かれた。しばらく娯楽室でチャーさんと遊んでいると芙蓉がやってきて、話しあいが始まる。


 「一旦アウグゼストを経由して、ファライディで向かうか?」

 「あそこからでも結構距離あるし、途中小さい島もないから休憩できないと思うよ? 人数が多いから速度も出ないと思うし」

 地図を見ながらリファとルルカが言い、ティリアがそれに混ざる。

 「それとも二手に分かれますか? ファライディさんに全員乗るのは止めて、船とファライディさんというのはどうです?」

 「いや、戦力を分散するのは危ないじゃろうな。特にカケルは何者かに狙われておる。その時、足りませんでしたでは後悔が残る」

 師匠がティリアに反論をすると、爺さんが頷いた。

 「メリーヌの言う通り。ドラゴンの速度は魅力的じゃが、復活しているわしの同僚と鉢合わせにならんとも限らん」

 「だな。芙蓉には悪いが、また世話になる」

 「問題ナッシング! ファライディはちょっと窮屈かもしれないけど、船旅で行きましょう」

 「僕達はついていくだけだからいいけどね……ふっ……ふっ……」

 「うん」

 「吾輩もお主らにお任せで良い」

 何故か娯楽室のスミでチャーさんを抱っこしたアニスを背負ってスクワットをしているクロウ達が口を揃えていた。
 向こうにはグランツ達もいるが、少し待ってもらうとしよう……それよりも今は、だ。


 「――で、どうしてお前はそんな恰好をしているんだ……?」

 「え? もう正体を明かしたからいいかなと思って! 久しぶりに着たのよこの学生服! 読者サービスも必要だよね」

 あー、こっちに来たのはその歳くらいなのか……確かにこういう学生服があった覚えはある。そして似合っているのも分かる。だが――

 「ははは! お前、もう300歳越えてるんだろ? 師匠より年上なのに、読者サービスとか意味分からないし、それにそんな足を出して大丈ぶげら!?」

 「言っちゃいけないことを言ったわね……?」

 俺の顔が前方から飛んできたナックルでへこみ、ユラリと芙蓉が立ちあがるのがチラリと見えた。ペキペキと指を鳴らす音が響く中、俺は『こいつ勇者の力が無くても十分強いよな』と思いながら気を失った。



 ◆ ◇ ◆



 「ストップ! すとーっぷ! 芙蓉さん! もうカケルさん気絶してるから」

 「な、何をするか分かんないけどそれ以上はダメだから!」

 「ティリアさん、ルルカさん。大丈夫、この人は回復能力が高いから、腕の一本や二本……」

 ふしゅーと息を吐く芙蓉を止めるティリアとルルカ。メリーヌが慌ててカケルを逃がすため抱きかかえようとしたその時、むくりとカケルが起き上がった。

 「お、おお……大丈夫かカケル! 鼻血を拭くのじゃ」

 「ありがとうございます、メリーヌ様。大丈夫です」

 「メリーヌ様……? お主カケルではないな……何者じゃ」

 不信な目を向けながらカケルの鼻血を拭くメリーヌ。メリーヌとは対称的に、ティリアと芙蓉は目の前にいるのがナルレアだと言うことに気付いた。

 「あら、ナルレアさん?」

 「はい、レヴナント様改め、芙蓉様。カケル様が気絶したので、出てきました。そろそろ例の件、実行に移そうかと思います」

 ナルレアが芙蓉へ微笑むと、ウェスティリアが前へ出てぺこりと頭を下げた。

 「エリアランドではありがとうございました!」

 「いえ、何とかなって良かったです。ルルカ様もリファ様もカケル様を通していつも見させていただいております」

 「ふえ!? ボク達!? ま、まあ話は聞いていたから大丈夫だけど、目の当たりにするとびっくりするよね」

 「あの時死なずにすんだのはあなたのおかげだと聞いている。ありがとう、これからもよろしく頼む」

 ルルカとリファが握手をし、遠巻きに見ていたクロウが会釈する。そこに芙蓉がナルレアへ尋ねた。

 「例の件ね。一応カバンに入れていたんじゃないの? いざという時のために」

 「ええ。ですが、今回はフェアレイター様が良い方でしたので出番はありませんでした。次の戦いに備えて、練習をしておこうと思いましてね」

 「そういうこと。船で一番広いところは甲板だから、そこでやりましょうか」

 「あ、あの、芙蓉さん……一体何の話をしているんでしょうか……?」

 「ん? ああ、ナルレアさんはカケルさんのナビゲーターなんだけど、強いでしょ? だからゴーレムに近い感じの肉体を作って、その中に移動できるようにしたいんだって。で、造形ができる船員がいたから、外回りはその人に作ってもらって、後は移動できるか実験が必要なのよ」

 それに食いついたのはルルカだった。

 「人口生命体! 錬金術的なやつ! ちょっとボクを差し置いて面白そうなことをしないでほしいなー。もちろん参加していいんだよね?」

 「そうねー失敗してもカケルさんが燃え尽きるだけだろうし、いいんじゃない? それじゃ行きましょ♪」

 「おー!」

 ナルレアと芙蓉、ハイテンションになったルルカが甲板へ向かう。それを見送ったウェスティリアがぼそりと呟いた。

 「まだ怒ってた……」

 「みたいだな。怒らせない方が良さそうだ、へそを曲げたら船から落されるかも……」

 リファがしみじみ返答していた。
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

処理中です...