204 / 253
第八章:エスペランサ動乱編
第百九十六話 変貌を遂げる
しおりを挟む「さて、随分楽しませてもらった。私はそろそろお暇させてもらうとしよう。戻れ"#獄潰”」
影人がトレーネに向かって手を翳すと、刺さっていた刀が手元に戻る。そしてそのまま芙蓉の元へと近づいて行った。
「くっ……動かない……!」
「ようやく、お前とまた暮らせるようになるな。嬉しいよ、芙蓉」
「誰があんた……なんかと……か、カケルさんを解放してみんなを治療させなさい……」
「芙蓉の頼みでもこればかりは聞けないな。もっと彼に絶望を味わってもらわなければならないからね。ん?」
「ごほ……」
ルルカが倒れたまま血を吐いたことに気づき、影人は刀をゆっくり持ち上げる。
「何を……!?」
「なあに、トドメさ。もう用は無いし、痛い思いをさせておくのも可哀相だろう? 介錯と言うやつだ」
「や、止めなさい!」
「首を落とせば終わりかな」
芙蓉の言葉に聞く耳を持たず、刀を振り降ろそうとしたその時だった!
「≪凍れる葬送の棺≫」
パキパキ……ピキィン……
ガキン!
「何!?」
影人が振り降ろした刀は氷漬けになったルルカに阻まれた。直後、リファとメリーヌ、トレーネも文字通り棺のような氷に包まれていた。
「≪黒の大牙≫!」
「≪炎塊≫」
「つぉぉぉりゃぁ!」
<はあ!!>
「チッ!」
人質が居ないならとクロウとアニスが魔法を放ち、フェアレイターが俊足で影人に迫る。フェアレイターとナルレアが影人と交錯した瞬間、フェルゼンの剣が影人のを狙う!
「こっちにもいるぜ!」
「人質が居なくなったくらいでいい気になるんじゃないよ」
「ぬう!?」
「やるじゃねぇか!?」
<この男……強いですね……! 慣れない体とはいえ、レベルに換算すると400はあるのに……>
三人の猛攻を回避し、ナルレア、フェアレイター、フェルゼンを弾き飛ばし芙蓉を抱えて距離を取る。
「師匠が力負けした!? あの男、一体なんなんだ……!」
グランツも攻撃に参加しようとしたが、一瞬背筋が寒くなり立ちどまると、影人がニヤリと笑う。
「へえ、いい勘をしているな、君。後一歩踏み込んでいたら胴体から真っ二つだったんだが……それはともかく、私の邪魔をしたのは誰かね?」
影人がそう言った次の瞬間、水の刃が頭上から降ってきた。
「きゃあ!?」
動けない芙蓉が悲鳴をあげ、影人が刀で刃を弾く。
「当たるものか。……こっちもだ」
水の刃を避けた後、刃に紛れて小さな影が影人を攻撃する。だが、それを難なく躱す。すると、攻撃していた人影が距離を取る。そこへもう一つ影がメリーヌの開けた穴から現れた。
「これ、しっかり狙わぬか」
「これでも無理してんだよ! アタシの力を極小に復活させたのはどこのだれだったかねぇ!」
一人は水色の長い髪を後ろ束ね、ドレスのような着物を羽織った目の赤い女性。もう一人はコバルトブルーに近いショートカットの女の子だった。その女の子がフェアレイターに気付き、手を上げて挨拶をする。
「お、フェアレイター翁じゃん! 久しぶり!」
「お前はネーベルではないか! 復活しておったのか。そっちは『水氷の魔王』かの?」
「いかにも。わらわは『水氷の魔王』ラヴィーネ。すまぬ、わらわの余地でここで良くないことが起こることはしっておったのだが、少し遅かった。すまぬ。娘達は氷の棺に閉じ込めたからかろうじて生きておる。ただ、相当なレベルの回復魔法が無ければ戻ってすぐに即死じゃろう」
ラヴィーネは影人から目を離さずその場に居る者に告げると、影人がため息をついて肩を竦める。
「なるほど、魔王ね。どうして破壊神の力と一緒にいるんだね? ……ま、それはいいか。どちらにせよ私は目的を果たした。そこにいる男を廃人にしたから満足だ。だから、君達は殺さないでいてあげるよ」
ピュー
動かないカケルに微笑みかけ、影人が口笛を吹くと、天井が破壊されてそこからある男が空を飛びつつ降りてきた。
「あいつ……アウグゼストから逃げた、大司教ガリウスじゃないか!?」
クロウが叫ぶと、ガリウスがクロウに目を向け口を開く。そして、その後ろに縛られたギルドラを見て鼻を鳴らした。
「クロウ神官か、久しぶりだな。それにギルドラもいるのか? ……まあいい、お迎えに上がりました教祖」
「ありがとう。二人分だけど大丈夫かい?」
「魔法で浮かしますので。ギルドラ、ヘルーガ教へ戻ってくるか? 連れて行ってやってもいいぞ」
「……」
「無言は否定ととるぞ。では行きましょう」
ふわりと、影人とガリウス、そして抱えた芙蓉が浮きはじめると、フェルゼンがジャンプをして斬りかかる。
「逃がすかよ! エリン!」
「はい!」
「力の差は見せたと思ったが、懲りないな。『激動の乱風』!」
「ぐあ!?」
ズダーン、と刀から発生した風に押し返され、床に叩きつけられるフェルゼン。エリンの矢も届かず地面に落ちてしまった。
「師匠!?」
「はっはっは。さようならだ。もう会うことも無いだろう、カケル君」
グワッ……
ゾクリ……影人がカケルの名を呼んだ瞬間、とんでもない魔力が周囲に展開され、その場にいた全員が寒気を覚える。
ゆらり、とカケルが一歩前へ、歩き出す。
「……魔法が解けたのか? しかし、もう遅い」
「な、なんですか……このとんでもない恐怖感は……」
ティリアが唇を震わせ――
「あ、ああ……」
エリンがその場にへたり込み――
「まずい!? おい、土刻の! カケルを正気に戻すぞ!」
「お、おう! カケル! どうした! 娘達は大丈夫だ、お前が回復してやれば!」
どん!
カケルは肩を掴んできたフェアレイターとフェルゼンを押しのけて尚も進む。
「か、カケルさん! ……う!?」
グランツが道を塞ぐが、目線は影人を向いたままで、グランツは眼中に無かった。赤い目のカケルはグランツを押しのけ――
「おおおおおおおおおおおお!!」
咆哮を放った。
ゴゴゴゴゴゴ……
「大気が震えている!?」
チャーさんがアニスの肩に飛び乗った直後、カケルは一瞬で影人の目の前に跳躍していた。
「な!?」
ガゴン! 強力な拳骨が影人の後頭部を捉え、地面に叩きつけた。カケルは芙蓉をキャッチし、地面に降ろすとさらに攻撃を続ける。
先ほどまで有利だった影人がカケルにいいように殴られていた。
「ぐは!? な、何だと!? こんなはずは……!? 私のレベルは700を越えているんだぞ! ごふ!?」
「教祖!」
「貴様モ、ジャマヲ、スルカ」
ドン!
助けに入ったガリウスに裏拳が入り、柱まで吹き飛ぶ。影人がその隙にカケルへ背中から刀で斬りつけた。刃は硬から心臓付近まで達し、血しぶきがあがる。
「ふー……ふー……は、はは……ははははは! 調子に乗っていたがそれみたことか! 後少し力を加えたらお前の心臓は――」
グシャ……
言い終わるより早く、カケルの拳が顔面に刺さる。そしてそのまま魔力を収束させる。
「≪ジゴクノゴウカ≫」
「ひっ……!?」
キュボ……!
間一髪、影人がしゃがんで顔面に炸裂するはずだった魔法は城の壁をぶち破り、空の彼方へと消えた。しかし、開けた穴の大きさは、レリクスの城から脱出する時に開けたものより、2倍は大きかった。
「な、何だ、何なんだこいつ……! 傷が塞がっていく……!? それに、つ、強すぎる!? 私がガードすらできないなんてことがあるわけが……!」
「がああああああああ!」
「う、うお……!?」
刀で応戦するが、大人と子供の戦いかと間違えそうになるほど、戦力差は歴然としていた。味方であるフェアレイター達ですら、立ちすくむほどなのだ。
「ぐは!? ぐあああ!? こ、こんな話は聞いていないぞ……!? エアモルベーゼめ、どういうつもりだ!?」
防戦一辺倒になった影人が悲鳴に近い声をあげると、どこからともなく声が聞こえてきた――
『やっちゃったわねぇ、あなた』
「そ、その声はエアモルベーゼ!? どこだ! どこにいる!? こ、こいつを処分してくれ!」
血だらけになった影人が叫ぶと、エアモルベーゼがクスクスと笑い、言葉を放つ。
『それが残念。私は干渉できないのよ? 言わなかったかしら。それにカケルさんは……本物の魔王になったから私としては好都合なのよね♪ ……あは! あははははは!』
10
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る
がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。
その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。
爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。
爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。
『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』
人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。
『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』
諸事情により不定期更新になります。
完結まで頑張る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる