203 / 253
第八章:エスペランサ動乱編
第百九十五話 復讐者
しおりを挟むまずいまずいまずい!!
『生命の終焉』で目の前にいるルルカとリファの寿命を見ると、残り時間はわずかだと告げる赤い警告が頭上に出ていた。だが、まだ間にあう……! フードの男にかけられた魔法さえ何とかなれば……!!
「う、ごけぇぇぇぇぇ……!」
「無駄だ。一度かかればそう簡単には解けん」
「くそ! 芙蓉、ティリア! どうだ!」
クスリと微笑むローブ野郎を無視して、俺は芙蓉に話しかけるが、力ない言葉が返ってくる。
「だ、ダメ……全然動けないです……」
「勇者を拘束できるほどの魔力だなんて! く……ルルカさんとリファさんが……!」
ダメか……しかし、こいつは何者だ? 先ほどの口ぶりから、国王に嘘をついたのは間違いなくこいつだろう。
「お前は何者だ? 俺を狙う刺客ってやつか?」
「ほう、そこは気付いていたのか? 私が誰か、だと? 寂しいじゃないか、私を忘れるなんて……」
そう言ってバサっとフードを取り去った男。その素顔に、俺は……俺と芙蓉は驚愕する……!
「お前は!? 月島……月島 影人!?」
「勘が悪い方向で当たったわね……やっぱりカケルさんを狙う刺客はあんただったのね」
「『あんた』だなんて、他人行儀な言い方はやめてくれよ。私達は二人きりの兄妹じゃないか」
「私をあんな目に合わせておいて兄妹だなんて、反吐が出るわね」
ニヤニヤと笑いながら芙蓉と話すその男は紛れもなく、俺が向こうの世界で殺した月島だった。芙蓉は当時の思い出が蘇ったのか、強がりを言いながらも声は震えていた。そして、空気だったギルドラが口を開いた。
「あ、あなたは、教祖カゲト……!?」
「ああ、君は確かギルドラ君だったかな? 捕まって尚生き延びているとは滑稽だ。すぐその命を絶ってあげるよ。エアモルベーゼに捧げるんだろう?」
「ひっ……!?」
ギルドラが縛られたまま短く呻く声が聞こえた。罰は必要だが、それは死んで償うものじゃない。俺は注意を逸らす為、月島に話しかける。
「どうしてここに居るのかは分からないが、狙うなら俺だけにすればいいだろ? ルルカとリファは関係ない、回復させろ」
「させろ? うーん、どうやら立場が分かっていないようだね。私にとってはこれが都合がいいんだよ。そうそう、私が君に刺されたのはこの辺だったかな?」
ゾブリ……
やつの持つ武器……恐らくは刀か? それを、リファの脇腹へと突き刺すと、ぐりぐりと手を動かす。リファの体が一瞬、ビクンと跳ねた。
「リファル!? 貴様、ただでは済まさんぞ!」
「やめろ! お前の復讐相手は俺だろうが!!」
「ふん、動くなと言ったろうに!」
カンカン! ガギン!
「がは……!?」
「ジェイグ!」
リファのピンチに激高したジェイグが月島に襲いかかるが、数度剣を受けた後、簡単に弾き返した。
「うん、いい顔だ。私はそれが見たかった。それでこそ、娘達が君に好意を抱くよう仕組んだ甲斐があったというもの」
「どういうことだ! くそぉ! 動けってんだ!!」
「はははは! 無駄だよ! ……君のスキル構成は私がアウロラ……いや、エアモルベーゼに頼んで仕込んでもらったんだ。寿命を見る力、与える力、回復の力。……そして、女性に好かれる力だ」
俺のスキル効果を知っている!? そしてやはりあのアウロラはエアモルベーゼで確定か。
「『魔王のフェロモン』が、そのスキルって訳か……」
「へえ、もう視えるようになったんだ。中々早い」
パチパチと拍手をする月島が、言葉を続ける。こうなったらナルレアを使って俺を無理やりルルカ達のところへ分投げてもらうか……?
「そう、『魔王のフェロモン』君が助けた女の子は、知らず、君に惹かれるようになっているんだ。回復や寿命を分け与える、知識を与えたりすればその分好感度は上がる。後は近くに居るだけで徐々に上がっていく、だったかな? いやはや、私は『ゲーム』などやらないので、ちょっと難しかったよ。あの眼鏡をかけた子は何て言ったかな? あの子は成功だった」
そうか、トレーネが俺にべったりだったのはそのせいか! あいつは瀕死だったから、反動が大きかったに違いない。そして師匠には寿命を、ルルカにはスマホという引き金があった。言われてみればリファが口で言うほど寄って来ないのは、あいつに何かしてあげたことがないからだろう。せいぜい料理くらいか。
「しかし、あの娘を置いて、まさか一人旅をするとは思わなかったがね。だが、おかげで殺害対象が増えたから私は満足だ!」
「てめぇぇぇ!」
「ま、大人しくそこでこの娘達が死んでいくのを見るがいい。どうです国王? この男に関わったばかりに、大切な娘は死ぬのです!」
「ぐぬう! 手を下しているのは貴様だろう! であえ! こやつを生かして返すな!」
「何とでも。ああ、騎士達を呼んでも無駄ですよ、すでに始末は済んでますよ」
「何だと……!?」
そこまで言ってから、再度俺に向き直る。
「ようやく……ようやく、君に痛い目を見せることができた。感無量だ。私が死ぬ時、教団関係者にはいつか君を始末するよう言い伝えていたが、しっかり果たしてくれたよ」
「あのダンプ事故はお前が……!?」
「君が向こうで死んだ時の手段は知らないけど、エアモルベーゼから君が死に、ここへ送られたことは聞いていたがね」
「あの野郎もグルか、ならどうして俺にチート臭い能力をつけた?」
すると、月島に捕えられているルルカが呻き、俺はハッとする。
「う……う……」
「ルルカ! 回復魔法だ! お前は使えたはずだ! それで――」
俺が言い終わらない内に、月島はルルカの首を持って軽々と持ち上げる。
「そうはいかない。この娘は君の前でむごたらしく死ななきゃいけない。カケル君、君を傷つけるよりこうした方が私としては楽しくてね。ま、手を出していないのはいささか驚いたが」
スッ……と、刀をルルカの背中に向けた。
「!? ナルレア!」
<はい……!>
「遅い」
ドシュ……
月島の凶刃がルルカの背中から刺さり、胸へと突き抜けた。
<あああああ!!>
直後、ナルレアの猛攻が繰り出される。それを躱しながら、ルルカを俺に放り投げた。
「ほら、返すよ」
「ルルカ……!?」
「ご、め……カケ――さ、ん。足手――」
【ルルカ 寿命残 45秒】
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「無駄だ! そして!」
<はっ!>
月島が自身の刀をぶん投げた! ナルレアはその鋭い攻撃を身を翻して回避する。だが、それは罠だった。
ドッ!
「きゃあああああああ!? トレーネぇぇぇ!」
「嬢ちゃん!?」
「いかん、このままでは刃を抜く前に息絶えてしまう!」
「カ、カケ、ル……やっと、見つけ――」
「喋っちゃダメ」
「~!!! ~!!!」
ドサリと倒れる音が聞こえた。
さっきの悲鳴はエリン、倒れたのは……トレーネだろう……そしていつ合流したのか分からないが、爺さんとアニスの声も聞こえてきていた。
「お前……お前ぇぇぇぇ! 殺す……! 必ず殺してやる!」
「ふ、ふはははははは! いいぞ! そうだ! 絶望しろ! 私が見たかったのはその顔だ! 死んでいなければいくらでも再生できるのに、何もできずに死んでいく彼女達に詫びつづけるんだな! そのために豊富なスキルをくれてやったんだからな!! ははははははは!」
ブチン――
本当に愉快そうに笑う月島。その笑い声を聞いて、俺の中で何かが壊れた。
そうか……俺をそんなに苦しめたいか……母を追いつめ、姉ちゃんを殺し、今度はルルカ達を……
いいだろう、お前が寄越したスキルで、オマエヲ、コロシテヤル――
10
あなたにおすすめの小説
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる