推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!

寺原しんまる

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出会いから一か月後の二人2

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午前八時五十分少し前、浮田は営業二部の扉をくぐる。



 視界の先に西浦さんを見つけて心が安らぐ。彼女は今日も髪を一つに結わえている。それをシュシュというやつで飾り、赤ふち眼鏡を掛けているのだ。世の皆がコンタクトを愛用している中、西浦さんは「眼鏡派」だと公言していた。



 浮田は席に座って鞄を足下に置く。そしてスッと顔を上げると、チラッと西浦さんと目が合った。彼女はバッと目を逸らしたが、自分をいつもコッソリ見ているのを知っている。



 今日も頭の先から脚の先までファッションチェックが入っていた。その所為で、浮田は毎日コーディネートを頑張っている。コーディネートが西浦さんのお眼鏡にかなうと、彼女は満足そうに微笑む。もし下手を打つと、溜め息を吐かれるのだ。



 ――よ、良かった! 今日は合格なのだな……。



 西浦さんは少しきつめの性格のようで、同性の社員の中では浮いているようだ。しかし浮田は知っていた。彼女は真面目で人一倍頑張って仕事を覚え、あっという間に社内でも有数の事務処理能力を入社一年で手に入れ、今では営業部一のアシスタントだということを。



 一般事務職の子達は寿退社で直ぐに辞めてしまうと思っていたので、総合職の子達みたいに頑張る西浦さんを浮田は段々と気になりだした。もちろん、俺の理想の女王様像そのままだったのも大きいが……。



「浮田課長、課長から見て二時の方向の営業二部三課の佐々木さんが、熱視線を送ってますよ」



 ――ああ、まただ。佐々木さんってしつこいんだよ。



 浮田は女性が苦手というか女性と話すときにあがってしまう。その所為でこの歳まで独身だった。勿論、あの性癖も関係しているが……。



 外見が女性受けするので、引っ切りなしに告白はされる。しかし皆に女慣れしていると勘違いされているようで、付き合ってみれば不慣れな浮田の態度に絶望し、振られるを繰り返す。そのたびに傷つき、もっと女性が苦手になっていった。最近は女性が近づいてくると動悸までするから末期だ。



 そんな中でも西浦さんだけは違った。一般的な女性と違って、目をハートにして上目遣いで迫ってこない。一歩引いた冷めた態度で接してくる。どうやらそれにやられてしまったのかもしれない。あの冷めた目で眼鏡越しに睨まれたら……。



「本当に無理……」



 浮田は顔を下に向けて呟いた。きっと顔も赤いかもしれない。過去のいろいろな西浦さんの冷たい表情を、あれこれと思い出してしまったのだからしょうがない。そして下半身が少し反応してしまう。



 ――まただ、西浦さんが真っ赤な顔の俺を冷たい目で見ているじゃないか。



「西浦さん……、助けて!」



 ――あれ? ん? 西浦さんの顔が嬉しそうではないか。俺が困っている姿を見て興奮しているのか?



 西浦さんはあっという間に佐々木さんの件を解決していく。佐々木さんという障害を追いやった西浦さんは満足げに席に着いた。



「……西浦さんって凄いね。敏腕秘書って感じ」



 浮田は心底そう思ったが、西浦さんは冷たい表情で「別に」と返事する。またあの冷めた目で。



 ――そうだ、今日はお弁当を手作りしてきたのだ。少し多めに持って来たし、西浦さんと食べたい。けれどもどうやって誘えば良いのだろう。そう言えば今日は会議が……。



「浮田課長、今日は十時から会議があります……」



 浮田はこれは使えそうだと内心ほくそ笑んだ。



「西浦さん、悪いけれど会議のときに一緒に来てくれる?」



西浦さんの眉がピクリと上がる。彼女は忙しいと冷たく返事をしてきたが、ここで引き下がる訳にはいかない。押して駄目なら引いてみろ作戦で「今日は自分でやる。西浦さんに頼ってばかりでは駄目だ」と心にもないことを浮田は言ってみた。



 すると西浦さんが急に「手伝うと」返事をする。やはり昔からある言葉は事実が多い。押して駄目なら引いてみろ作戦は成功したようだ。
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