私がガチなのは内緒である

ありきた

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3章 一線を越えても止まらない

33話 最高の幸せ

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 学校から帰った私たちは、カバンを置いてスマホと財布をポーチに入れ、すぐさま再び家を出た。
 今日は7月7日、言わずと知れた七夕だ。
 住宅街の真ん中あたりにある公園で、自治体主催のお祭りが開かれている。
 この春に越して来たばかりだから詳しくないけど、聞くところによると毎年行われているらしい。

「お祭りってワクワクするよね!」

 明るく弾む声から、いかに高揚しているかが如実に伝わってくる。
 私は迷わず同意し、どんな屋台があるのか予想し合った。
 個人的に人混みはそれほど得意じゃないけど、それは自分一人の場合だ。萌恵ちゃんと一緒なら、人混みだろうとどこだろうと、なにも怖くないしなんでも楽しめる。

「七夕デートだね、萌恵ちゃん」

 七夕自体は毎年二人で、もしくは互いの家族や他の友達を交えたりしつつ共に過ごしてきたけど、恋人としては今年が初めて。
 いままでのように脳内でデートとして補完しなくても、これは正真正銘のデート。ただでさえ真横に並んで歩いているのに、自然と体が密着を求めて距離を詰める。
 肌がピッタリくっつくぐらい近付くと、私が行動を起こすよりも早く萌恵ちゃんが腕を絡めてきた。

「デートって考えると、もっとワクワクしてきちゃった~」

「イチャイチャしすぎて周りに迷惑をかけないように気を付けないとね」

「んふふっ、確かに!」

 そんな他愛のないやり取りを交わしながら歩いていると、会場である公園が見えてくる。
 入口付近にある遊具は安全確保のため使用禁止のテープが貼られ、すぐそばに立派な笹が三本飾られていた。
 笹の近くにはテーブルがいくつか設置され、数本のペンと束になった短冊が用意されている。この一角だけで、七夕祭りなのだと強く認識できる。

「せっかくだから書いて行こうか」

「うんっ、そうしよ~!」

 意見が一致したので、童心に帰って短冊に願い事を記す。
 屋台が軒並み準備中だからか、まだそんなに人が集まっていない。
 町中に配られたチラシの高い完成度や屋台の豊富さから察するに、あと一時間もすれば公園は混雑することだろう。
 学校から帰ってすぐに足を運んだのは、タイミングとして絶好だった。
 順番待ちを気にしなくていいので、落ち着いてペンを走らせる。
 願い事は内緒にするのがセオリーのような気がして、お互いに相手の短冊には視線を向けない。
 飾った後も見ないように気を付けるけど、飾る場所はもちろん隣同士。
 最後まで内容を目にすることはなかったものの、なんとなく願い事が分かるような気がする。それはきっと、萌恵ちゃんも同じ。
 チラッと隣を見やれば、同様にこちらを向いた萌恵ちゃんと目が合う。前にもこんなことがあったと思い出し、嬉しさと照れが合わさって顔が熱くなる。
 混み始める前に屋台の種類を確認しておこうと、足並みをそろえて公園の中へ進む。
 恋人つなぎで手をギュッと握って、邪魔にならないようピッタリくっついて歩く。
 浴衣姿を見たいという願望も浮かんでくるけど、制服でお祭りに参加できる機会も限られている。浴衣はまた今度、じっくり楽しませてもらえばいい。
 海やプールにも行きたい。水着姿の萌恵ちゃんを想像すると、それだけでテンションが急上昇する。思い浮かべるだけでこれなのだから、実際に見たり一緒に遊んだりすれば子どもさながらにはしゃいでしまうに違いない。
 つい妄想が捗ってしまった。いまは七夕祭りを楽しまないと。

「まずなにから食べる? あたしは焼きそばがいいな~っ」

 ソースが焦げた香ばしい匂いが漂い始め、萌恵ちゃんが瞳を輝かせる。

「それじゃあ、最初は焼きそばだね」

 萌恵ちゃんの手料理が世界一おいしいと思っている私にとって、順番はそれほど重要ではない。
 あえて別の食べ物を挙げて萌恵ちゃんの困った表情を拝みたいというイタズラ心も生まれるけど、やっぱり一番見たいのは笑顔だ。
 萌恵ちゃんの要望に賛同し、焼きそばの屋台に向かう。
 氷水で冷やされたジュースも買って、ベンチに腰かけて食べる。
 ソースで汚れた口周りを拭いてあげたり、記念に写真を撮ったり、ひたすらにお祭りを満喫する。

***

 節約という言葉が胸に刺さる程度に散財した私たちは、パンパンに膨らんだお腹をさすりながらリビングに寝転んでいた。
 体が重い。もう一歩も動きたくない。こんな気持ちになるのも珍しい。

「ねぇ、真菜。いますぐは無理だけど、後でちょっと激しい運動する?」

「それって…………うん、するっ」

 萌恵ちゃんが言わんとすることが、なんとなく分かった。
 不意打ち気味に頬へチュッとキスすると、萌恵ちゃんも同じように返してくれる。
 満腹すぎて重い体を動かし、苦しくならないぐらいの力加減で抱き合う。

「萌恵ちゃん、私に負けず劣らずえっちになっちゃったね」

 意地悪なことを言いながら、返事を封じるように唇を塞ぐ。
 最後に食べたリンゴ飴のせいか、いつもより甘い。

「ぷはっ、だって真菜が――んむぅっ」

「んっ、ちゅっ」

 エネルギーが充分すぎるほどに補給され、この後に待つ“お楽しみ”への期待に気分が高まり、いつにも増して積極的になってしまう。
 萌恵ちゃんが小さな隙を突いて言葉を発しようとした瞬間に、すぐさま再度唇を重ねて舌を捻じ込む。
 驚いた様子だったのが次第にうっとりとした表情へと変わるのを零距離で見て、もう自分では抑えられないぐらいに心が昂ぶる。
 言葉を交わさなくても気持ちが通じ合う喜び、マッサージや入浴の心地よさとは一線を画す特別な快感。
 あれだけ楽しかったお祭りが前哨戦であるかのように、声を押し殺しながらも激しく盛り上がる。
 本当ならお腹がもう少し楽になってから始めるつもりだったけど、これほど熱烈なキスをしてしまえばもう辛抱できない。
 制服を雑に脱ぎ捨て、押入れから乱雑に布団を引っ張り出し、就寝とは異なる目的で体を預ける。

「萌恵ちゃん、大好き。愛してるよ」

「あたしも、真菜が大好き。愛してる!」

 愛の言葉を囁きながら、体を密着させた。
 下着の存在が煩わしくなり、急かされるように脱ぐ。
 ギューッと強く抱き合って、少しでも触れ合う面積を増やそうと脚を絡める。
 不純な気持ちなんて微塵も介在しない、あるのは恋人への純粋な愛情だけ。
 えっちは肉欲を満たすためだけの行為ではない。少なくとも私は、自分と大好きな人の存在すべてを使って愛を伝え合える、この上なく清らかで素敵な行為だと思う。
 もちろん意識が飛びそうなほど気持ちいいのも事実だけど、それ以上に大切な意味があるのだと、萌恵ちゃんのおかげで知ることができた。

***

 学校があるのも構わず一睡もしないまま朝を迎え、遅れて襲ってきた眠気を振り払うため、ベトベトになった体を洗うため、熱いシャワーを浴びる。

「温泉旅行みたいな贅沢はできないけど、海とかプールには行きたいな~」

「うん、私も行きたい。夏休みに入る前に、しっかり予定を立てないとね」

 徹夜で体を動かしたにもかかわらず、楽しい相談をしていると不思議なほどに元気が湧いてくる。
 夏休みまであと二週間と少し。
 海やプールで泳いだり、一緒に花火を見たり、カラオケに行ったり。
 帰省して例年のようにお互いの家族ぐるみでバーベキューするのもいいし、美咲ちゃんと芽衣ちゃんを誘ってWデートというのも楽しそう。
 家では二人きりの時間を思う存分に満喫して、数え切れないぐらいたくさんキスしたり、時間を忘れてえっちしたり。
 考えを膨らませるだけで、胸が躍る。

「ん~っ、楽しみすぎる! こんなところで言うことじゃないかもしれないけど、真菜と出会えてほんとによかった! これからもよろしくね!」

 確かに、シャワー中にいきなり言うことじゃないよね。
 過度な感動で号泣しそうになるのを、どうにか堪える。

「私の方こそ、これからもよろしくね。萌恵ちゃんのこと、絶対に幸せにするから」

「んふふっ、あたしも真菜を幸せにするよ~!」

「「なんて、まるでプロポーズ――」」

 ベタすぎるほど完璧に声が重なり、思わず無言になって瞬きを繰り返す。
 おかしくなって二人同時に吹き出してしまい、浴室に笑い声が響き渡った。
 すでに充分すぎるほどの幸福に恵まれているのに、もっともっと幸せになれると確信できる。
 私だけでも萌恵ちゃんだけでもなく、二人一緒に。
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