ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第2章 ここはシンデレラの世界らしい

27話 エラに奇跡を(三人称視点)

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「え。ま、魔女さま?!」

魔女と名乗った少年は腰に手を当てて胸を張り、エラの問いかけに頷いた。

「そう!キミに会いに来たんだ!キミを舞踏会に導くために」

「え」

状況が掴めないエラは、目を丸くさせて固まっていた。
エラの横に侍っていたクリスは興味津々に魔女を観察し、彼と反対側に立っていたタルタルは、警戒心からか1歩後ろに退いている。

三者三葉の反応に魔女はクスリと面白がりつつ話を進めていく。

「エラ……キミを誰もが振り向くお姫様に変身させるよ」

杖をくるくると振るとその先からは星の粉がキラキラと溢れ出ており、今にもその軌跡がエラを包み込もうとしていた。

魔女の意図に気づいたエラは、一瞬、救済を受けたような笑みを浮かべたが、目を伏せて首を振った。

「私は既に変身魔法をかけています。同じ魔法を2重がけすることはいくら魔女様でも難しいかと……」

全てを見透かしているのかいないのか。
それすら読み取れない不思議な水色の瞳を持つ魔女は、こてんと首を傾げてから、自信満々な表情を作り豪語した。

「大丈夫。魔女なんだからなんでも出来ちゃうの!」

ウィンクをした魔女は杖を強く握る。
その言葉を聞いたラベンダーの瞳に星の輝きが映る。

「っ!お願いします、魔女さま。私を変えて」

少女は魔女に跪き、合わせた手を胸の前に置いて希う。

「そう来なくっちゃ!」

ニヤリと笑った魔女が大きく杖を振ると、眩い光が、いなくなった太陽の代わりに周りを照らす。

それはいとも簡単にエラを包み込んだ。
ボロボロだった布切れは光に溶けて、その輝きは新たな形を作り出す。
少女の銀髪に映える、夜空を映したようなドレス。
ウエストでくびれ、大きく広がるスカートのは誰もが振り向くほど綺麗なシルエット。
裾に向かって星のグラデーションが成されている。
歩く度に散りばめられた星たちが輝き出す。
胸元にはチュールが幾重にも重なり、夜空に流れる雲を思わせる。
リヨからもらったガラス玉のネックレスもキラキラと輝いていた。

長い銀髪はハーフアップに結われ、淡い青色の小さな飾り星が散りばめられて、さらに美しさを際立たせる。

「これが、ぼ……私?!」

「そうだよ!」

魔女は杖をバトンのように回しながらはにかんだ。
そして、横に控えていたクリスもタルタルも、その美しさに見蕩れた顔を見せる。

少しの沈黙の後、いつもの調子を取り戻した2人は賛美を贈る。

「うわぁ、可愛くなったなぁ、エラさま」
「エラ様、お美しゅうございます」

それを笑顔で受け取ったエラだったが、風に揺れる銀髪が視界に入ったことで美しい額に影が落ちた。
そこにクリスの明るい声が響く。

「エラさま~」

エラは俯いていた顔を上げ首を傾げると、クリスが八重歯をみせて、胸ポケットにしまっていた小瓶を彼女に手渡す。

「これ、頼まれてた今日舞踏会に潜にゅ……参加するために、取り寄せた髪色変化の薬」
「薬ですから、変身魔法の2重がけには該当しないかと。時間制限は魔法同様にありますが」

タルタルが息ぴったりにバトンを引き継いで補足する。

「ありがとう、流石だね、2人とも」

エラは大事そうにそれを受け取が、その一連のやり取りを見ていた魔女は解せない様子だった。

「そんなのを使わなくても吾輩の魔法で……」

「いや、何でもかんでも魔女さまにお願いするってのはちょっとな。ここは俺たち、エラ様護衛騎士としてのメンツを立たせてくれませんか?」

調子の良い明るいクリスの声はいつにも増して真剣なものだった。それは横にいるタルタルも同じ。
強い意思を感じ取った魔女は、それ以上何も言うことはなかった。

エラを護るように立つ二人の騎士を見て、魔女は杖に力を込めた。

「そっか。忠実な騎士がいるみたいで良かった。なら、キミたちも騎士らしい姿にしないとね」

杖を一振、二振すると、星の粉がゆるやかな軌道を描いて彼らを包む。

クリスを包んだ光は、やがて深紅を基調とした騎士服へと変化していた。
上品な赤を基調としたジャケット。
右肩から垂れるケープは赤を映えさせる黒色。
それと同じ色の黒のベルトは、がっしりとした体のラインを引き締め、紋章や肩章、ボタン、刺繍は全て金で統一されている。
そして、大きな掌に付けられていのは黒のハーフグローブが色気を引き立たせている。

同様に光に包まれたタルタルも見違えた姿を見せる。
騎士服形状はクリスと同じだが色合いは真逆。
上品さが伺える紺色を基調としたデザインで、少し長めの左がけのケープ。そして真っ白な手袋はクリスと対をなすが、二人が並んで立つと統一感が生まれる。

「お!嬉しい~!ありがとな、魔女サマ」
「……ありがたき幸せです」

クリスは軽く、タルタルは少し警戒をしながらも深く頭を下げた。

「カッケーじゃん、タルタル」
「タルタルと言うな!……クリス、頼むからヘマはしないでくれよ?」
「さすがにしねぇよ」
「不安しかない……」

魔女は騎士たちの軽快なやり取りに微笑む。
最後に庭に植えてあったかぼちゃに杖を向けて光を放った。

光に包まれたかぼちゃは、人が乗れるくらいまで膨らんでいく。くり抜かれたそこは窓と扉になる。
太い緑色の蔦が絡み合って車輪に変化し、豪華な内装をも作り出す。

かぼちゃの実を食んでいたハクビシンがそれを引く馬に変化する。

「お城まではこれに乗ってって!」

「すげぇ!さすが魔女さま!」
「……ありがとうございます」

クリスは完成早々に馬車の方に近づいて御者席に乗ると、蔦出できた手綱を握りしめ、今にも走り出しそうなほど興奮している。
タルタルもそれを見つつ改めて深く礼をした。

「……本当に、ありがとうございます」

そして、エラも。魔女に向けて美しいカーテシーを披露して、感謝を伝える。

「さあ、行きましょうか、舞踏会へ」
「おう!」
「はい」

エラが馬車に乗り込もうと来た時、魔女が大きな声で呼び止める。

「ちょっと待って、エラ」

「はい?」

「何か忘れてない?」

魔女はエラの足元を見てニヤリと微笑んだ。
彼女が長いドレスの裾をまくると、素足が覗く。

「あ、靴……」
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