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第217話 『西中まつり』(4) at 1995/9/15
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(小山田たちサッカー部は、『キック・ターゲット』か……! まさに今の流行り物だな……)
僕は、お客の来る合間を縫ってわずかに開いた窓際から吹き込む涼風を浴びつつ休憩しながら校庭の反対側を眺めていた。大勢の人がサッカーゴールのまわりに集まっていて、ときおり歓声があがっている。
あの『キック・ターゲット』は、まさにこの一九九五年七月から、深夜枠で放送スタートしたテレビ番組『筋肉番付』の中で生まれたスポーツ・ゲームだ。さすがに中学生レベルでは本家同等のものは準備できないだろうけれど、テレビで観たものと似たゲームに挑戦できる、というのはさぞ魅力的に違いない。しかも、校庭に入ってきた途端、いきなり視界に飛び込んでくる位置にあるのだ。
(悔しいけど……いいところに目をつけたなぁ……。あれなら、宣伝効果もばっちりだし)
敵ながらあっぱれと感心していると――冷たっ!――後ろから冷えたペットボトルを首筋に押しつけられた。慌てて振り返ればそこには、首にかけたタオルで額の汗を拭う純美子がいた。
「なーに、たそがれちゃってるのかなー? まだまだお昼にもなってないんだよ、部長さん?」
「あ、ありがとう。脅かさないでよ、スミちゃん……。どう? 声の調子は? 大丈夫そう?」
「ヘーキ! まっかせといて!」
山中湖での夏合宿の時に僕が純美子に託した一番大事な役目とは、この体験型アトラクションの物語全体を導くナレーターになってもらうことだった。
無論まだあの時点では、純美子が声優になる夢を密かに抱いていることや、すでに養成所の入所審査を受けていたことなんて、僕はまるで知らなかった。未来の人気声優『河東純美子』を知っていたことが無関係とは言わない。でもそれよりなにより、僕は純美子に、僕の物語の主役になって欲しかったのだ。
「お客さんが何人来たってヘーキだよ? この役は、あたしにしかできないあたしの物だから」
「うん。頼りにしてる」
「えへへへ……」
暑さ対策か、体操着に着替えて袖口を肩にまくり上げた純美子の姿はとても勇ましくてかわいい。僕らが一つだけ失念していたことは、出し物のセットをすっかり組み上げてしまうと室内の空気の流れが妨げられて、驚くほど蒸し暑くなってしまう、ということだった。滞在時間が短いお客さんたちには今のところ影響はないようなのだが、ずっとこもりきりになっている僕らは違う。
「でもぉ……や、やっぱり少し、暑い、かな?」
「そうだ――んぐっ!? ちょ、ちょっと、スミちゃん!?」
頬を上気させた純美子は、体操着の裾をつまみ、僕の目を見つめたまま、ぱたぱた、と仰ぎはじめた。となると、ちらちらと純美子のほんのりピンクがかった白い肌とおへそが見えてしまうわけで――。
「……もー、じーっと見てるし。ケンタ君って、やっぱりえっちだなぁ……」
「ス、ストップストップ! ぼ、僕、それ以上やったら頭に血が昇って倒れちゃうってば!」
慌てて顔を両手で覆い隠してみたものの、指の隙間からまだ目が離せずにばっちり見ちゃってるわけで。小悪魔めいた微笑みを浮かべた純美子だって、きっと僕の止まらないリビドーには気付いちゃってるわけで。
あ、あれ?
おっかしーなー?
純美子って、ホントはこんな子だった?
ホントに未来で付き合ってた子と同じ子なの!?
「お、おほん……お楽しみ中のところ失礼するわよー、お・二・人・さ・ん」
「ひゃん!」「う、うおっ!」
やけに遠慮がちでのんびりした咲都子の声に、僕らは慌ててもう少しでくっつきそうだった距離を一気に引き離した。咲都子は、もう一度、ちらり、と僕らの方を見てから肩をすくめる。
「はぁ……もう付き合ってるんだから、ここで何してようがとやかく言わないんだけどさ……。そ・れ・よ・り・も、だよ、部長?」
「い、いや変なことは何も……。え……何?」
「ぜんぜん、お客さんの数が足りないよ。たぶん、この視聴覚室の場所のせいなんだけど――」
前にも言ったとおり、一階に生徒用の一般教室はない。
2つある昇降口に挟まれているのが、職員室と僕らの部室になっている当直室で、右側に進んでいけば家庭科室や技術室、音楽室などがある特殊教室棟があり、さらにその先の渡り廊下を進んでいくと体育館まで行ける。恐らく中は、昼前から始まる演劇部や体操部やらの出し物目当てのお客さんで満員だろう。
だが、昇降口から左に曲がった先にあるのは。
二階に上がる階段と、視聴覚室だけ、それきりなのだった。
僕は、お客の来る合間を縫ってわずかに開いた窓際から吹き込む涼風を浴びつつ休憩しながら校庭の反対側を眺めていた。大勢の人がサッカーゴールのまわりに集まっていて、ときおり歓声があがっている。
あの『キック・ターゲット』は、まさにこの一九九五年七月から、深夜枠で放送スタートしたテレビ番組『筋肉番付』の中で生まれたスポーツ・ゲームだ。さすがに中学生レベルでは本家同等のものは準備できないだろうけれど、テレビで観たものと似たゲームに挑戦できる、というのはさぞ魅力的に違いない。しかも、校庭に入ってきた途端、いきなり視界に飛び込んでくる位置にあるのだ。
(悔しいけど……いいところに目をつけたなぁ……。あれなら、宣伝効果もばっちりだし)
敵ながらあっぱれと感心していると――冷たっ!――後ろから冷えたペットボトルを首筋に押しつけられた。慌てて振り返ればそこには、首にかけたタオルで額の汗を拭う純美子がいた。
「なーに、たそがれちゃってるのかなー? まだまだお昼にもなってないんだよ、部長さん?」
「あ、ありがとう。脅かさないでよ、スミちゃん……。どう? 声の調子は? 大丈夫そう?」
「ヘーキ! まっかせといて!」
山中湖での夏合宿の時に僕が純美子に託した一番大事な役目とは、この体験型アトラクションの物語全体を導くナレーターになってもらうことだった。
無論まだあの時点では、純美子が声優になる夢を密かに抱いていることや、すでに養成所の入所審査を受けていたことなんて、僕はまるで知らなかった。未来の人気声優『河東純美子』を知っていたことが無関係とは言わない。でもそれよりなにより、僕は純美子に、僕の物語の主役になって欲しかったのだ。
「お客さんが何人来たってヘーキだよ? この役は、あたしにしかできないあたしの物だから」
「うん。頼りにしてる」
「えへへへ……」
暑さ対策か、体操着に着替えて袖口を肩にまくり上げた純美子の姿はとても勇ましくてかわいい。僕らが一つだけ失念していたことは、出し物のセットをすっかり組み上げてしまうと室内の空気の流れが妨げられて、驚くほど蒸し暑くなってしまう、ということだった。滞在時間が短いお客さんたちには今のところ影響はないようなのだが、ずっとこもりきりになっている僕らは違う。
「でもぉ……や、やっぱり少し、暑い、かな?」
「そうだ――んぐっ!? ちょ、ちょっと、スミちゃん!?」
頬を上気させた純美子は、体操着の裾をつまみ、僕の目を見つめたまま、ぱたぱた、と仰ぎはじめた。となると、ちらちらと純美子のほんのりピンクがかった白い肌とおへそが見えてしまうわけで――。
「……もー、じーっと見てるし。ケンタ君って、やっぱりえっちだなぁ……」
「ス、ストップストップ! ぼ、僕、それ以上やったら頭に血が昇って倒れちゃうってば!」
慌てて顔を両手で覆い隠してみたものの、指の隙間からまだ目が離せずにばっちり見ちゃってるわけで。小悪魔めいた微笑みを浮かべた純美子だって、きっと僕の止まらないリビドーには気付いちゃってるわけで。
あ、あれ?
おっかしーなー?
純美子って、ホントはこんな子だった?
ホントに未来で付き合ってた子と同じ子なの!?
「お、おほん……お楽しみ中のところ失礼するわよー、お・二・人・さ・ん」
「ひゃん!」「う、うおっ!」
やけに遠慮がちでのんびりした咲都子の声に、僕らは慌ててもう少しでくっつきそうだった距離を一気に引き離した。咲都子は、もう一度、ちらり、と僕らの方を見てから肩をすくめる。
「はぁ……もう付き合ってるんだから、ここで何してようがとやかく言わないんだけどさ……。そ・れ・よ・り・も、だよ、部長?」
「い、いや変なことは何も……。え……何?」
「ぜんぜん、お客さんの数が足りないよ。たぶん、この視聴覚室の場所のせいなんだけど――」
前にも言ったとおり、一階に生徒用の一般教室はない。
2つある昇降口に挟まれているのが、職員室と僕らの部室になっている当直室で、右側に進んでいけば家庭科室や技術室、音楽室などがある特殊教室棟があり、さらにその先の渡り廊下を進んでいくと体育館まで行ける。恐らく中は、昼前から始まる演劇部や体操部やらの出し物目当てのお客さんで満員だろう。
だが、昇降口から左に曲がった先にあるのは。
二階に上がる階段と、視聴覚室だけ、それきりなのだった。
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