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第216話 『西中まつり』(3) at 1995/9/15
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「ど……どうでしたか、荻島センセイ?」
用意されていたすべてのミッションをクリアし、無事にスタート地点である視聴覚室のドアの前まで戻ることができた荻島センセイは、居並ぶ僕ら『電算論理研究部』の部員たちを前に、しばらく厳めしい顔付きで眉間に皺を寄せてなにやら考え込んでいたが――やがて。
「とても面白かったですよ! 興味深い!」
「よかったぁ……」
思わず、ぷは、と息を吐き、安堵の笑みを浮かべた僕らに、荻島センセイは続けて言った。
「私もねぇ、合宿の後で君から計画書を見せられた時には、ああこりゃ大変だ、と頭を抱えましたよ、古ノ森君。こんなことできっこない、って思ってしまったんです。でも、ですね――」
荻島センセイはにこにこと機嫌良く笑い、部員たち一人一人の顔を、じっ、と見つめた。
「ははは。私もまだまだですねぇ。君たち一人一人に、こんな才能やチカラがあるなんて、今の今までちっとも知らなかったんですから。いやはや、こりゃ先生失格ですねぇ! ははは!」
荻島センセイはおどけてみせるが――僕たちはとても笑う気分になんてなれなかった。あまりに嬉しくて、油断したら最後、ぽろぽろと泣き出してしまいそうだったからだ。
「おっと! 私は他のみんなの出し物も見てこないと! それではみなさん頑張るんですよ?」
さてさて――そんな呑気な独り言を口にしながら去っていく、誰よりも、どこよりも最初に来てくれた荻島センセイに向けて、僕らは誰が言い出すでもなく、無言で深々と礼をした。
「……よし! まだ『西中まつり』は始まったばかりだ! 僕らの全力を見せつけようぜ!」
「「「おー!」」」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――天候は晴れ。
外で実施する運動部の出し物にはうってつけの天気である。
長々と続く参加希望者の列をちらりと気にかけながら、サッカー部の部長、小山田徹はどうしても落ち着きを失いがちなココロを抱え、校庭のちょうど反対側に位置する視聴覚室を睨んだ。
そこへ――ざ、ざ、ざっ。
「あ、あの! お、小山田キャプテン――!」
「……あぁ!? おう、一年の。どうだ、奴らの出し物について、何か聴き出してこれたか?」
全速力で走って戻ってきたらしいスポーツ刈りの男子生徒は、ぶっきらぼうに吐き出された小山田のセリフに、少し弱った様子で、頭をがりがりと掻く。それから、恐る恐る切り出した。
「え、えっと……同じ学校だった奴に聞いてきたりは……できたんス、けど……。説明が……」
「あぁ!? 聴こえねえよ! もごもご言ってねえで、はっきり言え、一年!」
「は、はいっ!」
ドスの効いた一喝にたちまち震え上がった一年生のサッカー部員――まだ一度も名前で呼んでもらったことはなかったが――は、半ばやけくそ気味に自分が聞いてきたままを口に出した。
「ある奴は、パズルが面白かったって言ってました! 別の奴は、文字で敵を倒すのが面白かったって! あと、もう一人は数字のクイズだったって! それから最後の奴が言うには――」
「……はぁ!? おい、てめぇ……全員、言ってることがバラバラじゃねえかよ! あぁん?」
「うっ! 嘘じゃないッス! ちゃんと聞いたら、そういうことになってるらしくって……!」
「ちっ――」
イキオイで引き寄せた一年生の胸元を乱暴に突き放すと、その場にへたり込んでしまった。それを横目に、小山田のココロの片隅に芽吹いたちっぽけな不安は次第に大きくなっていく。
(こっちの出し物は予定どおり大人気だってぇのに……くそっ……!)
腹立ち紛れに蹴りつけた地面から巻き上がった砂ぼこりが、風に乗って消えていった。
用意されていたすべてのミッションをクリアし、無事にスタート地点である視聴覚室のドアの前まで戻ることができた荻島センセイは、居並ぶ僕ら『電算論理研究部』の部員たちを前に、しばらく厳めしい顔付きで眉間に皺を寄せてなにやら考え込んでいたが――やがて。
「とても面白かったですよ! 興味深い!」
「よかったぁ……」
思わず、ぷは、と息を吐き、安堵の笑みを浮かべた僕らに、荻島センセイは続けて言った。
「私もねぇ、合宿の後で君から計画書を見せられた時には、ああこりゃ大変だ、と頭を抱えましたよ、古ノ森君。こんなことできっこない、って思ってしまったんです。でも、ですね――」
荻島センセイはにこにこと機嫌良く笑い、部員たち一人一人の顔を、じっ、と見つめた。
「ははは。私もまだまだですねぇ。君たち一人一人に、こんな才能やチカラがあるなんて、今の今までちっとも知らなかったんですから。いやはや、こりゃ先生失格ですねぇ! ははは!」
荻島センセイはおどけてみせるが――僕たちはとても笑う気分になんてなれなかった。あまりに嬉しくて、油断したら最後、ぽろぽろと泣き出してしまいそうだったからだ。
「おっと! 私は他のみんなの出し物も見てこないと! それではみなさん頑張るんですよ?」
さてさて――そんな呑気な独り言を口にしながら去っていく、誰よりも、どこよりも最初に来てくれた荻島センセイに向けて、僕らは誰が言い出すでもなく、無言で深々と礼をした。
「……よし! まだ『西中まつり』は始まったばかりだ! 僕らの全力を見せつけようぜ!」
「「「おー!」」」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――天候は晴れ。
外で実施する運動部の出し物にはうってつけの天気である。
長々と続く参加希望者の列をちらりと気にかけながら、サッカー部の部長、小山田徹はどうしても落ち着きを失いがちなココロを抱え、校庭のちょうど反対側に位置する視聴覚室を睨んだ。
そこへ――ざ、ざ、ざっ。
「あ、あの! お、小山田キャプテン――!」
「……あぁ!? おう、一年の。どうだ、奴らの出し物について、何か聴き出してこれたか?」
全速力で走って戻ってきたらしいスポーツ刈りの男子生徒は、ぶっきらぼうに吐き出された小山田のセリフに、少し弱った様子で、頭をがりがりと掻く。それから、恐る恐る切り出した。
「え、えっと……同じ学校だった奴に聞いてきたりは……できたんス、けど……。説明が……」
「あぁ!? 聴こえねえよ! もごもご言ってねえで、はっきり言え、一年!」
「は、はいっ!」
ドスの効いた一喝にたちまち震え上がった一年生のサッカー部員――まだ一度も名前で呼んでもらったことはなかったが――は、半ばやけくそ気味に自分が聞いてきたままを口に出した。
「ある奴は、パズルが面白かったって言ってました! 別の奴は、文字で敵を倒すのが面白かったって! あと、もう一人は数字のクイズだったって! それから最後の奴が言うには――」
「……はぁ!? おい、てめぇ……全員、言ってることがバラバラじゃねえかよ! あぁん?」
「うっ! 嘘じゃないッス! ちゃんと聞いたら、そういうことになってるらしくって……!」
「ちっ――」
イキオイで引き寄せた一年生の胸元を乱暴に突き放すと、その場にへたり込んでしまった。それを横目に、小山田のココロの片隅に芽吹いたちっぽけな不安は次第に大きくなっていく。
(こっちの出し物は予定どおり大人気だってぇのに……くそっ……!)
腹立ち紛れに蹴りつけた地面から巻き上がった砂ぼこりが、風に乗って消えていった。
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