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第442話 十五の夜(3) at 1996/2/1
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「でさ……? ツッキーパパのハナシ……だったよね?」
「あ――ああ、うん。そう」
さすがの僕もいたたまれずに、ちょっとトイレに……、とその場の微妙な空気から逃げ出し――腰が引けていたのは認めよう――しばらく時間をおいて頭を冷やしてから戻ったのだが、もうその頃にはさっきの出来事は一切起こらなかったかのように、すべて元通りになっていた。
「ケンタはああ言ってたけどさ――」
ハート型のクッションの上ではしたなくあぐらをかいて座っているロコは、鼻の下にシャープペンでも挟むのかと思うくらい唇を尖らせ、うーん、とひとしきりうなってからこう続ける。
「あたしは、ツッキーパパが悪い人だなんて思えないんだけど?」
「いや、僕だって、悪い人だなんて思ってはいないって。ただ……何か隠してる気がするんだ」
「何を?」
「え? そ、そりゃあ、絵の置いてある場所とか、金曜日何してるだとか――」
「でも、それだって特別なことじゃないじゃん。何をしようが、ツッキーパパの勝手なんだし」
「そ、そうなんだけどさ……」
ロコの意見ももっともだった。
やっぱり僕ひとりの考えだけでは偏りが生じてしまう、そう実感しつつも僕はこう反論する。
「で、でもロコは、『あの絵』の異常さを体感してないから、カンタンにそう言えるんだって」
「あれでしょ? 見ると不安になったり、気持ちが落ち着かなくなって、具合が悪くなったり」
「だけど! ……ハカセはまったく影響がなかったんだ。僕とコトセはダメだったのにだぞ?」
「だってぇ……あの、ハカセ、じゃん?」
「それで納得するヤツいないだろ……あやうくしかけたけども!」
ああ、たしかに、じゃねえだろ。
「ともかく、だ! ……ツッキーパパが善人か悪人かはこの際別のハナシなんだって。肝心なのは、コトセが言っていた『絵を完成させるな』ってことなんだから。なんとか阻止しないと」
「場所がわかんないと、何もできないんじゃん?」
「でも、尾行はたぶん成功しない。この前ので警戒してるだろうし、元々かなり用心しててさ」
同意したのかそうでないのか、ロコは無言で片眉を跳ね上げた。それから顎先に手を当てて少し考えるそぶりを見せると、あ、と小さく声を上げてクッションから降り、僕の隣に来た。
「……あのさ? だったら、直接神社宛に電話して聞いてみたらいいんじゃないの? どう?」
う――その発想はなかった。
悔しいけれど、やっぱりロコは頼りになる、とあらためて実感させられてしまった僕である。
「どうなの?」
「あー……こほん、たしかにいい考えだ。いや別に、僕が思いつかなかったわけじゃないけど」
「? じゃあなんでやらなかったのさ? ……あ、そっか。ケンタって知らない人苦手だしね」
「う、うるさいな……。誰でもすぐに仲良くなれる、コミュ力お化けのロコと一緒にするなよ」
「あははは。はいはい、わかりましたよーって」
なんだか見透かされて軽くいなされた感はあったけれど、それからロコの家にあったタウンページで住所と電話番号をメモすることにした。町田市内に点在する神社の中からめぼしいところをいくつかピックアップする。
といっても、タウンページは一冊しかないので、肩を並べて二人で調べることになったのだが。
「あ、こことか近所じゃない? 割と近いかも」
「……え? あ、ああ、そうみたいだな、うん」
さっきの件もあって、僕はなんとも落ち着かない気持ちだった。肩が触れるたびに僕のカラダが反射的にこわばると、ロコはちょっと不思議そうに僕を見る。けれど、何も言わなかった。
「じゃあ、まずはこのリスト順に電話してみようよ。……って、もう夜だし、明日からにしよ」
「そ、そうだな。うん。って、もうこんな時間か……まだ話したいことあったんだけどな……」
「そう? じゃあ泊っていけば?」
「………………は、はい?」
「泊っていけば、って言ったの。そうしたらまだ話せる、でしょ?」
「あ――ああ、うん。そう」
さすがの僕もいたたまれずに、ちょっとトイレに……、とその場の微妙な空気から逃げ出し――腰が引けていたのは認めよう――しばらく時間をおいて頭を冷やしてから戻ったのだが、もうその頃にはさっきの出来事は一切起こらなかったかのように、すべて元通りになっていた。
「ケンタはああ言ってたけどさ――」
ハート型のクッションの上ではしたなくあぐらをかいて座っているロコは、鼻の下にシャープペンでも挟むのかと思うくらい唇を尖らせ、うーん、とひとしきりうなってからこう続ける。
「あたしは、ツッキーパパが悪い人だなんて思えないんだけど?」
「いや、僕だって、悪い人だなんて思ってはいないって。ただ……何か隠してる気がするんだ」
「何を?」
「え? そ、そりゃあ、絵の置いてある場所とか、金曜日何してるだとか――」
「でも、それだって特別なことじゃないじゃん。何をしようが、ツッキーパパの勝手なんだし」
「そ、そうなんだけどさ……」
ロコの意見ももっともだった。
やっぱり僕ひとりの考えだけでは偏りが生じてしまう、そう実感しつつも僕はこう反論する。
「で、でもロコは、『あの絵』の異常さを体感してないから、カンタンにそう言えるんだって」
「あれでしょ? 見ると不安になったり、気持ちが落ち着かなくなって、具合が悪くなったり」
「だけど! ……ハカセはまったく影響がなかったんだ。僕とコトセはダメだったのにだぞ?」
「だってぇ……あの、ハカセ、じゃん?」
「それで納得するヤツいないだろ……あやうくしかけたけども!」
ああ、たしかに、じゃねえだろ。
「ともかく、だ! ……ツッキーパパが善人か悪人かはこの際別のハナシなんだって。肝心なのは、コトセが言っていた『絵を完成させるな』ってことなんだから。なんとか阻止しないと」
「場所がわかんないと、何もできないんじゃん?」
「でも、尾行はたぶん成功しない。この前ので警戒してるだろうし、元々かなり用心しててさ」
同意したのかそうでないのか、ロコは無言で片眉を跳ね上げた。それから顎先に手を当てて少し考えるそぶりを見せると、あ、と小さく声を上げてクッションから降り、僕の隣に来た。
「……あのさ? だったら、直接神社宛に電話して聞いてみたらいいんじゃないの? どう?」
う――その発想はなかった。
悔しいけれど、やっぱりロコは頼りになる、とあらためて実感させられてしまった僕である。
「どうなの?」
「あー……こほん、たしかにいい考えだ。いや別に、僕が思いつかなかったわけじゃないけど」
「? じゃあなんでやらなかったのさ? ……あ、そっか。ケンタって知らない人苦手だしね」
「う、うるさいな……。誰でもすぐに仲良くなれる、コミュ力お化けのロコと一緒にするなよ」
「あははは。はいはい、わかりましたよーって」
なんだか見透かされて軽くいなされた感はあったけれど、それからロコの家にあったタウンページで住所と電話番号をメモすることにした。町田市内に点在する神社の中からめぼしいところをいくつかピックアップする。
といっても、タウンページは一冊しかないので、肩を並べて二人で調べることになったのだが。
「あ、こことか近所じゃない? 割と近いかも」
「……え? あ、ああ、そうみたいだな、うん」
さっきの件もあって、僕はなんとも落ち着かない気持ちだった。肩が触れるたびに僕のカラダが反射的にこわばると、ロコはちょっと不思議そうに僕を見る。けれど、何も言わなかった。
「じゃあ、まずはこのリスト順に電話してみようよ。……って、もう夜だし、明日からにしよ」
「そ、そうだな。うん。って、もうこんな時間か……まだ話したいことあったんだけどな……」
「そう? じゃあ泊っていけば?」
「………………は、はい?」
「泊っていけば、って言ったの。そうしたらまだ話せる、でしょ?」
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