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第528話 捧げよ、さらば与えられん at 1996/3/30
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「く……どうしてこの僕が……選ばれし『代行者』であるこの僕が……こんなやつらに……!」
しんしんと降り続く純白の雪の中、大月大輔は、がり、と歯噛みし、今しがた渾身のフルスイングを受けた右腕をかばうように構えをとる。
そして、眼前に対峙するふたりの『プレイヤー』もまた、ぜいぜいと肩で息をつき、なおも油断なく身構えた。
「はぁ……はぁ……。さ、さすがだね、佐倉君。ますます……ウチの部に来て欲しくなったよ」
「はぁ……はぁ……。そ、それほどでも……。持久力と瞬発力だけは自信ありますからね……」
しかし、室生も佐倉も満身創痍だ。
なにしろ相手は、雪の中を自由に移動できるらしい異能を持つ少年だ。一瞬でも隙を見せれば、そのひと並外れた握力でもって掴み、骨ごと握り砕こうとしてくる。そうでなくても、鋭くとがらせた指先のひと振りで、衣服ごとやすやすと切り裂こうとしてくるのだった。
異常だ――異常すぎる。
こんなこと、現実にはありえない。
それでも一歩も引けない理由が、戦う理由がふたりにはあった。
「あ、あの……。ム、ムロ君? お願いがあるんですけれど――?」
たたっ――と駆け寄った佐倉が甘い吐息で耳元に囁くと、室生の顔色がたちまち変わった。
「……ダメだ! そんなこと、僕にはできない!」
「え、えっと……。そ、そこをなんとか……。たぶん、これが一番確実なんですって――」
「わかってるのか、佐倉君……! 君は……二度と走れなくなるかもしれないんだぞ!?」
えへ、と照れたように佐倉は笑ってみせた。
そして前を向き、
背中ごしにさらりと告げる。
「……じ、実はですね? もう僕の足、運動会の時の故障でダメなんです。本当はとっくに」
そして――一気に走り出した。
『――現在の現実乖離率:88パーセント』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!
「あー……。うるっせぇなぁ……。頭に響くから、そのイカレた笑い声をやめやがれ……!」
「た、たたたのしいなあああああ、ダァアアアアアッチィイイイイイ! うひ、うひひっ!」
かくん、かくん、と壊れた操り人形のごとき動作で、血まみれのタツヒコが近づく。
何度も殴りつけた。
何度も蹴り倒した。
それでも何度も、何度でも立ち上がってくる。すでに小山田の左拳はどこか折れているようで、激痛を通り越し、もはや痛みを感じないレベルだ。
もうこいつを止めるには――!
そう小山田が、今はもう捨て去ったはずの『凶暴性』のへりに手を伸ばしかけたとたん、タツヒコが、にたぁり、と血にまみれたいやらしい笑みを浮かべて、嘲るように言い放った。
「きききづいたかああああ、ダァアアアアアッチィイイイイイ? うひ――お前、言ったよなあ! 行きつく先は、ポリ公の世話になるぜえええってなあ! お前にできるかなああああ?」
「く……そ……っ! 最初から……それが狙いだったてぇのか……!?」
「――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!! お前と俺はぁあああ、どこまでいってもぉおおお、同類なんだよぉおおおおおおおおおっ!!」
その時、小山田の脳裏には、ひとりの少女の顔が浮かんでいた。
こんな自分のために、惜しみない優しさをくれ、そして、教えてくれた。
(すまねえなぁ、美織ぃ……。俺様は……やっぱり、クズのままがお似合いなのかもしれねぇ)
「さぁ! 一緒に堕ちようぜぇえええええ! どこまでもどこまでもどこまでもぉおおお!!」
タツヒコがげたげたとタガが外れたように笑いはじめる。まるで悪夢だ。
一切の表情と感情を捨てた小山田は、
ペンダントを引きちぎり、
残る右拳を硬く握りしめる。
『――現在の現実乖離率:92パーセント』
しんしんと降り続く純白の雪の中、大月大輔は、がり、と歯噛みし、今しがた渾身のフルスイングを受けた右腕をかばうように構えをとる。
そして、眼前に対峙するふたりの『プレイヤー』もまた、ぜいぜいと肩で息をつき、なおも油断なく身構えた。
「はぁ……はぁ……。さ、さすがだね、佐倉君。ますます……ウチの部に来て欲しくなったよ」
「はぁ……はぁ……。そ、それほどでも……。持久力と瞬発力だけは自信ありますからね……」
しかし、室生も佐倉も満身創痍だ。
なにしろ相手は、雪の中を自由に移動できるらしい異能を持つ少年だ。一瞬でも隙を見せれば、そのひと並外れた握力でもって掴み、骨ごと握り砕こうとしてくる。そうでなくても、鋭くとがらせた指先のひと振りで、衣服ごとやすやすと切り裂こうとしてくるのだった。
異常だ――異常すぎる。
こんなこと、現実にはありえない。
それでも一歩も引けない理由が、戦う理由がふたりにはあった。
「あ、あの……。ム、ムロ君? お願いがあるんですけれど――?」
たたっ――と駆け寄った佐倉が甘い吐息で耳元に囁くと、室生の顔色がたちまち変わった。
「……ダメだ! そんなこと、僕にはできない!」
「え、えっと……。そ、そこをなんとか……。たぶん、これが一番確実なんですって――」
「わかってるのか、佐倉君……! 君は……二度と走れなくなるかもしれないんだぞ!?」
えへ、と照れたように佐倉は笑ってみせた。
そして前を向き、
背中ごしにさらりと告げる。
「……じ、実はですね? もう僕の足、運動会の時の故障でダメなんです。本当はとっくに」
そして――一気に走り出した。
『――現在の現実乖離率:88パーセント』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!
「あー……。うるっせぇなぁ……。頭に響くから、そのイカレた笑い声をやめやがれ……!」
「た、たたたのしいなあああああ、ダァアアアアアッチィイイイイイ! うひ、うひひっ!」
かくん、かくん、と壊れた操り人形のごとき動作で、血まみれのタツヒコが近づく。
何度も殴りつけた。
何度も蹴り倒した。
それでも何度も、何度でも立ち上がってくる。すでに小山田の左拳はどこか折れているようで、激痛を通り越し、もはや痛みを感じないレベルだ。
もうこいつを止めるには――!
そう小山田が、今はもう捨て去ったはずの『凶暴性』のへりに手を伸ばしかけたとたん、タツヒコが、にたぁり、と血にまみれたいやらしい笑みを浮かべて、嘲るように言い放った。
「きききづいたかああああ、ダァアアアアアッチィイイイイイ? うひ――お前、言ったよなあ! 行きつく先は、ポリ公の世話になるぜえええってなあ! お前にできるかなああああ?」
「く……そ……っ! 最初から……それが狙いだったてぇのか……!?」
「――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!! お前と俺はぁあああ、どこまでいってもぉおおお、同類なんだよぉおおおおおおおおおっ!!」
その時、小山田の脳裏には、ひとりの少女の顔が浮かんでいた。
こんな自分のために、惜しみない優しさをくれ、そして、教えてくれた。
(すまねえなぁ、美織ぃ……。俺様は……やっぱり、クズのままがお似合いなのかもしれねぇ)
「さぁ! 一緒に堕ちようぜぇえええええ! どこまでもどこまでもどこまでもぉおおお!!」
タツヒコがげたげたとタガが外れたように笑いはじめる。まるで悪夢だ。
一切の表情と感情を捨てた小山田は、
ペンダントを引きちぎり、
残る右拳を硬く握りしめる。
『――現在の現実乖離率:92パーセント』
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