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第527話 結界のなかへ at 1996/3/30
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とっとっ――。
「……よう、ロコ」
とっとっ――。
「……タイミング、ぴったりじゃない、ケンタ」
反対方向から走ってきた僕とロコは、まだ真新しい無垢の鳥居の前で合流したのだった。
朱塗りもいいけれど、やっぱりこの神社の鳥居には特別の風格を感じる。そのまま視線を遠くへ向けると、石段を登った先に本殿があり、暮れゆくうす闇の中でも鮮やかな輝きが見えた。
「なんで早く気づかなかったのかしらね?」
「そういう風にできてるんだろうさ、きっと」
――と、そこに。
「ぼ――僕も同行します、古ノ森リーダー」
「ハカセ………………。うん、行こう、一緒に。ツッキーのところへ」
五十嵐君を挟むように、両側に僕とロコが立ち、三人で手を取り合って歩を進める。
ぶぉん――!
が、無垢の鳥居をくぐったとたん、気色の悪い感覚が三人のカラダを駆け抜けた。
「い……今の……何!?」
「わからない。さしづめ『境界をくぐった』ってところじゃないか? 鳥居本来の役割だから」
神社の内側にある神聖な場所――『神域』と、外側にある人間界――『俗界』との境界を示すのが『鳥居』だ。同時に『神域』へ不浄なモノが侵入しないよう張られた結界でもある。
「……まあ、とりあえず進むしかない。行ってみよう」
一歩、また一歩と進むにつれて、視線の先に建つ本殿から放たれている輝きがその強さを増した。不思議なことに、その輝きは白いようで、黒いようで、五十嵐君にさえ見えるらしい。
「この光……? 一体ここに、何があると言うのでしょうか、古ノ森リーダー?」
「わからないよ。でも、間違いない、ツッキーがいるのはこの先だ、ハカセ。……感じるんだ」
「はい――」
五十嵐君はうなずいたが、『リトライ者』ではない彼にどんな感覚が生じているのか、たしかめる術は僕にはなかった。そのまま三人で、ゆっくりと歩調を合わせて登っていくと――。
「よう……やく……来てくれた……な……。待たせ……すぎだぞ……馬鹿者ども……っ……!」
そこにいたのは。
自らの右手で喉を掴み、もう片方の手でそれを懸命に食い止めようする細く白い少女だった。
「ツッキー! い――いや、コトセか!?」
「いい……かげん……そのくらい……わかるようになりたまえよ……古ノ森……健太……っ!」
僕とロコは同時に走り出して一気に本殿の階段を駆け上がると、両側から水無月さんの右手と左手に喰らいつくようにして押さえ込む。開け放たれた本殿の扉の奥に目を向けると、そこにはあの、水無月笙の描いた油絵――琴世と琴代のふたりの少女が描かれた絵が鎮座していた。
「ふぅ……。助かった……よ! 馬鹿な妹を持つと、苦労が絶えないな……。ふふふっ……」
そう言って気丈に笑ってみせるものの、目の下にはびっしりと青黒いくまが浮いている。おそらくまともに睡眠などとれていないのだろう。そのカラダも、以前に増して細く、軽い。
「だが……次に琴世が意識を取り戻せば、きっと、もう、私のターンは回ってこない、二度と」
そして、その目が、僕らの他に、もうひとりいることに気づき、震え、またたいた。
「ああ……君にだけは……君にだけは見られたくなかった……! こんな……こんな姿を……」
「………………いえ、僕は知っていました。あなたのことを。笙さんが話してくれましたから」
「……よう、ロコ」
とっとっ――。
「……タイミング、ぴったりじゃない、ケンタ」
反対方向から走ってきた僕とロコは、まだ真新しい無垢の鳥居の前で合流したのだった。
朱塗りもいいけれど、やっぱりこの神社の鳥居には特別の風格を感じる。そのまま視線を遠くへ向けると、石段を登った先に本殿があり、暮れゆくうす闇の中でも鮮やかな輝きが見えた。
「なんで早く気づかなかったのかしらね?」
「そういう風にできてるんだろうさ、きっと」
――と、そこに。
「ぼ――僕も同行します、古ノ森リーダー」
「ハカセ………………。うん、行こう、一緒に。ツッキーのところへ」
五十嵐君を挟むように、両側に僕とロコが立ち、三人で手を取り合って歩を進める。
ぶぉん――!
が、無垢の鳥居をくぐったとたん、気色の悪い感覚が三人のカラダを駆け抜けた。
「い……今の……何!?」
「わからない。さしづめ『境界をくぐった』ってところじゃないか? 鳥居本来の役割だから」
神社の内側にある神聖な場所――『神域』と、外側にある人間界――『俗界』との境界を示すのが『鳥居』だ。同時に『神域』へ不浄なモノが侵入しないよう張られた結界でもある。
「……まあ、とりあえず進むしかない。行ってみよう」
一歩、また一歩と進むにつれて、視線の先に建つ本殿から放たれている輝きがその強さを増した。不思議なことに、その輝きは白いようで、黒いようで、五十嵐君にさえ見えるらしい。
「この光……? 一体ここに、何があると言うのでしょうか、古ノ森リーダー?」
「わからないよ。でも、間違いない、ツッキーがいるのはこの先だ、ハカセ。……感じるんだ」
「はい――」
五十嵐君はうなずいたが、『リトライ者』ではない彼にどんな感覚が生じているのか、たしかめる術は僕にはなかった。そのまま三人で、ゆっくりと歩調を合わせて登っていくと――。
「よう……やく……来てくれた……な……。待たせ……すぎだぞ……馬鹿者ども……っ……!」
そこにいたのは。
自らの右手で喉を掴み、もう片方の手でそれを懸命に食い止めようする細く白い少女だった。
「ツッキー! い――いや、コトセか!?」
「いい……かげん……そのくらい……わかるようになりたまえよ……古ノ森……健太……っ!」
僕とロコは同時に走り出して一気に本殿の階段を駆け上がると、両側から水無月さんの右手と左手に喰らいつくようにして押さえ込む。開け放たれた本殿の扉の奥に目を向けると、そこにはあの、水無月笙の描いた油絵――琴世と琴代のふたりの少女が描かれた絵が鎮座していた。
「ふぅ……。助かった……よ! 馬鹿な妹を持つと、苦労が絶えないな……。ふふふっ……」
そう言って気丈に笑ってみせるものの、目の下にはびっしりと青黒いくまが浮いている。おそらくまともに睡眠などとれていないのだろう。そのカラダも、以前に増して細く、軽い。
「だが……次に琴世が意識を取り戻せば、きっと、もう、私のターンは回ってこない、二度と」
そして、その目が、僕らの他に、もうひとりいることに気づき、震え、またたいた。
「ああ……君にだけは……君にだけは見られたくなかった……! こんな……こんな姿を……」
「………………いえ、僕は知っていました。あなたのことを。笙さんが話してくれましたから」
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