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ドドソルニア編
ランクアップ試験
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ランクアップ試験のための条件
・素材採取20種類以上
・Bランクの護衛依頼10件達成
・職人に1ヶ月の弟子入り
この全てをクリアしたので最後のギルド職員のテストを受けることになった。
試験内容は護衛依頼の多いドドソルニアらしいもので、警護対象を目的の場所まで送り届けるというものだった。ただし、道中には野盗を見立てた妨害もある。この妨害役は鉱山で働く労働者から選ばれる。この労働者には2種類の人がいて、罪を犯してその重さによって刑期が変わる犯罪労働者と、借金の金額分だけ働く借金労働者がいる。
ランクアップ試験の妨害役は借金労働者の希望者から選ばれる。選ばれた人にもメリットがあり、参加しだけでも借金の5%が免除され、妨害が成功したら10%免除される。ただし悪質な妨害をすれば借金が増えるので気を付けなければならない。借金労働者の中には元冒険者もいて、酒や娼館にのめり込んで首が回らなくなるパターンが多いらしい。
妨害役の人数は受験者には知らされないが3人~5人ということだけ聞いた。即席チームとはいえ経験豊富な冒険者もいるので油断はできない。
今回警護対象役となったのはムッキムキの大ドワギルド職員だった。
「本日ランクアップ試験の担当をするディディだ。君は既にBランクなので不合格だとしてもランクに変わりはないが、手を抜かないように。また、君と妨害役が死にそうな怪我をしそうなときは俺が止める。だが骨が折れるくらいの多少の怪我では止めないので真剣に護衛すること。」
骨が折れるのは多少なんだ⋯。急に不安になってきた。スタート地点は街の出口、ゴールは近くの採掘場だ。警護対象の首にかけられた小さな袋を取られたら失格になる。警護対象は俺の指示通りにしか動かないが、足を引っ張る行動はとらないとのこと。試験官のディディさんに自分の後ろについてくるように言って街を出る。試験開始だ。
護衛として気を付けなければならないのは魔獣や野盗から警護対象を守ることだ。ドドソルニアは自ら戦うドワーフが多いので魔獣の対応は一緒にすることが多いのだが、試験では全く戦えない人を警護するという設定で行う。
魔力を練って周囲を探り、五感を使って警戒しながら道を進む。討伐ではないので出くわす魔獣を全てを倒す必要はなく、体力と魔力を温存するためできるだけ避けるようにする。
ゴールまで半分ほど進んだところ2人分の気配を感じた。サッと道を逸れ、わざと木が多くて狭い場所まで移動し、巨大な樹木の根元にディディさんを立たせた。「逃げ場が無くなるぞ?」とニヤッと笑ったディディさんに「これで良いんです。」と応え、武器を構えた。
側面から1人飛び出してくる。男の目の前で手を叩くと同時に強い光と音を増幅させる。以前もガラの悪い冒険者に絡まれたときに使った「ものすごい猫だまし」だ。効果は保証する。相手がひるんだ所に一時的に対象を気絶させるササメ草の粉末を顔に叩きつける。
2人目が後ろから剣を振りかざしてくるが、こっそり地面に撒いた罠用の粘着素材のところまで誘導し、あえなく踏んでしまった男はその場で地面に倒れ込んだ。ジークでさえ足止めできる強さだ。効果は保証する。念のために"追い粘着"を手にぶっかけてたら男は地面に張り付けになった。
俺は複数人同時に相手をすることは難しい。なので必然的に1人ずつ向かってくるようにあえて狭い場所まで誘導した。ディディさんを逃げ場のないところに置いたのは警戒しなければならない場所の範囲を狭めるためだ。そして俺の自力では相手を倒し切ることはできないので遠慮なく道具を使う。
荷物を奪われる状況になることもあるだろうが、今回は荷物に制限は設けられていない試験である。遠慮なく使えるものを使う。
2人戦闘不能にしたところで周囲に静けさが戻った。問題なさそうだと判断して再びゴールまで進む。最低でもあと1人、妨害役がいるはずなので慎重に進む。
もう少しでゴールというときに気配を消すことが上手い妨害役の奇襲を受けた。獣人の妨害役は木の上から音もなく襲ってきた。魔力探知で探っている状態でもギリギリまで気付くことができなかったくらいだ。一撃を防ぐことができたのはドドソルニアに来てからジークたちに訓練をしてもらったおかげだ。反応速度が格段に上がっている。
ここからは正攻法の戦いだった。絶え間なく攻撃されるので小細工をする隙がない。シエロさんに作ってもらった新しい短剣で応戦する。軽くて、手に馴染んですごくしっくりくる。しかし俺には確実な一手がない。力が強いわけでもなく、速さも劣る。これは体力勝負になるかと思ったが、獣人の振り上げた剣を刃で受け止めた瞬間、相手の武器が真っ二つに折れた。いや、斬れた。「はあ!?」と相手が啞然としている隙を狙って顔にササメ草を叩きつけた。この短剣、切れ味良すぎるでしょ⋯。
妨害役は3人だったらしく、そのままゴールすることができた。しばらくすると妨害役だった人達もササメ草の効き目が無くなったので、粘着素材まみれの人を引きずって合流した。すみません、薬湯はあとで用意します。
「全員お疲れ様。今回は冒険者の護衛成功という結果になった。」
ディディさんによる総評が行われた。自分の力量不足を道具で補うことは正しいが、今後は道具を奪われたらどうするかを考えること。最後の対戦は動きは良かったが、筋力と体力が劣るので速さを磨いていくこと。探査力は文句なし。などと具体的にアドバイスをしてくれた。
「これは試験とは関係ないのだが、ちょっと武器を見せてくれないか?」
と言われたので短剣を鞘から抜いて渡す。
「これは⋯アダマンタイトか?なんと美しい。」
「げっアダマンタイトかよ!どうりで武器が壊れるはずだぜ。」
最後に戦った獣人が嫌そうな顔をした。
「大抵は力と力とぶつかり合いだから今回の妨害役はやり辛かっただろうな。」
「全くだぜ。せっかく借金減らせるかと思ってたのによ~。坊主だと思って油断しちまったな。」
「それより早くこのベタベタしたやつ取ってくんね?」
粘着素材まみれの男がうんざりとした声で話しかけてきたので、慌てて魔法鞄から前もって用意していた薬湯を出した。
「お、これが殺人蜂討伐に使う罠の素材か。うわっベタベタだな。」
「知ってるんですか?」
「ギルドの情報は国を跨いで共有されるからな。殺人蜂の蜂蜜はドドソルニアでも人気の甘味だから注目されてるぞ。ただ、この罠のための素材がここでは手に入りにくいから代わりになる素材がないが検討されているところだ。」
なるほど。国を跨げば手に入る素材も変わるということは予想していなかった。いま自分が持っている小道具も他の素材で作ることができるのか考えないといけないな。
粘着素材を持っていた薬湯で落とし、試験は終了となった。
「合格おめでとう。ランクは変わらないが、ギルドカードの情報が更新されるから受付で手続きを忘れないように。」
「ありがとうございました。」
お礼の挨拶と共に深くお辞儀をする。
「礼儀正しい坊っちゃんだな。貴族出身か?」
「いえ、落ち人です。」
「ああ、なるほど。大変だな、頑張れよ。俺達みたいに借金作って鉱山送りにならないようにな!ガッハッハ!」
借金があるとは思えないほど明るい人だ。
**********************
ギルドに戻り、カードを更新した。
ギルドカードは身分証として大抵の人は所持している。種類は冒険者ギルド、商業ギルド、医療ギルドから選択し、ギルドを利用していなくてもカードを作るだけなら誰でもできる。このカードは個人の魔力から読み取った情報を元に作成されるので偽造はできないし、他人がカードの持ち主のフリをすることもできない。
魔力はこの世界に住む全ての人が持っているが、その量は多い人から限りなく0に近い人までいる。冒険者は戦闘に有利なので大抵魔力持ちが多い。魔力を持っていて、尚且つ魔力コントロールができる人に〘固有スキル〙は発生する。
魔力から読み取れる情報は年齢、性別、魔力量だ。これに任意の名前を記載したものがギルドカードである。この他に冒険者はランクが記載される。俺はカテドアラ(K)とドドソルニア(D)の試験に合格したので「Bランク(K.D)」と書かれていた。更新されていることを確認すると、年齢が20歳になっていることに気が付いた。
この世界にはカレンダーどころか時計もない。最初はかなりとまどった。日にちも時間もわからないのに日々をどうやって過ごすのかと不安だったのだが、暮らしてみると日にちや曜日なんて意識することもなければ時間だって大雑把なものだった。と言っても全く存在しないわけではない。国を運営する機関では日付は重要なものだし、人族の貴族は時計を持っていると聞く。日付と時間の間隔は体感では現世と変わらない、おそらく365日24時間くらいなのだろう。なんせ四季がないので元日本人としては実感が湧かない。カテドアラは通年気温が安定していて雨も少なかった。ドドソルニアは朝と夜の気温差が多少あり、たまにまとまった雨が降る気候だ。
街でカレンダーと時計が普及しない理由として、まず日にちがはっきりと決まった年間行事がない。ドドソルニアで言えば建国祭など国の行事が行われる場合は「◯日後に開催」とだけ国から知らされる。学校という教育機関もなく、知識は親兄弟や近所の人から学ぶことが基本だ。
時間もほとんどの人がざっくりとした感覚で過ごす。一応街では1日に6回、現世の感覚で言えば朝8時から2時間ごとに鐘が鳴る。これを基準に人々は生活をする。約束した時間に間に合わないときに連絡できるような通信媒体もない。魔力コントロールができる人は目的の人や場所に届ける魔法手紙を使えるが、そんな人ばかりではない。
なので全ての人が時間にはルーズだ。最初のころ、電車が分単位で管理されるような現代人の自分にはこの大らかさに馴染めなかったが、次第に折り合いを付けられるようになっていった。
このように日にちを意識しない上に、寿命が長い種族が多い国は特に誕生日というイベントに無沈着だった。話によると年を取るにつれて自分がいま何歳なのかがわからなくなっていくそうだ。
魔力から正確な誕生日が割り出され、その項目は自動更新されるのでギルドカードを見て自分の年を把握するのがこの世界の共通認識だ。
「イオ、お疲れ。どうだった?」
後ろからピタリと体をくっつけてきたジークが俺のギルドカードを覗き込む。
「合格したよ。」
「だろうな。祝い飯でも食うか。」
「だったらお酒飲んでみたい。」
「いいのか?」
この世界では飲酒に年齢制限は特に設けられていない。完全に自己、または家庭責任だ。俺は何となく未成年という感覚が抜けずに飲酒は避けていた。無理にお酒を勧める人はいなかったし、果実水が美味しかったので特に支障はなかった。
「んじゃイオにも飲めそうな酒を買いに行くか。」
俺の周りにいる人達は皆酒豪なので強いお酒しか常備されていない。
初めての行く酒屋に少しドキドキしながらジークと街に繰り出した。
***************************
・護衛試験の妨害役に複数の元冒険者って厳しくない?
鉱山で力仕事をしているので筋トレはしているようなものだが、現場からは離れている上に武器は支給品なので圧倒的に冒険者が有利。
・ドドソルニアの冒険者ギルド
カテドアラの冒険者ギルドの職員は元Aランク冒険者という条件があるが、ドドソルニアの場合職員のドワーフは素で強いため特に決まりは設けられていない。
・素材採取20種類以上
・Bランクの護衛依頼10件達成
・職人に1ヶ月の弟子入り
この全てをクリアしたので最後のギルド職員のテストを受けることになった。
試験内容は護衛依頼の多いドドソルニアらしいもので、警護対象を目的の場所まで送り届けるというものだった。ただし、道中には野盗を見立てた妨害もある。この妨害役は鉱山で働く労働者から選ばれる。この労働者には2種類の人がいて、罪を犯してその重さによって刑期が変わる犯罪労働者と、借金の金額分だけ働く借金労働者がいる。
ランクアップ試験の妨害役は借金労働者の希望者から選ばれる。選ばれた人にもメリットがあり、参加しだけでも借金の5%が免除され、妨害が成功したら10%免除される。ただし悪質な妨害をすれば借金が増えるので気を付けなければならない。借金労働者の中には元冒険者もいて、酒や娼館にのめり込んで首が回らなくなるパターンが多いらしい。
妨害役の人数は受験者には知らされないが3人~5人ということだけ聞いた。即席チームとはいえ経験豊富な冒険者もいるので油断はできない。
今回警護対象役となったのはムッキムキの大ドワギルド職員だった。
「本日ランクアップ試験の担当をするディディだ。君は既にBランクなので不合格だとしてもランクに変わりはないが、手を抜かないように。また、君と妨害役が死にそうな怪我をしそうなときは俺が止める。だが骨が折れるくらいの多少の怪我では止めないので真剣に護衛すること。」
骨が折れるのは多少なんだ⋯。急に不安になってきた。スタート地点は街の出口、ゴールは近くの採掘場だ。警護対象の首にかけられた小さな袋を取られたら失格になる。警護対象は俺の指示通りにしか動かないが、足を引っ張る行動はとらないとのこと。試験官のディディさんに自分の後ろについてくるように言って街を出る。試験開始だ。
護衛として気を付けなければならないのは魔獣や野盗から警護対象を守ることだ。ドドソルニアは自ら戦うドワーフが多いので魔獣の対応は一緒にすることが多いのだが、試験では全く戦えない人を警護するという設定で行う。
魔力を練って周囲を探り、五感を使って警戒しながら道を進む。討伐ではないので出くわす魔獣を全てを倒す必要はなく、体力と魔力を温存するためできるだけ避けるようにする。
ゴールまで半分ほど進んだところ2人分の気配を感じた。サッと道を逸れ、わざと木が多くて狭い場所まで移動し、巨大な樹木の根元にディディさんを立たせた。「逃げ場が無くなるぞ?」とニヤッと笑ったディディさんに「これで良いんです。」と応え、武器を構えた。
側面から1人飛び出してくる。男の目の前で手を叩くと同時に強い光と音を増幅させる。以前もガラの悪い冒険者に絡まれたときに使った「ものすごい猫だまし」だ。効果は保証する。相手がひるんだ所に一時的に対象を気絶させるササメ草の粉末を顔に叩きつける。
2人目が後ろから剣を振りかざしてくるが、こっそり地面に撒いた罠用の粘着素材のところまで誘導し、あえなく踏んでしまった男はその場で地面に倒れ込んだ。ジークでさえ足止めできる強さだ。効果は保証する。念のために"追い粘着"を手にぶっかけてたら男は地面に張り付けになった。
俺は複数人同時に相手をすることは難しい。なので必然的に1人ずつ向かってくるようにあえて狭い場所まで誘導した。ディディさんを逃げ場のないところに置いたのは警戒しなければならない場所の範囲を狭めるためだ。そして俺の自力では相手を倒し切ることはできないので遠慮なく道具を使う。
荷物を奪われる状況になることもあるだろうが、今回は荷物に制限は設けられていない試験である。遠慮なく使えるものを使う。
2人戦闘不能にしたところで周囲に静けさが戻った。問題なさそうだと判断して再びゴールまで進む。最低でもあと1人、妨害役がいるはずなので慎重に進む。
もう少しでゴールというときに気配を消すことが上手い妨害役の奇襲を受けた。獣人の妨害役は木の上から音もなく襲ってきた。魔力探知で探っている状態でもギリギリまで気付くことができなかったくらいだ。一撃を防ぐことができたのはドドソルニアに来てからジークたちに訓練をしてもらったおかげだ。反応速度が格段に上がっている。
ここからは正攻法の戦いだった。絶え間なく攻撃されるので小細工をする隙がない。シエロさんに作ってもらった新しい短剣で応戦する。軽くて、手に馴染んですごくしっくりくる。しかし俺には確実な一手がない。力が強いわけでもなく、速さも劣る。これは体力勝負になるかと思ったが、獣人の振り上げた剣を刃で受け止めた瞬間、相手の武器が真っ二つに折れた。いや、斬れた。「はあ!?」と相手が啞然としている隙を狙って顔にササメ草を叩きつけた。この短剣、切れ味良すぎるでしょ⋯。
妨害役は3人だったらしく、そのままゴールすることができた。しばらくすると妨害役だった人達もササメ草の効き目が無くなったので、粘着素材まみれの人を引きずって合流した。すみません、薬湯はあとで用意します。
「全員お疲れ様。今回は冒険者の護衛成功という結果になった。」
ディディさんによる総評が行われた。自分の力量不足を道具で補うことは正しいが、今後は道具を奪われたらどうするかを考えること。最後の対戦は動きは良かったが、筋力と体力が劣るので速さを磨いていくこと。探査力は文句なし。などと具体的にアドバイスをしてくれた。
「これは試験とは関係ないのだが、ちょっと武器を見せてくれないか?」
と言われたので短剣を鞘から抜いて渡す。
「これは⋯アダマンタイトか?なんと美しい。」
「げっアダマンタイトかよ!どうりで武器が壊れるはずだぜ。」
最後に戦った獣人が嫌そうな顔をした。
「大抵は力と力とぶつかり合いだから今回の妨害役はやり辛かっただろうな。」
「全くだぜ。せっかく借金減らせるかと思ってたのによ~。坊主だと思って油断しちまったな。」
「それより早くこのベタベタしたやつ取ってくんね?」
粘着素材まみれの男がうんざりとした声で話しかけてきたので、慌てて魔法鞄から前もって用意していた薬湯を出した。
「お、これが殺人蜂討伐に使う罠の素材か。うわっベタベタだな。」
「知ってるんですか?」
「ギルドの情報は国を跨いで共有されるからな。殺人蜂の蜂蜜はドドソルニアでも人気の甘味だから注目されてるぞ。ただ、この罠のための素材がここでは手に入りにくいから代わりになる素材がないが検討されているところだ。」
なるほど。国を跨げば手に入る素材も変わるということは予想していなかった。いま自分が持っている小道具も他の素材で作ることができるのか考えないといけないな。
粘着素材を持っていた薬湯で落とし、試験は終了となった。
「合格おめでとう。ランクは変わらないが、ギルドカードの情報が更新されるから受付で手続きを忘れないように。」
「ありがとうございました。」
お礼の挨拶と共に深くお辞儀をする。
「礼儀正しい坊っちゃんだな。貴族出身か?」
「いえ、落ち人です。」
「ああ、なるほど。大変だな、頑張れよ。俺達みたいに借金作って鉱山送りにならないようにな!ガッハッハ!」
借金があるとは思えないほど明るい人だ。
**********************
ギルドに戻り、カードを更新した。
ギルドカードは身分証として大抵の人は所持している。種類は冒険者ギルド、商業ギルド、医療ギルドから選択し、ギルドを利用していなくてもカードを作るだけなら誰でもできる。このカードは個人の魔力から読み取った情報を元に作成されるので偽造はできないし、他人がカードの持ち主のフリをすることもできない。
魔力はこの世界に住む全ての人が持っているが、その量は多い人から限りなく0に近い人までいる。冒険者は戦闘に有利なので大抵魔力持ちが多い。魔力を持っていて、尚且つ魔力コントロールができる人に〘固有スキル〙は発生する。
魔力から読み取れる情報は年齢、性別、魔力量だ。これに任意の名前を記載したものがギルドカードである。この他に冒険者はランクが記載される。俺はカテドアラ(K)とドドソルニア(D)の試験に合格したので「Bランク(K.D)」と書かれていた。更新されていることを確認すると、年齢が20歳になっていることに気が付いた。
この世界にはカレンダーどころか時計もない。最初はかなりとまどった。日にちも時間もわからないのに日々をどうやって過ごすのかと不安だったのだが、暮らしてみると日にちや曜日なんて意識することもなければ時間だって大雑把なものだった。と言っても全く存在しないわけではない。国を運営する機関では日付は重要なものだし、人族の貴族は時計を持っていると聞く。日付と時間の間隔は体感では現世と変わらない、おそらく365日24時間くらいなのだろう。なんせ四季がないので元日本人としては実感が湧かない。カテドアラは通年気温が安定していて雨も少なかった。ドドソルニアは朝と夜の気温差が多少あり、たまにまとまった雨が降る気候だ。
街でカレンダーと時計が普及しない理由として、まず日にちがはっきりと決まった年間行事がない。ドドソルニアで言えば建国祭など国の行事が行われる場合は「◯日後に開催」とだけ国から知らされる。学校という教育機関もなく、知識は親兄弟や近所の人から学ぶことが基本だ。
時間もほとんどの人がざっくりとした感覚で過ごす。一応街では1日に6回、現世の感覚で言えば朝8時から2時間ごとに鐘が鳴る。これを基準に人々は生活をする。約束した時間に間に合わないときに連絡できるような通信媒体もない。魔力コントロールができる人は目的の人や場所に届ける魔法手紙を使えるが、そんな人ばかりではない。
なので全ての人が時間にはルーズだ。最初のころ、電車が分単位で管理されるような現代人の自分にはこの大らかさに馴染めなかったが、次第に折り合いを付けられるようになっていった。
このように日にちを意識しない上に、寿命が長い種族が多い国は特に誕生日というイベントに無沈着だった。話によると年を取るにつれて自分がいま何歳なのかがわからなくなっていくそうだ。
魔力から正確な誕生日が割り出され、その項目は自動更新されるのでギルドカードを見て自分の年を把握するのがこの世界の共通認識だ。
「イオ、お疲れ。どうだった?」
後ろからピタリと体をくっつけてきたジークが俺のギルドカードを覗き込む。
「合格したよ。」
「だろうな。祝い飯でも食うか。」
「だったらお酒飲んでみたい。」
「いいのか?」
この世界では飲酒に年齢制限は特に設けられていない。完全に自己、または家庭責任だ。俺は何となく未成年という感覚が抜けずに飲酒は避けていた。無理にお酒を勧める人はいなかったし、果実水が美味しかったので特に支障はなかった。
「んじゃイオにも飲めそうな酒を買いに行くか。」
俺の周りにいる人達は皆酒豪なので強いお酒しか常備されていない。
初めての行く酒屋に少しドキドキしながらジークと街に繰り出した。
***************************
・護衛試験の妨害役に複数の元冒険者って厳しくない?
鉱山で力仕事をしているので筋トレはしているようなものだが、現場からは離れている上に武器は支給品なので圧倒的に冒険者が有利。
・ドドソルニアの冒険者ギルド
カテドアラの冒険者ギルドの職員は元Aランク冒険者という条件があるが、ドドソルニアの場合職員のドワーフは素で強いため特に決まりは設けられていない。
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