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本編
落ち人
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俺がこの世界に落ちた理由はわからない。
気が付いたら知らない場所にいて、混乱しているうちに冒険者ギルドのマスターに拾われてこの世界のことを教わった。
俺のような異世界人は「落ち人」と呼ばれ特に珍しくはないらしく、落ち人だと自己紹介すれば「あらそう、大変だったね」くらいの感想しかもたれない。
共通するのは元の世界で命を落とした者らしい。俺の最後の記憶は家族が全員留守中に風邪を引いて高熱で意識が朦朧としているところだったのでおそらくそのまま永眠したのだろう。
落ち人があまり騒がれない理由として一番初めにギルドマスターに教えてもらったことは「言っておくが落ち人に"ちーと"はないぞ」だった。
平凡を代表する男の俺は「残念」というよりは「やっぱりね」がそのときの感想だ。でも言葉が違うはずなのに通じるし、文字もルビが振ってあるように翻訳されるので充分にチートだと思う。
定期的にやってくる「落ち人」には1番近くのギルドが対応することになっている。
歳が12歳以下なら孤児院に預けられるが、俺は14歳だったのでそのままギルドで世界の常識と生きていくための知識を叩き込まれることになった。
ギルドも完全な善意というわけではなく、衣食住を提供した分だけ借金となり働けるようになってから返済していくというシステムだ。
俺はそりゃもう必死に借金を1年で全て返済した。これはかなり早い方らしい。
チートがない異世界でも魔法はある。ギルドで最初に身分証となるギルドカードを発行したとき自分のステータス画面を見ることができたのだが、魔力量は「90」だった。特に魔法を使うことのない人は50前後で、魔法に長けた冒険者は200前後が平均とのこと。
び⋯微妙!そしてこの魔力量は生まれついてのもので一生変わることがないらしい。
何でだよ。枯渇寸前まで使い続けたら上がっていくのが定石じゃないの?!
ギルドが管理している宿を拠点に、冒険者の仕事を学んでいく。教育担当をしてくれた人がスピカさんだった。冒険者活動に必要な魔法や武器の使い方だけでなく、生活に必要な買い物や生活魔道具の使い方を実践で教えてくれた。可愛いくて大人しそうなスピカさんはその実めちゃくちゃスパルタだった。それはひとえに冒険者という仕事が死に直結しているからだった。
初めて魔物を討伐したときは吐いた。何度か討伐を経験して採取専門で活動することにした。
それが自分には向いていたらしく、最初は失敗をしていたけれど、しばらくすると安定して収入を得られるようになった。
一人でもくもくと作業することが楽だったのでずっとソロで活動している。
一度断れなくてある冒険者パーティに臨時で入ったのだが、色々と難癖をつけられて報酬はほとんどもらえず、依頼中に俺が採取した素材も取られてしまった。
ギルドマスターは「勉強代だ」と言って笑っていた。俺は背が低く、鍛えても筋肉がつかなかったので見た目からして絡まれやすい。ギルマスは俺に人並以上に見る目を養うことと、危機感を持ってもらうために黙って見ていたそうだ。
俺のことを考えてくれたのだろうが、それはそれとしてイラッとした。
絡まれる理由で1番多いのは珍しい素材の採取先を聞き出そうとしてくる奴らだった。
俺は素材を見つけるのが上手いらしく、珍しい種類も定期的に採取していた。今ではスピカさんの気遣いで珍しい素材は個室で査定できるようになったのだが、何度か人前で査定したら「あの素材はどこで見つけたのか?」と聞かれるようになっていた。
ちなみにこういった場合教える義理はない。大抵の人はそれを承知で聞いてきて断ると引き下がるのだが、中には生意気だと手を出してくる奴がいる。
ギルド内ならばスピカさんが間に入ってくれるけど、家まで尾行されたりなど身の危険を感じることがしばしばあった。
尾行を巻いたり隠れたりと逃げ回っていくうちに突然「あ、できる」という感覚が芽生え、固有スキル〘認識阻害〙が使えるようになった。
ギルマスには俺のスキルは周知しないように言われた。悪用するにはもってこいだもんな。
固有スキルは隠しようがない人以外は奥の手となるので秘密にしている人は多い。
ちなみにギルマスの固有スキルは〘雷神〙と言って雷を自在に出せる魔法だった。これは隠す必要生がないので本人も公言している。
*********************************
今日はツイていた。森の中でミノブというイノシシに似た魔物をたまたま見つけた。このミノブの好物はリュフタケという高級キノコで、生えている場所が土の中なので見つけるのが非常に難しい。しかしミノブは鼻が良いので匂いでリュフタケを探し当てる。
ミノブは匂いに敏感なので、察知されないために体全体に薄く魔力を纏って人間の匂いを遮断して尾行する。そしてリュフタケを見つけたところでわざと風上に立ち魔力を消すと、途端にこちらを察知して逃げ出した。
土を掘り起こしてみると立派なリュフタケがそこかしこに生えていた。これは何回かに分けて収穫できそうだ。またミノブが食べに来られないようにミノブの苦手な柑橘系の皮を潰して袋に入れて近くの木にぶら下げる。ちょうどオヤツにオレミン(オレンジのような果物)を買っておいて良かった。
ギルドに戻ってからスピカさんに個室で査定をしてもらう。思った通りかなりの収入になった。手続きを終え個室から出るとギルド内がにわかにざわめいていた。
「おい、Sランクだってよ。」
「どのSランクだ?」
「"一閃"だよ。やべぇ強そう。」
「パーティメンバーの"鷹の目"と"瞬発"もいるぞ。オーラがすごいな。」
冒険者たちのざわめきに耳をすませるとどうやら高ランク冒険者が来ているようだ。
特に興味はないので人だかりができている受付前を避けて歩く。チラリとすき間から見るとギルマスと話している冒険者が見えたのでおそらくあの人が騒がれているSランクなのだろう。デカいギルマスと目線が同じだったので随分と背が高いな。あちらを向いているので真っ黒な短髪の頭しか見えないけれど、その頭にはふさっとした三角の黒い耳が付いている。獣人だ。
この世界は様々な種族の人々が共存している。人族、獣人、龍人、ドワーフ、エルフとまさしくファンタジー。ちなみにスピカさんは人族、ギルマスは龍人だ。
種族による身体的特徴も現世のファンタジー通りで、哺乳類系の獣人には動物の耳と尻尾が付いている。ふわふわの耳、いいなぁと思いながら何となく眺めているとふとSランク冒険者と目が合ったような気がした。金色の瞳が印象的なイケメンだった。
10人すれ違えば10人2度見するレベルのイケメンなんて初めて見た。いや、スピカさんはそのレベルの可愛さだけど。そのイケメンが目を見開き驚いたような顔をしていた。
なんだ?俺か?
いや、周りに人が沢山いるので同じ方角の誰かが知り合いだったりしたのだろう。
昔、俺に手を振ってると思って振り返したら後ろの人に向かってだったという恥ずかしいエピソードを持っているので恥はごめんだ。この手の勘違いは後からダメージが残るので無反応で去るに限る。俺は騒がしいギルドから出てすっかり暗くなった帰り道を歩き出した。
**************************
「だからぁリュフタケはどこで見つけたんだ?」
「ちょっと場所を聞くだけだからさ~。」
臨時収入も入ったから久しぶりに装備を新調しちゃおうかなと気分よく帰っているところで声をかけられた。3人組の冒険者パーティで、たまにギルドで見かけるから顔だけは知っている。
「何のことでしょう?」
「しらばっくれるなよ。俺は鼻がいいんだ。お前からリュフタケの匂いがプンプンしてるぜ。」
せっかくスピカさんに個室査定をしてもらったのに匂いでバレるなんて盲点だった。ミノブ並の嗅覚の良さだな。この冒険者パーティは全員獣人だった。ヒョウ柄の耳をした冒険者が長い尻尾をユラユラさせてニヤつきながら近付いてくる。
「冒険者は助け合いだろ?リュフタケは広範囲で生息しているから少しぐらい分けてもらってもいいんじゃないか?」
自分で探せ。
さて、困った。ギルド内で絡まれたら職員が仲裁に入ってくれるが屋外で問題があった場合、報告すれば後から対応はしてくれるがこの場は自分で何とかするしかない。
いつもなら身体強化して逃げ一択なのだが、今日は魔力を使いすぎて出来そうにもない。相手は獣人3人、俺の敵う相手ではない。これは不意打ちしかないな。
そう思って素早く手の平に魔力を循環させた。
「おい、聞いてんのかよチビ。」
と俺に向かってヒョウ獣人が手を伸ばした瞬間、俺は目の前で思い切り手の平を打ち付けた。音の拡大とライトの魔法を融合させ、いわゆる「ものすごい猫だまし」を食らわせた。人族よりも目と耳が良いと言われる獣人に効果はバツグンだ。
よく絡まれる俺は逃げ方を熟知している。街の構造も頭に叩き込んでいるので追いかけられても追っ手を撒いて最短ルートで帰宅することが可能だ。
明日ギルドにチクってやる。冒険者ギルドでは協力は推進されているが恐喝は御法度だ。
何かしらの処分を受けるが良い。
*************************
次の日、朝のピークの時間をずらしてギルドに向かう。昨日はしっかり稼いだので依頼を受けるつもりはなく、完全にオフの格好だ。昨日の獣人パーティの報告をしたら街でゆっくり買い物をしよう。
すると微妙な顔をしたスピカさんがいた。
「あ~昨日の話は聞いてるよ。うん、もう絡んでこないんじゃないかな?」
昨日の今日でもう処分が終わったのか。早いな。誰かが見ていてギルドに報告してくれたのだろうか?
いやそれはないな。冒険者はあくまで自己責任の世界。仲が良い人ならともかく大して親しくない人物に手を貸すことはあまり無い。俺は冒険者の中に親しい人も友達もいない。悲しくないぞ。
疑問に思いながらも終わったのならもういいかと思いギルドを出た。
プラプラと街を歩き、武器屋でナイフを新調したり、薬屋でポーションを買ったりした。この世界はファンタジーらしくポーションが存在するが、値段によって効果が変わる。1番安いものは擦り傷治療や痛み止め程度の効果で、1番高いものは欠損も治せるらしい。ただ、そんな高レベルのポーションはこんな町中では売っていない。
いつもよりちょっと良いポーションを買って魔法鞄に入れる。これで今日の目的の買い物は終わりだ。屋台でご飯を買って街の広場のベンチで食べる。
こうやってのんびりしていると余計なことを考えてしまう。元の世界のこと、今の俺のこと、この先の自分はどうなるのだろうということ。
この世界に来て最初にギルマスに「異世界人だからといってチートはない」と言われたが、落ちてきた異世界人の中にはもちろん優秀な人はいて、日常生活の便利な道具などは全て先人の異世界人の努力の賜物なのだ。
調味料も水洗トイレも文房具も銭湯などの公共施設も、見たことはないが携帯電話的な物もあるらしい。エネルギー源が魔石という違いはあれど、便利なものは今まで落ちてきた異世界人たちがもたらしたものとのこと。
俺は13歳のときにここに来た。特に目立った能力もない中学生男子が知識チートをするには無理がある。魔力も普通、戦闘力も特にない。
俺、ホント何のためにここに落とされたんだろ。
でも元の世界にいても居場所はなかったからあまり変わらないのかもしれない。
***********************
リュフタケはトリュフのイメージ。
気が付いたら知らない場所にいて、混乱しているうちに冒険者ギルドのマスターに拾われてこの世界のことを教わった。
俺のような異世界人は「落ち人」と呼ばれ特に珍しくはないらしく、落ち人だと自己紹介すれば「あらそう、大変だったね」くらいの感想しかもたれない。
共通するのは元の世界で命を落とした者らしい。俺の最後の記憶は家族が全員留守中に風邪を引いて高熱で意識が朦朧としているところだったのでおそらくそのまま永眠したのだろう。
落ち人があまり騒がれない理由として一番初めにギルドマスターに教えてもらったことは「言っておくが落ち人に"ちーと"はないぞ」だった。
平凡を代表する男の俺は「残念」というよりは「やっぱりね」がそのときの感想だ。でも言葉が違うはずなのに通じるし、文字もルビが振ってあるように翻訳されるので充分にチートだと思う。
定期的にやってくる「落ち人」には1番近くのギルドが対応することになっている。
歳が12歳以下なら孤児院に預けられるが、俺は14歳だったのでそのままギルドで世界の常識と生きていくための知識を叩き込まれることになった。
ギルドも完全な善意というわけではなく、衣食住を提供した分だけ借金となり働けるようになってから返済していくというシステムだ。
俺はそりゃもう必死に借金を1年で全て返済した。これはかなり早い方らしい。
チートがない異世界でも魔法はある。ギルドで最初に身分証となるギルドカードを発行したとき自分のステータス画面を見ることができたのだが、魔力量は「90」だった。特に魔法を使うことのない人は50前後で、魔法に長けた冒険者は200前後が平均とのこと。
び⋯微妙!そしてこの魔力量は生まれついてのもので一生変わることがないらしい。
何でだよ。枯渇寸前まで使い続けたら上がっていくのが定石じゃないの?!
ギルドが管理している宿を拠点に、冒険者の仕事を学んでいく。教育担当をしてくれた人がスピカさんだった。冒険者活動に必要な魔法や武器の使い方だけでなく、生活に必要な買い物や生活魔道具の使い方を実践で教えてくれた。可愛いくて大人しそうなスピカさんはその実めちゃくちゃスパルタだった。それはひとえに冒険者という仕事が死に直結しているからだった。
初めて魔物を討伐したときは吐いた。何度か討伐を経験して採取専門で活動することにした。
それが自分には向いていたらしく、最初は失敗をしていたけれど、しばらくすると安定して収入を得られるようになった。
一人でもくもくと作業することが楽だったのでずっとソロで活動している。
一度断れなくてある冒険者パーティに臨時で入ったのだが、色々と難癖をつけられて報酬はほとんどもらえず、依頼中に俺が採取した素材も取られてしまった。
ギルドマスターは「勉強代だ」と言って笑っていた。俺は背が低く、鍛えても筋肉がつかなかったので見た目からして絡まれやすい。ギルマスは俺に人並以上に見る目を養うことと、危機感を持ってもらうために黙って見ていたそうだ。
俺のことを考えてくれたのだろうが、それはそれとしてイラッとした。
絡まれる理由で1番多いのは珍しい素材の採取先を聞き出そうとしてくる奴らだった。
俺は素材を見つけるのが上手いらしく、珍しい種類も定期的に採取していた。今ではスピカさんの気遣いで珍しい素材は個室で査定できるようになったのだが、何度か人前で査定したら「あの素材はどこで見つけたのか?」と聞かれるようになっていた。
ちなみにこういった場合教える義理はない。大抵の人はそれを承知で聞いてきて断ると引き下がるのだが、中には生意気だと手を出してくる奴がいる。
ギルド内ならばスピカさんが間に入ってくれるけど、家まで尾行されたりなど身の危険を感じることがしばしばあった。
尾行を巻いたり隠れたりと逃げ回っていくうちに突然「あ、できる」という感覚が芽生え、固有スキル〘認識阻害〙が使えるようになった。
ギルマスには俺のスキルは周知しないように言われた。悪用するにはもってこいだもんな。
固有スキルは隠しようがない人以外は奥の手となるので秘密にしている人は多い。
ちなみにギルマスの固有スキルは〘雷神〙と言って雷を自在に出せる魔法だった。これは隠す必要生がないので本人も公言している。
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今日はツイていた。森の中でミノブというイノシシに似た魔物をたまたま見つけた。このミノブの好物はリュフタケという高級キノコで、生えている場所が土の中なので見つけるのが非常に難しい。しかしミノブは鼻が良いので匂いでリュフタケを探し当てる。
ミノブは匂いに敏感なので、察知されないために体全体に薄く魔力を纏って人間の匂いを遮断して尾行する。そしてリュフタケを見つけたところでわざと風上に立ち魔力を消すと、途端にこちらを察知して逃げ出した。
土を掘り起こしてみると立派なリュフタケがそこかしこに生えていた。これは何回かに分けて収穫できそうだ。またミノブが食べに来られないようにミノブの苦手な柑橘系の皮を潰して袋に入れて近くの木にぶら下げる。ちょうどオヤツにオレミン(オレンジのような果物)を買っておいて良かった。
ギルドに戻ってからスピカさんに個室で査定をしてもらう。思った通りかなりの収入になった。手続きを終え個室から出るとギルド内がにわかにざわめいていた。
「おい、Sランクだってよ。」
「どのSランクだ?」
「"一閃"だよ。やべぇ強そう。」
「パーティメンバーの"鷹の目"と"瞬発"もいるぞ。オーラがすごいな。」
冒険者たちのざわめきに耳をすませるとどうやら高ランク冒険者が来ているようだ。
特に興味はないので人だかりができている受付前を避けて歩く。チラリとすき間から見るとギルマスと話している冒険者が見えたのでおそらくあの人が騒がれているSランクなのだろう。デカいギルマスと目線が同じだったので随分と背が高いな。あちらを向いているので真っ黒な短髪の頭しか見えないけれど、その頭にはふさっとした三角の黒い耳が付いている。獣人だ。
この世界は様々な種族の人々が共存している。人族、獣人、龍人、ドワーフ、エルフとまさしくファンタジー。ちなみにスピカさんは人族、ギルマスは龍人だ。
種族による身体的特徴も現世のファンタジー通りで、哺乳類系の獣人には動物の耳と尻尾が付いている。ふわふわの耳、いいなぁと思いながら何となく眺めているとふとSランク冒険者と目が合ったような気がした。金色の瞳が印象的なイケメンだった。
10人すれ違えば10人2度見するレベルのイケメンなんて初めて見た。いや、スピカさんはそのレベルの可愛さだけど。そのイケメンが目を見開き驚いたような顔をしていた。
なんだ?俺か?
いや、周りに人が沢山いるので同じ方角の誰かが知り合いだったりしたのだろう。
昔、俺に手を振ってると思って振り返したら後ろの人に向かってだったという恥ずかしいエピソードを持っているので恥はごめんだ。この手の勘違いは後からダメージが残るので無反応で去るに限る。俺は騒がしいギルドから出てすっかり暗くなった帰り道を歩き出した。
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「だからぁリュフタケはどこで見つけたんだ?」
「ちょっと場所を聞くだけだからさ~。」
臨時収入も入ったから久しぶりに装備を新調しちゃおうかなと気分よく帰っているところで声をかけられた。3人組の冒険者パーティで、たまにギルドで見かけるから顔だけは知っている。
「何のことでしょう?」
「しらばっくれるなよ。俺は鼻がいいんだ。お前からリュフタケの匂いがプンプンしてるぜ。」
せっかくスピカさんに個室査定をしてもらったのに匂いでバレるなんて盲点だった。ミノブ並の嗅覚の良さだな。この冒険者パーティは全員獣人だった。ヒョウ柄の耳をした冒険者が長い尻尾をユラユラさせてニヤつきながら近付いてくる。
「冒険者は助け合いだろ?リュフタケは広範囲で生息しているから少しぐらい分けてもらってもいいんじゃないか?」
自分で探せ。
さて、困った。ギルド内で絡まれたら職員が仲裁に入ってくれるが屋外で問題があった場合、報告すれば後から対応はしてくれるがこの場は自分で何とかするしかない。
いつもなら身体強化して逃げ一択なのだが、今日は魔力を使いすぎて出来そうにもない。相手は獣人3人、俺の敵う相手ではない。これは不意打ちしかないな。
そう思って素早く手の平に魔力を循環させた。
「おい、聞いてんのかよチビ。」
と俺に向かってヒョウ獣人が手を伸ばした瞬間、俺は目の前で思い切り手の平を打ち付けた。音の拡大とライトの魔法を融合させ、いわゆる「ものすごい猫だまし」を食らわせた。人族よりも目と耳が良いと言われる獣人に効果はバツグンだ。
よく絡まれる俺は逃げ方を熟知している。街の構造も頭に叩き込んでいるので追いかけられても追っ手を撒いて最短ルートで帰宅することが可能だ。
明日ギルドにチクってやる。冒険者ギルドでは協力は推進されているが恐喝は御法度だ。
何かしらの処分を受けるが良い。
*************************
次の日、朝のピークの時間をずらしてギルドに向かう。昨日はしっかり稼いだので依頼を受けるつもりはなく、完全にオフの格好だ。昨日の獣人パーティの報告をしたら街でゆっくり買い物をしよう。
すると微妙な顔をしたスピカさんがいた。
「あ~昨日の話は聞いてるよ。うん、もう絡んでこないんじゃないかな?」
昨日の今日でもう処分が終わったのか。早いな。誰かが見ていてギルドに報告してくれたのだろうか?
いやそれはないな。冒険者はあくまで自己責任の世界。仲が良い人ならともかく大して親しくない人物に手を貸すことはあまり無い。俺は冒険者の中に親しい人も友達もいない。悲しくないぞ。
疑問に思いながらも終わったのならもういいかと思いギルドを出た。
プラプラと街を歩き、武器屋でナイフを新調したり、薬屋でポーションを買ったりした。この世界はファンタジーらしくポーションが存在するが、値段によって効果が変わる。1番安いものは擦り傷治療や痛み止め程度の効果で、1番高いものは欠損も治せるらしい。ただ、そんな高レベルのポーションはこんな町中では売っていない。
いつもよりちょっと良いポーションを買って魔法鞄に入れる。これで今日の目的の買い物は終わりだ。屋台でご飯を買って街の広場のベンチで食べる。
こうやってのんびりしていると余計なことを考えてしまう。元の世界のこと、今の俺のこと、この先の自分はどうなるのだろうということ。
この世界に来て最初にギルマスに「異世界人だからといってチートはない」と言われたが、落ちてきた異世界人の中にはもちろん優秀な人はいて、日常生活の便利な道具などは全て先人の異世界人の努力の賜物なのだ。
調味料も水洗トイレも文房具も銭湯などの公共施設も、見たことはないが携帯電話的な物もあるらしい。エネルギー源が魔石という違いはあれど、便利なものは今まで落ちてきた異世界人たちがもたらしたものとのこと。
俺は13歳のときにここに来た。特に目立った能力もない中学生男子が知識チートをするには無理がある。魔力も普通、戦闘力も特にない。
俺、ホント何のためにここに落とされたんだろ。
でも元の世界にいても居場所はなかったからあまり変わらないのかもしれない。
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リュフタケはトリュフのイメージ。
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