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本編
僕がいなくなった世界(途中sideハヤト)
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(sideイオ)
僕は僕がいなくなった世界のことを聞くのが怖かった。僕がいてもいなくても変わらない家族を想像するだけで胸が苦しくなる。
なぜ、弟ばかりが色々なものを持っているのだろうと嫉妬し、弟が才能に驕ることなく努力する姿を見てまた罪悪感に駆られた。そんな僕の汚い心をジークは根気よく聞いてくれた。
「俺はこの世界に来てやり直せると思ったんです。"THUMUの兄"ではなく"イオ"として。でも実際には生きていくのに精一杯で余計なことを考える暇もありませんでした。」
そして冒険者に騙されてますます人との関わりを避けていた。
「イオ、お前は冒険者イオだ。魔力操作が上手くて、苦手なことを工夫で補って、ギルドや依頼人からの信頼が厚い立派な冒険者だ。」
ジークが俯いている俺の手を取って持ち上げる。自然と顔が上を向くと金色の瞳に俺の姿が映っていた。
「弟が嫌いなわけじゃないんだろう?」
「はい⋯弟は可愛いと思っていて大事な家族です。」
「でも羨んだり嫉妬する気持ちもある?」
「⋯はい。」
「俺には1つ上の兄貴がいるんだ。」
ジークは11人兄弟だと言っていた。そんな大家族は想像もできない。
「その兄貴がすごく優秀な人で、頭も良いし力も強いし魔力も豊富ですぐ下の俺は比べられてばかりだった。実際、兄には何一つ勝てなかった。」
Sランクになれる実力を持ったジークより強いだなんて一体どんなお兄さんなんだろう?
「兄のことは尊敬していたんだが、あまりにも比べられて次第に兄自体を疎ましく感じるようになったんだ。そんな自分が嫌になって外に飛び出して魔獣と戦ったりして鬱憤を晴らしていた。それに付き合ってくれたのがロロとラーフだったんだ。」
のちのSランクパーティである。というナレーションが聞こえてきそうだ。そっか、ジークみたいにすごい人でもそんなことを思ったりするのか。ちょっとだけ気分が軽くなった。
「イオ、ハヤトから話を聞いてみないか?」
「なんで⋯。」
「落ち人が同郷の、しかも間接的でも知り合いに会う可能性なんて不可能に近い。」
それはギルマスにも聞いたことがある。一言に落ち人と言っても、国や時代や世界は様々だ。知り合いに会ったことがあるなんて落ち人は聞いたこともないから期待するなと言われた。
「でも⋯」
「絶対に大丈夫だ。俺と一緒に行こう?」
*****************************
向かったのはジークたちの宿だった。
「ロロさん!これめっちゃ美味い!こっちの世界で飲んだ酒で1番美味い!俺感動!」
「おおーハヤトくんいい飲みっぷり~。これもオススメだよー。」
「ちょっとロロ。チーズばかり食べないで下さい。」
扉を開けると酒盛りが始まっていた。
「お前ら、何やってんだ。」
「おかえりー。何だよ、ジークがハヤトくん引き止めとけって言ったんだろー。」
「酔って話せなくなったら意味ないだろ。」
「あ、大丈夫です。俺酒に強いんで。」
そう言ってハヤトさんはこちらを見た。
「イオくん。改めて自己紹介するね。俺はハヤト。」
「ハヤトさん。先ほどはすみませんでした。あの⋯弟のお知り合いで⋯?」
「うん、その前に1つ確認させてほしいんだけどイオくんいま何歳?」
ジークに背中を押されてハヤトさんの向かいの席に座る。隣に座ったジークが俺の前にサッとジュースを置いた。
「19歳です。」
「そっか。俺はいま24歳。2年前に異世界にいたとき、君の弟は23歳だった。」
弟が自分の歳を追い越していた。
*****************************
(sideハヤト)
俺は舞台俳優で、同時にモデルの仕事もしていた。よく現場で会うTHUMUとは気が合って時間が合えば食事に行っていた。酒を飲めるようになってからは場所は居酒屋に変わった。
ある冬の日、THUMUはいつも以上に酔っていた。そこで俺は以前から気になっていたことを聞いた。
「なぁ、THUMU。いつも持ってる写真は何なんだ?」
THUMUはいつも1枚の写真を持ち歩いている。たまに1人でいるときに写真を眺めて暗い顔をしていたのでいつか聞こうと思っていた。
「ああ、兄だよ。」
THUMUはパスケースから写真を取り出して見せてくれた。陸上のユニフォームを着た少年が写っていた。
「似てないな。」
「よく言われる。俺は母似で兄は父似だったんだ。」
「でもなんでこんな昔の写真?これ中学生くらいだよな。」
「うん、この年に亡くなったからね。」
「⋯すまん。無神経だった。」
THUMUはもう10年も前のことだからいいよと枝豆をつまみながら笑った。そして当時は「高熱の息子を1人残して外泊した」と世間からバッシングを受けた母親がノイローゼになりかけたが、海外の仕事を一切辞めた父親の支えにより最近ようやく落ち着いたとほっとした顔をして教えてくれた。
それにしても亡くなった兄の写真を持ち歩いているなんて。
「仲が良かったんだな。」
「⋯どうなんだろ。悪くはなかったと思うけど。」
随分と歯切れが悪い。
「葬式で⋯火葬するときにさ⋯故人の好きな物を棺桶に一緒に入れてあの世に持って行ってもらうってのがあったんだ。」
「うん」
「でもさ。家族の誰も兄の好きだった物がわからなかったんだ。ハードルは昔からやっていたからすぐわかったけど好きな食べ物、好きな芸能人、好きな本、陸上以外の趣味。何も知らなかった。」
THUMUはぐいっとビールを煽る。
「ずっと父に送られていた手紙も僕のことばかりで兄のことなんて何一つ書かれていなかった。」
「⋯そっか。」
そのまま机に突っ伏してしまった。こんなに酔ってるのは初めて見るな。珍しいと思っていたら後日、お兄さんの命日が近かったからだと聞いた。
THUMUは顔を塞いだまま震える声で何度も呟いていた。
「ごめん⋯ごめん伊織⋯」
*****************************
(sideイオ)
「紡久⋯」
まさかと思った。
僕が想像していたのは自分がいなくなっても何も変わらない家族の姿だった。でも実際には家族に酷い傷を残していた。
あの日、僕が卑屈にならずに体調が悪いことを言えていたら、救急車を呼んでいたら。
思っても仕方のないことが頭に浮かぶ。
「でもイオくん。THUMUは大丈夫だよ。」
俯いている僕にハヤトさんは優しい声で続けた。
「イオくんはお父さんの手紙に毎回THUMUのことを"格好良い"とか"尊敬する"とか褒めちぎっていたでしょう?それに恥じない自分になるために頑張るって言ってたよ。後悔だけが残っているわけじゃなかったよ。」
僕は弟に劣等感を感じつつ、やっぱり可愛い弟が自慢なことに変わりはなかった。手紙は父しか読まないと思っていたので、弟の凄いところを父に教えたくて心のままに書いていたことが本人に知られていて非常に恥ずかしい。それより父が手紙を残していたなんて。昔の手紙なんて黒歴史そのものだ。正直何を書いたのか覚えていないので今すぐに燃やしてしまいたい。
「ハヤトさん。話して頂いてありがとうございます。」
「ああ、俺も現世のことを話せるなんて思ってなかったから嬉しいよ。たまにこの世界から疎外感を感じることもあってさ。」
「ああ、わかります。自分が異物だと感じることがあるんですよね。」
「誰だ、イオをそんな扱いした奴は?排除してやる。」
「ジーク。被害妄想みたいなものだから、僕はもう大丈夫です。」
この世界で生きていく決心は付いていた。でも、今回話を聞けて少し残った後悔と家族に想われていた安堵で前に進める気がする。
「あれ?イオくんって"僕"って言ってたっけー?」
ロロさんが、こてんと首を傾げる。可愛いけど手に持っているのは木製の大ジョッキだ。
「ゔっ。この世界に来てすぐギルマスから"もっと口調を荒くしないと悪目立ちする"と言われて変えたんですけどつい出てしまいました。」
敬語もやめろと言われたが目上の人と話すときはどうしても抜けなかった。ロロさんに「僕」のままでもいいんじゃない?と言われたが一度変えた一人称を戻すのは恥ずかしい。
話が一段落したので酒盛りが再び始まった。先ほど食事を食べ終えたばかりだったのでジュースだけ飲んで、ハヤトさんがヘベレケになった頃においとますることにした。
帰りはジークが送ってくれることになった。言いたかったことがあったので丁度良い。
「ジーク、ありがとうございました。ジークが話を聞きに行こうと言ってくれなければずっと家族のことを誤解したままでした。」
「いや、お礼を言われることでは⋯すまない、実は先にハヤトから軽く話を聞いていたんだ。」
「そうなんですか?」
「イオが話してくれる前に人から聞くのはどうかと思ったんだが、もしイオにとって聞かない方が良い内容だったらハヤトに口止めしていた。」
「気を使わせてしまいまして⋯ありがとうございます。あの、ジークに何かお礼をしたいのですが⋯。」
「お礼?俺が勝手にやったことだからいらないぞ?」
「いえ、俺にとってとても大事なことなので、きっかけを作ってくれたジークに感謝しています。何でもするんで何か俺にできることはありませんか?」
「⋯イオ、俺以外に絶っっっ対に"何でもする"とか言うなよ?」
喉をグルルルと鳴らして睨まれた。
怒ってる?
ジークはふうっとため息をついて
「じゃあ今から俺には敬語無しで話してくれ。」
「それ、お礼になりますか?」
「なる。ほら話してくれ。」
「⋯わかり⋯わかった。今日はありがとう。」
ジークはにかっと笑って俺の頭をクシャッと撫でた。尻尾がブンブン振られている。
「ところでイオ、昼間にお前が逃げたときに一切の気配が消えたがあれはもしかして固有スキルか?」
あ、しまった。うっかり人前で使ってしまっていた。でもジークなら大丈夫だろう。
「うん、俺の固有スキルは〘認識阻害〙で相手から自分の情報を一切遮断するものなんだ。」
「そうか、それはあまり知られて良いものじゃないな。わかった、人には話さないから安心しろ。他に誰が知ってるんだ?」
本当にこの人は気が利くな。ギルマスとスピカさん以外にここまで信じられる人と会えるなんて思ってもいなかった。
「ギルマスとスピカさんだけだよ。」
「ん、了解。ロロとラーフにも一応黙っておこうか。知ってる人が少ないほど良いしな。でも、何かあったときは使うことに躊躇するなよ。命あっての物種だ。」
「うん、わかった。」
ジークは宿の俺の部屋の入り口まで送ってくれた。
「ゆっくり休めよ。おやすみ。」
大きな手で俺の頭を撫で、最後にさらりと頬を撫でた。
********************************
イオは過去の気持ちに引っ張られると「僕」になっていましたが、これからは「俺」に統一されます。
僕は僕がいなくなった世界のことを聞くのが怖かった。僕がいてもいなくても変わらない家族を想像するだけで胸が苦しくなる。
なぜ、弟ばかりが色々なものを持っているのだろうと嫉妬し、弟が才能に驕ることなく努力する姿を見てまた罪悪感に駆られた。そんな僕の汚い心をジークは根気よく聞いてくれた。
「俺はこの世界に来てやり直せると思ったんです。"THUMUの兄"ではなく"イオ"として。でも実際には生きていくのに精一杯で余計なことを考える暇もありませんでした。」
そして冒険者に騙されてますます人との関わりを避けていた。
「イオ、お前は冒険者イオだ。魔力操作が上手くて、苦手なことを工夫で補って、ギルドや依頼人からの信頼が厚い立派な冒険者だ。」
ジークが俯いている俺の手を取って持ち上げる。自然と顔が上を向くと金色の瞳に俺の姿が映っていた。
「弟が嫌いなわけじゃないんだろう?」
「はい⋯弟は可愛いと思っていて大事な家族です。」
「でも羨んだり嫉妬する気持ちもある?」
「⋯はい。」
「俺には1つ上の兄貴がいるんだ。」
ジークは11人兄弟だと言っていた。そんな大家族は想像もできない。
「その兄貴がすごく優秀な人で、頭も良いし力も強いし魔力も豊富ですぐ下の俺は比べられてばかりだった。実際、兄には何一つ勝てなかった。」
Sランクになれる実力を持ったジークより強いだなんて一体どんなお兄さんなんだろう?
「兄のことは尊敬していたんだが、あまりにも比べられて次第に兄自体を疎ましく感じるようになったんだ。そんな自分が嫌になって外に飛び出して魔獣と戦ったりして鬱憤を晴らしていた。それに付き合ってくれたのがロロとラーフだったんだ。」
のちのSランクパーティである。というナレーションが聞こえてきそうだ。そっか、ジークみたいにすごい人でもそんなことを思ったりするのか。ちょっとだけ気分が軽くなった。
「イオ、ハヤトから話を聞いてみないか?」
「なんで⋯。」
「落ち人が同郷の、しかも間接的でも知り合いに会う可能性なんて不可能に近い。」
それはギルマスにも聞いたことがある。一言に落ち人と言っても、国や時代や世界は様々だ。知り合いに会ったことがあるなんて落ち人は聞いたこともないから期待するなと言われた。
「でも⋯」
「絶対に大丈夫だ。俺と一緒に行こう?」
*****************************
向かったのはジークたちの宿だった。
「ロロさん!これめっちゃ美味い!こっちの世界で飲んだ酒で1番美味い!俺感動!」
「おおーハヤトくんいい飲みっぷり~。これもオススメだよー。」
「ちょっとロロ。チーズばかり食べないで下さい。」
扉を開けると酒盛りが始まっていた。
「お前ら、何やってんだ。」
「おかえりー。何だよ、ジークがハヤトくん引き止めとけって言ったんだろー。」
「酔って話せなくなったら意味ないだろ。」
「あ、大丈夫です。俺酒に強いんで。」
そう言ってハヤトさんはこちらを見た。
「イオくん。改めて自己紹介するね。俺はハヤト。」
「ハヤトさん。先ほどはすみませんでした。あの⋯弟のお知り合いで⋯?」
「うん、その前に1つ確認させてほしいんだけどイオくんいま何歳?」
ジークに背中を押されてハヤトさんの向かいの席に座る。隣に座ったジークが俺の前にサッとジュースを置いた。
「19歳です。」
「そっか。俺はいま24歳。2年前に異世界にいたとき、君の弟は23歳だった。」
弟が自分の歳を追い越していた。
*****************************
(sideハヤト)
俺は舞台俳優で、同時にモデルの仕事もしていた。よく現場で会うTHUMUとは気が合って時間が合えば食事に行っていた。酒を飲めるようになってからは場所は居酒屋に変わった。
ある冬の日、THUMUはいつも以上に酔っていた。そこで俺は以前から気になっていたことを聞いた。
「なぁ、THUMU。いつも持ってる写真は何なんだ?」
THUMUはいつも1枚の写真を持ち歩いている。たまに1人でいるときに写真を眺めて暗い顔をしていたのでいつか聞こうと思っていた。
「ああ、兄だよ。」
THUMUはパスケースから写真を取り出して見せてくれた。陸上のユニフォームを着た少年が写っていた。
「似てないな。」
「よく言われる。俺は母似で兄は父似だったんだ。」
「でもなんでこんな昔の写真?これ中学生くらいだよな。」
「うん、この年に亡くなったからね。」
「⋯すまん。無神経だった。」
THUMUはもう10年も前のことだからいいよと枝豆をつまみながら笑った。そして当時は「高熱の息子を1人残して外泊した」と世間からバッシングを受けた母親がノイローゼになりかけたが、海外の仕事を一切辞めた父親の支えにより最近ようやく落ち着いたとほっとした顔をして教えてくれた。
それにしても亡くなった兄の写真を持ち歩いているなんて。
「仲が良かったんだな。」
「⋯どうなんだろ。悪くはなかったと思うけど。」
随分と歯切れが悪い。
「葬式で⋯火葬するときにさ⋯故人の好きな物を棺桶に一緒に入れてあの世に持って行ってもらうってのがあったんだ。」
「うん」
「でもさ。家族の誰も兄の好きだった物がわからなかったんだ。ハードルは昔からやっていたからすぐわかったけど好きな食べ物、好きな芸能人、好きな本、陸上以外の趣味。何も知らなかった。」
THUMUはぐいっとビールを煽る。
「ずっと父に送られていた手紙も僕のことばかりで兄のことなんて何一つ書かれていなかった。」
「⋯そっか。」
そのまま机に突っ伏してしまった。こんなに酔ってるのは初めて見るな。珍しいと思っていたら後日、お兄さんの命日が近かったからだと聞いた。
THUMUは顔を塞いだまま震える声で何度も呟いていた。
「ごめん⋯ごめん伊織⋯」
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(sideイオ)
「紡久⋯」
まさかと思った。
僕が想像していたのは自分がいなくなっても何も変わらない家族の姿だった。でも実際には家族に酷い傷を残していた。
あの日、僕が卑屈にならずに体調が悪いことを言えていたら、救急車を呼んでいたら。
思っても仕方のないことが頭に浮かぶ。
「でもイオくん。THUMUは大丈夫だよ。」
俯いている僕にハヤトさんは優しい声で続けた。
「イオくんはお父さんの手紙に毎回THUMUのことを"格好良い"とか"尊敬する"とか褒めちぎっていたでしょう?それに恥じない自分になるために頑張るって言ってたよ。後悔だけが残っているわけじゃなかったよ。」
僕は弟に劣等感を感じつつ、やっぱり可愛い弟が自慢なことに変わりはなかった。手紙は父しか読まないと思っていたので、弟の凄いところを父に教えたくて心のままに書いていたことが本人に知られていて非常に恥ずかしい。それより父が手紙を残していたなんて。昔の手紙なんて黒歴史そのものだ。正直何を書いたのか覚えていないので今すぐに燃やしてしまいたい。
「ハヤトさん。話して頂いてありがとうございます。」
「ああ、俺も現世のことを話せるなんて思ってなかったから嬉しいよ。たまにこの世界から疎外感を感じることもあってさ。」
「ああ、わかります。自分が異物だと感じることがあるんですよね。」
「誰だ、イオをそんな扱いした奴は?排除してやる。」
「ジーク。被害妄想みたいなものだから、僕はもう大丈夫です。」
この世界で生きていく決心は付いていた。でも、今回話を聞けて少し残った後悔と家族に想われていた安堵で前に進める気がする。
「あれ?イオくんって"僕"って言ってたっけー?」
ロロさんが、こてんと首を傾げる。可愛いけど手に持っているのは木製の大ジョッキだ。
「ゔっ。この世界に来てすぐギルマスから"もっと口調を荒くしないと悪目立ちする"と言われて変えたんですけどつい出てしまいました。」
敬語もやめろと言われたが目上の人と話すときはどうしても抜けなかった。ロロさんに「僕」のままでもいいんじゃない?と言われたが一度変えた一人称を戻すのは恥ずかしい。
話が一段落したので酒盛りが再び始まった。先ほど食事を食べ終えたばかりだったのでジュースだけ飲んで、ハヤトさんがヘベレケになった頃においとますることにした。
帰りはジークが送ってくれることになった。言いたかったことがあったので丁度良い。
「ジーク、ありがとうございました。ジークが話を聞きに行こうと言ってくれなければずっと家族のことを誤解したままでした。」
「いや、お礼を言われることでは⋯すまない、実は先にハヤトから軽く話を聞いていたんだ。」
「そうなんですか?」
「イオが話してくれる前に人から聞くのはどうかと思ったんだが、もしイオにとって聞かない方が良い内容だったらハヤトに口止めしていた。」
「気を使わせてしまいまして⋯ありがとうございます。あの、ジークに何かお礼をしたいのですが⋯。」
「お礼?俺が勝手にやったことだからいらないぞ?」
「いえ、俺にとってとても大事なことなので、きっかけを作ってくれたジークに感謝しています。何でもするんで何か俺にできることはありませんか?」
「⋯イオ、俺以外に絶っっっ対に"何でもする"とか言うなよ?」
喉をグルルルと鳴らして睨まれた。
怒ってる?
ジークはふうっとため息をついて
「じゃあ今から俺には敬語無しで話してくれ。」
「それ、お礼になりますか?」
「なる。ほら話してくれ。」
「⋯わかり⋯わかった。今日はありがとう。」
ジークはにかっと笑って俺の頭をクシャッと撫でた。尻尾がブンブン振られている。
「ところでイオ、昼間にお前が逃げたときに一切の気配が消えたがあれはもしかして固有スキルか?」
あ、しまった。うっかり人前で使ってしまっていた。でもジークなら大丈夫だろう。
「うん、俺の固有スキルは〘認識阻害〙で相手から自分の情報を一切遮断するものなんだ。」
「そうか、それはあまり知られて良いものじゃないな。わかった、人には話さないから安心しろ。他に誰が知ってるんだ?」
本当にこの人は気が利くな。ギルマスとスピカさん以外にここまで信じられる人と会えるなんて思ってもいなかった。
「ギルマスとスピカさんだけだよ。」
「ん、了解。ロロとラーフにも一応黙っておこうか。知ってる人が少ないほど良いしな。でも、何かあったときは使うことに躊躇するなよ。命あっての物種だ。」
「うん、わかった。」
ジークは宿の俺の部屋の入り口まで送ってくれた。
「ゆっくり休めよ。おやすみ。」
大きな手で俺の頭を撫で、最後にさらりと頬を撫でた。
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イオは過去の気持ちに引っ張られると「僕」になっていましたが、これからは「俺」に統一されます。
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