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本編
ランクアップ試験
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俺は最近おかしい。
何がおかしいって目がおかしい。
いつ何度見てもジークが格好良く見える。
いや、前から格好良い人だとは思っていたし、めちゃくちゃモテる人だから格好良いのは当たり前なのだが。とにかく何というか、キラキラしている。
そして心臓もおかしい。以前は何も思わなかったのにジークに抱きつかれたりすると心臓が早く動いて苦しくなったり、締め付けられるような動きをしたり全くコントロールができない。
この状態は以前ハヤトさんから家族の話を聞いた帰りに送ってもらってからだ。変わったことと言えば俺の家族への誤解が解けたことぐらいで特に何もなかったはずだ。
これはもしかして「推し」という気持ちではないだろうか。現世で図書室仲間の相原が小説の中で特に好きなキャラクターを「推し」と呼び、今の俺と全く同じ状態になると熱弁していたことを思い出した。なるほどこれが「推し」という感覚か。憧れとはまた違うのだろうか?
などと思いながらギルドの受付で査定待ちをしている間、後ろで最近繰り広げられる騒ぎを眺める。
「ジークさん好きです!今日も素敵です!僕と付き合って下さい!」
「付き合わない。」
「絶対後悔させません!恋人になって下さい!」
「断る。」
「じゃあ今からご飯だけでも!」
ジークに抱きつこうとしてあしらわれているのは水色の髪の可愛い少年だった。
数日前、ギルド職員の息子さんが忘れ物の弁当を届けに来たときにジークに一目惚れをして、それから毎日待ち伏せしては告白を繰り返している。ジークに憧れている人は多いが、断られても何度も告白するような人はいなかったのでその光景は名物になりつつある。
周りの冒険者たちの
「付き合ってやれよー。」
「可愛いじゃねーか。」
という野次が飛ぶ。俺はなんだかその場にいたくなくて査定が終わると早々にギルドを出た。なんだかモヤモヤする。
しばらく歩いていると後ろからジークが追いかけてきた。
「待ってくれイオ。一緒に帰ろう。」
「ジーク。あの⋯さっきの子は?」
「ん?誰のことだ?」
「アンジュくんのことだけど。」
「アンジュ⋯誰だっけ?」
嘘でしょ。毎日毎日「アンジュです!16歳です!趣味は手芸で好きな食べ物はピチーの実です!」とアピールされまくっているのに名前すら覚えてないの!?
「明日はランクアップ試験だろ?景気付けに美味いものを食べに行こう。」
そうだ。明日はいよいよBランクになるための試験が行われる。集中しなければ。俺は持て余している自分の思考を一旦横に置いて、試験用の頭に切り替えた。
「ちょっとジーク、さっさと行かないでよー。」
ロロさんとラーフさんもギルドから出てきて合流した。
「イオ、明日の試験頑張って下さいね。いつものあなたなら問題ありませんよ。」
「ありがとうございます。緊張しますが頑張ります。」
「あっハヤトくんがいた。おーいハヤトくん、一緒にご飯行くー?」
ロロさんは先日酒盛りをしてから酒に強いハヤトさんを気に入ったようで、何度かスピカさんを交えて飲みに行っているらしい。
「えっいや⋯あの⋯ギルドに用事があるからまた今度!」
そそくさとギルドに入っていくハヤトさん。最近ハヤトさんも何だかおかしい。俺と話すときは普通だけど、ジークたちと一緒にいると挙動不審になる。
「もーラーフのせいでハヤトくんに逃げられたじゃん。」
「心外ですね。私がいないときに誘ってみては?」
「そうするよ!」
ラーフさんてハヤトさんから避けられるくらい仲が悪かったっけ?
****************************
「本日のランクアップ試験の担当になります、ミーナです。よろしくね。」
白い耳をピコピコ動かし、長い尻尾がしなやかに動くネコ獣人のミーナさんはギルド窓口1番人気の美人のお姉さんだ。
「では試験のルール説明ね。まず今日はミノブの討伐について行くけど、私は一切手出しはしないのでいつも通り動いてね。道中、魔獣が私に向かってきたらこちらで対処するので放置しても構いません。また、生死に関わるような事になればあなたの許可を取ったうえで対応します。その際、試験は不合格となり次にランクアップ試験を受けられるのは半年後です。」
「わかりました。」
「わざと注意力を散らすために話しかけるからちゃんと相手してね。」
「はい。」
説明が終わって試験開始だ。まずは討伐対象のイノシシに似たミノブという魔獣を見つけなければならない。ミーナさんはついてくるだけで道の誘導はしない。俺は以前見つけたリュフタケの群生地を目指した。リュフタケはミノブの大好物だ。
「イオくんとは前からお話したかったから担当になれてラッキーだわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、スピカにイオくんには話しかけるなって言われていたのよ。」
「? なぜでしょうか。」
「ほら、私って人気があるでしょ?私のファンがイオくんに絡むからってさ~。」
確かに。ミーナさんはとても綺麗で人気があるので窓口はいつも行列だ。
「今日は前から聞きたかったことがあるから楽しみにしてたんだ~。」
と言いながら木の上から落ちてきた大蛇の魔獣を細身の剣で真っ二つにした。
試験官が倒した魔獣は素材を持ち帰らないことになっているのでミーナさんの魔法ですぐに燃やす。一瞬で灰になった。
「ねぇねぇイオくん。いつからジークと付き合ってるの?」
「付き⋯?合同依頼は殺人蜂討伐のときからですけど。」
「ちっがーう!いつから恋人になったのかってこと!」
「えぇっ!?なっていませんが!」
「嘘ぉっ!?そんなにマーキングされてるのに!?」
マーキングってなに?!
獣人にとってマーキングとは匂いを付けた相手の周りに牽制をかけるものだという。そのマーキングがジークから俺に施されているらしい。もしかして抱きついたりしてくるのはそのため?
「イオくん最近冒険者に絡まれなくなったでしょ?」
確かに。以前に比べて影でこそこそ言われることはあるが、直接言いに来る人はいなくなっていた。
「イオくんに絡んでいたのは大体獣人だったからね。獣人ってのは基本脳筋だから自分より強い人には喧嘩売らないのよ。」
なるほど。Sランクのジークに喧嘩を売るなんて人はいないんだろうな。
「以前獣人の冒険者に襲われているところを助けてもらったので、もしかしたらそれで気を使ってくれているのかもしれませんね。」
「⋯(いや、マーキングってそんなんじゃないからね。俺のモノだ触んな殺すぞって匂いだから。それで付き合ってないとか⋯馬に蹴られそうだから黙っとこ)じゃあイオくんは今フリーなのね。」
ミーナさんは一瞬黙りこくったが、再び話し始めた。
「はい、今というか今までお付き合いした人もいませんよ。」
「どんな人が好み?女の子と男の子で好みが変わったりする?」
「あの、同性同士でもお付き合いってされるんですか?」
付き合う人の選択肢にナチュラルに男性が入っていることが気になった。
「なんでダメなの?」
「ダメと言う訳では⋯俺の国では同性同士で付き合うのは珍しかったので驚いただけです。」
「えー!じゃあ結婚も異性だけなの?」
「はい、同性婚は認められていませんでした。」
「認めてもらうって誰に?」
「えーと⋯国?」
「変なのー。結婚するのに国が関係あるの?」
「国に婚姻届を提出したら結婚したことになります。ここでは違うんですか?あ、すみませんジャノメ草があるので採取します。」
この時期にしか採れない珍しい薬草があったので、一言断ってから採取をする。
「婚姻届なんて人族の中の貴族だけよ。普通は恋人同士が"結婚しよう→喜んで"で結婚は成立。ちなみにイオくんの国の結婚の定義って何?」
「定義?ええ~と⋯誓いの言葉では確か⋯"病めるときも健やかなるときも互いに慈しみ愛することを誓うこと"ですかね。」
「なら一緒よ。お互いが好きで付き合って結婚するのに人からの許可も性別も種族も関係ないわ。」
文化の違いを感じることは多々あるが、結婚については誰かに教わる機会がなかったので目から鱗だった。そういえば町中で同性同士が手を繋いで歩いているところを見たことがあり、この世界の友人関係は距離が近いなぁと思っていたがあれは恋人もしくは夫婦(伴侶?)の距離だったのか。
そっか、同性でも恋人同士になれるのか。
そう思って頭に浮かんだ人物は⋯
「あれ?イオくん顔真っ赤だ。どしたの?」
「いえ、何でもありません。」
いやいやいやいや。まさかそんなことは。いやでも。うーんダメだ。経験値がなさすぎて自分の気持ちがわからない。なんせ俺は初恋もまだの恋愛初心者だ。
「ミーナさんは恋人や伴侶はいるんですか?」
話を逸らすことにした。
「この前別れちゃった。恋人欲しいけど私は"番婚"を目指してるから恋人を作るタイミングに悩むのよね~。」
「つがいこん⋯?」
「あれ?"番"って聞いたことない?」
「初めて聞きました。」
ミーナさんは俺に「番」について教えてくれた。獣人にとって番とはこの世にただ1人存在する唯一であり全てで、出会える確率は100分の1程度らしく、同じ意味でエルフは「運命」、龍人は「半身」、ドワーフは「片割れ」と呼ばれているとのこと。
「一目でわかるんですか?」
「そうらしいよ。私もギルドで冒険者同士が番に会った瞬間を見たけど一瞬で2人の世界に入っていたわ。」
「不思議な感覚ですね。あっでも元々恋人がいる獣人が番に会ってしまったらどうなるんですか?」
「基本的に番が優先されるわね。まぁ番に出会えること自体めったにないことだけど。」
それは⋯元恋人が気の毒すぎるのでは?
今まで時間を重ねて付き合ってきた人より初対面の人が優先されるなんて「番」だったら誰でも良いってことになるんじゃ?
「ただ、人族だけはその感覚はわからないから人族と番関係になってしまったら揉めることが多いのよ。」
「確かに。もしいきなり番だと言われても困りますね。自分には到底理解できない感覚ですし。」
話している間にリュフタケの採取ポイントに着いた。一先ず討伐のことだけを考えよう。今日の試験のために以前仕掛けていたミノブよけを外していたので、リュフタケをミノブが掘り起こしている跡がある。時間があるならここに罠を張って捕獲するのだが、試験のために今日中に討伐しなければならない。
ミノブの縄張りは巣から半径2キロほどだ。巣の場所は特定できていないが、何年も森に入っているのでミノブの餌場は把握している。それを一カ所ずつ回っていくことにした。リュフタケを掘り起こした土がまだ完全に乾いていないのでそこまで遠くに行っていないはずだ。
「ミーナさん、匂いを消してミノブを追跡します。」
体に薄く魔力を纏って匂いを消す。ミーナさんもすぐに同じ事をして匂いを消した。
把握している餌場を回り、4カ所目でミノブを見つけた。山芋に似たノノイモを掘り出している姿が見える。ここから討伐開始だ。少し前まで魔獣を見ると逃げることしか考えていなかったのに不思議なものだ。
ゆっくり背後から近付いていく。固有スキル〘認識阻害〙を使えば楽に討伐できるが、使うわけにはいかない。それになるべく固有スキルに頼らない方法でランクアップしたい。
魔法と武器を使って相手の体力を削り、トドメを一気に刺すという俺の戦闘スタイルでミノブは討伐できた。これで試験は終了だ。
「うん、討伐完了。戦い方や知識の豊富さ、薬草採取の正確さ、どれをとっても素晴らしいものでした。あとは⋯」
ミーナさんは戦闘の際の注意点をいくつか指摘してくれた。ジークたちとは違った視点の考え方でとても参考になる。
「というわけでイオくんは合格です。ランクアップおめでとう!」
「ありがとうございました。」
今日からBランク冒険者になった。
*************************************
イオの俗っぽい知識は大概相原から得たもの。
何がおかしいって目がおかしい。
いつ何度見てもジークが格好良く見える。
いや、前から格好良い人だとは思っていたし、めちゃくちゃモテる人だから格好良いのは当たり前なのだが。とにかく何というか、キラキラしている。
そして心臓もおかしい。以前は何も思わなかったのにジークに抱きつかれたりすると心臓が早く動いて苦しくなったり、締め付けられるような動きをしたり全くコントロールができない。
この状態は以前ハヤトさんから家族の話を聞いた帰りに送ってもらってからだ。変わったことと言えば俺の家族への誤解が解けたことぐらいで特に何もなかったはずだ。
これはもしかして「推し」という気持ちではないだろうか。現世で図書室仲間の相原が小説の中で特に好きなキャラクターを「推し」と呼び、今の俺と全く同じ状態になると熱弁していたことを思い出した。なるほどこれが「推し」という感覚か。憧れとはまた違うのだろうか?
などと思いながらギルドの受付で査定待ちをしている間、後ろで最近繰り広げられる騒ぎを眺める。
「ジークさん好きです!今日も素敵です!僕と付き合って下さい!」
「付き合わない。」
「絶対後悔させません!恋人になって下さい!」
「断る。」
「じゃあ今からご飯だけでも!」
ジークに抱きつこうとしてあしらわれているのは水色の髪の可愛い少年だった。
数日前、ギルド職員の息子さんが忘れ物の弁当を届けに来たときにジークに一目惚れをして、それから毎日待ち伏せしては告白を繰り返している。ジークに憧れている人は多いが、断られても何度も告白するような人はいなかったのでその光景は名物になりつつある。
周りの冒険者たちの
「付き合ってやれよー。」
「可愛いじゃねーか。」
という野次が飛ぶ。俺はなんだかその場にいたくなくて査定が終わると早々にギルドを出た。なんだかモヤモヤする。
しばらく歩いていると後ろからジークが追いかけてきた。
「待ってくれイオ。一緒に帰ろう。」
「ジーク。あの⋯さっきの子は?」
「ん?誰のことだ?」
「アンジュくんのことだけど。」
「アンジュ⋯誰だっけ?」
嘘でしょ。毎日毎日「アンジュです!16歳です!趣味は手芸で好きな食べ物はピチーの実です!」とアピールされまくっているのに名前すら覚えてないの!?
「明日はランクアップ試験だろ?景気付けに美味いものを食べに行こう。」
そうだ。明日はいよいよBランクになるための試験が行われる。集中しなければ。俺は持て余している自分の思考を一旦横に置いて、試験用の頭に切り替えた。
「ちょっとジーク、さっさと行かないでよー。」
ロロさんとラーフさんもギルドから出てきて合流した。
「イオ、明日の試験頑張って下さいね。いつものあなたなら問題ありませんよ。」
「ありがとうございます。緊張しますが頑張ります。」
「あっハヤトくんがいた。おーいハヤトくん、一緒にご飯行くー?」
ロロさんは先日酒盛りをしてから酒に強いハヤトさんを気に入ったようで、何度かスピカさんを交えて飲みに行っているらしい。
「えっいや⋯あの⋯ギルドに用事があるからまた今度!」
そそくさとギルドに入っていくハヤトさん。最近ハヤトさんも何だかおかしい。俺と話すときは普通だけど、ジークたちと一緒にいると挙動不審になる。
「もーラーフのせいでハヤトくんに逃げられたじゃん。」
「心外ですね。私がいないときに誘ってみては?」
「そうするよ!」
ラーフさんてハヤトさんから避けられるくらい仲が悪かったっけ?
****************************
「本日のランクアップ試験の担当になります、ミーナです。よろしくね。」
白い耳をピコピコ動かし、長い尻尾がしなやかに動くネコ獣人のミーナさんはギルド窓口1番人気の美人のお姉さんだ。
「では試験のルール説明ね。まず今日はミノブの討伐について行くけど、私は一切手出しはしないのでいつも通り動いてね。道中、魔獣が私に向かってきたらこちらで対処するので放置しても構いません。また、生死に関わるような事になればあなたの許可を取ったうえで対応します。その際、試験は不合格となり次にランクアップ試験を受けられるのは半年後です。」
「わかりました。」
「わざと注意力を散らすために話しかけるからちゃんと相手してね。」
「はい。」
説明が終わって試験開始だ。まずは討伐対象のイノシシに似たミノブという魔獣を見つけなければならない。ミーナさんはついてくるだけで道の誘導はしない。俺は以前見つけたリュフタケの群生地を目指した。リュフタケはミノブの大好物だ。
「イオくんとは前からお話したかったから担当になれてラッキーだわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、スピカにイオくんには話しかけるなって言われていたのよ。」
「? なぜでしょうか。」
「ほら、私って人気があるでしょ?私のファンがイオくんに絡むからってさ~。」
確かに。ミーナさんはとても綺麗で人気があるので窓口はいつも行列だ。
「今日は前から聞きたかったことがあるから楽しみにしてたんだ~。」
と言いながら木の上から落ちてきた大蛇の魔獣を細身の剣で真っ二つにした。
試験官が倒した魔獣は素材を持ち帰らないことになっているのでミーナさんの魔法ですぐに燃やす。一瞬で灰になった。
「ねぇねぇイオくん。いつからジークと付き合ってるの?」
「付き⋯?合同依頼は殺人蜂討伐のときからですけど。」
「ちっがーう!いつから恋人になったのかってこと!」
「えぇっ!?なっていませんが!」
「嘘ぉっ!?そんなにマーキングされてるのに!?」
マーキングってなに?!
獣人にとってマーキングとは匂いを付けた相手の周りに牽制をかけるものだという。そのマーキングがジークから俺に施されているらしい。もしかして抱きついたりしてくるのはそのため?
「イオくん最近冒険者に絡まれなくなったでしょ?」
確かに。以前に比べて影でこそこそ言われることはあるが、直接言いに来る人はいなくなっていた。
「イオくんに絡んでいたのは大体獣人だったからね。獣人ってのは基本脳筋だから自分より強い人には喧嘩売らないのよ。」
なるほど。Sランクのジークに喧嘩を売るなんて人はいないんだろうな。
「以前獣人の冒険者に襲われているところを助けてもらったので、もしかしたらそれで気を使ってくれているのかもしれませんね。」
「⋯(いや、マーキングってそんなんじゃないからね。俺のモノだ触んな殺すぞって匂いだから。それで付き合ってないとか⋯馬に蹴られそうだから黙っとこ)じゃあイオくんは今フリーなのね。」
ミーナさんは一瞬黙りこくったが、再び話し始めた。
「はい、今というか今までお付き合いした人もいませんよ。」
「どんな人が好み?女の子と男の子で好みが変わったりする?」
「あの、同性同士でもお付き合いってされるんですか?」
付き合う人の選択肢にナチュラルに男性が入っていることが気になった。
「なんでダメなの?」
「ダメと言う訳では⋯俺の国では同性同士で付き合うのは珍しかったので驚いただけです。」
「えー!じゃあ結婚も異性だけなの?」
「はい、同性婚は認められていませんでした。」
「認めてもらうって誰に?」
「えーと⋯国?」
「変なのー。結婚するのに国が関係あるの?」
「国に婚姻届を提出したら結婚したことになります。ここでは違うんですか?あ、すみませんジャノメ草があるので採取します。」
この時期にしか採れない珍しい薬草があったので、一言断ってから採取をする。
「婚姻届なんて人族の中の貴族だけよ。普通は恋人同士が"結婚しよう→喜んで"で結婚は成立。ちなみにイオくんの国の結婚の定義って何?」
「定義?ええ~と⋯誓いの言葉では確か⋯"病めるときも健やかなるときも互いに慈しみ愛することを誓うこと"ですかね。」
「なら一緒よ。お互いが好きで付き合って結婚するのに人からの許可も性別も種族も関係ないわ。」
文化の違いを感じることは多々あるが、結婚については誰かに教わる機会がなかったので目から鱗だった。そういえば町中で同性同士が手を繋いで歩いているところを見たことがあり、この世界の友人関係は距離が近いなぁと思っていたがあれは恋人もしくは夫婦(伴侶?)の距離だったのか。
そっか、同性でも恋人同士になれるのか。
そう思って頭に浮かんだ人物は⋯
「あれ?イオくん顔真っ赤だ。どしたの?」
「いえ、何でもありません。」
いやいやいやいや。まさかそんなことは。いやでも。うーんダメだ。経験値がなさすぎて自分の気持ちがわからない。なんせ俺は初恋もまだの恋愛初心者だ。
「ミーナさんは恋人や伴侶はいるんですか?」
話を逸らすことにした。
「この前別れちゃった。恋人欲しいけど私は"番婚"を目指してるから恋人を作るタイミングに悩むのよね~。」
「つがいこん⋯?」
「あれ?"番"って聞いたことない?」
「初めて聞きました。」
ミーナさんは俺に「番」について教えてくれた。獣人にとって番とはこの世にただ1人存在する唯一であり全てで、出会える確率は100分の1程度らしく、同じ意味でエルフは「運命」、龍人は「半身」、ドワーフは「片割れ」と呼ばれているとのこと。
「一目でわかるんですか?」
「そうらしいよ。私もギルドで冒険者同士が番に会った瞬間を見たけど一瞬で2人の世界に入っていたわ。」
「不思議な感覚ですね。あっでも元々恋人がいる獣人が番に会ってしまったらどうなるんですか?」
「基本的に番が優先されるわね。まぁ番に出会えること自体めったにないことだけど。」
それは⋯元恋人が気の毒すぎるのでは?
今まで時間を重ねて付き合ってきた人より初対面の人が優先されるなんて「番」だったら誰でも良いってことになるんじゃ?
「ただ、人族だけはその感覚はわからないから人族と番関係になってしまったら揉めることが多いのよ。」
「確かに。もしいきなり番だと言われても困りますね。自分には到底理解できない感覚ですし。」
話している間にリュフタケの採取ポイントに着いた。一先ず討伐のことだけを考えよう。今日の試験のために以前仕掛けていたミノブよけを外していたので、リュフタケをミノブが掘り起こしている跡がある。時間があるならここに罠を張って捕獲するのだが、試験のために今日中に討伐しなければならない。
ミノブの縄張りは巣から半径2キロほどだ。巣の場所は特定できていないが、何年も森に入っているのでミノブの餌場は把握している。それを一カ所ずつ回っていくことにした。リュフタケを掘り起こした土がまだ完全に乾いていないのでそこまで遠くに行っていないはずだ。
「ミーナさん、匂いを消してミノブを追跡します。」
体に薄く魔力を纏って匂いを消す。ミーナさんもすぐに同じ事をして匂いを消した。
把握している餌場を回り、4カ所目でミノブを見つけた。山芋に似たノノイモを掘り出している姿が見える。ここから討伐開始だ。少し前まで魔獣を見ると逃げることしか考えていなかったのに不思議なものだ。
ゆっくり背後から近付いていく。固有スキル〘認識阻害〙を使えば楽に討伐できるが、使うわけにはいかない。それになるべく固有スキルに頼らない方法でランクアップしたい。
魔法と武器を使って相手の体力を削り、トドメを一気に刺すという俺の戦闘スタイルでミノブは討伐できた。これで試験は終了だ。
「うん、討伐完了。戦い方や知識の豊富さ、薬草採取の正確さ、どれをとっても素晴らしいものでした。あとは⋯」
ミーナさんは戦闘の際の注意点をいくつか指摘してくれた。ジークたちとは違った視点の考え方でとても参考になる。
「というわけでイオくんは合格です。ランクアップおめでとう!」
「ありがとうございました。」
今日からBランク冒険者になった。
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イオの俗っぽい知識は大概相原から得たもの。
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