45 / 79
三章 ライナスのぬくもりに溶かされて
似た境遇
しおりを挟む
戯れに唇を長く押し付けたり、すぐに離されたりと、多様なキスに俺の理性が流されていく。
外が静かだ。また雪が降り始めたのかもしれない。二人だけの場所に閉じ込められていくのを感じていると、ライナスが唇を離しながら息をついた。
「こうしてカツミさんと一緒にいられるなんて、夢みたいです」
「そんないいもんじゃない。すぐにガッカリする」
「まさか。ワタシはずっと、カツミさんを好きになって、愛し続けます」
「一体その自信はどこから来るんだ?」
半ば呆れ気味に俺が考えなく紡いだ言葉に、ライナスが口を閉ざす。笑顔の輝きを消したその顔は、やけに真剣で翳りが覗いて、ひどく悲しげに見えた。
「……ホントは、独りで生きて、絵の世界に沈んでいたかったんです。両親は、もういないので」
ずっと聞かないようにしていた、ライナスの事情。
早く追い出すのだから、知る必要ないだろうと興味を持たないようにしていたこと。
しかし今、ライナスの都合に深く立ち入り、まがいなりにも特別な交わりを持とうとしている。もう観念してライナスを知るべきだろうと思い、俺は話に耳を傾ける。
「俺と似た境遇なのか……」
「そうですね……両親は子どもの頃に亡くして、帰る故郷もなくて、ただ作品を描きたいと願ってました。でも今はカツミさんが私の居場所で、カツミさんの世界がワタシの世界です」
「言い方が大げさだな。ライナスは顔も性格も良い。その気になれば俺以外の相手で居場所は作れる」
「ワタシが尊敬して、美しいと感じて、同じ世界にいたいと思える人は、カツミさんだけです。他の誰かに変えるなんてできません」
そっと俺の節くれ立った手を取り、ライナスが手の甲へ唇を落とす。
「どうか一緒に居させて下さい、ワタシのミューズ……ワタシの人生、カツミさんに捧げます」
まだ若いのに、そんな重い決断をあっさりしないでくれ。ライナスは出会っていないだけだ。俺よりもっと若くて、性格が良い相手はいるだろうに……。
だが同じ孤独を持つなら、手を差し出したくなる。俺はライナスの頭を撫でながら、小さく微笑んだ。
「そこまでしなくても、そばに居ればいい」
「ありがとうございます。カツミさんの言葉に甘えます」
嬉しそうにライナスが満面の笑みを浮かべる。不意に長い指が俺の頬をなぞり、首筋を下り、胸を弄ろとして、思わずその手を叩いてしまった。
「調子に乗るな。まだ早い」
「早くなければいいんですか?」
「……覚悟ができていない」
「覚悟してもらえるよう、手伝います」
言いながらガバッとライナスが俺を抱き締める。
うなじに熱い吐息がかかり、思わずビクッと俺の背筋が跳ねた。
「コラ、変なことはするな――んっ……」
「慣れてください、ワタシに……」
慣れる訳がないだろ。俺は免疫も経験もないんだから。
全身でライナスの抱擁を感じながら、俺は軽く目を閉じる。
体が熱い。心音が速く聞こえる。頭がクラクラしてくるのに、この状況が嫌じゃない自分がいる。
互いの熱が溶け合い、どちらのものとも分からなくなっていく。
ああ、あたたかい。ずっとこのままでいられたら、どれだけ幸せだろうか。
自分の心が急速にライナスにくっついていく。絶対に離れたくないという自分の本音に気づかされたが、我慢しろと言い聞かせる。
俺に縛り付けて、二度と広い世界へ羽ばたけなくしてしまうのは可哀そうだ。たとえライナスが外の世界を望んでいなかったとしても――。
外が静かだ。また雪が降り始めたのかもしれない。二人だけの場所に閉じ込められていくのを感じていると、ライナスが唇を離しながら息をついた。
「こうしてカツミさんと一緒にいられるなんて、夢みたいです」
「そんないいもんじゃない。すぐにガッカリする」
「まさか。ワタシはずっと、カツミさんを好きになって、愛し続けます」
「一体その自信はどこから来るんだ?」
半ば呆れ気味に俺が考えなく紡いだ言葉に、ライナスが口を閉ざす。笑顔の輝きを消したその顔は、やけに真剣で翳りが覗いて、ひどく悲しげに見えた。
「……ホントは、独りで生きて、絵の世界に沈んでいたかったんです。両親は、もういないので」
ずっと聞かないようにしていた、ライナスの事情。
早く追い出すのだから、知る必要ないだろうと興味を持たないようにしていたこと。
しかし今、ライナスの都合に深く立ち入り、まがいなりにも特別な交わりを持とうとしている。もう観念してライナスを知るべきだろうと思い、俺は話に耳を傾ける。
「俺と似た境遇なのか……」
「そうですね……両親は子どもの頃に亡くして、帰る故郷もなくて、ただ作品を描きたいと願ってました。でも今はカツミさんが私の居場所で、カツミさんの世界がワタシの世界です」
「言い方が大げさだな。ライナスは顔も性格も良い。その気になれば俺以外の相手で居場所は作れる」
「ワタシが尊敬して、美しいと感じて、同じ世界にいたいと思える人は、カツミさんだけです。他の誰かに変えるなんてできません」
そっと俺の節くれ立った手を取り、ライナスが手の甲へ唇を落とす。
「どうか一緒に居させて下さい、ワタシのミューズ……ワタシの人生、カツミさんに捧げます」
まだ若いのに、そんな重い決断をあっさりしないでくれ。ライナスは出会っていないだけだ。俺よりもっと若くて、性格が良い相手はいるだろうに……。
だが同じ孤独を持つなら、手を差し出したくなる。俺はライナスの頭を撫でながら、小さく微笑んだ。
「そこまでしなくても、そばに居ればいい」
「ありがとうございます。カツミさんの言葉に甘えます」
嬉しそうにライナスが満面の笑みを浮かべる。不意に長い指が俺の頬をなぞり、首筋を下り、胸を弄ろとして、思わずその手を叩いてしまった。
「調子に乗るな。まだ早い」
「早くなければいいんですか?」
「……覚悟ができていない」
「覚悟してもらえるよう、手伝います」
言いながらガバッとライナスが俺を抱き締める。
うなじに熱い吐息がかかり、思わずビクッと俺の背筋が跳ねた。
「コラ、変なことはするな――んっ……」
「慣れてください、ワタシに……」
慣れる訳がないだろ。俺は免疫も経験もないんだから。
全身でライナスの抱擁を感じながら、俺は軽く目を閉じる。
体が熱い。心音が速く聞こえる。頭がクラクラしてくるのに、この状況が嫌じゃない自分がいる。
互いの熱が溶け合い、どちらのものとも分からなくなっていく。
ああ、あたたかい。ずっとこのままでいられたら、どれだけ幸せだろうか。
自分の心が急速にライナスにくっついていく。絶対に離れたくないという自分の本音に気づかされたが、我慢しろと言い聞かせる。
俺に縛り付けて、二度と広い世界へ羽ばたけなくしてしまうのは可哀そうだ。たとえライナスが外の世界を望んでいなかったとしても――。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる