44 / 79
三章 ライナスのぬくもりに溶かされて
ライナスの気配
しおりを挟む先に風呂を浴びてから俺は寝室へと向かう。
寝る前にストーブで部屋を温めておいたほうがいいだろうと思って足を運んだが、ふすまを開けるといつもの冴えた空気の出迎えはなかった。
冷え切った廊下を渡り終えたことを労うような、不意打ちのぬくもり。独りではないという証に頬が緩む。
「この部屋で誰かの気配を感じるなんて、学生の時以来か?」
子どもの頃は俺以外の誰かが出入りしていた。風邪を引いて寝込んだ時に看病してくれた母親。たまにここへ遊びに来てくれた辻口や学友たち。成人してからは俺しか出入りしていない。
誰も入れる気のなかった部屋。まさかこの年になって、一緒に寝るためにここへ人を招く日が来るとは……。
少し感慨深くなりながら部屋の明かりを点ける。
飾り気のない殺風景な和室に敷かれた二組の布団。ぴっちりと隙間なく並べられた様に、思わず生々しさを感じてしまう。
ああ、落ち着かない。本当に俺はアイツと寝るのか?
昨日は大事を取って、前の部屋で丸一日ライナスを休ませた。だからこの部屋で一緒に寝るのは今日が初めてだ。
一応付き合うことになったんだ。横に並んでただ寝るだけで済まないだろう。
ゲイではないが、その道の人に男同士のやり方を教わりに行ったライナス。無知で色恋には無縁でとっくに枯れていた俺とは違い、若くて貪りたい盛りのアイツは仲の深め方を知っている。
俺からは何もする気はない。ライナスが望んだことだ。気が済むまでやればいい。飽きて離れることを期待しながら相手をする気だと知ったら、さすがに悲しむだろうか。
……早く俺から離れて欲しいが、ライナスに悲しい思いをさせるのは嫌だ。
ライナスのことを考えてしまうと、どこまでも取り留めなく思考を働かせてしまう。それだけ頭の中で流せないほど、ライナスの存在が大きくなっていることを自覚する。
今まで築き上げてきた自分が壊れていくのを感じる。ずっとこの家で独り、ただ誰よりも深い漆黒だけを求めて生きていけるように作った自分が――。
ふっ、と我に返り、俺はふすまを閉じてストーブ前を陣取る。
赤々とした輝きから放たれる熱が俺の顔に届く。熱く感じるのはストーブのせいなのか、俺が赤面しているせいなのか、うやむやになっていく。
考えることに疲れてぼんやりしている内に、眠気が俺を包み込んでくる。コクッ、コクッ、と横に舟を漕ぎ始めていると、
「お待たせしました、カツミさん」
背後からライナスに抱き包まれる。少し冷え始めていた背中に風呂上がりの体温を感じてしまい、その心地良さに息が零れた。
「別に、待っていない」
「でもカラダ、冷えてます」
「ライナスは風呂から出たばかりだからな。そのせいだろう」
「しっかりあたためますね」
人の話を聞かず、ライナスが俺に熱を移してくる。
腕の中があまりにあたたかくて、心ごと溶かされていく。もっと熱が欲しいと強請るように顔を上げれば、既に寄せ始めていたライナスの唇に出迎えられ、口付けで体を熱くさせられる。
12
あなたにおすすめの小説
猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜
なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。
そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。
しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。
猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。
契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。
だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実
「君を守るためなら、俺は何でもする」
これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は?
猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる