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三章 ライナスのぬくもりに溶かされて
似た境遇
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戯れに唇を長く押し付けたり、すぐに離されたりと、多様なキスに俺の理性が流されていく。
外が静かだ。また雪が降り始めたのかもしれない。二人だけの場所に閉じ込められていくのを感じていると、ライナスが唇を離しながら息をついた。
「こうしてカツミさんと一緒にいられるなんて、夢みたいです」
「そんないいもんじゃない。すぐにガッカリする」
「まさか。ワタシはずっと、カツミさんを好きになって、愛し続けます」
「一体その自信はどこから来るんだ?」
半ば呆れ気味に俺が考えなく紡いだ言葉に、ライナスが口を閉ざす。笑顔の輝きを消したその顔は、やけに真剣で翳りが覗いて、ひどく悲しげに見えた。
「……ホントは、独りで生きて、絵の世界に沈んでいたかったんです。両親は、もういないので」
ずっと聞かないようにしていた、ライナスの事情。
早く追い出すのだから、知る必要ないだろうと興味を持たないようにしていたこと。
しかし今、ライナスの都合に深く立ち入り、まがいなりにも特別な交わりを持とうとしている。もう観念してライナスを知るべきだろうと思い、俺は話に耳を傾ける。
「俺と似た境遇なのか……」
「そうですね……両親は子どもの頃に亡くして、帰る故郷もなくて、ただ作品を描きたいと願ってました。でも今はカツミさんが私の居場所で、カツミさんの世界がワタシの世界です」
「言い方が大げさだな。ライナスは顔も性格も良い。その気になれば俺以外の相手で居場所は作れる」
「ワタシが尊敬して、美しいと感じて、同じ世界にいたいと思える人は、カツミさんだけです。他の誰かに変えるなんてできません」
そっと俺の節くれ立った手を取り、ライナスが手の甲へ唇を落とす。
「どうか一緒に居させて下さい、ワタシのミューズ……ワタシの人生、カツミさんに捧げます」
まだ若いのに、そんな重い決断をあっさりしないでくれ。ライナスは出会っていないだけだ。俺よりもっと若くて、性格が良い相手はいるだろうに……。
だが同じ孤独を持つなら、手を差し出したくなる。俺はライナスの頭を撫でながら、小さく微笑んだ。
「そこまでしなくても、そばに居ればいい」
「ありがとうございます。カツミさんの言葉に甘えます」
嬉しそうにライナスが満面の笑みを浮かべる。不意に長い指が俺の頬をなぞり、首筋を下り、胸を弄ろとして、思わずその手を叩いてしまった。
「調子に乗るな。まだ早い」
「早くなければいいんですか?」
「……覚悟ができていない」
「覚悟してもらえるよう、手伝います」
言いながらガバッとライナスが俺を抱き締める。
うなじに熱い吐息がかかり、思わずビクッと俺の背筋が跳ねた。
「コラ、変なことはするな――んっ……」
「慣れてください、ワタシに……」
慣れる訳がないだろ。俺は免疫も経験もないんだから。
全身でライナスの抱擁を感じながら、俺は軽く目を閉じる。
体が熱い。心音が速く聞こえる。頭がクラクラしてくるのに、この状況が嫌じゃない自分がいる。
互いの熱が溶け合い、どちらのものとも分からなくなっていく。
ああ、あたたかい。ずっとこのままでいられたら、どれだけ幸せだろうか。
自分の心が急速にライナスにくっついていく。絶対に離れたくないという自分の本音に気づかされたが、我慢しろと言い聞かせる。
俺に縛り付けて、二度と広い世界へ羽ばたけなくしてしまうのは可哀そうだ。たとえライナスが外の世界を望んでいなかったとしても――。
外が静かだ。また雪が降り始めたのかもしれない。二人だけの場所に閉じ込められていくのを感じていると、ライナスが唇を離しながら息をついた。
「こうしてカツミさんと一緒にいられるなんて、夢みたいです」
「そんないいもんじゃない。すぐにガッカリする」
「まさか。ワタシはずっと、カツミさんを好きになって、愛し続けます」
「一体その自信はどこから来るんだ?」
半ば呆れ気味に俺が考えなく紡いだ言葉に、ライナスが口を閉ざす。笑顔の輝きを消したその顔は、やけに真剣で翳りが覗いて、ひどく悲しげに見えた。
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ずっと聞かないようにしていた、ライナスの事情。
早く追い出すのだから、知る必要ないだろうと興味を持たないようにしていたこと。
しかし今、ライナスの都合に深く立ち入り、まがいなりにも特別な交わりを持とうとしている。もう観念してライナスを知るべきだろうと思い、俺は話に耳を傾ける。
「俺と似た境遇なのか……」
「そうですね……両親は子どもの頃に亡くして、帰る故郷もなくて、ただ作品を描きたいと願ってました。でも今はカツミさんが私の居場所で、カツミさんの世界がワタシの世界です」
「言い方が大げさだな。ライナスは顔も性格も良い。その気になれば俺以外の相手で居場所は作れる」
「ワタシが尊敬して、美しいと感じて、同じ世界にいたいと思える人は、カツミさんだけです。他の誰かに変えるなんてできません」
そっと俺の節くれ立った手を取り、ライナスが手の甲へ唇を落とす。
「どうか一緒に居させて下さい、ワタシのミューズ……ワタシの人生、カツミさんに捧げます」
まだ若いのに、そんな重い決断をあっさりしないでくれ。ライナスは出会っていないだけだ。俺よりもっと若くて、性格が良い相手はいるだろうに……。
だが同じ孤独を持つなら、手を差し出したくなる。俺はライナスの頭を撫でながら、小さく微笑んだ。
「そこまでしなくても、そばに居ればいい」
「ありがとうございます。カツミさんの言葉に甘えます」
嬉しそうにライナスが満面の笑みを浮かべる。不意に長い指が俺の頬をなぞり、首筋を下り、胸を弄ろとして、思わずその手を叩いてしまった。
「調子に乗るな。まだ早い」
「早くなければいいんですか?」
「……覚悟ができていない」
「覚悟してもらえるよう、手伝います」
言いながらガバッとライナスが俺を抱き締める。
うなじに熱い吐息がかかり、思わずビクッと俺の背筋が跳ねた。
「コラ、変なことはするな――んっ……」
「慣れてください、ワタシに……」
慣れる訳がないだろ。俺は免疫も経験もないんだから。
全身でライナスの抱擁を感じながら、俺は軽く目を閉じる。
体が熱い。心音が速く聞こえる。頭がクラクラしてくるのに、この状況が嫌じゃない自分がいる。
互いの熱が溶け合い、どちらのものとも分からなくなっていく。
ああ、あたたかい。ずっとこのままでいられたら、どれだけ幸せだろうか。
自分の心が急速にライナスにくっついていく。絶対に離れたくないという自分の本音に気づかされたが、我慢しろと言い聞かせる。
俺に縛り付けて、二度と広い世界へ羽ばたけなくしてしまうのは可哀そうだ。たとえライナスが外の世界を望んでいなかったとしても――。
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