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四章 試練と不調と裸の付き合い
間の悪い対面
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「あ……す、すみません」
「意識が戻ったか! 大丈夫か?」
「熱くて……ガマンしていたら、目の前が暗くなって……のぼせました」
「まだ入ってすぐなのにか?」
「こんなに熱いのが耐えられるなんて、みんなスゴいです」
しまった。俺たちはこれで育ってきたから普通だが、ライナスは慣れていない。家の風呂はぬるくなりやすいが、ライナスにとってはそれが丁度良かったということか。
考えが至らず、申し訳なくてたまらない。思わず顔をしかめながら、俺はライナスを覗き込む。
「立てそうか? 肩を貸すから、脱衣所で休むぞ」
「はい……すみません」
フラフラと起き上がるライナスの腕を肩に乗せ、俺と濱中でどうにかずっしりと重みのある長身を、脱衣所のベンチへ寝かせてやる。
心配半分、好奇心半分なじいさんたちを、辻口が簡単に状況を伝えて愛想よく「もう大丈夫だから」とやんわり追い返す。さすが館長だ。人の扱いが上手い。
濱中はライナスの腰にタオルを置いてくれたり、自販機でスポーツドリンクを購入して、ライナスに渡してくれたりと、こちらも頼もしく動いてくれる。
俺だけが出遅れて、何もできずベンチの隣で床に膝をつき、ライナスに付き添うことしかできない。何をやっているんだ俺は……と自分に呆れたその時。
「何があったんや、幸正のせがれ。そんな所に寝そべられたら、邪魔でしょうがないやろ」
突然話しかけられて頭を上げれば、それはもう嫌そうに顔をしかめながら俺を見下ろす水仲さんの姿があった。
「み、水仲さん……っ、あ、いや、これは……」
「余所もんには熱いやろ、ここの湯は」
「ライナスは温泉に入る経験がなかったみたいなので、厳しかったみたいです」
「ちったぁ考えんか。余所もんはオレらが思ってるよりヤワなんや。安易に混ぜようとすんな」
相変わらず地元民ではない者には厳しい水仲さんだが、今回は言いたいことは分かるし、一理あると思う。提案をした辻口が悪い訳じゃない。ライナスのことを把握できていなかった俺が悪い。
水仲さんと接点が持てたとはいえ、これでは意味がない。仕切り直したほうがいい。
俺は「すみません」と頭を下げる。その時、ライナスが上体を起こして水仲さんを見上げた。
「カツミさんたちは、ワタシのために、ここへ連れて来てくれました。水仲さんと会うために」
「なんやと? なしてオレと?」
「蒔絵をしているところを、見せて欲しくて――」
慌てて俺は首を振り、ライナスの言葉を制す。
焦る気持ちは分かるが、いきなり本題に入るのはいかんだろう。反発しか返ってこないと思っていたら案の定、
「余所もんに見せとうないわ。他あたれ」
水仲さんが即座に突き放してくる。これはもう顔を合わせるだけ悪く思われるだけだろう。それなら――と、俺は話を切り出す。
「水仲さん、話を聞いてくれないか。ライナスは――」
「どうせ余所もんに見せても、知って満足。それで終わりやろが。意味ないわ」
苦々しいものを吐き出すように、水仲さんが言い放つ。苛立ちの中に心なしか悲しげな色が見える。昔、何かあったのかもしれないと察して、俺は言い淀んでしまう。
これは別の人を探したほうが早そうだ。俺が内心そう判断していると、唐突にライナスが首を激しく横に振った。
「意識が戻ったか! 大丈夫か?」
「熱くて……ガマンしていたら、目の前が暗くなって……のぼせました」
「まだ入ってすぐなのにか?」
「こんなに熱いのが耐えられるなんて、みんなスゴいです」
しまった。俺たちはこれで育ってきたから普通だが、ライナスは慣れていない。家の風呂はぬるくなりやすいが、ライナスにとってはそれが丁度良かったということか。
考えが至らず、申し訳なくてたまらない。思わず顔をしかめながら、俺はライナスを覗き込む。
「立てそうか? 肩を貸すから、脱衣所で休むぞ」
「はい……すみません」
フラフラと起き上がるライナスの腕を肩に乗せ、俺と濱中でどうにかずっしりと重みのある長身を、脱衣所のベンチへ寝かせてやる。
心配半分、好奇心半分なじいさんたちを、辻口が簡単に状況を伝えて愛想よく「もう大丈夫だから」とやんわり追い返す。さすが館長だ。人の扱いが上手い。
濱中はライナスの腰にタオルを置いてくれたり、自販機でスポーツドリンクを購入して、ライナスに渡してくれたりと、こちらも頼もしく動いてくれる。
俺だけが出遅れて、何もできずベンチの隣で床に膝をつき、ライナスに付き添うことしかできない。何をやっているんだ俺は……と自分に呆れたその時。
「何があったんや、幸正のせがれ。そんな所に寝そべられたら、邪魔でしょうがないやろ」
突然話しかけられて頭を上げれば、それはもう嫌そうに顔をしかめながら俺を見下ろす水仲さんの姿があった。
「み、水仲さん……っ、あ、いや、これは……」
「余所もんには熱いやろ、ここの湯は」
「ライナスは温泉に入る経験がなかったみたいなので、厳しかったみたいです」
「ちったぁ考えんか。余所もんはオレらが思ってるよりヤワなんや。安易に混ぜようとすんな」
相変わらず地元民ではない者には厳しい水仲さんだが、今回は言いたいことは分かるし、一理あると思う。提案をした辻口が悪い訳じゃない。ライナスのことを把握できていなかった俺が悪い。
水仲さんと接点が持てたとはいえ、これでは意味がない。仕切り直したほうがいい。
俺は「すみません」と頭を下げる。その時、ライナスが上体を起こして水仲さんを見上げた。
「カツミさんたちは、ワタシのために、ここへ連れて来てくれました。水仲さんと会うために」
「なんやと? なしてオレと?」
「蒔絵をしているところを、見せて欲しくて――」
慌てて俺は首を振り、ライナスの言葉を制す。
焦る気持ちは分かるが、いきなり本題に入るのはいかんだろう。反発しか返ってこないと思っていたら案の定、
「余所もんに見せとうないわ。他あたれ」
水仲さんが即座に突き放してくる。これはもう顔を合わせるだけ悪く思われるだけだろう。それなら――と、俺は話を切り出す。
「水仲さん、話を聞いてくれないか。ライナスは――」
「どうせ余所もんに見せても、知って満足。それで終わりやろが。意味ないわ」
苦々しいものを吐き出すように、水仲さんが言い放つ。苛立ちの中に心なしか悲しげな色が見える。昔、何かあったのかもしれないと察して、俺は言い淀んでしまう。
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