28 / 56
28. 現実とフィクションの狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
しおりを挟む
28. 現実とフィクションの狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
オレの部屋は今日も白石によって、いつもと違う空気に満たされていた。特に何かを約束していたわけではないが、学校が終わり家に帰宅すれば当然のように部屋に来る。もう、そういうものなのだ。
「ねぇ先輩、見てくださいよ!けん玉!」
白石がどこから取り出したのか、唐突に木製のけん玉をオレに見せてきた。その意外なアイテムに思わず目を見張る。
「なんでそんなの持ってんだよ?」
「部屋にあったんですよ。間違えておじいちゃんの持って来ちゃったんです! 私、こう見えて得意なんですよ? ほらっ!」
白石は得意げな顔をしてけん玉を始めた。ヒュンと紐が鳴り、玉が宙を舞う。そしてカチリと小皿に見事に収まる。へぇ、意外とやるもんだな。関心して見ていると、白石は続けて大皿、剣先と技を決めていく。その度に、体をひねったり、しゃがんだりするのだが……
……動く度にスカートが捲れてんだよ……ってか、思いっきりパンツ見えてるし……マズいと分かっていつつも、視線がそちらに行ってしまう。これは男の性なので仕方ない。今日はピンクのシンプルなやつか。
「ん? ちょっとどこ見てるんですか? いやーん。先輩のエッチ」
白石がピタリと動きを止め、オレの視線の先に気づいたらしい。意地の悪い笑みを浮かべてそう言った。
「お前が見ろって言ったんだろ!」
「私が言ったのはけん玉ですよ。そんなに見たいならベッド行きますか?」
「黙れ。そもそもその格好が悪いんだ!不可抗力だろ?こっちだって白石のパンツなんか見たくもないって!」
慌てて否定する。見ていたのは事実だが、お前がわざわざ見せつけるような動きをしたからだろうが。そして、オレに変態のレッテルを貼るな。
「先輩。その割には顔赤いですけど?」
白石は、オレの必死な様子を面白そうに観察している。鏡を見なくても顔が熱くなっているのが分かる。
「うるさい。黙れ」
「ふ~ん。まあいいですよ、私たち付き合ってますし!」
白石はまたしてもこの状況を「付き合っている」という前提で片付けようとする。本当にこの言葉を聞くたびに力が抜ける。
「付き合ってはいない」
反射的に訂正したが、もう彼女には届いていないだろう。白石はけん玉を横に置くと、次にどこに隠していたのか大きな箱を取り出した。
「じゃあ先輩。次はこれやりましょうよ!」
そう言って、ドデン、とテーブルの上に置かれたのは、『人生ゲーム』の箱だった。
なんでそんなに色々なものを持ってくるんだよこいつ……
「テレビゲームは下手ですけど、人生ゲームなら負けませんから!私強いので!」
「人生ゲームに強いとか弱いとかあんのかよ。運任せのゲームだろうが。まあいいや、お前先でいいからルーレット回せよ」
オレは、テーブルの真ん中に置かれたカラフルな人生ゲームの盤面を見つめた。まさか白石と人生ゲームをやることになるなんて。想像もしていなかった。
白石は嬉しそうにルーレットを回した。「カチカチカチ……」と軽快な音が響き針が止まる。職業カードを選びコマを動かす。意外とこういうアナログなゲームも悪くない。白石が次にどこに止まるか、どんなイベントが起こるかを見ているのは、なんだか新鮮だった。
しばらく、二人で人生ゲームを続けていく。就職、結婚、家購入、そして子供が生まれるマス。白石がオレの車のコマに乗せられた子供のピンを見て吹き出した。
「え?ちょっと先輩……どんだけ子供作るんですか?車に乗れてないですよ?」
オレの車のコマには、すでにプラスチック製の小さな子供のピンが4つも乗っていた。まだゲームは中盤なのに妙に子沢山だ。
「いやいや。仕方ねぇだろ?そういうマスにしか止まらないんだから!」
「本当ですかぁ?狙ってません?」
白石は疑わしそうな含みのある顔をしてオレを見た。なんだよその顔は。何を疑ってるんだ。ゲームだぞこれ。
「それに、求められるのはいいですけど……私そんなに産めないですよ~もしかして将来は野球チーム作れるくらい子供欲しいとか……?もう!私のこと好きすぎですよ先輩!」
「これは人生ゲームだからな!?うぜぇ。もうやめるぞ?」
これはゲームだ!変な妄想するな!オレは慌てて突っ込み、ゲーム盤から手を離そうとした。
「わ~、待ってくださいよ~!私も先輩みたいに子供欲しいです!」
「変な風に言うのやめろよ!」
こいつと一緒にいると常にこういう、現実とフィクション、真面目と不真面目の狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
……結局この日、オレはずっと白石につき合わされ、延々と人生ゲームをやり続けた。白石は負けず嫌いなのか、あるいは単に楽しかったのか、何度も「もう一回!」と言ってきた。そして何回やっても、オレのコマだけは妙な引力でもあるのかやたらと子供が生まれるマスにばかり止まり、ゴールする頃にはいつも車から子供が溢れかえっていた。
オレの部屋は今日も白石によって、いつもと違う空気に満たされていた。特に何かを約束していたわけではないが、学校が終わり家に帰宅すれば当然のように部屋に来る。もう、そういうものなのだ。
「ねぇ先輩、見てくださいよ!けん玉!」
白石がどこから取り出したのか、唐突に木製のけん玉をオレに見せてきた。その意外なアイテムに思わず目を見張る。
「なんでそんなの持ってんだよ?」
「部屋にあったんですよ。間違えておじいちゃんの持って来ちゃったんです! 私、こう見えて得意なんですよ? ほらっ!」
白石は得意げな顔をしてけん玉を始めた。ヒュンと紐が鳴り、玉が宙を舞う。そしてカチリと小皿に見事に収まる。へぇ、意外とやるもんだな。関心して見ていると、白石は続けて大皿、剣先と技を決めていく。その度に、体をひねったり、しゃがんだりするのだが……
……動く度にスカートが捲れてんだよ……ってか、思いっきりパンツ見えてるし……マズいと分かっていつつも、視線がそちらに行ってしまう。これは男の性なので仕方ない。今日はピンクのシンプルなやつか。
「ん? ちょっとどこ見てるんですか? いやーん。先輩のエッチ」
白石がピタリと動きを止め、オレの視線の先に気づいたらしい。意地の悪い笑みを浮かべてそう言った。
「お前が見ろって言ったんだろ!」
「私が言ったのはけん玉ですよ。そんなに見たいならベッド行きますか?」
「黙れ。そもそもその格好が悪いんだ!不可抗力だろ?こっちだって白石のパンツなんか見たくもないって!」
慌てて否定する。見ていたのは事実だが、お前がわざわざ見せつけるような動きをしたからだろうが。そして、オレに変態のレッテルを貼るな。
「先輩。その割には顔赤いですけど?」
白石は、オレの必死な様子を面白そうに観察している。鏡を見なくても顔が熱くなっているのが分かる。
「うるさい。黙れ」
「ふ~ん。まあいいですよ、私たち付き合ってますし!」
白石はまたしてもこの状況を「付き合っている」という前提で片付けようとする。本当にこの言葉を聞くたびに力が抜ける。
「付き合ってはいない」
反射的に訂正したが、もう彼女には届いていないだろう。白石はけん玉を横に置くと、次にどこに隠していたのか大きな箱を取り出した。
「じゃあ先輩。次はこれやりましょうよ!」
そう言って、ドデン、とテーブルの上に置かれたのは、『人生ゲーム』の箱だった。
なんでそんなに色々なものを持ってくるんだよこいつ……
「テレビゲームは下手ですけど、人生ゲームなら負けませんから!私強いので!」
「人生ゲームに強いとか弱いとかあんのかよ。運任せのゲームだろうが。まあいいや、お前先でいいからルーレット回せよ」
オレは、テーブルの真ん中に置かれたカラフルな人生ゲームの盤面を見つめた。まさか白石と人生ゲームをやることになるなんて。想像もしていなかった。
白石は嬉しそうにルーレットを回した。「カチカチカチ……」と軽快な音が響き針が止まる。職業カードを選びコマを動かす。意外とこういうアナログなゲームも悪くない。白石が次にどこに止まるか、どんなイベントが起こるかを見ているのは、なんだか新鮮だった。
しばらく、二人で人生ゲームを続けていく。就職、結婚、家購入、そして子供が生まれるマス。白石がオレの車のコマに乗せられた子供のピンを見て吹き出した。
「え?ちょっと先輩……どんだけ子供作るんですか?車に乗れてないですよ?」
オレの車のコマには、すでにプラスチック製の小さな子供のピンが4つも乗っていた。まだゲームは中盤なのに妙に子沢山だ。
「いやいや。仕方ねぇだろ?そういうマスにしか止まらないんだから!」
「本当ですかぁ?狙ってません?」
白石は疑わしそうな含みのある顔をしてオレを見た。なんだよその顔は。何を疑ってるんだ。ゲームだぞこれ。
「それに、求められるのはいいですけど……私そんなに産めないですよ~もしかして将来は野球チーム作れるくらい子供欲しいとか……?もう!私のこと好きすぎですよ先輩!」
「これは人生ゲームだからな!?うぜぇ。もうやめるぞ?」
これはゲームだ!変な妄想するな!オレは慌てて突っ込み、ゲーム盤から手を離そうとした。
「わ~、待ってくださいよ~!私も先輩みたいに子供欲しいです!」
「変な風に言うのやめろよ!」
こいつと一緒にいると常にこういう、現実とフィクション、真面目と不真面目の狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
……結局この日、オレはずっと白石につき合わされ、延々と人生ゲームをやり続けた。白石は負けず嫌いなのか、あるいは単に楽しかったのか、何度も「もう一回!」と言ってきた。そして何回やっても、オレのコマだけは妙な引力でもあるのかやたらと子供が生まれるマスにばかり止まり、ゴールする頃にはいつも車から子供が溢れかえっていた。
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗利は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる