隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫

文字の大きさ
44 / 56

44. 白石のウザさと可愛さはバランスが重要だと感じる今日この頃

しおりを挟む
44. 白石のウザさと可愛さはバランスが重要だと感じる今日この頃



 相も変わらず、オレの部屋は白石の存在によって賑やかだ。今日は、最近白石がハマっているらしい、新しい格闘ゲームを二人でやっている。画面の中では、カラフルなキャラクターたちが激しい技を繰り出し、派手なエフェクトと共にぶつかり合っている。

 しかし、白石は驚くほどゲームが下手だ。複雑なコマンドは出せないし防御もほとんどしない。ただボタンを連打しているだけといった様子だ。なぜにこんなに一緒にやりたいのか全く理解できない。

「やん。ダメ!先輩!」

 白石の操作するキャラクターが、オレの攻撃を受けて吹き飛ぶ。その度に、白石からどこか含みのある声が飛んでくる。

「……。」

「ああ~ん。お願い!下ばかりやめてください!ああ~」

「やめろ!ただの格闘ゲームで、卑猥なんだよ発言が!」

 思わずそう叫んだ。普通の格闘ゲームで、なぜこんなに卑猥なやり取りをしなければならないんだ。

「だって~先輩が下ばかり狙うから!」

「じゃあガードすればいいだろうが?」

「むぅ……先輩。 教えてくださいよ!私も先輩に勝ちたいです!」

 白石はオレの言葉に不満そうにしながらも、勝負にはこだわりがあるらしい。悔しそうに教えろと頼んできた。

「わかったよ。 白石も可哀想だしな」

 ここまで下手だと、少しだけ可哀想に思えてきた。それに、教えてやれば少しは静かになるかもしれない。

「まず、この十字キーを……」

 オレが、基本的な操作方法を教えようと、白石の持っているコントローラーを指差した時だった。

「先輩。 それじゃわからないですよ~。 こう、後ろからコントローラー持って動かしてください!」

 白石は、オレの言葉を遮って信じられない要求をしてきた。後ろからコントローラーを持って動かす?それはつまり、オレが白石の後ろに回って、こいつの体に密着した状態で手に重ねるようにしてコントローラーを操作するということか?

「はぁ!?」

「ほらほら!教えてくれるんですよね?私可哀想なんでしょ?」

 白石は、オレの動揺を無視してさらに畳み掛けてくる。その可哀想という言葉を都合良く使ってくる。うぜぇ……こいつ。人の善意をなんだと思っているんだ。

 結局、白石の押しに負けて、オレは白石が座っているソファーの後ろに回り込んだ。そして、白石の手に重ねるようにしてコントローラーを持つ。

 くそっ……白石の、あの甘い匂いがするんだよ。髪からか、シャンプーか石鹸か。そして、背中に当たる白石の体の柔らかい感触。あまりの密着度に心臓がドクドクと音を立て始めた。落ち着け……落ち着くんだ……これは、ゲームの操作を教えているだけだ。それ以外の意味は何もない。

「あの先輩。すごくドキドキしてるの背中に感じるんですけど?」

「おまっ!振り向くなよ!顔近いだろ!コントローラーと画面に集中しろよ、お前は!」

 慌ててそう叫んだ。この密着した状態で振り向かれたらどうなるか分かったもんじゃない。

「わかってますよ~そんなに怒らなくても先輩が悪いのに」

 白石は、まるでオレのパニックを面白がっているようだ。そして、なぜかオレが悪いと言う。なぜだ?オレはただお前の要求に応えているだけだろうが。

「あの先輩。そんなにドキドキするなら、私のこと襲っちゃえばよくないですか?こんなに密着してるのに」

 襲う?なんだその発想は。何を言っているんだこいつは!真面目に教えてやろうとしているオレの気持ちも知らないで!なんだこいつ……面倒くせぇ。

 そのあと、しばらくオレは白石に操作を教えてあげた。後ろからコントローラーを持つ手を動かし、技のコマンドやガードのタイミングなどを教える。白石は、最初こそぎこちなかったが、少しずつ言われた通りに動かせるようになってきた。

「こんなもんか?」

「ふっふっふ。先輩、遊びはおしまいです。さぁ勝負です!」

「はいはい」

 オレは、いつものように適当に返事をして、対戦モードを開始した。先ほど教えた操作を白石がどれだけ出来ているか。しかし、結果は……

「あっ!ちょっ!え?待ってくださいよ!ああ~ん。負けたぁ……」

「まだまだだな」

「いや、今ちょっとミスっただけですし、ここから逆転しますんで!もう1回やりましょ先輩!」

 白石は、負けたのが信じられないのか、あるいは単に負けず嫌いなのか、すぐに言い訳をして再戦を挑んできた。しかし何度やっても結果は変わらなかった。オレが勝ち続け白石は負け続けた。でも対戦中の白石は真剣な顔をしたり悔しがったり、そして時折、楽しそうな顔をしていた。

 ゲームに熱中して楽しんでいる顔を見ていると、なんだかこの面倒な時間に付き合ったのも、まあ良かったかなと思えてくるのだった。

 オレの後ろからコントローラーを操作しろ、なんて、とんでもないことを言い出す奴だが、そのおかげで、白石の意外な可愛さを見たり、彼女の楽しそうな顔を見たりすることができた。

 そして、その顔を見ていると、彼女のウザさも少しだけ許せるような気がするのだ。この奇妙な感情のバランスの上で、オレと白石の関係は成り立っているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗利は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...