隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

46. 夏の暑さと同じくらい白石のウザさは不愉快になる。けど、もう日常の一コマになりつつある

46.　夏の暑さと同じくらい白石のウザさは不愉快になる。けど、もう日常の一コマになりつつある



　8月も中旬に差し掛かり、暑さは相変わらず容赦ない。部屋のエアコンはフル稼働しているが、それでも外からの熱気が少しは伝わってくるような気がする。

　白石はソファーの上で、いつものようにスマホをいじったり、テレビを観たりしている。オレはといえば、こいつの存在をBGMに夏休みの課題でも進めようかと考えているところだった。しかし、今日の白石はなんだか様子が違う。頻繁にオレの方を見ている気がする。

　そしてしばらくの沈黙の後、白石がいつもの弾むような声ではなく少しだけ遠慮がちなトーンで口を開いた。

「あの……先輩？聞いてもいいですか？」

「お前の聞いてもいいですか？は面倒だから嫌なんだが？」

　その言い方はこれから面倒なことを言う時のお前の合図だろうが。もう分かってるんだぞ。しかし、白石のいつもと違う様子になんだか少しだけ気になってしまう。

「うぐっ！？ で、でも聞きたいです！とても重要なことなんですよ！」

　重要なこと？お前が言う重要なことほど、くだらないことはないというのがオレの経験則だが。

「なんだよ、重要なことって？」

「先輩って、私以外の女子と話すとき、緊張してますか？」

「そりゃあ……緊張するかもな」

　オレだって男だ。特に、あまり話したことのない女性と話す時は、少しは緊張するだろう。別にそこまでコミュ障というわけではないのだが、初対面の人や、美人すぎる人には少しだけ身構えてしまう。いや、そもそもなんでこいつはそんなことを急に聞くんだ？

「なんでそんなこと聞くんだよ？」

「昨日友達から言われたんですよ～『夏帆の彼氏は今でも夏帆に対して緊張するの？それがなければ、もうマンネリになってんじゃない？』って……」

　白石は、友達から言われた言葉をそのまま引用した。そしてその言葉を、まるでオレたちに当てはめて考えているかのように話す。まず大前提としてオレとお前は付き合ってない。だから彼氏でも彼女でもない。

「まず大前提としてオレとお前は付き合ってない。だから、別に緊張したりしないだろ」

　オレはいつも通り事実を淡々と述べた。緊張しないのは、付き合っていないからだ。それだけだ。

「じゃあ、先輩は私が他の男子と仲良さそうに話してても、嫉妬しないんですか？」

　白石はオレの言葉を受けて、さらに突っ込んできた。嫉妬？ なんだその発想は。お前が他の男子と話そうが、遊ぼうが、オレには関係ない。

「まあ、そうだな。 白石には興味ないし」

「本当に～？」

　白石は、オレの言葉を聞いてニヤリと笑った。その目は、オレの言葉を信じていないと物語っている。そしてわざとらしく、オレの方に体を密着させてきた。ソファーの上で、肩が触れ合うほどの距離になる。

「お、おいやめろよ……暑苦しい」

　夏の暑さも相まって、体に触れられると余計に暑く感じる。そして、白石の体温が伝わってくる感覚になんだか落ち着かない。

「えぇ～いいじゃないですか～？先輩は緊張しないんですよね？」

　白石は、オレの言葉を無視して、さらに体を寄せてくる。そして、オレの「緊張しない」という言葉を、逆手にとって、この距離でも平気なはずだとでもいうように言ってくる。その、人をからかうような、意地の悪い笑顔がさらにオレを苛立たせる。

「しねぇけど、暑いもんは暑いんだよ！」

　これは緊張とは関係ない！純粋に、物理的に暑いんだ！お前の体温が伝わってきて余計に暑いんだ！こいつは、本当にウザさのスペシャリストか？どうやったら、ここまで人をイラつかせられるんだ。

「あれ？先輩？私には興味ないんですよね？なら、この距離感も平気ですよねぇ？ほらほら、素直になったほうがいいと思いますよ～？」

「うるせぇ！離れろよ！」

　もう、これ以上白石の言葉を聞いているのは無理だ。オレは、白石を突き放そうと体を動かした。しかし、白石はそれを許さない。オレの腕や肩に掴まり離れようとしない。

「へっへーん！嫌です～！」

　白石はオレの抵抗を楽しんでいるようだ。そして得意げにそう言って、さらに力を込めてオレに密着してくる。

　それからしばらく、オレたちはソファーの上でこの押し問答を続けることになった。オレが離れようとし白石がそれを阻止する。ただそれだけの無駄な時間。傍から見たらまるでイチャイチャしているように見えるのかもしれない。だが、違う。これは白石の図々しさと、それに抵抗するオレの攻防戦。

　そうこれは、単なる夏の暑さと、白石のウザさと、それに振り回されるオレの日常の一コマだ。オレは白石の体温とウザさに挟まれ、密室のようなソファーの上で無駄な時間を過ごし続けた。