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「先輩の彼氏になりたい」
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気を取り直すように息を吐いて、インスタを開く。投稿できる新たな弾き語り動画はないが、更新したい気分だ。とは言え、何かしらの画像か動画がないとアップできない仕組みのSNSだ。写真フォルダをスクロールしても目ぼしいものはなく、これでいいかとひとくち齧ったアイスを撮影する。
<最近は次に弾く曲を探してる。今までとは違った曲調のものになりそう。いいのがたくさんあって迷う>
キャプションにそう書いて投稿すると、ほんの数分でアンミツからコメントが届いた。
<次も楽しみです! 最近は前回投稿の曲を毎日聴いています。momoさんはオリジナル曲を作ったりはしないんですか?>
「オリジナルなあ……」
アンミツからの一文にある単語を、桃輔はぼそりと読み上げる。
ギターを買って、コードを少しずつ覚えていって。オリジナル楽曲を作成することに、興味が湧かないわけではない。だがその一歩は踏み出せずにいる。音楽にしたいほどのなにか強い感情が、自分の中に見つからなかった。
<アンミツさんいつもありがとうございます。オリジナルは今のところ考えていないですね>
返信を終えたところで、ヘッドホンから流れていた一曲が終わった。プレイリストを変えようと一時停止を押せば、桜輔と母の会話が耳に届く。
「そうだ。お母さん、明日のお弁当のおかずってなに?」
「お弁当のおかず? 珍しいこと聞くわね」
「ちょっと気になって」
「明日はねー、唐揚げがメインかな」
「ほんと? やった。俺の好きなヤツ」
「ふふ、そうね」
無邪気な桜輔に、母も気分がよさそうだ。それにしたって、妙なことを聞くものだなと母に同意する。そんなことを尋ねているのは初めて聞いた。
満足げな桜輔はまたスマートフォンを操作しながら立ち上がり、こちらへと向かってきた。自室に逃げたいところだが、アイスを貰った手前あまり邪険にもできない。
「なに。なんか用?」
「いや、特には。えーっと、アイス美味しい?」
「……まあ。これ、明日買って返す」
「え? いいよ、気にしなくて」
「そういうんじゃねえよ。借り作りたくないだけ。俺も食いたいのあるから、そのついで」
「ふ、そっか。ありがとう」
桃輔の頭の上に手を翳し、だがバツが悪そうにその手は引っこめられた。眉尻を下げて淡く笑いながら、桜輔は階段のほうへと歩き出す。誰へというわけでもない桜輔の「おやすみ」に母が返事をし、桃輔は体から力を抜くように息を吐いた。
そろそろ自分も自室に向かおうか。食べ終わったアイスの棒を袋に戻し、立ち上がりかけた時。スマートフォンの通知が鳴ったので、再び腰を下ろす。
確認すると、先ほど投稿した写真へのコメントが新たに来た通知だった。cherryからだ。
<合う曲が見つかるといいですね。投稿楽しみにしています>
アンミツに続き、cherryも相変わらずリアクションが早い。
<cherryさんいつもありがとうございます。またよかったと言ってもらえるような演奏がしたいです>
返信をしてから、今度こそ自室へと引き上げる。黙ったままでいたら背中に母からの「おやすみ」がぶつかったので、小さな声で「おやすみ」と返した。
<最近は次に弾く曲を探してる。今までとは違った曲調のものになりそう。いいのがたくさんあって迷う>
キャプションにそう書いて投稿すると、ほんの数分でアンミツからコメントが届いた。
<次も楽しみです! 最近は前回投稿の曲を毎日聴いています。momoさんはオリジナル曲を作ったりはしないんですか?>
「オリジナルなあ……」
アンミツからの一文にある単語を、桃輔はぼそりと読み上げる。
ギターを買って、コードを少しずつ覚えていって。オリジナル楽曲を作成することに、興味が湧かないわけではない。だがその一歩は踏み出せずにいる。音楽にしたいほどのなにか強い感情が、自分の中に見つからなかった。
<アンミツさんいつもありがとうございます。オリジナルは今のところ考えていないですね>
返信を終えたところで、ヘッドホンから流れていた一曲が終わった。プレイリストを変えようと一時停止を押せば、桜輔と母の会話が耳に届く。
「そうだ。お母さん、明日のお弁当のおかずってなに?」
「お弁当のおかず? 珍しいこと聞くわね」
「ちょっと気になって」
「明日はねー、唐揚げがメインかな」
「ほんと? やった。俺の好きなヤツ」
「ふふ、そうね」
無邪気な桜輔に、母も気分がよさそうだ。それにしたって、妙なことを聞くものだなと母に同意する。そんなことを尋ねているのは初めて聞いた。
満足げな桜輔はまたスマートフォンを操作しながら立ち上がり、こちらへと向かってきた。自室に逃げたいところだが、アイスを貰った手前あまり邪険にもできない。
「なに。なんか用?」
「いや、特には。えーっと、アイス美味しい?」
「……まあ。これ、明日買って返す」
「え? いいよ、気にしなくて」
「そういうんじゃねえよ。借り作りたくないだけ。俺も食いたいのあるから、そのついで」
「ふ、そっか。ありがとう」
桃輔の頭の上に手を翳し、だがバツが悪そうにその手は引っこめられた。眉尻を下げて淡く笑いながら、桜輔は階段のほうへと歩き出す。誰へというわけでもない桜輔の「おやすみ」に母が返事をし、桃輔は体から力を抜くように息を吐いた。
そろそろ自分も自室に向かおうか。食べ終わったアイスの棒を袋に戻し、立ち上がりかけた時。スマートフォンの通知が鳴ったので、再び腰を下ろす。
確認すると、先ほど投稿した写真へのコメントが新たに来た通知だった。cherryからだ。
<合う曲が見つかるといいですね。投稿楽しみにしています>
アンミツに続き、cherryも相変わらずリアクションが早い。
<cherryさんいつもありがとうございます。またよかったと言ってもらえるような演奏がしたいです>
返信をしてから、今度こそ自室へと引き上げる。黙ったままでいたら背中に母からの「おやすみ」がぶつかったので、小さな声で「おやすみ」と返した。
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